東京に暮す―1928~1936 (岩波文庫)

制作 : 大久保 美春 
  • 岩波書店 (1994年12月16日発売)
3.51
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  • Amazon.co.jp ・本 (269ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003346617

東京に暮す―1928~1936 (岩波文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 談話室でおすすめを受けて、ずっと読みたいと思っていた本。
    本屋の書架で探してもなくて、図書館で借りたのだけれど、最初の30ページを読んで「これはやっぱり手元にほしい!」と思い、本屋で予約して入手しました。
    聡明で機知に富み、異文化への適応力が高くて…。憧れを抱いてしまうような素敵なイギリス人、キャサリン・サムソン夫人のとても面白いエッセイでした。

    この本は、夫人が滞在した1928年(昭和3年)~1936年(昭和11年)までの東京での暮らしを、“「東京での暮らしはどのようなものですか」という親戚や友人の問いにこたえるつもりで”書いたというもの。
    時代は、明治維新からすでに60年。
    数百年続いた鎖国を解いた日本は、西洋の文化や技術を取り入れて急速に近代化し、世界に存在感を示すようになっており、それと共に人々の暮らしも様変わりする。
    西洋の音楽、製品、食品、洋服等々が流入し、東京の街は洋装の者が闊歩し、百貨店で買い物をし、庶民でもタクシーで移動するように。
    昭和初期というと、つい戦中戦後の荒廃した日本を想像してしまうけれど、大正から昭和に変わった頃は、西洋風のお洒落や文化を楽しむ、私が思っていたよりもずっと明るい、粋でハイカラな時代なのだ。

    キャサリンは、外交官の夫と一緒に来日しているので、かなりの上流階級の女性で、日本での暮らしも裕福だったと思うけれど、フットワークは軽く、町に繰り出しては人々のことを実によく観察している。
    そして、日本や日本人を見下げることなく、日本文化に溶け込み、異文化をそのままに受容する柔軟性をもっている。
    彼女の目からみた日本というのは、常に敬意が込められていて温かい。
    日本の歴史、古き良き伝統、自然と調和し高い美意識に裏打ちされた文化、質素で創造性に富んだ人々の暮らし、日本人の長所、欠点、行動パターン、行動の背景にある習慣。
    彼女は日本のよいところ悪いところを、おそらくは日本人以上によく把握していると思う。

    たとえば、彼女は日本人の自然を愛する心を随所に記している。

    “なんといっても日本人の最大の特徴は自然と交わり、自然を芸術的に味わうことです。”
    “農民の仕事はとても大変なのに彼らは自然と格闘しているようには見えません。彼らは、むしろ、成長して滅びることを繰り返して永遠に再生し続ける自然界の一員であり、そしてまたこの循環のあらゆる過程を美しいものとして味わうことができる優れた感受性を持っている人たちなのです。”

    他方で、現在にまで通じるような提言をしているところも。

    “今日のような時代には、なるべく大勢の人が外国に行くことが日本にとって望ましいという別の問題があります。島国の人々の自己満足が、たちまちうぬぼれに変わるということは、欧米だけでなく日本についても言えます。だから、できるだけ多くの人々が外国に行って見分を広めることが望まれます。外国を見た後で、やはり母国が一番よいと思うかもしれません。それでも、無知や傲慢という最悪の病には一生罹らずにすみます。”

    そして、女性が能力を発揮できない社会であることに、彼女は憂いを抱いていたことが窺える。

    改めて思うに、日本という国は、西洋の知識や思想を取り入れつつも、真に日本的な伝統はそのままに、西洋からの輸入をうまく変容させてきたのだなぁ。
    現在、終戦からはすでに60年超。
    戦後の日本は、大きな外圧を前に、それまで大切にしてきた伝統や価値観を切り捨て、西洋の思想の基盤のないところに種だけ撒いて、色々歪みが生じてしまっているようにも思える。
    そんなこと言っても、もう戦前には戻れないけれど。
    キャサリンの賛美した日本の美しさ、自然との調和、家族の結束の固さ、質素で慎ましい暮らしぶり、趣味がよい職人の名品を大切に長く使う心、他人に対する徹底したもてなしと礼儀、優美で上品な女性のしぐさ、等々。
    キャサリンが、戦後の日本を訪れていたら、日本の変わりようにどのような感想を持ったのだろうか。

    たくさんの日本の良さを再発見するとともに、もう失われてしまったもの、失われつつあるものもあって、どうしようもない寂しさもわいてくるのでした。

    • マリモさん
      kumakuma10さん♪

      この本、ご紹介ありがとうございました!!!
      ご紹介がなければきっとずっと知らないままだった、出会えて幸せな本でした。たくさんの人に読んでもらいたいです。

      キャサリンさん、なんて素敵な人なんでしょうね。そしてキャサリンさんの目からみた日本、日本人の素敵なこと!(こんな風に日本を見てくださった外国人もいたのに、日本は数年後にはイギリスとも関係が悪化してしまうのは、歴史の流れとはいえ残念だなとも思いました)。

      本当に、当時の活き活きとした日本と比較して、「今は…」と思わずにはいられなかったですが、それでも残っている日本の良さってあるなぁとも思えて、頑張らないといけないなぁって前向きな気持ちももらえました。

      次はご紹介いただいた別の本も読もうと思っています。またいい本あったら教えてください♪
      2013/02/10
  • 戦前の日本に暮らしたイギリス人女性の目から見た日本の風俗。
    とても好意的な温かい視点で、日本の庶民の暮らしがいきいきと
    語られている。
    当時の日本でサンソム夫人が美徳と感じたものが失われつつあり、
    今後の不安として語られたことが今の時代にその通りになっている
    ことや、あるいはどの時代でも人々の悩みや不安がある程度同じ
    だということも驚き。

  • 日本や日本人に対する鋭い洞察を、軽妙かつユーモアのある文章で綴った好エッセイ。常に庶民に温かい視線を向けているので、時代は違えど日本の庶民としては心地よく読める笑。

    時代背景を考えると、イギリス人にとってはけっして住みよい時期ではなかったはずなのに、ネガティブなことは書かれていない。どんな環境であっても、積極的にものごとの良い面を見るというところがすばらしい。

  • 1937年に教養の有るMs.Sansomによって、イギリス人向けに書かれたもの。

    英国人と日本人は、謙遜を美徳とするなど共通点を持つとして、暖かな目で、当時の日本人の生活、考え方、習慣などを可能な限り、理解しようとしている。

    p.73
    日本の見合い結婚のほうがうまくいく確率がずっと高いのです、イギリスには、家同士の契約として結婚を取りまとめる制度がありません。
    それでよい奥さんになりそうな魅力的な娘も、意に反して長い間独身でいるうちに魅力を失ってしまいます。

  • イギリス人女性が描いた日本の姿。なかなか示唆に富む内容であった。
    日本人はイギリス人からこういう風に見えるのかというが大変面白い。当時と今では状況は違うから,筆者が今来たらなんと思うのか。個人的にはそんなに大きく変わらないのではないかと思う。変わるとすれば生活に機会がたくさん入り込んだことだろうか。でもそれはすでに本書の中でも日本人の性質として描かれているから,そこまでの不思議はないのかもしれない。また,子供について地域の接し方などもそんなに変わっていないように思う。民族性とはこういうことをいうのだろうか。
    自分がドイツに行ったときには何とも考えなかったのであるが,他の国の理解をするためには,教養が必要だと思えた。

  • 昭和初期の東京の生活の様子をイギリスの外交官夫人であるキャサリン・サンソム氏が項目ごとに整理して記録したもの。心配する自国の友達に報告したものらしいのだが、その観察眼や優しい視点が只者ではない。

    1.日本上陸
    2.日本の食事
    3.日本人と労働
    4.日本の伝統
    5.百貨店にて
    6.礼儀作法
    7.樹木と庭師
    8.日本人の人生
    9.社交と娯楽
    10.日本人と旅
    11.日本人とイギリス人
    12.日本アルプス行
    13.日本の女性

    繰り返し述べられているのは、日本人が純朴でおだやかであり、礼儀正しく親切であること。身分や収入の多寡に関わらず美的センスがあり、あらゆる生活用具が芸術品であること。また、自然が美しいことや、女性が魅力的で動作が美しいこと、みんなが子供をすごく大事にすること等が強調されていた。
    少し褒め過ぎで照れくさくもあるが、何となく言いたいことの雰囲気は伝わってくる。

    江戸時代1868が終わって60年の昭和初期(1928)においては、まだ江戸の伝統も色濃く残っていたのであろう。今2016から90年近く前の話だから、今より江戸に近い空気であるはずだ。一方で、この頃できた百貨店の活気あふれる様子が紹介され、伝統と西洋文化がうまく融合していることに感動している。挿絵を見る限りでは、普段着はほとんど和服で、学生服やバスの車掌さん、結婚式のモーニング、ダンスホールに行くときなど、必要に応じて洋服という感じだろうか。電車の中はスーツと和服と半々だった。

    普通の家にも床の間があり、季節に応じた美術品を飾って楽しむこと、庭師が強い権力(?)を持って庭の美感を決定することが特に印象に残った。
    これらは、禅宗的な発想が浸透していたことの現れだろうか。

    いずれにしても、戦争に向かってゆく社会にしては、穏やかで生活を楽しむ人々の姿が印象的で、友達に心配させまいと明るく書いたにしても、実際のところはこんな感じだったのでは・・・と思わせる。
    現在は、この頃より良くなった部分も多くあるが、この頃の心の豊かさの大事なところで失ってしまった部分も多くあるかもしれない。
    今、インバウンドで日本に来ている外国人も同じようなことを言ってくれる気もするし、「日本人は少し疲れていて余裕が無いね」と言われるような気もする。

    我々は、戦後何もない状態から今が成り立っている話はよく聞くが、それ以前の生活や文化については戦争と無関係に接する機会が少ないため、戦争のバイアスのかからない外国人のこのような率直な印象や記録は、当時の実像を推測する上で貴重な資料だと思う。

  • 岩波文庫を手に取るとなんとなく肩に力が入る、岩波コンプレックスな俺だけど、この本は気楽に読めた。

    昭和初期の日本を、イギリス外交官の妻としての目線で捉え描いた随想。と、書くと当時日本が世界から孤立し戦争時代に踏み込んでいく昭和初期を描いたものかと思いがちだが、そうではない。

    むしろ、当時の日本(主として東京)の一般的な暮らし(中流よりやや上ではあるが)を文化比較論的に描いていて実に読みやすい。清楚さ、つつましやかさ、すがすがしさ等、豪華とはまた違ったところに日本の良さを見出す著者の視点は、清少納言にも通じる部分があって面白い。庶民の生活は決して暗黒だけではなく、日常は日常として淡々と、連綿と続いていたことが良く分かる。

    ただし、その日常にも「こりゃ危ないぞ」という雰囲気が徐々に染み込んできてたようで、基本的には日本の良いとこばかり書き記しているこの本にも、時々警告に取れるような描写が出てくる。今の世もそうかも知れない。日常に埋没して気がつけば暗黒の世に足を突っ込まないよう気をつけておかないと。

    難しいことはともかくとして、この本で「質素で勤勉で親切でにこやか」と褒めちぎられた日本人。俺も出来るだけそうありたいなぁと感じ入った次第。

  • 4〜5

  • 今から80年ほど前の日本人が、著者の目にはのんびりした国民にみえたというのは、ちょっと意外だった。
    日本の暮らしをこれほど細やかに観察し理解を深めるまでには、コミュニケーションにまつわる失敗も数多くあったはず。
    きっと著者の天性の明るさと根気、そして旺盛な好奇心があったからこそ、書くことができた作品なのだと思う。
    日本人の短所と感じたところはきちんと指摘し、べた褒めしていないのが好印象だった。

  • 体験談というよりは、日本とは日本人とはを語るものに近いので、ちょっとイメージとは違ったけども、この時代のことを知りたい私にはリアルタイムで嬉しい。生活の内部まで知れないので、意外と今と大差ない感じはありますが。
    そう、読んでいても古さを感じ無いのは、恐らく当時も現代も、日本人の本質が変わらないからかもしれません。

    このころから結婚式の髷はかつらだったり、袴が少なくモーニングが多かったりなどが知れた。

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