エピクテトス 人生談義 (下) (岩波文庫 青 608-2)

著者 :
  • 岩波書店
3.50
  • (0)
  • (3)
  • (3)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 96
感想 : 2
  • Amazon.co.jp ・本 (504ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003360842

作品紹介・あらすじ

「もし君が自分のものでないものを望むならば、君自身のものを失うことになる」。ローマ帝国に生きた奴隷出身の哲人エピクテトスは、精神の自由を求め、何ものにも動じない強い生き方を貫いた。幸福の条件を真摯にさぐるストア派哲学者の姿が、弟子による筆録から浮かび上がる。下巻は『語録』第三・四巻、『要録』等を収録。(全二冊)

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  •  エピクテトス(50?-135?)自身が著した本ではなく、アリアノスが師から聴いた講話を出来るだけその話し方そのままに再現した形で記録した『語録』、それを簡潔にまとめた『要録』、種々の筆者によりエピクテトスに言及した断章を幾らか集めた『断片』を収めたもの。岩波文庫上下巻の大半は『語録』が占めており、あとの2編は分量はごく少なく、下巻の後半に載っている。
     昨2020年に岩波文庫から出た「新訳」版なのだが、『語録』はどうも読みにくかった。平明な言葉を話しているのに、文と文の相互関係が意想外に乱れており、現代日本語としてはちょっと分かりにくすぎる。思うに、「分かりやすくなるよう」に括弧[ ]などでもっとたくさん接続詞等を補ってやるべきではなかったか?
     しかもこの『語録』、数ページから成る短いエピソードが大量に入っているのだが、何も考えずに配列したようなデタラメさで、このアリアノスという人の無才無芸が際立っている。そもそも、速記が出来たとも思えぬし、本当にエピクテトスがこう語ったのだというのも疑わしい。むしろ『要録』の方が簡潔な文章になっているので理解しやすい。
     いずれにしても、本書を読んでエピクテトスにおいて語られたストア派の教義を知ることは出来る。世界の真理をくまなく調べていこうとするようなアリストテレス的知とは異なって、ここでは「自分の心をいかに陶冶するか」という人生論的な方針に哲学知は限定される。

    「次のことを心に留めておくがいい。君を辱めているのは、罵ったり殴ったりしている人ではなく、彼らが辱めているという思いなのだ。だから、だれかが君を怒らせたなら、君の考えが君を怒らせたのだということを知るがよい。だから、まず第一に心像によって心を奪われないように心がけよ。・・・(後略)」(『要録』二〇 下巻P373)

     このような自己陶冶のテクネ—は、現在の日本人にとってもある意味では参考になるのかもしれない。ストレスだらけの社会生活を孤独にさすらう、寄る辺もない現代人がすがりつくものを求め、安直な自己啓発本や、怪しげなカルト宗教や、アドラーなんていう二流の心理学者の「ことば」に飛びついたりするのも、まあ気持ちは分かるとして、エピクテトスの本書も、そういった需要に応えうるところがあるだろう(しかし分かりにくい日本語訳が問題だが)。
     誰かに何かをされたり、「自分の力の及ばないこと」に対しては「自分には関係ない」と捨象し、代わりに心の平静さを保つための自己鍛錬に専心する。こうして限定された「自己」こそが本当の「自由」であり、宇宙の自然本性にかなった知や生き方を約束するものである。
     このようなスタンスは、何かと心乱される日常生活において確かに心がけた方がよいのかもしれないという気はする。しかし、そんな有用性よりも、この時代のストア派の知の権力において、「自己への配慮」が全力で推進されたという、ミシェル・フーコーの系譜学的考察を参照するのが面白い。
     フーコー『性の歴史Ⅲ 自己への配慮』には、マルクス・アウレリウスの「自身の外をさまようこと」を止め「自分自身を支援せよ」と自らに呼びかけるような思考へとつながる言説として、「この主題についての最高の哲学的琢磨が表れるのは、多分エピクテトスにおいてだろう」という指摘がある(田村俶訳 新潮社、P.65)。
     フーコーと共に、古代の思想をメタ的に辿り直し、そして現在、消費財としての「自己啓発」ベクトルのテクネ—が人々の間で濫費される状況を顧みてみる、というプロセスに魅力を感じている。

  • 「語録」の続きと「断片」「要録」を収録。

    断片は色々な書物のエピクテトスの言葉を集めていて、
    「要録」は弟子のアリアノスが分かりやすくまとめた本。
    断片にはアントニヌス帝の「自省録」からの引用もある。

    やはり意志をコントロールし外物に動かされない
    ということを繰り返し言葉を変えて説いている。

全2件中 1 - 2件を表示

著者プロフィール

1952年生まれ、大阪在住。専門は古代ギリシア哲学。京都大学大学院文学研究科博士課程修了、文学博士(京都大学)。主な著訳書に『プラトンのミュートス』(京都大学学術出版会)、『ギリシア・ローマの智恵』(未知谷)、『プラトンを学ぶ人のために』(共著、世界思想社)、『新プラトン主義を学ぶ人のために』(共著、世界思想社)、『哲学の歴史2』(共著、中央公論新社)、『エピクテトス』(鹿野治助訳、解説、中央公論新社)など。『アリストテレス全集19』(共訳、岩波書店)、『ソクラテス以前哲学者断片集I~III』(共訳、岩波書店)、『プラトン哲学入門』(共訳、西洋古典叢書、京都大学学術出版会)など。論文は「コスモポリタニズムの起源」(『西洋古典学研究』LVII、岩波書店)など。

「2019年 『ストア派の哲人たち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

國方栄二の作品

ツイートする
×