代表的日本人 (岩波文庫 青 119-3)

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  • / ISBN・EAN: 9784003311936

感想・レビュー・書評

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  • まず本を開いて、目次で違和感。
    なぜ「代表的日本人」の最後の5人目が日蓮上人?

    このなぜ?は読了した後に、内村鑑三さんを調べて腑に落ちる。内村さんは、キリスト教思想家で教会不要論を唱えた方。日蓮上人は、当時の仏教を否定して、法華経を推した人。宗教は違えど、既存の権威に立ち向かって、自分の思想を論じた人。

    そして、西郷隆盛、上杉鷹山、二宮尊徳、中江藤樹、日蓮上人と時代が遡っている。脈々と受け継がれる、変革の思想。(しかも、中江藤樹の弟子の弟子の弟子が西郷隆盛)

    西郷隆盛、上杉鷹山、二宮尊徳は、先に読んだ「無死の日本人」に繋がる。自分と他人の境目が無く、個人を語っている感覚から、ひとつの集団のことが語られている感覚になる。

    自分が天に期待するのではなく、天の自分への期待に応える。西郷どんは、これを敬天愛人と仰っている。人は天から託される、出来ない人を切り捨てるのでは無く、目を見つけて、育てて、天に返すという思想。

    すご。

    この3人の中でも、一番印象的だったのは、上杉鷹山で、個=民=自然にまで繋がって、120億円もの米沢藩の借金を返済してしまう。

    徳がなければ、経済は成り立たない。相入れない感覚だったけれども深い関係にあった。木を道徳とすると、実は経済という表現に東洋思想の素晴らしさを感じた。

    天はピンチを与えるけど、これは目を得るチャンス(可能性)。坂本龍馬の言葉にも、目がないだけで、人財は周りに沢山いる、というのはこういうことなのだろう。

    上杉鷹山と二宮尊徳のすごいところは、仕事にこだわっているが、生活のためより、幸せになるためがある。これは、今の競争経済の矛盾にささる。

    たまたま、「無私の日本人」から続けて読んだが、すごく関連が深くて、理解が深まったように思う。

    すごい日本人が、沢山います。

    • nejidonさん
      こんばんは(^^♪
      コメント欄では、はじめまして。
      いつも楽しみに拝見しております。
      前述した磯田さんの本といいこの本といい、とても良...
      こんばんは(^^♪
      コメント欄では、はじめまして。
      いつも楽しみに拝見しております。
      前述した磯田さんの本といいこの本といい、とても良い本のようですね。
      代表的日本人の中に上杉鷹山と二宮尊徳が入っているのが非常に喜ばしいです。
      あとひとり塙保己一も含めた三人を、ずっと尊敬してきました。
      「徳育」が必要などというと、今のお母さんたちには敬遠されるんでしょうね。
      私にはどこが悪いのか分かりませんが。
      せめてこういう本がどんどん出され、読まれて行ってほしいです。
      鷹山の名前を見てつい嬉しくてコメントしました。
      ありがとうございました。
      2021/02/12
    • なりすけさん
      コメントありがとうございます!
      二冊とも、とても良い本でした。

      さて、塙保己一、調べてみました。
      活躍された分野、立場は異なりますが、本書...
      コメントありがとうございます!
      二冊とも、とても良い本でした。

      さて、塙保己一、調べてみました。
      活躍された分野、立場は異なりますが、本書の人達に通ずるものがありますね。とても気になる人になりました。

      本書の影響か、私も本屋散歩で鷹山見つけるとテンション上がる体質になってしまいました笑

      徳、に気付いてもらえるように、そっと皆の目につくところに本置く活動してます。
      2021/02/13
  • 新渡戸稲造 「武士道」、岡倉天心 「茶の本」と並ぶ、内村鑑三の、「代表的日本人」
    その特徴は、欧米人に向けに、外国語でかかれたものを、和訳したものを改めて出版したものである。
    「代表的日本人」は、日清戦争中に、Japan and the Japanese の題で、公刊された書物の再販です。

    5名の特徴は、いずれも、貧乏な家庭に生まれ育ち、そこで、人から非難や抵抗をうけて、苦労して大成をなし、人をまとめ上げて和となし、死んでは聖人として称えられる。名や財を求めず、清貧にあるものを、内村鑑三は、代表的日本人と呼んだ。

    それぞれ、気になったのは、以下です。

    ■西郷隆盛
    ・動作ののろいおとなしい少年であった西郷を変えたのは、縁戚の武士が自らの前で腹を切り、「命というものは、君と国とに捧げなければならない」を語ったこと。それを彼は生涯わすれることはありませんでした。
    ・西郷に影響を与えた人物、それは、藩主の斉彬と、水戸藩の藤田東湖先生の2人であった。
    ・機会を作るのも、それを用いるのも、人である。
    ・西郷とは不思議な人で、ヨーロッパ文化というものにまったくの無関心でした。彼の度量が広く、進歩的な人物の教育はすべて東洋によっていました。
    ・物事は、一度動き始め、進路さえきまれば、あとは比較的簡単な仕事である。その最初の指導者が西郷隆盛であった。
    ・西郷と勝、旧友がいう、我々が一戦を交えると、江戸の罪のない人々が苦しむこととなる。西郷の情が動き、江戸は救われた。
    ・強い人は、弱い人が相手でないとき、もっとも強い。西郷の強さの奥には、女性的な優しさがありました。
    ・彼が掲げた「敬天愛人」とは、「天はあらゆる人を同一に愛する。ゆえに、我々も自分を愛するように人を愛さなければならない。」ということです。

    ■上杉鷹山
    ・変革とは他人を待つのではなく、まず自らが始めなければなりません。
    ・鷹山の倹約はけちではありません。施して浪費するなかれ、
    ・東洋思想の一つの美点は、経済と道徳を分けない考え方にあります。富は常に徳の結果であり、両者は木と実との相互の関係と同じです。
    ・鷹山の優れたことは、改革の全体を通じて、家臣を有徳の人へ育てようとしたことである。

    ■二宮尊徳
    ・仁術さえ施せば、この貧しい人々に平和で豊かな暮らしを取り戻すことができる
    ・信念:ただ魂のみ至誠であれば、よく天地をも動かす
    ・利己心はけだもののものだ。利己的な人間はけだものの仲間である。村人に感化を及ぼそうとするなら、自分自身と自分のもの一切を村に与えるしかない。
    ・尊徳にとって、あくどい手段で獲得した財産は本当の財産ではありませんでした。

    ■中江藤樹
    ・天子から庶民にいたるまで、人の第一の目的とすべきは、生活を正すことにある
    ・藤樹の理想とは、謙譲に徹することでした。仏陀はそれにかなう人ではなかったのです。
    ・藤樹は、弟子の徳と人格とを非常に重んじ、学問と知識を著しく軽んじました。
     学者というのは、徳によって与えられる名であって、学識によるものではない。
     学識は学才であって、生まれつきその才能を持つ人が、学者になることは困難ではない
     しかし、いかに、学識に秀でていても、徳を欠くなら学者ではない
     学識があるだけではただの人である
     無学の人でも徳を備えた人は、ただの人ではない
     学識はないが学者である
    ・先生は利益をあげることだけが人生の目的ではない。それは、正直で、正しい道、人の道に従うことである。とおっしゃいます
    ・藤樹によって謙譲の徳とは、そこから他の一切の道徳が生じる基本的な道徳でした。これを欠けば一切を欠くにひとしくなります

    ■日蓮上人
    ・すでに「末法」が世に到来していること、新しい世をもたらすためには、新しい信仰が必要であり、その機会が到来していることを深く確信しました。
    ・預言者故郷にいれられず、といわれます
    ・私はとるにたらぬ、一介の僧侶であります。しかし、法華経の弘布者としては釈尊の特使であります。それゆえ梵天は我が右に、帝釈天は我が左に合って私を守り、日天は私の先導となり、月天は、私にしたがいます。我が国の神々はすべて頭をたれて私を敬います。
    ・日蓮の大望は同時代の世界全体を視野に収めていました。仏教はそれまでインドから日本に東に進んできましたが、日蓮以後は、日本からインドへ西に向かって進むと日蓮はいっています。
    ・闘争好きを除いた日蓮、これが私どもの理想とする宗教家であります。

    目次
    凡例
    はじめに

    1 西郷隆盛 新日本の創始者
    2 上杉鷹山 封建領主
    3 二宮尊徳 農民聖者
    4 中江藤樹 村の先生
    5 日蓮上人 仏僧

    ISBN:9784003311936
    出版社:岩波書店
    判型:文庫
    ページ数:256ページ
    定価:780円(本体)
    発売日:1995年07月17日第1刷
    発売日:2021年05月27日第46刷

  • 今回3回目くらいかと思うが、本棚への登録がなかったので、また再読した。

    内村鑑三さんは、民衆の心をつかんで、民衆のために尽くした人をセレクトしているように思う。日本人には、こんな立派な人物がいるのだと、誇らしげに伝えようとしている。

    ここに選ばれた、西郷隆盛、上杉鷹山、中江藤樹、二宮尊徳、日蓮の5人は、内村鑑三さんの心底惚れぬいた人物、心底尊敬している人物であることが、文面から強く伝わってくる。

  • 『代表的日本人』は内村鑑三が、欧米に対して日本人も歴史があり、徳があり、すでにして先進国としての資格を備えているのだと示すために英語で書かれたものである。新渡戸稲造『武士道』、岡倉天心『茶の本』とともに明治期に日本人が英語で日本文化を紹介した3大名著と言われている。

    内村鑑三は、代表的日本人として、西郷隆盛、上杉鷹山、二宮尊徳、藤江藤樹、日蓮上人の5名を挙げている。
    ここで内村が描いた人物像すべてに共通するのは、その心の高潔さ、利他の心と広い心である。熱心なキリスト教信者となった内村は、日本古来よりキリスト教にある美徳が存在していたことを示す強い内在的動機があった。特に日蓮を選んだのは、西洋におけるルータやカルビンによる宗教改革が、すでに日本でも日蓮によって行われていたことを示すために必要な人選であったと考えられている。

    5人の偉人はいずれも敬すべきリーダーであるが、一方、それぞれの人物にはそれぞれの特徴があり面白い。

    西郷隆盛は、豪快で大局観を持ったカリスマ的リーダーであったが、情に脆く最後にはそのことが仇にもなったところもある何か大きなことを始めるために必要な人物で、明治維新の時代に西郷を擁くことができたのは幸運であったのかもしれない。京セラ創始者であり名経営者の稲盛氏が西郷が好んで使った「敬天愛人」を社是として掲げている。
    上杉鷹山は、米沢藩の建て直しに尽力したが、単なるコスト削減だけではなく、実力本位での組織改正、人心の掌握に加えて、次代の産業振興(養蚕など)やインフラ整備も行った。守旧派によるクーデターを民を味方につけること(「民の声は神の声」)と首謀者を厳罰に処したことによって乗り越えたところも有事の際のリーダーとして有能であった。「成せばなる 成さねばならぬ 何事も 成らぬは人の 成さぬ成けり」という言葉でも有名な通り、事物をなすにあたり、創意工夫をもって実現する力を持っていた。
    二宮尊徳は、農村改革に力を発揮したが、細かいところから確実に改革を行った。倹約を規とし、率先垂範してことにあたった。短期敵に確実に改善を重ねるときにその力を発揮するタイプのリーダーのように思われる。「道徳を忘れた経済は、 罪悪である。経済を忘れた道徳は、 寝言である」や「誠実にして、はじめて禍を福に変えることができる。術策は役に立たない」というとき、誠実さを何より優先して統制を取っていたことがうかがえる。
    中江藤樹は、近江の聖人と呼ばれ、「積善」を旨として敬意を集め、彼を中心としたコミュニティを築いた。今でいうとコンプライアンスや顧客中心主義の徹底といった組織文化を根付かせるために必要なタイプの人材なのかもしれない。「人生の目的は利得ではない。正直である、正義である」というとき、人生において何を優先するべきなのかを考えさせる。
    日蓮は、その情熱をもって日蓮宗を一大宗教勢力にし、「南無妙法蓮華経」という念仏の浸透に力を注いだ。闘争力があり、外部に対して対抗する際に頼りになるリーダーなのかもしれない。


    内村は34歳のときにこの本を書いている。
    この時代において、西欧に対して自国を背負ってこの本を英語で出版したことを考えると、その若さに感服する。明治の時代は何かやはり特別な時代であったのだなと思う。

    ※ 研修でこの古典を今更ながら読むことになったのだが、古典はやはりその意義はあるのだなと感じたところである。

  • 私利私欲を捨てること、他者を思いやること、いわゆる武士道精神を持った5人の人物が登場した。西郷隆盛、上杉鷹山、二宮尊徳、中江藤樹、日蓮。

  • 英文1894年M27刊行1908年M41改番日本訳版。
    札幌農学校第二期生キリスト教に改宗著者が西洋から野蛮で無知との日本への偏見を覆す為に選んだ5人の賢者
    西郷隆盛(薩摩藩革命家)上杉鷹山(封建領主藩政改革者)
    二宮尊徳(小田原藩農業指導者)中江藤樹(西近江陽明学者)
    日蓮上人(安房小湊村法華経開祖)自らの損得ではなく人々の幸せを願い何度も挫折しながらも清貧で愚直に与えられた使命を全うする生き方はプロテスタントの教えと
    一致するのかも。

  • 歴史は解釈だ。解説で指摘があるように時代背景を反映した色濃いナショナリズム見られる。また、事実にもとづく以上に著者本人の解釈が目立つ。それらに抵抗を覚えつつも、西郷隆盛・上杉鷹山・二宮尊徳・中江藤樹・日蓮上人という5人が偉業を成し遂げてきたことに感銘を受ける。もとは英文で外国人向けに書かれているためか、日本人に精神性について語られることが少ないこ今日生まれた者にとって、日本人がかく”あるべき”だった姿が分かりやすく見えてくる。

  • 挙げられている人がどんな人かを知りたいのではなく、内村鑑三がなぜこの人たちをリストアップしたのか、そういう目線で捉える必要がある。

    西郷さんなんて、まさに非戦に転向する前の内村さんの考えがありありと分かるし、日蓮を挙げるっていうのも特徴的だなあ、と思った。

  • 日清戦争の頃、西洋との関わりが進む日本。そういう時代に英語で書かれて海外で出版された内村鑑三の作品。

    いきなり最初の西郷さんのところでは、あまりに彼を美化しすぎていて、かの征韓論についても、征服の野心ではなく世界平和のためのものであったと肯定的に書かれているのには、正直少し引いてしまいました。もちろん西郷さんの人格について書かれた箇所には納得でしたけど。

    その後に出てくる、上杉鷹山、二宮尊徳、中江藤樹については、彼らの謙虚で徳を重んじる生き方に大いに感銘を受け、最期の日蓮では、その革命者としての強さ、激しさに驚き、最後まで一気に読んでしまいました。

    これを読んだ当時の西欧の人々は、彼らの功利主義とは反対の生き方にさぞかし驚いたことでしょうね。今読むと、日本では既に彼らのような生き様を見ることは少なくなっているせいか、かえってどこか他の国の話のように感じてしまいます。それだけに、心の深いところに喝を入れられたような気持ちになった一冊でした。

  • 敬虔なキリスト教徒であった内村鑑三が、海外のキリスト教徒に向けて英語で著した本。
    「道徳」という意味で著者の根底に流れている、ゆるぎない日本人としての魂と誇りが感じられます。
    5人の人物が取り上げられているのですが、どの話も「なんて誇らしいんだ」という感情を持って紹介されているのが、泣きたくなるような想いです。


    こんな気持ちで日本を語れる日本人は、現代にいるでしょうか。
    日本に残された叡智から、学ぶべきだと感じました。


    個人的には西郷隆盛と二宮尊徳が印象的でした。

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著者プロフィール

1861年生まれ、1930年没。思想家。父は高崎藩士。札幌農学校卒業後、農商務省等を経て米国へ留学。帰国後の明治23年(1890)第一高等中学校嘱託教員となる。24年教育勅語奉戴式で拝礼を拒んだ行為が不敬事件として非難され退職。以後著述を中心に活動した。33年『聖書之研究』を創刊し、聖書研究を柱に既存の教派によらない無教会主義を唱える。日露戦争時には非戦論を主張した。主な著作は『代表的日本人』、『余は如何にして基督信徒となりし乎』など。
佐藤優
作家、元外務省主任分析官。1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。現在は、執筆活動に取り組む。著書に『国家の罠』(新潮社)で毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞。おもな著書に『国家論』(NHKブックス)、『私のマルクス』(文藝春秋)、『世界史の極意』『大国の掟』『国語ゼミ』(NHK出版新書)など。『十五の夏』(幻冬舎)で梅棹忠夫・山と探検文学賞受賞。ほかにも著書多数。

「2021年 『人生、何を成したかよりどう生きるか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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