国家 上 (岩波文庫 青 601-7)

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  • Amazon.co.jp ・本 (509ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003360170

感想・レビュー・書評

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  • 「正義とは何か、悪とは何か」を導き出すために、ソクラテスがその友人や弟子たちと対話していく話の、上巻。

    これまで読んだ『ソクラテスの弁明・クリトン』と『パイドン』ではソクラテスの死の間際というタイミングであったのに対し、この国家は弁明・裁判から遡った時間軸になる。

    そのためソクラテスの質問への回答や話しぶりではまだ悟りきったような部分がなく、それが故により親近感を湧きやすい。「死の直前」ならではの緊張感がないので落ち着いて読める印象がある。

    「正義とは何か」、つまり「正しさとは何か」というのはテーマとして非常に難しい。人によって回答が違って当然と私には思われる。だからとてもこれと断言回答できない。

    ソクラテスは、「正しい人間があるとすれば、正しい国家というものが分かれば、それを敷衍できる」といった論理で答えを探っていく。

    では正しい国家とは何か。何がもっとも「良い」国家なのか。

    理想の国家を定義するために、国家のサイズ、国家を構成する人々の仕事や役割、他国との関係性、婚姻や性交渉や出産育児、触れるべきOR触れてはならない音楽や娯楽の類などなど、微に入り細に入り最も理想的な国というものを定義していく。

    この過程できっと紀元前当時の様々な生活様式、習慣、思想などの情報が現代まで残されてきたのだろう。貴重な情報源だ。

    この理想の国家というのが、ソクラテスも上巻の終わり間際でいうように、実現可能とは言っていない。実現可能であるかどうかへの回答は難しすぎて、最大限実現に向かうにはどうしたらよいかという回答とさせてほしいし、それで十分なのではないか、という話をする。

    事実、この理想の国家は、ヒトラーが真面目に捉えてしまって影響を受けたと思われるような、かなり非現実的な像が描かれる。

    例えば「子供は生まれたらすぐに親から取り上げて、誰の子供であるかは絶対に知られてはならない。全子供が全大人の子供であり、特定の親子関係を持つべきではない」という実現が厳しい内容や、

    「ギリシア人は内戦などによって敵を捕らえても奴隷にしてはならないが、ギリシア人以外では構わない」という差別に関わるもの、

    「気持ちを明るくしたり奮い立たせる音階は使ってよいが、不協和音を用いた、悲哀や不安を表現するような音階は使ってはならず、そのような音楽を聴いてもいけない」という表現の自由や娯楽を制限するもの、

    「優生な遺伝子を持つ子供は積極的に生み育て、優遇するべきで、そうでない遺伝子の子供は可能な限り少なくなるように仕向け、また当人たちにはそれを悟られてはいけない」という優生学の思想などである。

    彼らは論理的に真面目に思考検討しているものの、今では物議を醸す露骨な男女差別的な発言も多い。

    正義は立場によって変わる。国家の良し悪しも、その地理的特性や時代特性によって大きく変わるだろう。

    本書から学べるのは、決して具体的なノウハウではない。
    その論理的な思考法を一アイデアとして受け取ること。
    当時の慣習や思想などの情報を得ること。
    そして真摯に、目的となる困難な答えに向かって思考し、対話し続ける姿勢などである。
    この姿勢こそ、一番心に刻んでいきたいものである。

    本書の終わりでは哲人政治が遂に登場する。
    最終的にどのような結末を迎えるのか、下巻を楽しみに次へ進もう。

  • ひとまず上巻読了。
    読書日記は下巻の方で。

  • 個人の話から国家、そして下巻の宇宙にまで広がるスケールの大きさたるや。
    壮大なものではありましたが、その国家がしっかりと個々の人間と対応していて、ある種の比喩になっているのが面白いです。
    下巻まで通読することをお勧めしたいです。

  • 正義と不正とは何か。個人にとっての対話から始まるのだが、この2つを明らかにするため話のスコープは国家という最大規模のものまで拡大される。

    5巻まで収録されたこの上巻を読了した時点では、理解しきれなかったり腹落ちできていなかったりする箇所があるというのが正直なところ。
    自分の資質に従い、それのみを行うのが正義とのことだが果たしてそうだろうか。

    一方で、女性の活躍について論理的に展開し主張するなど、プラトン(ソクラテス)の先進性に驚かされることもしばしば。

    500ページ弱のボリュームだが、プラトンの他の著作と同じく大変読みやすい。

  • 大学生のうちに基盤固めを!と思い手に取った『国家』
    10代のうちに読んでおきたかったのでまあまず半分読了できたことに安堵です。
    文章自体は思っていたほど硬くはなくて、けれども対話のひとつひとつを咀嚼しながら読むのはなかなか時間が掛かりました。
    すぐ疲れてしまうし(笑)
    でも先人たちの知恵を少しでも身につけていけたら、と思うので(下)巻も頑張ります。
    ソクラテスの言う国家とは、みんながなにも持ってなくて、つまり全て国家の物、社会主義国家が理想とされているのかな、とおもってしまいますが、もっと勉強すればそうではないのかもしれません。

    いかんせん無学のため、すべてを理解できた自信はさらさらありませんが、もっともっと勉強をしていく中で読み返したり、思い出したりしたい、自分にとって大事な一冊になりました。
    正義とは何か、問い続けていきたいと思います。

  • すぐれた人間による統治(アリストクラティア)が理想。すぐれた人格的な素質と卓越した実践能力の持ち主(哲人)が、経験や感覚の堕落した世界から人々を真理へ導く。感覚の世界に生きる人々は洞窟の中で、灯に照らされて壁に映る影(偽の姿)を見ている。統治する者は、彼ら蒙昧な民を洞窟から連れ出し、まばゆい光、真の姿を教える。すぐれた人間による劣った人間に対する支配であり、強者による弱者の支配ではない。すぐれた男とすぐれた女を交配させ、生まれた子は公営の育児所で育て、すぐれた人間集団を維持する。▼統治する者は私有財産の保有を認められず、生きるのに必要な分だけ報酬が与えられ、民を幸せにするために奉仕する。▼民主政はダメ。平等で好きなように生きる自由が強調され、無秩序になる。民主政治は貧者による政治に陥る。貧者は目先の欲望に囚われ、理性的な判断はできない。ペロポネソス戦争で民主政アテネは王政スパルタに負けた。師匠ソクラテスを処刑したのも民主派の連中だ。プラトンPlato『国家』BC375
    ※アテネ・スパルタがペルシアを撃退BC449。ペリクレスBC443。アテネがスパルタに敗北(ペロポネソス戦争)BC431。衆愚政治。民主派による裁判でソクラテス刑死BC399。プラトン国家BC375。プラトン死去BC347。

    ソクラテスは、アテネの青年をそそのかして伝統的な信仰から離脱させたとして、「毒杯を自分で飲む」の刑に処されることに。友人クリトン「逃亡の準備したから逃げて。あなたは判決が間違っていると主張しているのに、なぜ刑罰を受けるのか」。ソクラテス「裁判は不正だけど、脱獄もまた不正。脱獄は善ではない。不正されても、不正の仕返しをしてはいけない。ただ生きることではなく、善く生きることが大切」。プラトンPlato『ソクラテスの弁明・クリトン』BC399

    ポリス。人々は市民共同体として共通のルールの下で協力する一方で、名誉・名声を得る競争をしている。弁論術で他人を操作したいと望んでいる。しかし、私たちは名誉・名声よりも、魂に配慮すべき。魂は不死で、死後に審判を受ける。プラトンPlato『ゴルギアス』

  • 対話の流れがはやすぎて時々迷子になった。
    興味深かったのが、どんな人にも固有にもつ才能があり、それを見つけ出して国家のために役立てることの重要性を話していた。
    知識という言葉はあくまでもカテゴリーという意味づけで〇〇の知識という使われ方をしていることを再確認した。

  • 意外に読みやすかった。

    ソクラテスの語る理想の国家がディストピアにしか思えない。

  • 古典は難しいんじゃないかという予想を裏切ってかなり分かりやすく論理的に書いてあるし面白かった。女性も適性があるなら男性と同じ仕事をするべきだとか一夫一妻制ではない家族形体とか時代を考えるとかなり新しいことを言っているのは驚きだけど、プラトンの言うよい国家が現代的な意味でのよい国家だとは思わない(特に、民主主義と福祉について)。とにかく下巻は楽しみ。

  • オフィス樋口Booksの記事と重複しています。記事のアドレスは次の通りです。
    http://books-officehiguchi.com/archives/3993292.html

    登場人物はソクラテス、ケパロス、ポレマルコス、トラシュマコス、クレイトポン、グラウコン、アデイマントスである。この登場人物による対話が上巻と下巻で展開されている。

    上巻では正義・国家・哲学者について議論が展開され、下巻では議論が完結されている。この上巻での議論は国家や正義について熱く語られているので、面白いと感じた。私が議論の中で注目しているフレーズなどは後日取り上げたい。

著者プロフィール

山口大学教授
1961年 大阪府生まれ
1991年 京都大学大学院文学研究科博士課程研究指導認定退学
2010年 山口大学講師、助教授を経て現職

主な著訳書
『イリソスのほとり──藤澤令夫先生献呈論文集』(共著、世界思想社)
マーク・L・マックフェラン『ソクラテスの宗教』(共訳、法政大学出版局)
アルビノス他『プラトン哲学入門』(共訳、京都大学学術出版会)

「2018年 『パイドロス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

プラトンの作品

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