文明論之概略 (岩波文庫 青 102-1)

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  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (340ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003310212

感想・レビュー・書評

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  • 当時としては飛び抜けて開明的だったと思うが、今も読むべき古典なのかどうかは疑問だ。

    ただ、明治の初め(出版は明治8年)に、日本のこれまでの歴史とその本質はまだしも、西欧の歴史と科学・技術の本質をこれだけ深く捉えていたかと思うと驚きを禁じ得ない。

    内容よりも、その姿勢を学ぶべきだろう。クリティカルライティング(orシンキング)の見本だ。

    ・P224:日本の宗旨には、古今、その宗教はあれども自立の宗政なるものあるを聞かず。

  • 2013/9/26読了。
    岩波文庫『福澤撰集』と本書を読んだだけだが、福澤諭吉ってすごい人だなと感服した。
    本書は平易な言葉を用いて噛んで含めるように念入りに説明し、さらに具体的な比喩や例え話を繰り返し引いて、一行として文意の不明なところがない。まさに啓蒙書の鑑のような文章だった。この文体を味わうだけでも一読の価値がある。
    本書や『學問のすゝめ』『痩我慢の説』『帝室論』『女大學評論』『新女大學』『丁丑公論』辺りをひと通り読んでみて思ったのは、これはきちんと読まないと、読者の立場や知的レベルによって今なお誤解を受けたり悪用されたりするだろうなあ、ということだ。福澤研究のことや現代語訳本のAmazonレビューなどはまったく知らないが、リベラルな精神の精華とされることもあれば似非ナショナリストが自己の主張の補強に都合良く引いてくることもあり、権利平等の思想家と思う人があれば上流階級による愚民統治の指導者と思う人もあり、勤王思想や武士道が抜けていないと言う歴史家があれば勤王の皮を被った不敬の輩と怒る右翼があり、嫌韓嫌中の人々が喜べばそうした人々の読みの浅さをカウンターが嗤い、女尊男卑と怒る男あればまだ足りないと批判するフェミニストあり、これは名著だと持ち上げる人あれば最近読んだ自己啓発書と同じことしか書いてないので☆1つですと言う人あり、新しい時代を開いたと評価する人あれば現代の閉塞は彼の呪縛のせいだと恨む人あり、見習いたいと目を輝かす意識高い(笑)系の人あれば真似できないと引きこもるコミュ障あり、とかなんとかカオスな状況が想像できる。実際どうなんだろう?
    そうした状況が容易に想像できてしまうことこそが凄いところだと思う。だってそれって福澤諭吉自身が21世紀の様々な分野の社会議論に現役で参加しているってことだ。僕自身、自分が生きている今の時代の周囲の状況に照らしながら本書を読んだ。
    でもそうした読み方は本当は正しくない。「福澤諭吉がこう言っている」というのはまったくもって福澤諭吉が楠木正成を例に引いて否定している歴史上の人物の扱い方であって、正しくは「明治7年の福澤諭吉はこう言っていた」と読むべきなのだ。もっと正確に言うと「福澤諭吉が21世紀に生きていたらどう言うだろう」と読むべきなのだ。そういう読み方ができる人はそんなに多くない。福澤諭吉の守護霊と交信できてしまう教祖やその言うことを信じてしまう人は論外。まさに学問がすすめられる所以だ。
    それから本書にはこんなことも書いてある。「本書の目的である一国の独立などは文明の進歩の中では些事でしかないが、明治7年時点の最大の課題なので述べるだけ、もっと高遠なことは後の時代の学者に任せる(超訳)」。文明開化の過渡期の意見のつもりで言ったことが百年経っても有り難がられたり批判されたりしていること自体、福澤先生にとっては嘆かわしいことなんじゃないだろうか。君たち百年何してたの、と。

  • 「文明論之概略を読む」と一緒に読むことをお薦めします。

  • 日本に足りないのは実学。数理学や近代科学。人は生まれながらの貴賎の差はないが、実学を学べば地位の高い人・金持ちになる。実学を学ばなければ、地位の低い人・貧しい人になる。▼国を守る。国のために命を捨てる。自由独立を守る。国民のわずかがこうした気概を持っているだけでは独立は守れない。国民ひとりひとりが独立自尊の精神を持たねばならない。「日本人は日本国をもってわが本国と思い、その本国の土地は他人の土地にあらず、わが国人の土地なれば、本国のためを思うことわが家を思うがごとし。国のためには財を失うのみならず、一命をも抛(なげう)ちて惜しむに足らず。これすなわち報国の大義なり。」『学問のすすめ』1872

    日本では被治者は治者の奴隷だという発想がある。政府に任せきり、国の事に関与しない態度。日本には政府はあるが、国民(ネーション)がまだない。まず精神的な態度を身に着けるべき。▼儒教は徳による統治ばかりで、体制の維持に利用されてきた。停滞の原因だ。違う意見を持つ多くの人が、さまざまな事柄に関して議論する自由の気風を制限してきた。また、儒教は能力のある者を抑圧する身分制度を正当化してきた。▼明治維新が起こったのは人民に、知恵の力が育ってきていたからだ。ペリー来航はきっかけに過ぎない。中国と違い、武士が天皇から権力を奪ったことも、自由の気風が生まれる遠因になった。『文明論之概略』1875

    祭祀(まつり)と政治(まつりごと)を明確に分けるべき。政治は損得勘定にかかわるものであり政党がすべきこと。王たる者は自ら政治に当たるべきではない。民心融和の中心にならねばならぬ。天皇は党派によらない権威であるからこそ、危機に際して国民の一体化を容易にする。天皇は国民統合、歴史伝統の象徴であり、直接に政治権力を行使しないことにこそ意味がある。『帝室論』1882

    (以前から支援していた金玉均による朝鮮近代化が西太后に潰された甲申政変1884の翌年) 中国や朝鮮は儒教思想に染まったままだ。日本はこれらの地域と共にアジアを興そうと考えることなく、西洋文明国と行動を共にすべきだ。『脱亜論』1885

    *********************
    ※大坂(堂島)生まれ。適塾(現大阪大学, 緒方洪庵)に学ぶ。

  • 全編を通じて、権力の偏重と行政の無責任さ、学者の見識外れ、民衆の政治的関心の低さなどを嘆じる義憤が、通奏低音のように流れている。やむにやまれぬ思いで、一気に書かれたものであろうと推察する。
    今から1世紀半近くの昔に書かれたものであるが、その訴えるところはいささかも古びてはいない。つまりは、この国の基本的なところは、明治の初め頃と何も変わってはいないということなのである。

  • 文明を進めて独立を得る。文明とは、社会を人為的に操作する度合い?そのためには、規則や制度を整えるだけではなく、人民1人1人の独立の気風が必要。

  • 解説によると「福沢の生涯最高の傑作」との事。福沢が日本近現代最高の思想家であるとするならば、本書は日本近現代最高の思想書という事になるのかもしれない。福沢の思考方法には今読んでも唸らされる点が多々あるし、現代人でもコレに匹敵するモノを書ける人間はいないだろう。約150年前にコレを書いたというのは凄いとしかいいようがない。が、この時代・このタイミングだからこそ書けたのかもしれないとも言える。ただし、本書は出版当時はあまり読まれず、読まれるようになったのは1930年代と1950年代以降のようであるが。
    文語体で少々読みにくく、内容をしっかり理解できているのか覚束ないのが難点ではあるが、その辺は注釈書や現代語訳で補いながら原文を読む事により、著者の息遣いを感じる事が有益に思える。

  • 福沢の言葉は100年後も死んでいない。
    利害得失を論ずるは易しといえども、軽重是非を明にするは甚だ難し。一身の利害を以て天下のことを是非すべからず、一年の便不便を論じて百歳の謀を誤るべからず。多く古今の論説を聞き、博く世界の事情を知り、虚心平気、以て至善の止まるところを明にし、千百の妨碍を犯して、世論に束縛せらるることなく、高尚の地位を占めて前代を顧み、活眼を開きて後世を先見せざるべからず。p24-25

  • 再読。明治八年の出版。「文明」とは何か、日本の文明、西洋との比較など多角的に分析した一冊。諭吉いわく、西郷隆盛も読んで、少年子弟におすすめしてくれたらしい(笑)

    ざっくり要点だけまとめると、
    「文明とは結局、人の智徳の進歩というて可なり」
    では「智徳」とは何かというと、
    「智とは智恵ということにて、西洋の語にてインテレクトという。事物を考え、事物を解し、事物を合点する働なり」
    「徳とは徳義ということにて、西洋の語にてモラルという。モラルとは心の行儀ということなり」

    そんな智と徳を磨いて西洋に負けず良いとこだけは見習いつつ、日本の「独立」を目指しましょうと。「モラル=心の行儀」ってすごくわかりやすい!基本的には『学問のすゝめ』と同じく、国民を啓蒙する内容だけれど、こっちのほうがちょっと難しい感じ。若者ではなくある程度の年配層、すでにある程度の学識のある読者を想定していたのかも。

  • 幕末から明治にかけて世界の中の日本の置かれた状況を冷徹に分析し、日本の植民地化を防ぎ国の独立を守るためにこそ西洋の文明を取り入れる必要があることを、論理的、体系的に、かつ相当の危機感をもって書かれた警醒の書。福沢は、内に憂国の思いを持ちながらも決して原理主義、絶対主義に堕することなく、全ての物事を相対的に比較衡量して、常に目的のための最適な手段を考えるリアリストである。単なる西洋かぶれの思想家ではないことがよく分かった。

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著者プロフィール

1935~1901年。豊前中津藩(現・大分県中津市)下級藩士の次男として生れる。19歳の時、長崎に蘭学修行におもむく。その後、大阪で適塾(蘭方医、緒方洪庵の塾)に入塾。1858年、江戸で蘭学塾(のちの慶應義塾)を開く。その後、幕府の使節団の一員として、3度にわたって欧米を視察。維新後は、民間人の立場で、教育と民衆啓蒙の著述に従事し、人々に大きな影響を与えた。特に『学問のすすめ』は、17冊の小冊子で、各編約20万部、合計で340万部も売れた大ベストセラー。その他の著書に『西洋事情』『文明論之概略』『福翁自伝』など。

「2010年 『独立のすすめ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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