人間と実存 (岩波文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003314654

感想・レビュー・書評

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  • 九鬼周造の広範なエッセンスをまとめた論文集である。有名な『「いき」の構造』はずっと昔に読んだ。『偶然性の問題』は読んだつもりになっていたが、どうやらまだ読んでいなかったらしい。
    同時代の哲学として、ヨーロッパでベルクソンやハイデッガーをも学んできた九鬼周造は、文学的傾向も持っており、その資質は本書の各論文にも窺える。西田幾多郎の影響を受けたような文体になっている箇所もあるが、文学的含蓄があって論理だけではない深さを感じさせる。どうも読んでいて論理の飛躍もあり、「え、その断言はどうなの?」と首をかしげる箇所も多かったが、文学的資質ゆえに、さらに思考を推進していくエネルギーがあって、引き込まれるのである。
    本書の中では偶然性について論じた「偶然の諸相」(S11)、「驚きの情と偶然性」(S14)が特に興味深かった。
    彼は必然性と同一性・「我」、偶然性と「汝」とを結びつける。つまり必然性の観点からすると同一性がベルクソン的「持続」であり、つまりそれは自己(意識)性ということになるのだろう。偶然性が「驚き」であり、「汝」であるというのは面白い。もっとも九鬼の他者概念はちょっと複雑そうで、今回把握しきれなかった。
    「形而上学的時間」(S6)等に見られる時間論もなかなか面白そうである。もうちょっとしっかり読んでおきたい。
    ハイデッガー哲学を紹介した文章は、やや異様に感じた。ハイデッガーの著書からは読み取れないような領域まで、九鬼が膨らませているような気がする。とまれこの「ハイデッガーの哲学」(S8)は日本哲学にとって画期的なものだったろうか。九鬼が苦労の末訳したという「投企」のような訳語は、そのままハイデッガーの和訳の常識として、日本に定着しているようだ。
    本書を読んで俄然興味がわいてきたので、まだ読んでいなかったらしい九鬼周造の岩波文庫版『偶然性の問題』『時間論』は是非読みたいと思う。ついでに『「いき」の構造』も読み返してみようか。

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