国家〈下〉 (岩波文庫 青 601-8)

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  • Amazon.co.jp ・本 (551ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003360187

作品紹介・あらすじ

ソクラテスの口を通じて語られた理想国における哲人統治の主張にひきつづき対話は更に展開する。では、その任に当る哲学者は何を学ぶべきか。この問いに対して善のイデアとそこに至る哲学的認識の在り方があの名高い「太陽」「線分」「洞窟」の比喩によって説かれ、終極のところ正義こそが人間を幸福にするのだと結論される。

感想・レビュー・書評

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  • おととしくらいから、細々と古典に体当たりし続けてきて、思うこと。
    1冊読み終わると、その次の1冊は、まったく違う時代やジャンルの著作であっても、不思議とほんのすこーし楽に読める気がする。
    筋トレしてて、ちょっとずつ腹筋できる回数が増えてくる、みたいな感じかなあ。
    そんなわけで、上下巻合わせて1000頁超えのボリュームにおののきつつ、思い切って挑戦してみたプラトン『国家』です。

    「正義」と「不正」、人に幸福をもたらすのは、果たしてどちらかーーという問いに、ソクラテスとその知人らによる対話、という形式で向き合う本書。
    『国家』という題名から、政治学の発端の書のように思って手にとったけれど、例えば『正義』とか『幸福論』という題名でも成立しそうです。
    この本が書かれたとされるのは紀元前4世紀ごろで、はるか昔のことだけれど、現代の社会だって、いろんなところで「不正」がまかり通ってる。
    それどころか、めちゃくちゃ幅をきかせていることすら、ある。
    だから、ソクラテスたちの問答が自分にとってもすごく切実に感じられて、ソクラテスの口を借りて、プラトンが何を語るか、ドキドキしながらページをめくりました。

    大著すぎて、いったいどの部分について日記を書けばいいのか迷ってしまいますが、やっぱり読み応えがあったのは、有名なイデア論や、洞窟の比喩の部分。
    幼い頃に家にあった『ソフィーの世界』で目にして以来、今まで、何度その紹介や解説を読んでも、いまひとつピンとこなかった思想なのですが、ソクラテスとグラウコンのやりとりの中に身をゆだねていたら、自然と頭に入ってきました。
    何というか……「絶対ムリ!」と思っていたストレッチのポーズがあって、でも、インストラクターの先生の言うとおり、足を広げて、腕を伸ばして、とやっていたら、いつの間にかその体勢がとれてた、みたいな感じ?
    やっぱり、哲学の本を読むのって、体を動かすのと似ている気がする。

    知を愛し、真実に触れることが、人の最も大きな喜びであること。
    人生を生きるに値するものとするために、正義を選ぶ努力をしてこそ、人は幸福になれること。
    「対話」というリズムを通して、プラトンの決意がこちらの身体に染み込んでくるような本でした。

  • 上巻の終盤で放たれた超弩級の思想(哲人統治、イデア論など)に引き続き、下巻も読みどころ満載である。有名な《善のイデア》や《洞窟の比喩》は、下巻の割と早い段階で語られる。下巻の中盤では、国家の諸形態の分析がなされる。名誉支配制国家、寡頭制国家、民主制国家、独裁制国家のそれぞれの特徴を論じたこの部分は、ある意味、最大の読みどころかもしれない。特に、「民主制国家が堕落したらどんな現象がみられるようになるか」「民主制から独裁制への移行はどのようにして達成されるか」を論じた部分は圧巻。下巻の最後は、正義の報酬として有名な《エルの物語》で締めくくられる。ここは哲学というより物語(神話)として興味深い。

    ・《哲人王》による《善のイデア》を希求する政治(≒ユートピア思想)
    ・エリート層による大衆の統制(≒民主主義の否定)
    ・エリート層における私有財産の禁止(≒共産主義)
    ・エリート層における妻女と子供の共有(≒優生学的思想)

    …など、私には容認しがたい極論も多いのだが、「衆愚政治へと堕落した民主主義への批判」や「僭主独裁政治への批判」など、現代人必読の警告と思われる箇所も多い。その主張の是非はともかく、形而上学的にも政治学的にも西洋思想の原点となった著作である。

    • 佐藤史緒さん
      哲人皇帝、個人で憧れるぶんにはアリじゃないでしょうか(笑)。
      歴史的にもマルクス・アウレリウスとか、それに近い人物はいますよね。
      ただ、...
      哲人皇帝、個人で憧れるぶんにはアリじゃないでしょうか(笑)。
      歴史的にもマルクス・アウレリウスとか、それに近い人物はいますよね。
      ただ、システムとしてそれを目指そうとすると大失敗するというのが、現時点での人類の結論のようですね。
      2013/03/05
    • mkt99さん
      そうですね。
      本来のプラトンの「哲人王」は厳しい鍛練から「善」の道へ到達した者だけが任される役割ですが、ある意味牧歌的な発想であり、「独善」...
      そうですね。
      本来のプラトンの「哲人王」は厳しい鍛練から「善」の道へ到達した者だけが任される役割ですが、ある意味牧歌的な発想であり、「独善」にぶれる要素を多分に残しているところから、独裁政治への基礎理論に歪曲化されるところが大きいとみなされていますよね。単純に本来の「哲人王」に支配されたとしても息苦しいことこの上ないですが・・・。(笑)だから、なる方です!(笑)
      久しぶりに「プラトン」や『自省録』を読みたくなりました!
      2013/03/05
    • 佐藤史緒さん
      世の流れ(日本男子オール草食化)に抗う雄々しい志、応援します(笑)!(^ O ^)/
      『自省録』読了済みなんですね。いいなぁ、私はまだなん...
      世の流れ(日本男子オール草食化)に抗う雄々しい志、応援します(笑)!(^ O ^)/
      『自省録』読了済みなんですね。いいなぁ、私はまだなんです。今年中に読みたいと思っていますが、まだ先になりそうです。
      2013/03/06
  • 「洞窟の喩え」の出典でもある「国家」下巻。
    正しいものごとを理解していない人、そしてそういった人々へ真実を伝えることの難しさ、その中でどう振る舞うべきなのか。
    そういった困難を比喩の力で見事に表現しきっている。

    画家、詩人について喩えるくだりで語られる、使う人と作る人、そして真似る人。
    ここでは何にも増して、使う人の考えこそが重要であると語られる。
    これは現代社会においてもUXの重視という形で語られるものであり、普遍的な価値が語られていることの証左でもあろう。

    人物から国家に飛躍し、様々な形態の国家について吟味する。
    そして国家という粒度での議論から、当初の問題であった正義と不正、正義「のようにみえる」ものと正義そのものについて帰着する。

    現代のまなざしでは粗く感じる部分も多分に存在するが、それ以上に現代にも通底する本質が宿っている。
    難解な部分がないといえば嘘になるし、上下巻あわせたボリュームは人を尻込みさせるのに十分だ。
    それでも、手に取る価値のある、いや手に取るべき名著であるのは間違いない。

  • 下巻もサラッと読み終わる。翻訳は読みやすい。しかしきっと原著がまだるっこしい。
    知的探索の方法としてプラトンが対話を選んだことには理解を示しつつ、それが上手く機能しているのか、というと、どうだろう。
    1人に1つの役割、というプラトンの想定では、1人が自分の中で複数の意見を対立させる、ということが考えにくかったのか。
    もしくは、自分の中で対話をするにも、その仮想の対話をシミュレーションするにはいくつかの人格を置く必要があり、自己のなかのそれぞれの立場にソクラテスやそれ以外の名をつけたのだろうか。
    プラトンは実際には1人で本著を書いているわけだから、後者なのだろう。しかし、その前提になるのは前者、1人に1つの役割、という考えがあったのだろう。でなければ、自問自答でもこのように議論を進められるはずだ。

    廣松渉の四肢的構造などを考えると、1人に1つの役割というプラトンの考え方がいかに素朴であるかは言うまでもないことだが、ではやはり完全に無視すべきか、というと、人にとってのアイデンティティは、究極にはやはり1つのものに結実する場合もあるだろう。特に男性はそうなりやすいのではないか。
    女性は、よくいわれるように、女としての自分、母としての自分、妻としての自分と、いくつものペルソナを有することの自覚があると思う。男性は、割と、俺は俺だ、となりやすい。
    これにはなんら裏付けはなく、個人的な感覚的な話だ。もちろん、今の社会では多くの場合、という程度の条件をつけての感覚だが。

    というわけで、プラトンの考える方法が、まさにここで想定する「国家」の基本構造にもなっており、「正義」になっている。

    大きな理想的な構造を個人が描くとそうならざるを得ないが、描かれるものは自然と自分の精神構造の相似形になる。

    ホワイトヘッドが、「西洋哲学はすべてプラトンの注釈に過ぎない」というときには、(原文読んだことはない。引用で知ってるのみ。そのうち読む。)そういう、プラトンという1人の人間の相似形である構造が、そのまま1人の人間と人類一般との(西洋の)精神構造の相似形ともなるので、然るべくしてその注釈という形を持たざるを得なくなるのであろう。

    逸れたが、本著でプラトンの言おうとしていることを把握するのは、この対話構造によって少しわかりにくくなる。対話のために必要な不要な文章が出てくるからだ。もちろん、それを不要とするかどうかは受取手の精神構造に由来するのであって、プラトンにしっかりそれを重ねることができる人には、必要なものなのだろう、が、僕はせっかちなのだ。「、、、っていう論理が成り立つと思うけど、どう?違う?」「いえ、まさしくその通りです」みたいなのは邪魔くさい。今日的合理主義なのだろうか、もう少し数論的に幾何学的に整えたくなる。でも、それがプラトンの論理方法なのだ。

    で、それを気持ちよく整理してくれてるのがこの岩波文庫の解説等だ。すごくよくできてる。何が書いてあったのか、をまとめるには素晴らしい出来だと思う。
    構造化してくれる。
    まだるっこしかった気持ちをすっきり整理してくれた。

    さて、次は、ティマイオスにいこうと思う。ティマイオスの始めが国家の一部要約のようなところから始まるのもいい。
    プラトンを知るには国家は最適な主著のようだが、プラトンの与えた影響、新プラトン主義をみるには、国家よりもティマイオスなのだろう。哲学史で勉強する限りにおいては新プラトン主義のどの辺りが新プラトンなのかよくわからかかったけども、ティマイオスがそこをつないでくれると思ってる。

  • グラウコンが居てくれて良かった。
    アデイマントスにもありがとう。

  • 現代にも通用する政治思想のエッセンスに加え、価値の原理のルーツともいえる「善のイデア」に関して解説した壮大なる古典。これが2400年前に書かれたという驚愕の名著。

  • ソクラテス先生「正義」の話をしようの巻

    「国家」という邦題が付けられているが、
    最後まで読めば解説に書かれている通り
    「正義」がこの本のメインテーマで有り、
    国家論に関しては、その一部だと分かる。

    多くの人が指摘しているが、洞窟の比喩や
    国家論の「民主制から独裁制が生まれる」
    という指摘は現代人も舌を巻く観察眼である。

    最後のエルの物語はプラトンの師への想いが感じられ、
    輪廻転生の概念がギリシアにも存在することが分かって興味深かった。

  • 最悪の民主主義により、我が国の命は風前の灯となっている。今こそプラトンの声に耳を傾けるとき

  • 難読の末なんとか読了。
    自分には難解だったが、2000年以上前も人間って全然変わってないよねぇ〜ということはわかりました。
    今の政治状況にもあてはまる言及がしばし見かけられましたわ。
    疲れた!

  • 真理の探求から得られる快楽こそが至上でありそれは恋愛や名誉から得られるものと比べ物にならず、従って理性が欲望を飼い慣らさなければならない、といった主旨のことが書いてあり勉強の励みになりました。

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著者プロフィール

山口大学教授
1961年 大阪府生まれ
1991年 京都大学大学院文学研究科博士課程研究指導認定退学
2010年 山口大学講師、助教授を経て現職

主な著訳書
『イリソスのほとり──藤澤令夫先生献呈論文集』(共著、世界思想社)
マーク・L・マックフェラン『ソクラテスの宗教』(共訳、法政大学出版局)
アルビノス他『プラトン哲学入門』(共訳、京都大学学術出版会)

「2018年 『パイドロス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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