ヨーロッパ文化と日本文化 (岩波文庫 青 459-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003345917

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  • 安土桃山時代に来日したイエズス会ポルトガル人宣教師ルイス・フロイスによるヨーロッパと日本の文化比較を記した小冊子の解説書。底本はルイス・フロイスが来日23年目で九州・加津佐で記した『日欧文化比較』で、本書では訳者がわかりやすいように行ごとに解釈を付け、挿図している。
    構成としては、日欧の比較を習俗・文化・宗教・道具などの分類として章立てし、項目毎に「われわれは(ヨーロッパでは)○○○。彼らは(日本では)×××。」といった簡略な比較文になっている。
    それぞれの比較はとても面白く現代でもわかるものもあり、とても興味深い。その一方で解釈を読むと日本側の記載は貶める方の誇張も多い気がする。フロイスの趣旨を考えると、ヨーロッパ文化との違いを奇異に、そしてさかさまなものとして伝える側面が多く見受けられ、90%くらいは「何考えているんだ日本人は・・・」的な記載が多いように感じられる。(笑)外見的な比較が多く、内面まで理解した記述ではないのが残念なところで、このままではどこまでいっても「異邦人の視点」を抜け出していない感じだ。
    少し前まではフロイスの大著『日本史』をはじめあまり史料として研究に使用されることは少なかったとのことですが(誇張や勘違いがあるためか?)、近年、見直されてきているとのことで、こうした同時代の一次史料は大いに研究の一助になってほしいと思います。

    以下は特に興味深い記述です。
    「ヨーロッパ人は大きな目を美しいとしている。日本人はそれをおそろしいものと考え、涙の出る部分の閉じているのを美しいとしている。」
    「われわれは喪に黒色を用いる。日本人は白色を用いる。」
    「われわれはいつでも唾を吐きだす。日本人は概して痰を呑み込む。」
    「ヨーロッパの女性は美しい整った眉を重んずる。日本の女性は一本の毛も残さないように、全部毛抜で抜いてしまう。」
    「われわれの間では女性が素足で歩いたならば、狂人か恥知らずと考えられるであろう。日本の女性は貴賤を問わず、一年の大半、いつも素足で歩く。」
    「ヨーロッパでは夫が前、妻が後になって歩く。日本では夫が後、妻が前を歩く。」
    「ヨーロッパの女性は分娩の後、横になって、休息する。日本の女性は分娩の後二十日の間、昼も夜も坐っていなければならない。」
    「われわれの間では、人は罪の償いをして、救霊を得るために修道会に入る。坊主らは、逸楽と休養の中で暮らし、労苦から逃れるために教団に入る。」
    「われわれの間では修道士が結婚すれば背教者になる。坊主らは信仰に飽きると、結婚をするか、または兵士になる。」
    「ヨーロッパでは主人だ死ぬと従僕らは泣きながら墓まで送って行く。日本ではある者は腹を裂き、多数の者が指先を切りとって屍を焼く火の中に投げ込む。」
    「われわれはスープが無くとも結構食事をすることができる。日本人は汁が無いと食事ができない。」
    「ヨーロッパ人は牝鶏や鶉、パイ、ブラモンジュを好む。日本人は野犬や鶴、大猿、猫、生の海藻などをよろこぶ。」(食事について)
    「われわれの馬はきわめて美しい。日本のものはそれに比べてはるかに劣っている。」
    「われわれは坐り、彼らはしゃがむ。」(トイレについて)
    「われわれの劇は詩である。彼らのは散文である。」
    「われわれの間では人に面と向かって嘘付きだということは最大の侮辱である。日本人はそれを笑い、愛嬌としている。」
    「われわれの間では礼節はおちついた、厳粛な顔でおこなわれる。日本人はいつも間違いなく偽りの微笑でおこなう。」
    「われわれは拇指または食指で鼻孔を綺麗にする。彼らは鼻孔が小さいために小指を用いておこなう。」

  • ヨーロッパでは娘や処女を閉じ込めておくことは極めて大事であり、厳格に行われる。日本では、娘たちは両親にことわりもしないで1日でも幾日でも、ひとりで好きな所へ出かける。▼ヨーロッパでは、生れる児を堕胎することは滅多にない。日本では極めて普通で、20回も堕した女性があるほどである。▼われわれの間では女性が文字を書くことはあまり普及していない。日本の高貴の女性は、それを知らなければ価値が下がると考えている。▼ヨーロッパでは女性が葡萄酒を飲むことは礼を失するものであると考えられている。日本ではそれはごく普通で祭の時にはしばしば酔っ払うまで飲む。▼ヨーロッパでは妻は夫の許可が無くては家から外へ出ない。日本の女性は夫に知らせず、好きな所へ行く自由を持っている。▼ヨーロッパでは普通女性が食事を作り、男性が高い食卓で女性が低い食卓で食事をする。ヨーロッパでは夫が前、妻が後になって歩く。▼ヨーロッパでは、妻を離別することは、罪悪であり、最大の不名誉である。日本では意のままに幾人でも離別する。妻はそのことによって名誉を失わないし、また結婚もできる。第2章。pp.39-61

    われわれは普通、鞭で打って息子を懲罰する。日本ではそれは滅多に行われない。ただ(言葉?)によって譴責(けんせき)する(戒める)だけである。▼われわれの教師は、子どもたちに教義や貴い正しい行儀作法を教える。坊主は彼らに弾奏や唱歌、遊戯、撃剣などを教え、また彼らと忌まわしい行為(衆道しゅどう、男色なんしょく、男性の同性愛)をする。

    坊主らは逸楽と休養の中に暮し、労苦から逃れるために教団に入る。坊主らはあらゆる内心の汚穢(おわい)と肉体のあらゆる忌まわしい罪とを誓う。坊主らは檀那(財物を布施する信者)を食い物にし、あらゆる手段を講じて自ら富み栄えることを計る。坊主らは外面には肉も魚も食べないと公言しながら、蔭では食べている。坊主らは禁じられているにも拘らず、道路で酩酊している。坊主らは紙に書いた数多くの各種の守り札を多額の金をとって与える。

    われわれは良い衣服を上に着て、良くない衣服を下に着る。日本人は良いのを下に、良くないものを上に着る。▼われわれは保養・気晴らしに散歩をするが、日本人は散歩をしない。それを不思議がり、仕事のため、悔悛(かいしゅん、悔い改め)のためだと考えている。

    われわれはすべてのものを手を使って食べる。日本人は男も女も、子どもの時から二本の棒を用いて食べる(※ヨーロッパで、フォークを用いる慣習の普及は17世紀辺りから。それまでは手づかみ)。▼われわれは乳製品・チーズ・バター・骨の髄などを喜ぶ。日本人はこれらのものをすべて忌み嫌う。彼らにとってそれは悪臭がひどいのである。

    われわれは瀉血(しゃけつ)療法をおこなう。日本人は草による火の塊を用いる。※ヨーロッパでは、病人の血管を割いて血液を外に出すことで体内の病気を取り去ることができると信じられていた。無駄に体力を消耗させるとして18世紀以降は減少。

    われわれは怒りの感情を大いに表わすし、短慮(たんりょ、気短か)をあまり抑制しない。彼らは特異の方法でそれを抑える。きわめて中庸を得、思慮深い。

    われわれの間では、武装具を着ける時、その下に厚い布をつけなければならない。日本人は武装具を着ける時、生まれた時のままの赤裸(あかはだか、真っ裸)になる。▼われわれは撃剣をする時ものを言わない。日本人は切りつけたり、逆打ちをくらわせる毎に必ず叫び声を発する。

    日本人は神(カミ)に現世の幸福を求め、仏(ホトケ)には救霊を希(こいねが)う。神には幸福・健康・長寿・富貴・子女・勝利を訴え、仏には罪の赦しと来世の救いを祈る。

    Europa e Esta Provincia de Japao (1585) ルイス・フロイス
    ※イエズス会宣教師。リスボン生まれ。31歳で来日。以後、35年間日本各地で布教。長崎にて没。

    *************

    キリスト教の洗礼を受けたある村の娘お大。村人は洗礼についてとくに咎めることはなかった。しかし宣教師の命令で、家の仏壇と位牌を捨てたところ、村八分にされ、遊女小屋からも拒絶された。小泉やくも八雲『お大の場合』1894-1904

    宴席に雇われた本職の芸人(芸者さんのことであろう)の奏する楽器や唄で陽気になり、2、3時間談笑した後、もう充分に酩酊したところで客は主人にお辞儀をして、飯を所望する。これでお話はよく了解したという合図だ。アーネスト・サトウ『一外交官の見た明治維新』1921

  • フロイスによる日本観察記。現代の日本にも共通しているものもあり、ないものもあり。一つ一つに解説がついているのが有り難い。

  • 16世紀、イエズス会宣教師のルイス・フロイスは日本での布教を通じて、織田信長などの戦国大名と交流し、長崎で没しています。

    その彼が、日常生活でのヨーロッパ(おそらく出身のポルトガル)と日本の風俗、メンタリティー、振る舞いの違いを事細かに記したのが本書です。その中で、次の文章に興味を惹かれました。

    「ヨーロッパでは言葉の明瞭なことを求め、曖昧な言葉を避ける。日本では曖昧な言葉が一番優れた言葉で、もっとも重んぜられている」

    訳注によれば、これは当時の敬語法が発達していたことに因るとするも、言葉に対する日本人の態度は現在もあまり変わっていないように思われました。

  • 非常に貴重な資料です。
    リアリティのある内容で表現も生々しく、安土桃山時代にタイムスリップしたような感覚になります。

  • 第一章 男性の風貌と衣服に関すること
    第二章 女性とその風貌、風習について
    第三章 児童およびその風俗について
    第四章 坊主ならびにその風習に関すること
    第五章 寺院、聖像およびその宗教の信仰に関すること
    第六章 日本人の食事と飲酒の仕方
    第七章 日本人の攻撃用および防禦武器についてー付戦争
    第八章 馬に関すること
    第九章 病気、医者および薬について
    第十章 日本人の書法、その書物、紙、インクおよび手紙について
    第十一章 家屋、建築、庭園および果実について
    第十二章 船とその慣習、道具について
    第十三章 日本の劇、喜劇、舞踊、歌および楽器について
    第十四章 前記の章でよくまとめられなかった異風で、特殊な事どもについて
    岩波文庫版あとがき (高瀬弘一郎)

    アビラ・ヒロン『日本王国記』とルイス・フロイス『日欧文化比較』(本文庫では表題を『ヨーロッパ文化と日本文化』に解題した。)の二書を併せ、『大航海時代叢書ⅩⅠ』(一九六五年九月十三日刊)として刊行された。

  • [第9刷]1994年7月5日
    カバーなし

  • 4 中世ドイツの「後朝の歌」を日本文化の目でとらえなおす[寺田龍男先生] 2

    【ブックガイドのコメント】
    「16世紀に宣教師として来日した著者が当時の習俗を比較により描写した貴重な書。」
    (『ともに生きるための教育学へのレッスン40』182ページ)

    【北大ではここにあります(北海道大学蔵書目録へのリンク先)】
    https://opac.lib.hokudai.ac.jp/opac/opac_link/bibid/2000389307

    【関連資料(北海道大学蔵書目録へのリンク先)】
    ・[翻訳底本の複製資料]「Kulturgegensätze Europa-Japan (1585)」1955年発行(上智大学)
    https://opac.lib.hokudai.ac.jp/opac/opac_link/bibid/2001031599

    ・[改題前]「日欧文化比較」(大航海時代叢書11(1965年発行)に収録)
    https://opac.lib.hokudai.ac.jp/opac/opac_link/bibid/2000354730

  • ヨーロッパ文化と日本文化 ルイス・フロイス 岩波文庫

    スペインから派遣されたイエズス会の宣教師は
    35年に渡り日本で暮らし長崎で他界した
    その間日本を旅して
    ヨーロッパとの暮らしの違いを仔細に観察し
    様々な立場における振る舞いを記録し
    イエズス会に送るスパイ役でもあったのだろう
    武器から雑器にいたる工芸について
    あるいは能などの演劇から
    祭りや詩歌などの文化について
    箇条書きで事細かく書き記しているが
    部分的すぎて全体感を書いた部分も多い
    しかし
    多くの注釈付きで
    私達の及ばない別の世界を見せてもくれる
    貴重な記録である

    あまりにも字が小さすぎて読みにくいので
    ワイド版をおすすめする

  • 15世紀戦国時代の日本に来た宣教師ルイスフロイスがその当時の日本の文化や生活などを綴った記録をまとめた貴重な本です。
    戦国時代の日本には今では考えられない風習があったり今でも受け継がれてるなぁと思わせてくれる所があってとても面白い一冊でした。
    調べないと分からない言葉や単語が多かったので読むのに
    多少苦労しました。
    ルイスフロイスが他に書いた「日本史」と言う本がある事も知れたので、そちらの方も今度読んでみたいです。

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著者プロフィール

ルイス・フロイス

一五三二年(天文元年)、ポルトガルの首都リスボン生まれ。十六歳でイエズス会に入会。六三年(永禄六年)来日。八三年(天正十一年)、日本副管区長から「日本史」の編述を命ぜられる。秀吉の伴天連追放令の後、マカオに退去したが再び日本に戻り、九七年(慶長二年)、長崎で没する。長い布教活動を通し、信長との会見は十八回にわたり、多くの戦国武将との面識を得た。

「2020年 『回想の織田信長 フロイス「日本史」より』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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