江戸東京実見画録 (岩波文庫)

著者 :
制作 : 進士 慶幹  花咲 一男 
  • 岩波書店
3.64
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本棚登録 : 72
感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003357712

作品紹介・あらすじ

明治天皇の江戸城入城から貧民のうちこわしまで、急速に移り変る幕末維新の江戸の様子を描きだす風俗誌。作者・長谷川渓石(一八四二‐一九一八)は、作家・長谷川時雨の父親である。国芳の住いを描いたものなど貴重な画を含む。五二図を収録。

感想・レビュー・書評

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  • 明治44年、東京佃島の渓石の家に大洪水が襲った。その時娘の長谷川時雨はとっさに「実見画録」の画稿を守り、後に渓石に感謝されたという。その後、この画録は大正8年に自費出版されたが、それを更に進士・花咲氏の行き届いた注解を付して昭和43年に発行された。明治150年岩波文庫シリーズのマイ3冊目。

    我々は江戸時代をそして明治時代を、映画やテレビドラマを通じて映像的にも承知しているかの如く生活しているが、それが果たして正確かどうか、或いはそれだけが全てかどうかは承知していない。今回この本を紐解きながら、世に広く頒布されていない庶民の描いた記録や画稿が多く存在していたことを知った。このようなものを歴史学では第一次資料という。そしてこのような書物がまだ分析し切れていない事を考えると、江戸時代も明治時代も、まだまだ「未知の世界」があることを予想できるのである。

    わたしはもともとこの時代に疎いので、読んで新鮮だった処も学界では常識の部分も多々あるとは思うが、参考になった処を以下に羅列する。

    ・表紙に使われている寺子屋の画。子供の頭はてっぺんのみ髪を残して一番上をひもで結んでいる。これは水戸の山川菊栄「武家の女性」でも記録されていた。すくなくとも、幕末の関東では広く行われていた子供のファッションだったということになる。
    ・明治4年の頃の市中見廻りの頃の風景は、ちょんまげ、帯刀、袴であり、しかも7人ぐらい徒党を組んでいる。江戸時代の同心たちや火付盗賊改のそれとあまり変わらないどころか、「オイコラ」と威張っていたらしく、その頃の伝統が戦後まで続いたことになる。
    ・上野戦争の直前、寛永寺に居た徳川慶喜が水戸に行ったあと、警護の名目がなくなった彰義隊はその後も市中を巡回して居た。そこで官軍と図のように至る所で衝突していた。
    ・西の丸大手門前で、大名の登城の際、残りの共待はそこの広場で長くそのまま待つことになる。一大名につき図を数えてざっと40ー50人、どんな天候の時でもひたすら待つのは辛いかもしれない。弁当は清白前の飯、ヒジキ・油揚げ、焼豆腐、沢庵。懐より詩歌の小型本を読んだり、武艦と周りの槍等を比べたり、江戸地図、年代記、吉原細見を見たり、田楽、寿司、作り菓子などを買う。辛くも楽しい宮仕えかな。
    ・将軍の御成の時、事前に火事が起こるのを止めるために、ご通行の前日と当日、煮炊きの禁止が言い渡されていた。わたしは「切りが無い」と思うのだが、この「お役人的発想」は現代にも繋がっている。現代の警視庁の高さが中途半端になっているのは、あれより高くしては宮城(皇居)の中を覗く事になると建設中に横槍が入ったかららしい。御成の時、男子だけが土下座して「拝観」することができた。処が、別の図のハリス登城の際には庶民は土下座などは一切していない。行列はあるのに。また、面白からずや。
    ・迷子さがしの立石が、一石橋、両国橋、その他多く建てられていたらしい。岡山でも京橋を市街に渡った直ぐの処にある。
    ・正月に非人の妻子が鳥追歌を三味線と胡弓に合わせて歌い銭を乞うたらしい。
    ・毎年6月1日の(富士山)山開きの日には、駒込・浅草・深川の富士山に、木に麦藁の蛇を取り付ける習俗有り。線香の煙を吸ったり、手にかざして手足につけたり、種々の病を治す効あり。この火は富士の本山より伝火するものらしい。古代より、蛇は生命力の象徴である。二千年以上、この思想が生きていることが驚き。

    このように書き記していくと切りが無い。渓石は、貧しい娼婦の実態や元職業だった江戸明治の刑罰施設或いは事情の画録化に特に熱心だった。思うに、この時代の小説化に役立つに違いない。
    2018年8月読了

  • 江戸末期から明治初期にかけての、将軍・天皇から貧民・罪人までの風俗を、あの歌川国芳に師事して得た腕で描き残した長谷川渓谷と、その画を津波から守り残した娘であり女流作家でもあった長谷川時雨の功績は大きい。渓谷の画は、細密画ではないが、画題の特徴をよく捉えている。本書解説にもあったが、それぞれの画に書かれた説明文を活字に起こし、短文で解説する進士・花咲両氏の力量も称賛に値する。

  • 長谷川時雨女史の父親が描き残した画稿。翻刻および注解(歴史的背景や考察など詳しい)付きで、幕末維新時期の江戸の風俗を理解するのにすごく役立ちそうなすばらしい本でした!!
    その時代を実際に生きて見聞きした人が描き残したモノなわけで、そのリアルさがおもしろい。(浮世絵師の国芳の住居なんて描いてある)天皇の江戸入場に、江戸時代の行商人、新聞の話から牢獄、磔・獄門、当時の罪人を使ってやってた刀の試し切りの話まで、四方八方にテーマは散らかってますが、それが逆に今は全く残っていない風俗ばかりなのでどれも興味深いです。

  • ふむ

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/706726

  • 寺子屋の雷師匠。生徒にお灸をすえていた。私も腰のあたりにお灸お願いしたいところ。

  • 長谷川時雨のお父上様!

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    https://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/33/X/3357710.html

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