エチカ―倫理学 (下) (岩波文庫)

  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (180ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003361559

感想・レビュー・書評

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  • (上巻より)
     「神と人間」についての観念的な議論が中心だった上巻に比べ、下巻では「倫理」や「永遠の愛」といった実践的なテーマが中心。しかし当然これらは上巻の議論を下敷きにしているので、下巻を読みながらも何度も上巻に立ち戻り確認しながら読み進めることとなる。

     第四部の冒頭でスピノザは、人間がなぜ善より悪に従うのか、そもそも何が善で何が悪なのかを明らかにする、という。上巻で触れた本書の構造の独特さの次に印象深かった点として、この「善/悪」の定義に見られる「構成的」な視点を挙げたい。第三部定理9備考にあるように、「善/悪」はそれ自体善/悪だからでなく我々が欲するものが善/悪なのだという転倒なのだが、これ以外にそもそも本書の公理系の中心に位置する「神」からして構成的である。「神」が神なのは、そのような神がどこかにいるからではなく、他に依るべき処なく自立し、原因もないままに存在するそのような実体を後から我々が想定し「神」と名付けたからだ。スピノザはこの構成のみを抽出して「神」として本書に頻出させているのだが、この神に人格的な色彩が殆ど感じられないのも当然だろう。
     また、定理37備考1にあるように、人間が生まれながらにもつ「自然権」が感情に支配されてしまいホッブス的な競争状態を生むため、「国家状態」による法・刑罰で規制すべし、としているのも興味深い。善悪の構成が生じない自然状態というのは例外的であり、構成員の同意に基づく善悪の構成を伴う国家状態こそが常態なのだというリアリズム。これが第五部末尾に現れる「すべて高貴なものは稀であり困難である」というややペシミスティックな認識につながっているのではないだろうか。
     
     第五部の議論は、その感情に受動的に突き動かされ善より悪を志向してしまう人間をどのように導くかというもの。神の観念に伴う必然性に事物の永遠を読み取り、その永遠の相のもとに事物を観念するという実践知が展開されるが、ここの深い理解にはスピノザの他の著述も参照する必要があると思われた。

     上下巻通じての読後の印象は、とにかく本書は一度や二度読んだだけで済ませられるような代物ではなく、今後も何度も読み返す機会が生じ、その読み返しの過程もかなり楽しいものになるだろうという予感。それにしてもよくもこのような著作が世の中に生まれたものだと思う。

  • 下巻読了。汎神論・決定論からの感情のあり方に関する上巻の議論を受け継いで、下巻では倫理がどう立ち現れるかが考察される。理性の力によって受動的な感情を抑制できる人が、自由人として生きることができる、と。
    やはり難解でよくわからない部分も多い(というより大半はわからない)が、スピノザ以前以後の議論との繋がりがよく見えたのはとても面白かった。例えば、デカルトを強く意識した議論が展開されているので、相互の対比で両者を理解することができる。
    こういう繋がりをもっと勉強したらさらに面白くなるんだろうが、ぜんぜん知識が足らん。

  • 22
    開始:2023/9/27
    終了:2023/10/2

    感想
    自由とは何か。自分の徳から発生する行動を遂行することができる人は自由であり幸福である。我慢と苦労が待ち受けていても必ず幸福は訪れる。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/706523

  • 主知主義的な哲学の世界では「神」はたいてい究極的原因として引き合いに出される。スピノザも神を根本原因とするのだが、汎神論の特異な点は、神を超越的原因ではなく内在的原因として規定するところにある。これは循環とも思えるが、それは我々が差異の世界に生きているからだろう。神は一にして全なのだから、スピノザの言い分はむしろ合理的である。スピノザの方法に従って把握された神は世界の製作者ではなく世界そのものであり、自由意志さえ持たない。神の様態にすぎない我々にも、当然自由意志は与えられていない。
    神は自己原因に従い様々な変状を呈する。これが世界の動きにほかならない。人間が自由意志に基づき行動しているなどと考えるのは、投げ飛ばされた石ころが自分の意志で飛んでいると思うようなものだ。しかし、理性はこの不自由性を認識することができる。そこに初めて倫理性と自由の萌芽が可能となるのだ。スピノザ哲学は、ヒュームやルソー以上にカント的問題を考える手がかりを我々に与えてくれるかもしれない。

  • さすがにスッキリとはいかなかった。解説も含め、何度も読まないと。

  • 前巻からの続き

  • 難解な本であった。理解不足を置いといて、すべては神の中にあり、良い、悪いは物事の組み合わせであり、その真理にたどり着こうとするならば、人は経験しか実感できないものである。ということなのか…?ということがおぼろげにわかった。

  • せっかく読み返してたのに、バイクの二人乗りからひったくられた!(^^ゞ古い版だけど買いなおした。まっいいか!

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著者プロフィール

1632年11月24日オランダ、アムステルダムのユダヤ人居住区で商人の家に生まれる。両親の家系はイベリア半島でキリスト教へ改宗したユダヤ人(マラーノと呼ばれる)で、オランダに移住し、ユダヤ教の信仰生活を回復していた。ヘブライ語名バルッフ(Baruch)、ポルトガル語名ベント(Bento)、のちにラテン語名ベネディクトゥス(Benedictus)を用いた。ユダヤ教会内で早くから俊才として注目されたとも伝えられるが、1656年7月27日、23歳のときに破門を受ける。友人・弟子のサークルとつながりを保ちながら、ライデン近郊ラインスブルフ、ハーグ近郊フォールブルフを経て、ハーグに移る。1677年2月21日ハーグで歿す。同年、「エチカ」を含む『遺稿集』が刊行される。他の著作は「デカルトの哲学原理」、「神学・政治論」、「知性改善論」(未完)、「政治論」(未完)、「神、人間とそのさいわいについての短論文」、往復書簡集ほか。

「2018年 『スピノザ エチカ抄 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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