工藝文化 (岩波文庫 青 169-3)

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  • Amazon.co.jp ・本 (284ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003316931

感想・レビュー・書評

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  • 柳宗悦(やなぎむねよし)の『工藝文化』をめくっています。この人の文章は怖いぐらいすごい。

    『美術は個人主義の産物である。個人的意識が芸術をこの方に導いたのである。
    だから個性が鮮やかであればあるほど、彼の作は特色を示している』

    短い文章でずっずっとこちらに迫ってくる。
    文庫本で3行以上にわたる長い文章は皆無です。
    そして、そこには何のためらいもなく、ずばずばと言い切っています。

    まるで、羽生名人と将棋をさしているような錯覚をおぼえます。一つ一つの「歩」が明確な意図のもと、的確に押し寄せてくる。そして最後には「香車」で私の王将の前にずばりと王手でくる。

    このような学術論文にはじめて接しました。
    昔にはこのような方がおられたんですね、
    なにかうちのめされた感じがしております。

  • 拾い読み。
    ・工芸論を作りたかったのだろう。美と善と聖が一如であるというような壮大な論を。だがその論から除かれているところ(例えば官窯の青磁)、説得力の乏しいもの(例えば低廉性が美の性質であるというとこ。廉価であれば買い手・作り手とも目利きが強まりにくいのではないか)があり、おおよそ万人向けでない。明らかに当時の評論・情勢へ対抗する武器になるよう意図がある。その点で純粋な工芸品の使い手には不誠実でないか。
    ・公有の美、普遍性の美、というのを主張し、個別的、瞬間的な美は考慮されない。美の国(いったい何なのかは詳らかでないが千年王国のような感じ)の実現へとつながる性質(大衆性、そのための廉価性など)を列挙したかったのだろう。だが、それは個人にとって意味があるのだろうか?社会的な美とはどういうもので、どういう働きを個人にするのか。その追求が弱い。工芸化された文字というのを考えていることからも、明らかに個別性が低く見られている。なぜ統一的・分類的にならざるをえなかったのか、が逆に不思議。

  • 柳宗悦がみずからの工芸論を体系的に論じている。

    本書の中で柳は、「吾々の工芸界に於ける運動は、「民芸運動」として知られてきたが、私共のひそかに誇りとすることは、これが外国の思想に発したものでなく、日本自らが生んだものだと云う事実である」と述べている。じっさい彼は本書で、みずからの工芸論とW・モリスによるArts and Carfts Movementとの違いを明確にしようと試みている。

    モリスは中世の工芸家たちの作る作品の美が失われてしまったことを嘆き、それを現代によみがえらせようと試みた。彼は材料をよく吟味し、色彩によく注意し、美しさを意識的に追求した。だが中世の無名の工芸家の作品と比べてみるならば、モリスの作品には苦心惨憺の後を隠せないと柳はいう。彼はモリスの手になる工芸品の美を認めつつも、それを「美術家の試みた工芸品」と呼んで、無名の職人の手になる工芸品から区別している。天才でもなく教養ももたない中世の工芸家たちは意識的に美を追求することなどなく、美しい作品を作り出すことができたのである。

    柳はここに、天才的な個人が意識的に作り出す「美術」と、無名の職人が伝統にしたがって作り出す「工芸」との違いを見ようとする。きわめて限られた天才だけが努力の末に美しい作品を生み出す道を、柳は「自力の行」や「難行の道」と呼んでいる。これに対して、職人が伝統にしたがうことでおのずと美しい工芸品が生みだされる道は、「他力の行」や「易行道」と呼ばれる。

    これまで美術は個人の自由という観念に執着していたと柳はいう。だがそれは、新たな不自由なのではないか。他方、職人たちは伝統にしたがって工芸品を作り続ける。そこには意識的な技巧はまったく見られない。だが、彼らの技量が熟練されるにつれて、その技は自然に運ばれるようになる。伝統にしたがうという不自由さが、かえって自由に働く技を育む。ここに工芸の「美」が成立すると柳は考えたのである。

  • (2007.07.29購入)
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    【展覧会】
    没後50年・日本民藝館開館75周年
    柳宗悦展-暮らしへの眼差し
    主催:NHK横浜放送局、NHKプロモーション
    会場:そごう美術館
    会期:2011年10月22日(土)~12月4日(日)
    入館料:大人1,000円
    入館日:2011年12月4日(日)

    「柳宗悦(1889-1961)の没後50年と、日本民藝館創設75年を記念した本展では、柳が唱えた民芸の美と思想を、日本民藝館の所蔵品約300点により紹介し、その偉業を振り返ります。日々の暮らしへの眼差しから発見された、陶磁器、染織品、木工品をはじめとした工芸品、木喰仏などの仏像、大津絵や仏画といった絵画類、さらには柳の美的センスが存分に活かされた柳邸内の再現も展覧いたします。」(ホームページより)

    棟方志功、芹沢銈介、等と交流のあった柳宗悦の展覧会が開かれているというので、最終日に何とか見に行ってきました。
    柳宗悦の部屋の再現や多くの写真、著作と収集品、さらに息子の柳宗理のデザインした工芸品などが展示してあり、柳宗悦の活動とその活動の継承の軌跡がわかるようになっています。

    友人から贈られた朝鮮陶磁を見て、朝鮮半島に調査に出かけ、木喰仏を発見し、日本国内の木喰仏の調査を行い、という感じで、色んな民芸品に美を見出していった。
    大津絵、沖縄の染め物、蝦夷の民芸品と文化、台湾の民芸品と文化、多くの地域の民芸品と文化に美を見出し、調査や文章での紹介に一生をささげた。
    日本民芸館を創設し、残してくれました。まだ見に行ったことはありませんが。
    (2011年12月11日・記)

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著者プロフィール

柳宗悦(やなぎ・むねよし):1889-1961年。学習院高等科在学中に雑誌「白樺」創刊に参加。主に美術の分野を担当した。東京帝国大学哲学科を卒業後は宗教哲学者として活躍。濱田庄司、河井寛次郎、バーナード・リーチ、富本憲吉らと出会い、「民藝」という新しい美の概念を打ちたてた。眼の人として知られるが、柳のまなざしは、物の美しさだけではなく、物を生み出した人や社会にたえず注がれていた。

「2023年 『新編 民藝四十年』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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