やし酒飲み (岩波文庫)

制作 : 土屋 哲 
  • 岩波書店 (2012年10月17日発売)
3.60
  • (13)
  • (37)
  • (37)
  • (7)
  • (0)
  • 314人登録
  • 55レビュー
  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003280119

作品紹介

「わたしは、十になった子供の頃から、やし酒飲みだった」-。やし酒を飲むことしか能のない男が、死んだ自分専属のやし酒造りの名人を呼び戻すため「死者の町」へと旅に出る。旅路で出会う、頭ガイ骨だけの紳士、幻の人質、親指から生まれ出た強力の子…。神話的想像力が豊かに息づく、アフリカ文学の最高傑作。作者自身による略歴(管啓次郎訳)を付す。

やし酒飲み (岩波文庫)の感想・レビュー・書評

並び替え:

表示形式:

表示件数:

  • ナイジェリアのチュツオーラによる神話的物語。

    主人公の「わたし」は、大金持ちの父のもとに生まれた。弟たちはみな働き者だったのに、「わたし」は、小さい頃から「やし酒」を飲むより能のない、とんでもない総領息子だった。
    普通なら「ばかもーん!」と怒られそうなところだが、なんと父は「わたし」のためにやし酒造りの名人を雇ってくれ、あまつさえ56万本のやしの木がはえた広いやし園までくれた。
    やし酒造りは毎朝150タルのやし酒を採取し、夕方にさらに75タル造ってくれる。これでめでたく「わたし」は毎日毎日、大勢の友だちとともに、文字通り浴びるほどやし酒を呑んで暮らせることになったのだ。
    しかし、幸せな日々は永遠には続かない。15年目、父が死ぬ。そしてその6ヶ月後、今度はやし酒造りが死んでしまった。
    翌日からはやし酒がない。しあわせな気分は去ってしまった。あんなにいた友だちも去ってしまった。必死に他のやし酒造りを探すけれど、「わたし」の要求を満たすだけの量を造れる名人は見つからない。
    「死んだ人はすぐには天国に行かず、この世のどこかにいるものだ」という古老の話を思い出した「私」は、死んだやし酒造りを見つけようと旅に出る。

    ・・・冒頭から突っ込みどころ満載なのだが、これはこの物語のほんの序の口である。
    とにもかくにも、やし酒なしではいられない「わたし」は、やし酒造りの居場所を尋ね歩く。情報を得る引き替えに、「死神」と渡り合ったり、ぱっと見は「完全な紳士」だが実は「頭ガイ骨」だけの男から娘を救い出したり、「死者の町」を目指したりする。

    いろいろあるけど、「わたし」は何だかんだと切り抜ける。何たって、この「わたし」、「この世のことはなんでもできる『やおよろず』の神の<父>」と呼ばれているのだ。
    ・・・ちょっと待て、なんでもできるなら、やし酒造りをすぐ見つけるとか、自分でやし酒をたんまり入手するとかできんのか(・・;)!?

    キツネにつままれたような気分になりつつも、何だかやし酒飲みの冒険の顛末が気になって先へ先へと読まされてしまう。
    「わたし」が出会う「生物」たちはときに奇怪で途方もなく、迷い込む森は暗く深く、何が出てくるか得体が知れない。
    予想のつかない冒険が「だ・である」と「です・ます」の混じる文体で綴られる。著者は短い期間で習得した英語でこの物語を書いている。おそらくはどこかたどたどしさの残る文章を、訳者がこのように置き換えたというところだろう。
    母語のヨルバ語の伝承が混じり、一種独特の、おどろおどろしいが魅力的な世界を創り出している。

    本編に加え、チュツオーラの自身が自らの人生を語った小文(「私の人生と活動」)、それに、訳者(土屋哲「チュツオーラとアフリカ神話の世界」)とドイツ語でも創作を行う日本人小説家(多和田葉子「異質な言語の面白さ」)による解説がつく。

    不条理とか、洋の東西の神話との比較など、なるほど文学論的にもいろいろ議論がありそうな作品だが、一般読者としては、まずは物語世界に放り込まれる感覚を楽しみたいところだ。

    それでやし酒造りは見つかるのかって・・・?
    うーん、見つかることは見つかるんだけど、それからまたいろいろあってねぇ(--;)。
    驚きの結末はぜひ、ご自身で。

  • 「わたしは十になった子供の頃からやし酒飲みだった。私の生活はやし酒を飲む以外には何もすることのない毎日でした」

    死んだやし酒作りを死者の町に呼び戻しに行く主人公の奇妙な旅。体の部分を他者から借りて完璧な紳士を装う骸骨、赤い魚と鳥に怯える赤い村の住人達、旅人を癒す白い木の中の誠実な母。だが主人公もジュジュ(まじないみたいなもの?)を扱う「この世のことはなんでもできる神々の”父"」なんだから負けてはいない。大食いの怪物に飲み込まれようと、首まで埋められふんずけられても、やし酒への情熱で、二歩下がって二歩半前進くらいのスピードでしっかり進んでいる。

    英語で書かれたアフリカ文学。原典はカタコトで文法も破格らしい。
    それが日本語訳するとどうにも言葉のパワーが薄れるのが残念。
    言葉が弱いとアフリカに根ざす音楽の存在や、死生観や自然への畏れもあまり感じられない。

    とりあえず読みながら頭の中の画像では、ドラムや銅鑼に合わせた木彫り人形の劇や影絵のようなものを思い浮かべてみた。

  • ヤシ酒中毒者の話かと思って読んだけれど、むしろナイジェリアの妖怪めぐり合いの記だった。人探しの旅なのに途中で家を建てて暮らしちゃったり、「白い生物」「赤い王様」と姿形の描写が想定外のざっくり具合だったり、こちらの予期しないスパン・粒度で物語が進む点でとても海外文学。人探しの旅にしては危険が多すぎて、実はそれほど笑いながら読むこともできず、現在進行形で妖怪好きだったら読んだらいいかな、という印象(水木しげるの画で読みたかった)。訳者と多和田葉子の解説は読みごたえがあり、ただ自分はこの物語からあまり汲み取ることができなかったなと思う。

  • お金持ちの父親に甘やかされてるニートくんの話かと思いきや、いきなり「この世のことならなんでもできる神々の父」と名乗るし、いきあたりばったりに出くわす、神や死神や精霊・あやしげな生物たちはなんかみんなちょっと変。奥さん、そんな予言してた?旅から帰ったら死んだはずの父親(両親)になんであいさつにいけるの?とかつっこみどころ満載のはちゃめちゃな物語破綻状態なのになぜかあとひく不思議なイメージ。とんでもない話なのに、旅程の距離と時刻だけはなぜか描写が細かい。ピジン・イングリッシュ、カーゴ・カルトもちょっとまざっておもしろい。

  • アフリカ最大の人口と発展した文化を擁するナイジェリアの作家が20世紀中頃に書いた、アフリカ文学の最高傑作と言われる神話的物語。古事記やオデュッセイアを連想せずにいられない、その荒唐無稽な冒険譚。ジャングルの奥底で出会うブッ飛んだエピソードと登場人物は、時に銃や通貨といった西洋近代的なものと混合し異質な世界観を形成する。物語は想像力を生み、その力は共同体を生み出す源泉となる。願わくば本書が、今も多数の民族と宗教、不安定な政治によって引き裂かれるアフリカのアイデンティティの架け橋となる事を祈ってやまない。

  • 盛りだくさんでした。薄いのに。人だけど神さま?な主人公のはちゃめちゃな旅はやし酒作りを捜していたはずやのに、宇宙規模になっていったりして、面白かった。しかし、この妻になったひとの魅力がいまいち分からん。

  • 読み終わった後の第一声が「これ面白ーい!」でした(笑)。作者のチュツオーラは、アフリカはナイジェリアの作家だそうです。マジックリアリズムというよりは、民話的というか神話的というか、童話的でもあるけれど、口伝えの伝承みたいな不整合さに独特の面白さがあり、作者にとって母国語ではない英語で書かれたことに関係あるのかもしれないけど、その「拙さ」が逆に変な味になっちゃってる感じ。

    主人公は10歳の頃から「やし酒飲み」で、そのやし酒を作ってくれていた「やし酒造り」が死んでしまい、今までのように思う存分やし酒が飲めなくなったことから、死んだ「やし酒造り」を探す旅に出ます。その旅の途中で出会う変な生き物たち(死人だったり精霊みたいなものだったり怪物だったり様々)がとにかくユニークで、まるでボッシュやブリューゲルの絵に出てくるキテレツな生き物みたいな外見ですが、良い精霊もいれば悪い精霊もいて、どれも個性的。

    個人的にお気に入りだったのは、主人公が奥さんと出会うきっかけになる「完全な紳士」の化け物。見た目は非常に美しい紳士なのだけど、実は体のパーツが全部借り物で、それを一つづつ返していくと、最終的には骸骨になっちゃうっていう・・・。想像すると怖いけど面白い。そういう様々な変な怪物や精霊たちに、主人公は「ジュジュ」というものを使って対抗します。「ジュジュ」について何の説明もなかったけど、まあざっくり「呪術」的なものと解して間違いないかと(語感も似てるし・笑)。

    死者を追って死者の国に旅立つ物語というのは、日本ならイザナギイザナミの神話、ギリシャならオルフェウスあたりが有名どころですが、恋愛が絡んでいない分、この「やし酒飲み」は、死者との関係が割り切れてる印象です。追いかけて探し当てても、死者と生者は一緒には暮らせないし、死者には死者のルールがある。お国柄でしょうが、その独特の死生観も、他に類を見なくて新鮮でした。

  • やし酒という酒を飲むことしか能のない金持ちのボンボン息子が、
    不慮の事故で死んだ自分専属のやし酒職人を呼び戻すため、
    ジュジュと呼ばれる魔術道具を身に着けて死者の国に旅立つという神話的物語。

    完璧な紳士に擬態する頭蓋骨だけの一族、恐ろしい力と呪力を持った赤子、
    一度入ると帰れない町、太鼓と歌と踊りの妖精による祭典、
    超常的な力を持った小作人による大虐殺、全ての争いを裁判で決する町等、
    混沌とした出来事を魔術と機転と幸運で切り抜ける様はどことなくユーモラス。
    最初単なるごく潰しのように描かれてた主人公がいきなり全ての神の父を名乗り始めたり、万能の呪術道具を持ってる割りにすぐにピンチになったりするところもいい加減な感じで面白い。
    反面、縄張り意識や共同体の輪を見だすものへの仕打ちなど村社会的コミュニティの閉塞感だったり、アフリカの規範意識のようなものがからっとした物語のなかから透けて見えたり。

    文体もいきなり敬語になったり、いきなり読者に語りかけ始めたり、かなり独特だと思ったけど、原文も現地言語を英語に置き換えて作られたようなかなり破格の文体だとか。

  •  表紙に「アフリカ文学の最高傑作」と銘打っており、短いながらも物凄い小説らしい。
     現代アフリカ文学を読むのは、今回が初めてとなる。高校卒業後、いろいろと海外の文学に触れてみたが、世界史の教科書で見かけた作家の本を片っ端から読んでおり、結果的にヨーロッパの小説が中心となっていた。
     そんな中で、ノーベル文学賞受賞と聞いて読んでみたバルガス=リョサ『緑の家』の衝撃。読み辛さも含め、今でも鮮明に残っている。その後に読んだ『密林の語り部』も、読みやすいこともあってより楽しめた。それまで、ラテンアメリカ文学と呼ばれる分野があることすら知らなかったが、楽しめそうな世界が広くなり、とても嬉しかった。他にも、読んだことの無い地方の文学は無いだろうか…

     こうした状態で見つけたのがこの本だが、衝撃というか戸惑いというか、その大きさは『緑の家』以上だったかも知れない。「です」「ます」口調の混在や、何となくヘンな日本語への戸惑いは、まだ良い(翻訳だし)。それ以上に「何だこれは!?」と思ったのが、今までに感じたことの無い不思議な神話的世界観。
     以前、古代エジプトの創世神話を読んだことがあり(矢島文夫『エジプトの神話』ちくま文庫)、少しだけ齧った日本の創世神話と併せ、あんな感じの荒唐無稽さ(あるいは、今の常識では理解できないような世界観)があるんだろうな~と思いながら読み進めていった。
     だが、何か違う。荒唐無稽さもあるのだが、先に挙げた神話には無かった違和感がある。

     それは、どことなく現代的なニュアンス。「七ポンド五シリング」だとか、「飛行機のような~」といったワード、読者の存在を認識し、読み手に語りかける箇所。書かれたのが20世紀なのだから当たり前なのかも知れないが、物語の中で起こる出来事は紛れもない神話世界の出来事だ。こうしたちぐはぐな世界観からは、この小説が今なお生き続けている神話なのだという印象を受ける。

     肝心の内容については、各々の話が何を暗喩しているのか等わからないことだらけだったが、詳細な解説があり、その一端を楽しむことができた。
     中でも印象的だったのが、恐怖という言葉。物語の中で、主人公は死を売ってしまった(?)ので、死ぬ心配が無い。そのため、一見緊張感の無さそうな状態で旅をする。ずっと無敵のマリオみたいな。だが、主人公は依然として恐怖を抱き続けている。
     アフリカの人々が信じるという森林への恐怖とはいかなるものか?それを意識しながら読み返すと、また楽しめそう。森林への恐怖など、自然から離れて暮らすわが身においては、そう感じるものではない。だが、いざその恐怖に対峙した時、この物語の主人公のように、乗り越えようとする意志を保てるだろうか。

  • 「わたしは、十になった子供のころから、やし酒飲みだった。わたしの生活は、やし酒を飲むこと以外には何もすることのない毎日でした」から始まるこの小説。主人公の父は、主人公には、やし酒を飲むことしか能がないのに気が付いて、56万本のやしの木がはえているやし園をくれ、毎朝150タル、午後2時には飲み干してしまうので夕方さらに75タルのやし酒を採取してくれるやし酒造りの名人を雇ってくれたけれども、ある日そのやし酒造りが死んでしまう。それで、主人公が「死者の町」に、やし酒造りの名人を呼び戻すために探しに行く話。冒頭からして「なんだこれは!」とひきこまれてしまう。しかもこの主人公は「神々の父」と名乗り、無理難題ふっかけられたりするんだけど鳥とか火に変身できちゃったりして、そんなんなら簡単だよねと思いきや、旅路の森とかにいろんな生き物がでてきていろいろ苦労する。白い生き物とか赤い生き物とかいろんなことが起きて最後もまぁやし酒飲みには会えるんだけど最後までいろいろ起きて、たしかに飽きない。教訓とかメッセージ性を特に感じさせないところもいい。アフリカには行ったことないしアフリカの民話の背景とかよくしらないから、知ったらまたよくわかるところがあって面白いのかもしれない。とにかくこの本は、異世界なかんじの面白さだった。
    アフリカ文学の最高傑作らしい。多和田葉子さんの解説も、よかった。

全55件中 1 - 10件を表示

やし酒飲み (岩波文庫)のその他の作品

やし酒飲み (晶文社クラシックス) 単行本 やし酒飲み (晶文社クラシックス) エイモス・チュツオーラ
やし酒飲み 単行本 やし酒飲み エイモス・チュツオーラ

エイモス・チュツオーラの作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
アゴタ クリスト...
いとう せいこう
三島 由紀夫
ウラジーミル ナ...
M.バルガス=リ...
M.バルガス=リ...
ヘミングウェイ
ガブリエル ガル...
J.L. ボルヘ...
マヌエル・プイグ
有効な右矢印 無効な右矢印

やし酒飲み (岩波文庫)を本棚に登録しているひと

ツイートする