木綿以前の事 (岩波文庫 青 138-3)

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  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (374ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003313831

作品紹介・あらすじ

無数無名の人々は、その昔、いかなる日常生活を常んでいたか。柳田は愛読書『俳諧七部集』の中に庶民の「小さな人生」を一つ一つ発見してゆく。依服・食物・生活器具など女性の生き方と関わりの深いテーマをめぐる19の佳篇のいずれにも、社会を賢くするのが学問の目的だとする著者の主張と念願が息づいている。

感想・レビュー・書評

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  • 遠野物語集で有名な柳田国男の、日本人の生活様式の変化について書いたエッセイ集。

    日本の伝統的な文化だと思われているが、実はどれも結構新しいんだぜ?といった内容。

    たとえば、(木綿の)和服、畳、晩酌、女性の奥ゆかしさ、等など、目からウロコが落ちる記事ばかり。

    なお、この本が書かれたのは明治から昭和初期。21世紀の今は「木綿以前」の暮らしのは人は皆無ですが、本書には田舎に「木綿以前」が多少残っているとの記述がちらほら。当時の時代背景を感じる楽しみもあります。

  • 新木綿以前

  • 【木綿以前の事+何を着ていたか】要約
    高知土佐から徳島阿波へかけての山村部には現地でタフと呼ばれる布地があり、それはタク(栲)の訛りかと思われる。栲(たく)布に就いてはカウゾ(楮)やフヂ(藤)を用いたと文献史料にもある。カヂ(梶。書中ではカヂに穀の字を宛てる)はカウゾの一種とされる。古くカヂを普及させた天日鷲命の本国は阿波(徳島)であり、天日鷲命は東国経営の本拠として安房(千葉)の結城にカヂを植栽した。安房は阿波の古代植民地とされ、その関係で同音の地名となったとも言われる。カヂは古くユフとも謂われ、結城のユフは正しくカヂ=ユフを指す。由布(大分)などの東西の地名に残るユフは古くに衣料としてのカヂ=ユフを栽培させたことの名残であり、中央において庶民の常服が麻衣に絞られる以前にはユフ = カヂ ≒ カウゾを用いた衣料もあったようである。タフはまたフヂをも原料とするが、古くフヂは必ずしも紫の花を垂れる一種に限らず、カツラ(葛)類全般をそう呼んだ。カヂ・フヂのほかには、信濃の語源であろうシナという衣料があり、これはしなやかで強靭なことに由るかも知れない。同地にはさらにイラと呼ばれる衣料もあり、イラクサ(蕁麻)やカラムシ(苧麻)とも呼ばれる。ムシはタクよりも柔らかいものであったようで、タクが如何にがさがさしたものであったかが判る。
    やがて庶民の衣料はアサに取って代られ(或いはアサ中心となり)、貴人公子など一部階級に限ってはキヌ(絹)が用いられた。モメンの栽培生産が盛んになったのは高が鎌倉・室町以降のことである。モメンはそれまでのアサなどに代表されるがさがさした肌触りとは違って軽くふくよかで、且つ色染めが容易であったことから人々を容姿の面で美しく変えた。しかしそれと同時に、綾織の生地が肌と外気とを遮断するため汗が外へ逃げず、さらに繊維から出る塵によって人々の肺臓に被害を齎すこととなる。木綿は寒地では育たぬため、東北では麻が長く用いられ、明治期頃でも麻衣が着られていた。木綿は暖かいが吸水性が強いため、東北では麻が雨外套の代替品として古くより用いられた。

    アサは朝鮮語sam(麻)と同源。古くはソと呼ばれ、複合語に僅かに貽る。
    カヂは和紙の原料とされることから別名カミノキ(紙の木)とも呼ばれ、葉は墨が良く載ることから神事と関係がふかい。
    カウゾは「紙麻(かみそ)」の転で、ヒメコウゾとカヂ(梶)の雑種とされる。楮の字は本来カヂ(梶)の一種を指す。
    ユフはカウゾ・カヂの皮の繊維から作られる糸で、幣として榊につけた。多く「木綿」と宛ててユフと訓み、モメンは古く「文綿」や「毛綿」と書いた。「齋(ユ)」、「結ふ(標を建て立ち入りを禁じる意)」、「忌々し(ゆゆし)」と同根。
    シナは「結ぶ、縛る」意のアイヌ語。
    ムシは朝鮮語mosi(苧)と同源。

    【囲炉俚談】要約
    漢語「炉」が日本に入ってきたのは「囲炉裡」という表記の出現より古いが、漢語「炉」の伝来以前より火の使用はあったはずで、「ジロ」と「ホド」とが挙げられる。ジロは恐らく「代(しろ)」のことか、或いはそれと関係があり、ホドは「火処」の意である(ホはヒの古形)。どちらも現代では単独では用いられず、それぞれ「ヒジロ」や「ヒホド」(ホの火を指していることが忘れられヒが加えられた)、或いはその訛った形が使われる。ほかには八丈島に「カナド」という言い方もあり、これは薪を指すカナギと関係があると思われる。ホド(ヒホド)とカナドとは神により創造された炉を指す、より古い言い方の可能性がある。ホドがそのままの形で関西・中部に伝わった例は知らないが、「クド」(オクドサンのクド)はホドとともに同一語からの分化かと思われる。九州の一部にある「ヒドコ」や「ヘッツヒ」と合わせ、これらの語は築き固めた立体の竈を指し、覆いのないそれまでのジロやホドと区別を図ったものであろう。ただしそれらはあくまでも転用であり、新語ではない。ここで新たにジロやホドに名称を与え直す流れとなった。「イロリ」という言葉については、火そのものを指すジルやホドに対して火を囲む縁を「ヰル(居る)ヰ(位)」や「ヰルブチ(縁)とでも呼んだのが、発音のややこしさ故に段々と訛り、「ユリ」などと省略され、原義も忘れられ、「ユリ」がとうとう炉そのものを指すと勘違いされた結果、「囲炉裡」と宛てられたものであろう。

  • 食物、衣服、道具、そしてそれらの呼び名から、今では失われた近世以前の生活を紐解く。柳田の時代まででも多くの習慣・風習が失われ、新たな習慣・風習に取って代わられた。しかしそれは嘆くべき喪失ではなく人々の工夫の成果であり、そうした進歩に資することこそが学問の役割と説く。
    面白いのは、柳田が「今日では」と紹介する当時の生活様式それ自体、多くが現代ではすでに失われているということ。実際、身の回りを見渡して100年前、200年前の日本にもあったであろうものを探すほうが難しいんじゃないか。たった1世紀前の事でも僕らにはほとんど想像する事ができないわけで、そう考えると人類の進歩というか変化というかは恐ろしいものがある。

  • 民俗学レポートの課題。阪大附属図書館

  • 柳田国男の視点の付け所、物の見方の幅広さに感服。
    今「当然」のことも、あと数百年したら「意味不明」になるかもしれない。
    消えていく庶民の生活を掬い取り、記録に残すところが素晴らしい。

    それ以外にも純粋に昔の人の生活ぶりに驚いた。

  •  
    ── 柳田 国男《木綿以前の事 19790216 岩波文庫》(2)
    http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/1/4003313836
     
    https://www.aozora.gr.jp/cards/001566/files/53104_50767.html
     Yanagida, Kunio 民俗学 18750731 兵庫 19620808 87 /貴族院書記官
    http://www.enpitu.ne.jp/usr8/bin/day?id=87518&pg=19790216
     
    (20091204)(20230506)
     

  • 言わずと知れた柳田國男の作品。言葉の語源だとか、文化の移り変わりについての文章です。背景知識がなくても分かる部分もありますが、ないと辛い部分もあるかも知れませんね。

  • 日本で綿花が普及したのは江戸初期なんだそうだ。それまでは麻。木綿による織物が日本人に与えた生活風土、心身への影響の記述は興味深い。笑えたのは綿がホコリを出すということ。畳の上にさらにホコリを積もらせてと体に悪いと。

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著者プロフィール

民俗学者・官僚。明治憲法下で農務官僚、貴族院書記官長、終戦後から廃止になるまで最後の枢密顧問官などを務めた。1949年日本学士院会員、1951年文化勲章受章。1962年勲一等旭日大綬章。

「2021年 『新嘗研究 第七輯―三笠宮崇仁親王殿下に捧ぐ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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