エチカ―倫理学 (上) (岩波文庫)

  • 岩波書店
3.71
  • (39)
  • (23)
  • (74)
  • (1)
  • (1)
本棚登録 : 1000
感想 : 40
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (295ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003361542

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  •  これまで敬して遠ざけてきた「エチカ」、ついに読了。聞きしに勝るとてつもない書物だった。読了に要した約2週間、行きつ戻りつしながら何度同じ定理を読み返しただろう。その都度初めて読むような新鮮さを覚えることの高揚感と、自らの理解の程を疑う不安感に同時に襲われ、ページを手繰る手が止まらない。若い頃に途中で放り出した自分は一体何を考えていたのだろう、と思えるほど刺激に満ちた読書体験だった。

     最も感銘を受けたのはまず何よりもこの本の構造だ。第二部定理40に人間の三種類の認識が出てくるが、このうちの第二種の認識である「理性知」こそが人間が推論の基礎として用いる「共通概念=公理」に基づくものであり、これは「神」の認識と矛盾せず適切であるとされている。一方、スピノザが「エチカ」で試みたのはこの世界に必然性を付与している唯一の実体、すなわち神を起点とした公理系の構築だ。つまり「エチカ」は求めるべき理念を方法論自体が自ら体現している、つまり証明しようとする主体と証明される客体が同一である「閉じた循環構造」となっているのだ。その構造は歴とした意味があって採用されているのであり、決してユークリッド「原論」の上っ面をなぞっただけなのではない。理論を実践することの意義が強調されているのだ。
     無論、この方法論だけでは三番目の認識である「直観知」、すなわち神の本質が個物に本質を付与した必然性、を理解するには至らない。おそらくはこの「エチカ」が示すのは方法論にとどまるのであって、直観知に至る実践は読者の手に委ねられているということなのだろう。この意味でも、僕は「エチカ」が「理論と実践の書」であるという思いを強くした。
     よく「頭から読もうとしてはいけない」と言われる本書だが、より具体的な記述が多く取っ付き易い第三部以降から読んでしまうと、却って上記の構造が判りにくくなると思う。いきなり実践に近いところから読むのでは、なぜスピノザが定義や公理を重視しているのか、何を意図してこういう構造を採用しているのかが判りにくくなるのだ。いきなり多元方程式の解の公式を頭に叩き込んでも、自分が幾何学の本質を実践に移しているとは実感できないだろう。

     その意味で、「エチカ」で最も重要で刺激に満ちているのはこの上巻に収録されている第一部、第二部だと思う。スコラ哲学独特の語彙が頻出し読みづらいが、訳が古い割には巻末の訳者注がかなり親切であり、丁寧に参照すれば僕のような門外漢でも全く手に負えないということはない。特に、神の観念により構築された因果律のネットワークと、身体変化を通じて観念を把握する人間精神の関係を論じた第二部前半はかなりの読み応え。余白に何度もベン図を書いて整理しようとしたが、読むたびに印象が変わり冒頭のようにどこまで理解しているのか不安になる。しかしそれが本当に楽しいのだ。
    (下巻へ)

  • なんとなく気になってたスピノザさんが読めた。いろんな謎が解けて、元気が出たっ!でも、ドゥルーズさんのスピノザ読んでなかったら難しすぎただろうな。本には読む順番ってあるな。

  • エチカは、一言で言えば、人間の自由について述べている本だ。どうすれば、人が自由になれるのか?を難しい言葉を使いながら説明している。

    スピノザの言う自由とは、自分自身の必然性である本性に従って生きることであるという。

    自由という言葉には、必然性という縛りの言葉を似つかないような感じもするが、この矛盾があるようで実はない論理がとても面白い。

    文書自体は非常に読みにくく、何度も読まないと全くわからない。まして、解説書なしに読みだすと途中で投げ出すことは見えている。

    実際、今回自分で読んだ時も下巻は読みきったが、上巻は読み切れていない。というか、断念した。

    また興味が湧いた時に読めばよいと思って、机の横に置く決心をしたのだ。

    読めたら達成感はあるんだろうなと思いつつ、この難しい文体を解読するのは体力が必ずいるだろう。

  • アインシュタインがスピノザの神を信じると言ったとか。汎神論は梵我一如のようなものと勝手に捉えた。スピノザの話しの展開の仕方で全能の逆説を思い出したが、それは野暮と言うものだろう。
    ---
    第一に神は唯一であること、言い換えれば自然のうちには一つの実体しかなく、そしてそれは絶対に無限なものであることになる。

  • まずは上巻。第一部から第三部まで、それぞれ神、精神、感情を議論する。
    いくつかの定義と公理を提示されたあとは、定義と公理から導かれる定理とその証明がひたすら繰り返される。
    定理n xxxx、証明……Q.E.D。という形が延々と続いて最初は面食らうし読みづらいけど、慣れてくると議論が明解でわかりやすい。
    倫理の問題にまで至ってはいないものの、スピノザの思想の特徴である汎神論と決定論は上巻ですでに提示されている。ここからいかに倫理が立ち現れていくのかは下巻第4部第5部のお楽しみ。

  • オランダの哲学者、神学者スピノザ(1632-1677)の著。1677年刊。この世の事物事象はすべて唯一絶対の存在必然的な神に全く依存している、換言すれば、すべては神の表れ(神即自然)であるという全く一元論的な汎神論と、それに伴う人間の神への完全依存による自由意志の否定という決定論が展開されるスピノザ晩年の著。デカルトの研究者でもあった彼のこの著書は演繹的論述法により展開される。ただしスピノザは「世間一般の哲学は被造物から始め、デカルトは精神から始めた。しかし私は神から始める。」と述べ、デカルトを含むそれ以前の思弁法を排撃した。

  • 21
    開始:2023/9/5
    終了:2023/9/26

    感想
    幾何学的に整理される人間の精神。汎神論的だがそこに含まれているものは単なる前代の踏襲ではない。取締りの憂目に遭うのも納得。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/706522

  • 俺には少し早かったかもしれん…

  • 難解!目が文字を撫でただけになってしまった。この本が悪いんじゃない。私の理解力の問題。

全40件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1632年11月24日オランダ、アムステルダムのユダヤ人居住区で商人の家に生まれる。両親の家系はイベリア半島でキリスト教へ改宗したユダヤ人(マラーノと呼ばれる)で、オランダに移住し、ユダヤ教の信仰生活を回復していた。ヘブライ語名バルッフ(Baruch)、ポルトガル語名ベント(Bento)、のちにラテン語名ベネディクトゥス(Benedictus)を用いた。ユダヤ教会内で早くから俊才として注目されたとも伝えられるが、1656年7月27日、23歳のときに破門を受ける。友人・弟子のサークルとつながりを保ちながら、ライデン近郊ラインスブルフ、ハーグ近郊フォールブルフを経て、ハーグに移る。1677年2月21日ハーグで歿す。同年、「エチカ」を含む『遺稿集』が刊行される。他の著作は「デカルトの哲学原理」、「神学・政治論」、「知性改善論」(未完)、「政治論」(未完)、「神、人間とそのさいわいについての短論文」、往復書簡集ほか。

「2018年 『スピノザ エチカ抄 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

スピノザの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×