エミール 上 (岩波文庫)

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感想 : 70
  • Amazon.co.jp ・本 (405ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003362211

作品紹介・あらすじ

「万物をつくる者の手をはなれるときすべてはよいものであるが、人間の手にうつるとすべてが悪くなる」という冒頭の言葉が示すように、ルソー(1712‐78)一流の自然礼讃、人為排斥の哲学を教育論として展開した書。ある教師がエミールという一人の平凡な人間を、誕生から結婚まで、自然という偉大な教師の指示に従って、いかに導いてゆくかを小説の形式で述べてゆく。

感想・レビュー・書評

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  • おそらく誰もが一度は名前を聞いたことのある、フランスの思想家・哲学者ジャン=ジャック・ルソー(1712年~1778年)。彼の『社会契約論』のほかに、学生時代にふれる思想家ジョン・ロックやトマス・ホッブスといった言葉だけが、試験用の脳内暗記箱に雑然と放り込まれ、はや数十年……すっかり色あせてしまった。

    いまさら……と思いながら積読していた『エミール』を読み始めてみると、おやおや意外にオモシロい(ルソーさん、失礼)。無味乾燥なルソーという人物に鮮やかな色が宿る。その時代、その土地に生きた筆者の人となりを身近に感じることができる楽しみ、臨場感、ときにはヒリヒリとした磁場のような時空間が目の前にひらいたとき、自分の浅薄な先入観や登場人物への無意味な無い物ねだりは脇に置いて、すかさず飛び込んでみる。これぞまさに読書の醍醐味、ひそかな悦楽……。

    ***
    「人間はよい者として生まれているが、社会は人間を堕落させる」
    一人の家庭教師が、新生児エミールを自然豊かな田舎で養育する。自然人に成長していくまで見守っていく小説仕立ての思想書・哲学書。

    ちまたでは教育書と紹介されることも多いので、いきおい読者層を狭め、損をしてきた本ではないだろうか(私も実際に読むまでそう思い込んでいた)。いやいや、とてもそれだけのカテゴリーに収まるものではない。哲学、心理学、社会学、自然科学、宗教学、政治学、文学……ひどく器量の大きなもので、このどれかに興味のある誰もが楽しめる。後半では、ソフィーという気の強い――でもテレマコス(オディッセウスの息子)に首ったけの夢みる――少女も登場して、エミールをきりきり舞いさせるから可笑しい。

    「……社会秩序のもとでは、すべての地位ははっきりと決められ、人はみなその地位のために教育されなければならない。その地位にむくようにつくられた個人は、その地位を離れると、もうなんの役にも立たない人間になる。教育はその人の運命が両親の地位と一致しているかぎりにおいてのみ有効なものとなる」

    王政下の厳格な階級社会、教会の権威、専門集団の狭い部分社会・ギルド的閉鎖空間や社会的慣習に縛られた人間、自由や価値観の多様化を認めようとしない社会秩序への痛烈な批判は、ひどく厳しくも美しい。つまるところ、ルソーの文体は簡にして要を得ている。論理の流れは重厚なのに羽のように軽い。ときおりみせる比ゆは洗練され、ふとモンテーニュの『エセー』を彷彿させる。解説によれば、なるほどルソーはモンテーニュとプルタルコスをとても敬愛していたらしい。

    「……自然の秩序のもとでは、人間はみな平等であって、その共通の天職は人間であることだ。だからそのために十分に教育された人は、人間に関係のあることならできないはずがない……両親の身分にふさわしいことをするまえに、人間としての生活をするように自然は命じている。生きること、それが私の生徒に教えてたいと思っている職業だ」

    生きるとはどういうことなのか? 
    己の内面を見つめながら、その命題を突きつめようともがくルソー。誕生後に母と死にわかれ、幼少にして父と別れ、正規の教育をうけないまま放浪の日々。苦労人ながら、独学で思想・哲学をものした。デカルト的な懐疑から認識論、唯物論や無神論へと流れる不条理を批判、理性ではなく直接的な感情による自然の光景と人間の内部に神を認めようとする。その必然として、教会権威を否定していくと、案の定、本書は禁書となり、逮捕状まで発せられた。1762年、彼はフランスを去り、スイスへ逃避する数奇な運命。
    おそらく100年ほど生まれるのが早すぎたのかもしれない……でも彼の思想がなければ、ほどなく迎える自由と平等を希求した民衆蜂起(1789年フランス革命)はなかっただろう。

    そんなルソーの考える幸福は苦しまないこと。それは健康、自由、必要なものから成り立っているという。ふとまわりを見わたせば、香港では人権のなかでもっとも重要な表現の自由の封殺、米国では醜い人種差別、さらにロヒンギャや少数民族への迫害……同じ過ちを繰り返す為政者、自由と平等を使いこなせない現代社会にも当てはまりそうな、ある種の幸福論ともいえる。

    さて、家庭教師とともに幼いエミールを育てる私だが、いつのまにか私がエミールになっていたりする。いつでも生まれ変わることができる分身/アバターのようで新鮮だ。あるいはエミールは、薄幸だった少年ルソーの憧れのアバターなのかもしれないな…ということで、上巻だけでは備忘録になりそうもないので、続きは中・下巻へ(2020/6/7)。

    「私たちは、いわば、二回生まれる。
    一回目は存在するために、二回目は生きるために」

  • 「エミール(上)」ルソー著・今野一雄訳、岩波文庫、1962.05.16
    405p ¥400 (2021.01.24読了)(2021.01.16拝借)(1973.11.20/19刷)

    【目次】
    解説 ―ある読者のために―  1962年春、訳者

    第一編
    第二編
    第三編
    原注
    訳注

    ☆関連図書(既読)
    「社会契約論」ルソー著・桑原武夫訳、岩波文庫、1954.12.25
    「孤独な散歩者の夢想」ルソー著・今野一雄訳、ワイド版岩波文庫、1991.01.24
    「ルソー『エミール』」西研著、NHK出版、2016.06.01
    「読書の学校・ルソー『社会契約論』」苫野一徳著、NHK出版、2020.12.30
    (「BOOK」データベースより)amazon
    「万物をつくる者の手をはなれるときすべてはよいものであるが、人間の手にうつるとすべてが悪くなる」という冒頭の言葉が示すように、ルソー(1712‐78)一流の自然礼讃、人為排斥の哲学を教育論として展開した書。ある教師がエミールという一人の平凡な人間を、誕生から結婚まで、自然という偉大な教師の指示に従って、いかに導いてゆくかを小説の形式で述べてゆく。

  • 『社会契約論』とほぼ同時に出版された『エミール』のうち、第一篇から第三編までを収録する。「自然人」の教育こそが主題だが、それはまったくの無為を意味するわけではない。のちにヘーゲルが、「自然法」という言葉の二義性に着目して述べたように、ここでの「自然」はむしろ人間の「本質」を意味し、それを、社会から隔絶された人工的環境を作り出すことによって実現しようとする。したがって、『エミール』は完全な作為の立場に立っている。そうした本来的な人間を作り出すための予備段階として、まず感覚からある程度の推論=判断能力を育てることが、第一篇から第三編までの主題である。

  • <閲覧スタッフより>
    著者ルソーが最も重要としたのは“自然のままに育てる”こと。ある教師が「エミール」という平凡な人物を、自然という偉大な存在の指示のもと誕生から結婚まで導いてゆく様子を小説形式で描いたもの。
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    所在番号:文庫||135.4||ルシ
    資料番号:10101372
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  •  教育に関心のある全ての人に薦めたい古典です。エミールという架空の人間を0歳から25歳まで教育するという内容で、ルソーの思想に基づいた教育論が展開されています。訳者の今野は、本書について次のように述べています。「……たまたまひまがあったら、どこかページをくってのぞいてみてください。つまらなかったら、ほかのページをひらいてみてください。どこかにあなたの参考になるようなことが書いてあるかもしれません」(p.3)。分量が多く、また文意のとりづらいところも多くあります。しかし、あるルソー研究者が言うように、「途中で読むのを止めてしまっても悪く思うことはなく、あなたの経験が深まった後にまた手にとればよい」、そんな本です。
     私の好きなルソーの言葉は、「もっとも長生きした人とは、もっとも多くの歳月を生きた人ではなく、もっともよく人生を体験した人だ」(p.33)です。ページをめくるたびにルソーの印象的な言葉が表れる、教育学の名著です。
    (2013 ラーニング・アドバイザー/教育 MATSUBARA)

    ▼筑波大学附属図書館の所蔵情報はこちら
    http://www.tulips.tsukuba.ac.jp/mylimedio/search/book.do?target=local&bibid=315894&lang=ja&charset=utf8
    改訂版:http://www.tulips.tsukuba.ac.jp/mylimedio/search/book.do?target=local&bibid=1426477&lang=ja&charset=utf8

  • 教師のための教育ではなく、子供のための教育にならねば。

  • 2004/08/21読了

  • 「サヴォア助人司祭の告白」のあたりで挫折してそのままほったらかしてる。5巻ちゃんと読まんといかんのだよな。でもこれを「小説風」とは言わないと思う。

  • 子供を育てるとしたらこうすべきだった、ということを、エミールという子供の家庭教師になって本書の中で実現しようとした。

    教育は自然人と社会人を育てるためと述べており、これは苫野一徳の自由と自由の相互承認と共通すると言える。今の学習指導要領や経産省の示す未来の学校、ピサ型学力で付けようとする力は、社会人、つまり市民教育に偏っていると感じる。

    幼少期は身体的な発達が大事であり、少年期は自然人となるようにすること、思春期青年期は社会人になるよう教育すると述べる。

  • 教育とは何かついて考えさせられた。

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