特命全権大使 米欧回覧実記 (5) (岩波文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (389ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003314159

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  • 1978年刊行(底本1880年)。維新期の岩倉遣欧使節の一般向け報告書の5巻/全5巻。ウィーンの万国博覧会からスイス(瑞西ではなく瑞士と当てる)、フランス南部を経由し、スペインとポルトガル。その後は地中海・紅海を経由し、セイロン島や香港上海から帰朝へ。やっとこさ読了。この巻の89~93章位まではヨーロッパの総まとめがあるので、時間がなければそこだけ読むのでも、割と意味あるものかもしれない。

  • ようやくたどりついた第5巻はウイーン万博とスイス、そしてフランスのリヨンを経てマルセイユから帰国の途に着く。スエズを抜けセイロン、香港、上海経由で日本へ。また訪問しなかったスペイン、ポルトガルに1章を裂き、ヨーロッパ政治、地理、気候と農業、工業、商業のまとめもある。

    ウイーン万博では各国の出品にそれぞれの国の出品を述べているのだが日本の出品について「我が日本国の出品は、この会にてことに衆人より声誉を得たり。これはその一つには欧州と趣向を異にして、物品がみな彼の国の人達の目には珍異に写ることによる。その2として近傍の諸国の出品が少ないこと。その3は近年日本の評判が欧州で高いことによる。」と自信をつけた様子がうかがえる。扇子や小切れ(絹)を買って帰る人で大繁盛であり、中には欧州では珍しい杉のかんなくずを香木だと言ってもって帰る人もいたとか。

    最後の訪問国スイスについては特に一行が楽しそうだ。スイスの評価が非常に高いのは小国ながら他国の侵略を退けており兵が精悍なこと。山がちな土地でも酪農をして有効利用しており、日本では土地を使い切れていないと比較していること。また既に時計は欧州でも最も精巧な技術を持っていることでパテックフィリップの名前もある。

    欧州全体を振り返ると西洋人は東洋人と比べて欲が深いと評価しているのが面白い。欧州の自由民権や個人の権利を「欲」で説明し東洋の徳の政治と対比させている。土地の所有からみても例えばロシアは王侯貴族がほとんどを持ち貧しい土地ながら贅沢な暮らしをしていたし、海外植民地からの資源で国力を増強し、欧州内でも戦乱が続き清や日本にも乗り込んで来ている。香港の記実ではなぜイギリスは清に対してアヘンを輸出するのをやめさせないのかと書いているがインド、清と本国の貿易が利益の源泉なのでねえ。東洋では清の領土は大きいとは言え朝鮮にしてもベトナムにしても朝貢して顔を立てておけば割とゆるい。ジャレド・ダイアモンドの「銃・病原菌・鉄」ではこの戦乱そのものが西洋の勃興の原動力の一つとしているがアヘン戦争をきっかけに中国と英米のGDPは逆転した。ちょうどこのころ留守政府では江藤新平の征韓論が盛り上がり清に対しても台湾に漂着した八重山諸島の船員が虐殺され賠償を求めているところだ。

    内治の充実を優先したという訪米欧団というがこちらもドイツ帝国の成立、王族の婚姻や契約による国の合併などを見ており、日本の国力増強には国内の努力だけでなくアジアの資源の利用というところも見ている。東洋と西洋の思考法の違い、そして東洋では最も開化が進んだ日本に自負を持ちながらもまだまだこのままではいけないという記述がそこここに見られる。西洋の近代化も100年ほどのことであり貪欲に取り入れたと見るべきだろう。西洋のヂョスチス(justice)とソサイチー(socirty)を極言すれば義と仁にあたるとしながらも義と仁が道徳から発しているのに対し欧州のそれは財産を守ることから発しておりむしろその意味は離れていることを忘れてはいけないと記している。

    ヨーロッパと土地と日本を比べるとむしろ日本の方が肥沃だとしている。一方で「古の言に曰く、沃土の民は堕なりと」フランスの南北やデンマーク、フィンランドとオーストリア、イタリアなどを比較しさらには帰国途上の地上の極楽セイロンなどをも見て国力は土地の豊かさよりもどれだけ勤勉に努力するかだというのが繰り返し現れており、これが内治の方針に反映されていった。

    帰国中の船では例えば本国では勤勉なオランダ人が色々なところで横暴な態度を取っているのを見て、外国からやって来た人だけを見てその国を判断しない様に注意しむしろ本国では落ちこぼれた者が海外に来ていると書いていた。遡れば海賊と貿易は大きな差はなかったしね。当時であれば偶々会った人達がその国の評判を決め現代ならマスコミ報道に影響されているといったところか。

    それにしても全5巻は長かった。いくらリズムの良い名文とは言え漢字カナ交じりで1800ページを越えせいぜい1時間に50ページざっと36時間かけたわけだ。レビューをあわせるとまる2日に近い。

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著者プロフィール

1839年(天保10)、肥前国、佐賀藩士の家に生まれる。藩校弘道館、昌平坂学問書に学んだ後、明治新政府に出仕。岩倉使節団に記録編纂係りとして随行し『特命全権大使 米欧回覧実記』5冊を編纂。後、歴史学者として帝國大学等で教鞭をとり、近代的実証史学、古文書学の領域を確立した。1931年(昭和6)没。

「2018年 『現代語縮訳 特命全権大使 米欧回覧実記』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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