- Amazon.co.jp ・本 (362ページ)
- / ISBN・EAN: 9784003318317
作品紹介・あらすじ
敗戦後、著者は俘虜としてシベリアで強制労働についた。その四年間の記録である。常に冷静さと人間への信頼とを失わなかった著者の強靭な精神が、苦しみ喘ぐ同胞の姿とともに、ソ連の実像を捉え得た。
感想・レビュー・書評
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醒めているが温かい目で社会を見るというのは,こういうことなのだろうと考えさせられ教えられる,シベリア抑留記録.制度で割り切って社会を了解しようとするのでもなく,人間的側面だけを見て制度を等閑視するような見方でもなく,その交差点に視点を置こうとすることで精神の平衡を保ったあり方からは,ずるずるべったりではない自立性に気付かされる.
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シベリア抑留と聞いて極寒の中の重労働しか想像せずに読み始めた。今ではよく知られている中国文化大革命時代の非道とそっくりなことが「民主教育」の名の下で俘虜たちの間で起こっていた。また限られた情報の中で希望をもっては打ち砕かれるストレス。
著者がエスペランティストであるという点も本書を手に取るきっかけとなったが、ナチスからもスターリンからも弾圧されていてエスぺランティストと出会うことは一度もない。ただ興味深かったのは、ザメンホフのホマラニスモは、ロシア領で生まれ育ったゆえのロシア的ヒューマニズム(庶民の異常な人懐っこさか?)の影響かもと言っているところ。ロシア語ができる高杉は、なぜそんなに?高杉はよっぽど魅力的だったのか?と思いたくなるような扱いを受けることもあって、そういうものに慣れていない現代の日本人は理解しにくい。一方そんな民族的魅力が融通の利かないソヴィエト的人間に変わってしまう怖さを感じた。 -
4.31/108
『敗戦後,著者は俘虜としてシベリアで強制労働についた.その四年間の記録である.常に冷静さと人間への信頼とを失わなかった著者の強靭な精神が,苦しみ喘ぐ同胞の姿と共に,ソ連の実像を捉え得た.初版(一九五〇)の序に,渡辺一夫氏は,「制度は人間の賢愚によって生きもし死にもする.それを証明されたように思った」と書いている.』
(「岩波書店」サイトより▽)
https://www.iwanami.co.jp/book/b246216.html
冒頭
『私が毎日働きに通っていた事務所は、日本人俘虜収容所の衛門から一〇〇メートルとは離れていない小高い丘の上に立っていた。』
『 小序 渡辺一夫
何年何月何日に、誰が、鉄のカーテンを垂れてしまったのか、僕は知らない。また、このカーテンは、羞恥の為なのか、恐怖の為なのか、それとも何の為なのか、それも知らない。ただ、同じ人間である以上、同じ小さな地球に住む弱い生物である以上、苦しみも悲しみも喜びも、お互いに語り合い、慰め合い、祝い合い、有無相通じ合うのが本当なのに、と思うだけである。』
『極光のかげに: シベリヤ俘虜記』
著者:高杉 一郎
出版社 : 岩波書店
文庫 : 362ページ
メモ:
『私は、四カ年の抑留生活のなかで、いい意味にせよわるい意味にせよ、忘れがたく心にのこったソヴィエトの人々の人間性を描くことによって、この国についてのひとつの真実を伝えたいと思った。ここで私が努力したのは、できるだけ正直に書くことと、すべてのものが政治的な時代にあるにしても、望むらくは、せまい党派的なものにかたづけてしまうことができないものの意味をできるだけあきらかにすること、であった。(「あとがき」より)』355p
『日本の将兵六十万が一九四五年から一九五〇年まで、ひどい場合は一九五六年まで十一年間もソ連に抑留されていた事実は、「バビロンの捕囚」にも比すべき日本民族あげての歴史的な体験であった。西独のアデナウアー首相はみずからモスクワに乗りこんでドイツ人将兵の釈放を要求し、連邦議会には「戦争犠牲者の扶助にかんする法律」を上程し、帰還者を英雄として迎え、その記録を国として公的に編んだと聞いている。日本政府も、せめてその公的な記録を残すぐらいのことはしたらいいと思うのに、これまでのところ抑留を終えて帰還した日本兵たち自身が身銭を切ってやっているもののほかに、政府のそのような努力は見られないからである。
私の『シベリア俘虜記』は、ごく限られた個人的体験を綴ったものにすぎないし、その体験についての解釈も片寄ったものであるかもしれないが、日本がかつて経験したことのなかった民族流亡の歴史の片りんを後代に伝えるひとつのよすがにはなるだろうと思う。(「岩波文庫版あとがき」より)』359-360p -
高杉一郎 「極光のかげに」
シベリア俘虜記
俘虜は 人質というより労働力。俘虜の非人間的扱いみたいなシーンはない。
最初は 家庭のような開放的な雰囲気も感じながら、徐々に自由を奪われて息苦しくなり、うっかり口も聞けない不気味さを感じるようになる
著者のコミュニケーション能力が高いからなのか、言葉や文化が通じていれば、意見の相違はあっても 屈辱的な上下関係にはならないのかもしれない
コミュニズムの世界の二面性〜権力側の人間の暗い面と 民衆の明るさ〜は感じた。
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まだ学生だった時分に先生に薦められて読んだ本。
4年間シベリア抑留に遭った著者の文章はその過酷な体験にも関わらず、冷静で、ある種の温もりをたたえていて、一読の価値あり。ロシア人との心温まる交流も魅力。舌足らずで表現する言葉が見つからないのですが、人間って凄いなと感じる、そんな本。これ本当。
彼にはこの本の内容に帰国後の彼の周りの出来事を加えた「往きて還りし兵の記憶」という本もあります。かつてのロシアや日本の社会主義の状況に興味のある人には面白いと思います。 -
ノンフィクション
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シベリア抑留という事柄が具体的にどのようなことであったのか興味があって読み始めた。著者は当事者であるにもかかわらず本書について感情移入して書かれた様子がなく、常にメタ的な視点で抑留生活が描写される。
もしかしたら、抑留中にはそのような客観的な視点で自分を見つめつづけていないと、自分を見失って精神的に追い詰められてしまったのかもしれない。ゆえに本書執筆時にも冷静な視点で振り返ることができるのかもしれない。
そう思うと、この冷静な抑留生活の描写がより過酷なものとして捉えられるようになった。 -
戦後にシベリア抑留された経験を持つ著者のルポルタージュ。
究極の社会形態であるはずの共産主義の裏に潜む悲惨な現実を炙り出す。
ロシア語と日本語をごっちゃ混ぜにした文体が物凄い好み。
"同志"スターリンに疑問を抱きつつも最終的に肯定してしまう筆者が切ない。