忘れられた日本人 (岩波文庫)

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  • 岩波書店
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レビュー : 213
  • Amazon.co.jp ・本 (334ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003316412

感想・レビュー・書評

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  • 民俗学の本はいろいろあるんだろうけど、農民の生活を記述したものはそう多くないそう。この本は、紀伊、四国のあたりの漁村農村を歩いて、村の人々とじかに話をして歩いた民俗学者の記録です。
    関西より西は、関東や東北とはまた違う文化があるそうで、家父長制的なシステムは、むしろ関東のほうが色濃かったようです。村での議論のやり方、男女関係の持ち方など、祭事などに関する文化人類学的な研究よりも、より人々の暮らしがわかる、とても貴重な文献だと思う。

    この本、日本人はいったいどういう人々だったのか?いまのような贅沢のない時代、経済大国になる前の日本はどんなところだったのか、知りたくなって読んでみた。
    昔はみんな質素だったんだね。食事も一日3回は無理で、中身もちょっとの炭水化物と野菜のみ、みたいな、これで長時間働いてたんだから、すごい馬力だ・・・
    楽しみだって、村で一年に一度ある祭りや、セックスくらいしかない時代。それも、所帯持ちは夫や妻と(貧乏なら一夫一妻が普通だった)、若い男女は夜這い。けっこう好き勝手にセックスしてたらしい。今の時代の性欲処理みたいなサービス産業に取り込まれてない分、楽しみとしての性生活があって健康だったのだなあ・・・
    もらい子なども多く、通りすがりの人が子供を預けて行ったり、けっこうあったらしい。すごいよなあ・・・誰の子供でも、大事にしてたのかもしれないわ。

    短いお話がたくさんある構成になっているのだけど、その中に、牛の売買をして生計を立てていた爺さんの話があって、これは感動した。牛飼いは、当時は外道(やくざではなく、どこにも所属しない放浪の民みたいなかんじ)の仕事で、どこにも属さすに半分ぺてんみたいなことをやりながらのその日暮らしの男の独白である。最後の30年は梅毒かなにかにやられて失明、こじきになって橋の下で生活するこの翁が語る、愛についての物語。ほんとに泣けた。生涯、誰かを愛することができると、どんな人生でも、意味のあるものになるんだなと。民族誌を読んで、こんな気持ちになるとは正直思っても居なかったので、この作者の腕が良かったんだろうなと思う。

    全体的に読んでの印象は、日本人の美しさというのは謙虚なことなのかなと。多くを求めず、強欲にならずに、他人との調和を重んじて生きる。学のある人間は、村の人間のためにそれを役立てる。別に日本人に限らず、普通の人間はこういうふううに生きてきたのだろう。こういう素朴な生き方を否定することなく、過去に学んでいくて行くのは、いま本当に大切なことだと思う。

    • tsutomu1958さん
      素晴らしいコメントです。特に、日本人の美しさというのは謙虚なことなのかなという考えには、全くもって同感です。
      素晴らしいコメントです。特に、日本人の美しさというのは謙虚なことなのかなという考えには、全くもって同感です。
      2012/10/22
  • ★「これからの日本人」のために

    3つのポイント
    ・基本的に個人に対する聞き書き。それはかつての日本を体現するような人生でもあった。個々であり、されど多数でもあるかもしれない。
    ・みな貧しく、苦労も、殺伐もあったが、しかしどこか呑気に、ええかげんに生きた。「忘れられた日本人」は「これからの日本人」が読むべき一冊であるようにも思われた。
    ・「ああ・・・」というような言葉が散見される。多すぎて逐一は抜かなかった。下に一例を。

    いたって野放図で行きあたりばったりの男だが、仕事だけは実によい仕事をし、また責任を負ってやった。(p.235)

    ウソでも本当と信じなければ生きて行けなかったものである。(p.249)

    女とねるのは風流の一つであった。(p.254)

    わしも一生何をしたことやらわかりまへん。(p.257)

    その努力の大半が大した効果もあげず埋没して行くのである。(p.259)

    何の役に立たない様なものでも歴史的に見れば、古くなる程面白味が出来てくるであろう(p.267 田中梅治翁の語)

    文字を知っている者はよく時計を見る。(中略)どこか時間にしばられた生活がはじまっている。(p.270)

    伯父のしていることは伯父にとっては何もかもあたりまえのことですよ(p.301)

  • 学生のときにこの本が全然目に入らなかったのはどうしてなんだろう。
    読んでおけばもっと民俗学を面白く勉強できたのに。
    日本人について知らなすぎると反省。

  • 幕末から明治にかけての古老のお話し。貨幣経済が浸透したなかにも、村落共同体のしきたりや明らかな身分差など中世的、封建的な匂いを感じる話しが多い。文明開化を中心とした教科書的な歴史との同時代に、パラレルに存在した民俗学的な景色である。
    近代の価値観では会議は結論が大事であり、性は秘匿し慎むものと相場が決まっている。しかし、対馬の会議はプロセスに重きを置くため結論がでるまで何日も続き、土佐における性の交わりは単調な暮らしにおける最も身近な娯楽である。
    私が手にとったのは61刷である。岩波文庫のなかでも人気の一冊であることがわかるが、その理由は近現代に欠けたものに想いをはせるノスタルジックな感覚だけでないだろう。冷静になって自省したとき、曽祖父母の時代にまであった感性がどこか自分のなかにも息づいている直感を残すからであろう。

  • 明治~昭和前半期を生きた、主に四国・中国地方の老人の話をまとめた書です。分類的にいえば民俗学です。

    みなが納得するまで2日も3日も話し合う“寄り合い”とか、声のいいのがモテる“盆踊り”、情報ネットワークでありガス抜きでもある女たちの会話、犯罪や病気でドロップアウトしても用意されているセーフティネット、おおらかな夜這い習慣(楽しそうだなぁ(笑))…タイトル通りの、今は無き日本の良風が、古老の声を通してつづられています。

    貧しかったかもしれないが、必ずしも暗く狭い時代ではなかったのだ…それを教えてくれる良書ですね。

    日本人は物質的な豊かさを(一応)手に入れた一方、なにかを置き去りにしているのではないか? それがいま、さまざまな社会悪として露見しているのではないか?

    というのがソボクな感懐であるのですが、こういう本を読むと、やっぱそうだよねぇ、と思いますね。

  • けっこう気楽に読める。
    今の感覚ではびっくりするほど非効率だけど、人の入れ替わりのほとんど無い狭い共同体をうまく回す工夫の結果だとわかったり。
    夜這いがあったり、やしない子があったり、旅の人を気安く泊めたり、余所の者がそのまま居着くようなことがあったり、おおらかなのかわからないけど。
    昔の農村、漁村というとなにかと不便で抑圧されていたと思いがちだし、現代の価値観からは豊かで幸福とは言いがたいが、それでもだいぶイメージは崩れた。

  • やっと注目していたこの本を読みました。生きるということ、いや、生きてきたということの重みが誇張のない淡々とした語りからかえってずっしりと感じられる語り。登場する人たちは大変な辛苦を経てきたはずなのに、現代のほうが進んでいると単純に言い切れなくなってしまう切なさ。実際に読んだのは「未来社」1975版:ISBN不明

  • 当時の生活や雰囲気がよくわかる。文字がない世界に生きてた伝承者は、信じる力をもつ人だけだった。文字を使える人の役割、という見方は感心した。

  • 「維新以降の日本のリアル」を知りたい欲求が止まらない今日この頃。大河ドラマの「史実との違いを探せばキリがない」という謎の開き直りや、「君たちはどう生きるか」のコぺル君周辺のSF的とも言える豪奢な生活ぶりを鑑み、一度ストレートに民俗学に立ち戻っては如何だろう?と名著の呼び声高い本書を。大当たりです。
    民俗学と言えば夜這い、夜這いと言えば民俗学ですが、やはり性の話題を避けてはリアルが見えない近代日本。この本の白眉は、橋の下で30年起居する盲目の乞食の性遍歴を30ページにわたって綴る「土佐源氏」。人生って凄い。これからも既成の価値観をグラつかせてくれる書籍を読んでいこう。

  • ほんの数十年前のことと思えないほど、人の生活や価値観、倫理観の違いに驚く。
    常識や当たり前とはなんなのか


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著者プロフィール

民俗学者

「2019年 『宮本常一 伝書鳩のように』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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