古寺巡礼 (岩波文庫)

著者 :
  • 岩波書店
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本棚登録 : 522
レビュー : 35
  • Amazon.co.jp ・本 (287ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003314418

作品紹介・あらすじ

大正七年の五月、二十代の和辻は唐招提寺・薬師寺・法隆寺・中宮寺など奈良付近の寺々に遊び、その印象を情熱をこめて書きとめた。鋭く繊細な直観、自由な想像力の飛翔、東西両文化にわたる該博な知識が一体となった美の世界がここにはある。

感想・レビュー・書評

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  • 和辻さんの、落ち着いているけど艶めかしくって深みのある、漆のような美文には、何度読んでも胸が高鳴ります。

    私の勝手な妄想にすぎませんが、信仰心以上に仏教美術の「美を眺めること」に主眼を置きながらも、千年以上もの間日本の信仰を支えてきた、かけがえのない美を表現するためには、敬意として丁寧な観察と出来うる限りの言葉を駆使しよう、と努めているかのような、和辻さんの真摯な心のあり方を感じ取れるような気がするのです。
    それが、丹念に何層にも塗り重ねて艶と美を出す漆のイメージを喚起させると言うか…。

    本書は、和辻さんが29歳だった大正7年(1918)の初夏に奈良市付近の古寺や擁する仏像等を拝観した折の印象などを綴ったもの。

    インドのアジャンター壁画への夢想に始まり、インドから西域、中国を伝って古代仏教の受容と変質の最終地点であった、かつての都・奈良の地に存ずる、東大寺、薬師寺、唐招提寺、法隆寺といった、著名寺院の建造物や擁する仏様の美しさを記しています。
    その微細な目の付け所や適切な描写力には、感服せざるを得ません。まさに、天性の審美眼の持ち主といった感じです。
    一体、和辻さん以外の誰が、例えば、法隆寺の五重塔を見上げてその周囲を巡りながら、観る位置によって異なる見事な趣きを、「塔が舞踊しつつ回転するように見える」なんて、言い表わせるでしょうか。

    また、目の前の形あるものを描写するにとどまらず、蒸し風呂入浴者の陶酔と幻覚状態やら、天平時代の女の激しい心持ちやら、記録に残らなかった腕利き仏師の出自やら…心の中で膨らませに膨らませた、無数の空想というか妄想までも、文章の中に見事に落とし込んでいるのもすごいです。
    まるで、薬師寺東塔を飾る水煙を飛び回る天人のような、その自由闊達な軽やかさも、作品の魅力を支えています。
    和辻さん自身が「若い情熱と幼稚の不可分」と表現した、溢れる愛がたまりません。

    この作品が書かれてから既に100年近くが経過し、拝観方法や収蔵場所がかなり変わったところもありますが、それでもやはり奈良の寺好きなら是非とも読むべき名著ですね。
    何度読んでも、「そんな見方できるのか!」という新鮮な驚きに満ちた作品です。

  • 若き日の和辻哲郎が、奈良の古寺をめぐった際の印象を書き留めたエッセイ。宗教的関心ではなく、美的関心に基づく感想がつづられている。

    本書の出版から28年後に書かれた「改版序」で、和辻は本書に認められる若々しい情熱を「はずかしく感ずる気持ちの昂じてくるのを経験した」と述べている。彼はまた、若き日の「美的生活」からの「転向」をつづった文章で、「私がSollenを地に投げたと思ったのは錯覚に過ぎなかった……かくて私は一年後に、Aesthetのごとくふるまったゆえをもって烈しく自己を苛責する人となった」と言う。そこには、美に引き寄せられつつも、美に耽溺してしまうことを倫理的に拒否してしまう和辻の姿を認めることができる。こうした彼の内面の振幅が、本書のもつ奥行きを可能にしているのではないだろうか。

    本書の始まりの方で、和辻は次のように書いている。「昨夜父は言った。お前の今やっていることは道のためにどれだけ役に立つのか……。この問いには返事ができなかった。……父がこの問いを発する気持ちに対して、頭を下げないではいられなかった。」厳格な父の前でみずからを恥じつつも、和辻は奈良の仏教美術がもつ美に魅かれてゆく。薬師寺の聖観音と薬師如来について記した文章はむしろ、これらの仏像のもつ艶かしい魅力から眼を背けることのできない和辻の姿を読者に印象づける。

    本書で注目すべきもう一つのポイントは、のちの『風土』へと引き継がれてゆくような洞察が示されている点だろう。本書で和辻は、奈良の仏教美術の背後に、遠くギリシア、インドから中国、朝鮮を経て日本に至るまでの文化のつながりを認めると同時に、そうした文化的な影響を取り入れながら日本人が形成していった独自の美的感性に注目する。そこには、後年の和辻が必ずしも自由ではありえなかった偏狭な自国愛は存しない。「外来の様式を襲用することは、それ自身恥ずべきことではない」と和辻は言う。和辻は聖林寺十一面観音像の制作者が中国から来たという可能性を認めながらも、作者は「わが風光明媚な内海にはいって来た時に、何らかの心情の変異するのを感じないであろうか」と述べて、日本の風土によって観音像の与える印象が決定づけられていると主張している。

  • 奈良に修学旅行行くので!
    予習!!!

  • 「仏教論争」で名が出た和辻哲郎の名著を今さらながら読了。最初は日記がわりの短文であったものが、日付がなくなったあたりから考察に熱が入り寺仏への没頭が伝わる内容に圧倒されました。
    この愛情の深さに比べて、それを単なる論争家の一人に堕する扱いをするのは、きわめて失礼だと思います。

  • 有名な本なので読んでおこうと選ぶ。
    購入して一年くらい経過してからの読書。二月はガツガツ読めるようになったので3日くらいで読完了

    「読んでお寺に行きたくなる本」と思っていたが、時代が違いすぎてかイマイチだった。最後の中宮寺の箇所は良かった。

  • 1979年刊行(改版前底本刊行1918年)。著者が若かりし頃、奈良を探訪し、見聞した神社仏閣、そして仏像等に関して、自らの意見と評価などを開陳した書。難しすぎた。多少、弁解すれば、仏像等の情報を知らず、知ろうともせずに読んだ自分が悪い。奈良にある仏像なんだけどなぁ…。いくつかは見たことがあるんだけどなぁ…(ただし、30年くらい前)。ただ一つ、著者に美術鑑定眼的素養があるとは思えないのに、その点を無視しつつ仏像の優劣・仏像制作者の優劣に関する評釈を下しているのは、いくらなんでも、どうかなぁ、と思う。

  • 奈良の古寺散策はこれほどまでに大変だったんだと感じれる。
    この不便さがいいんだろうなぁ

  •  和辻哲郎は哲学者。本書は、彼が20代のころ、友人とともに奈良付近の古寺を見物したときの印象記だ。著者自身が言うように、「古美術の研究は自分にはわき道」なのだが、その「わき道」の幅の広さに驚嘆させられる。

  • 貸し出し状況等、詳細情報の確認は下記URLへ
    http://libsrv02.iamas.ac.jp/jhkweb_JPN/service/open_search_ex.asp?ISBN=9784003314418

  • 小生の手元にあるのは、なんと!61刷!大正時代に著者が訪れた奈良付近の寺院巡礼記。筆致は今もなおみずみずしく読者に迫る。奈良に行きたくなる本。

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著者プロフィール

和辻哲郎(わつじ・てつろう 1889-1960)
兵庫県神崎郡砥堀村仁豊野(現在の兵庫県姫路市)に生まれる。倫理学者、哲学者。著書に『古寺巡礼』『風土』『倫理学』『日本精神史研究』など。

「2016年 『日本語と哲学の問題』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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