生命とは何か: 物理的にみた生細胞 (岩波文庫 青 946-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (220ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003394618

作品紹介・あらすじ

量子力学を創造し、原子物理学の基礎をつくった著者が追究した生命の本質-分子生物学の生みの親となった20世紀の名著。生物の現象ことに遺伝のしくみと染色体行動における物質の構造と法則を物理学と化学で説明し、生物におけるその意義を究明する。負のエントロピー論など今も熱い議論の渦中にある科学者の本懐を示す古典。

感想・レビュー・書評

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  • 私の体は自然法則に従って、1つの純粋な機械じかけとして働きを営んでいる。にもかかわらず、私は私がその運動の支配者であり、その運動の結果を予見し、その結果が生命に関わる重大なものである場合には、その全責任を感ずると同時に全責任を負っている。つまり私であると感じた意識的な心は、原子の運動を自然法則に従って制御する人間である。

    そして、思考のために起こる事象が少なくとも高い精度で厳密な物理的法則に従うべきことを意味する。思考器官と外界との間に起こる相互作用を成り立たせるための物理的秩序性を持っていなければならない。

    小難しい文章だが、物理学者が生命、とりわけ意識を持つ生命を表現するとこうなる。つまり、思考すらも、物理的な秩序に基づき行われるもの。それはよく分かる。脳機能の欠損により思考や認知が不可能になれば、それは秩序を保てているとは言えない。故に、脳死のような概念が可能となるのだろう。

    私たちが思考と呼ぶところのものは、それ自身秩序正しいものであること。ある一定程度の秩序正しさを備えた知覚あるいは経験のみを対象としそのような素材にのみ適用されること。

    生命とは何か。そこから哲学を排し、擬人化や感情移入を排し、単に生理学、生物学、物理学でアプローチする時、あまりにも人間はシンプルであり、日常は、社会性を複雑に考え過ぎている事に気づくのかも知れない。

  • まずはエピローグを読んでみましょう。すると、シュレーディンガーが「「私」とは何か」というある種の心身問題に興味を持っていることがわかります。その上で全体を眺めるのが良いと思います。
    さて、シュレーディンガーといえば、量子力学でおなじみの名前ですが、本書はーー一般向けの講演形式で展開されていますがーー当時は生命科学におけるバイブルとして多くの人に読まれたそうです。そして、これで勉強した人々がまた、新しい成果を次々と生み出した礎となりました。
    量子力学というバックグラウンドから生命を論じるところには難しさがあります。そもそも、こういった歴史的な科学の大著を読むときは今の私達なら高校生でも知っていることがまだ分かっていないということもあるのですから、それを織り込んだ上で読まないといけないので、難しいのです。したがって、はじめに述べたように著者の「世界に対する見方」てあるところのエピローグをしっかり読むのが面白いと思います。科学者は自然法則を明らかにするのが仕事ですが、それでは、人間とは機械仕掛けなのか?という問を必然的に生み出します。その問題は現代においてもまだまだ研究されているとしても、このエピローグではそれに対して弁証法的なアプローチを考えている様子が伺え、個人的にはその人柄や、量子力学というバックグラウンドなども垣間見え、好感が持てました。

  • 今回は、まず「あとがき」についてふれねばなるまい。
    「このひと(訳者)いったい何を言いだすの!?」と驚愕。目を疑う思いがしたのだ。いろんな読書をしていると、ときどき、こういう奇抜なものに出会うのが面白い。

    この文庫の巻末には「あとがき」的なものが複数あり、<21世紀前半の読者にとっての本書の意義>(訳者:鎮目恭夫 記)もそのひとつ。
    この内容、少々きてれつ。暴走気味では? との印象すら抱いた。
    なぜか、性愛や「オルガスム」の境地について語り始めるのだが、本編の内容との連関はよくわからない。
    〝自分(訳者)は25歳当時まだ童貞だった〟などの赤裸々な記述まであり、困惑する。
    さらには、「エントロピー」にも触れるのだが、ここで福岡伸一の書を通俗科学書とけなし、エントロピーの記述に誤解ありと批判する。私の理解では、福岡氏の記述に誤りはなく、逆に、訳者:鎮目氏が、「ノイズ」の意味を曲解しているように思われる。
     この〝あとがき〟<21世紀前半の読者にとっての本書の意義>は、「奇書」ならぬ「奇章」の感を抱かせる。岩波文庫の中でも特筆すべき奇妙な内容に感じた。
     訳者の鎮目恭夫氏、いったい何者?

    * * * * * 
    さて、以下、本編について。
    ノーベル物理学賞受賞のシュレーディンガーが、専門外である生物学に関して著した書。
    1944年刊なので、少々古い。ワトソンとクリックがDNAの二重らせんについて発表する1953年より前である。
    岩波文庫所収の古典で、文学系は素直にそのまま古典として読めばいいのだが、自然科学系の「古典」は、読み方に注意が必要だ。それは、記載された内容が当時の段階のもので、最新のものではないからである。本書も、分子生物学の最新の発見や知見が書かれているわけではない。この点、読み方に戸惑う。
    用語や概念も、1944年時点でシュレーディンガーがつむいだ、当時の語である。彼は、生命をになっているのは「非周期性結晶」であると説く。この「非周期性結晶」の用語は、いわば暫定的な言葉のようで、現今では使われていないと思う。この用語・概念にあたるものは現在、より具体的に明らかになり、デオキシリボ核酸とされている。かような次第である。
     本書は、科学史上の価値において評価されているようである。分子生物学の黎明期に、物理学者の視点で、生命とは何か、を追究する研究のありようを導いたことである。
    ただ、それでもなお、以下の諸点は、生命や遺伝に関して、なるほど、と思わせるものであった。
    ・生命組織や染色体が、容易に遷移・変化しない「強さ」、その理由は、物理的なしきい値にあること。「W」の文字で示されるグラフで図示されるのだが(左から右へ遷移する際)いったん、真中の突出部の「しきい」を経ずにはもうひとつのかたちに移行変化しない。また、その「しきい」に至るのは莫大なエネルギーを要する、という。こうした説明で、生命組織(細胞)や染色体の安定性、が説明される。
    ・近親交配がなぜよろしくないのか、その理由を、初めてよく理解できた。劣性遺伝子は、高い確率でその子の世代に受け継がれる。すると、劣性遺伝子を抱えた個体同士が結婚・生殖した場合、その劣性遺伝子同士がむすびつく確率は1/4という高い確率となる、というのだ。

  • 量子力学で有名な物理学者シュレーディンガーが生物学に迫った小著で名著。「生物と無生物のあいだ」のネタ本だけど、半世紀以上前に書かれているのに、こっちの方がどきどきわくわく面白い!
    中学生のころ読んでいたら絶対、物理学が生物学を学ぼうと誓っていたよ。もったいない。

  • 生命(正確には遺伝子と呼ぶべきか)の秩序の驚くべき永続性はまさに量子力学から来るものであるという、我々が実感できる生命の神秘を(ミクロな)物理学の理論によって説明する一連の流れに大いに興奮を覚えた。
    著者は必ずしも物理学に明るくない一般読者を想定していたようだが、やはりこの興奮は実際に物理学を学んでこそではないだろうかと思う。
    そうは言っても生命の神秘と聞いて心躍る人間は誰しも是非一度読んでほしいと感じる本だった。

  • シュレーディンガーの波動方程式で量子力学の礎を築いた物理学の泰斗が生命の仕組みについて考察した古典的名著です。

    生命の遺伝の仕組みや生命活動について、真摯で誠実な筆致で論じており、久々にじっくりと味わいながら読み進むことが出来ました。

    古典を読むと、本当にその著者と書斎で対話をしているような気分になれます。

    自然界の物理法則が、無秩序で拡散する傾向を持つ中で
    非周期性の結晶である遺伝子が生命の情報を堅牢に守り伝え進化させる。

    また、生命は周りの秩序(非エントロピー)を取り込んで崩壊して無秩序になるのを防いでいる、自然界の物理法則とは異質の存在。

    物理学というロジカルな世界を極めた著者が、生命やこの世界あり方に哲学的に思索を広げられていることに、心を打たれました。

  • 「秩序から秩序へ」とは言い換えれば自己複製子のことか。理論でもって実際の観測を予言している所がすごい。エピローグは筆者の真面目振りが少しおかしい。訳者あとがきはさらに珍妙。

  • シュレディンガーの猫、シュレディンガー方程式。大学初頭の物理化学で必ずその名を聞くはずである。理論物理学者シュレディンガーは総合学問としての総合大学であるから、科学がここまで整備され、専門性が深化したことにより、その総合性が崩れることを危惧して、物理学から生物学を説いてみる本書を著したと前書きの段で“言い訳”をしている。しかしながら、物理的な方法論が生物学に応用されるというのは今日では珍しいことではなく、そしてまたこの時代に書かれたシュレディンガーの生細胞への分析も見事である。単に科学的な本というだけでなく、科学という方法論そのものの性質を吟味するとき、この本が役に立つことがあるのではなかろうか。(化学システム工学専攻)

    配架場所:工5号館図書室
    請求記号:F-11:S59-1:1o

    ◆東京大学附属図書館の所蔵情報はこちら
    https://opac.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/opac/opac_details/?reqCode=fromlist&lang=0&amode=11&bibid=2002584865&opkey=B153973914920800&start=1&totalnum=1&listnum=0&place=&list_disp=20&list_sort=6&cmode=0&chk_st=0&check=0

  • 方式の名前にもなる有名な理論物理学者のシュレディンガーが生命とは何かについて量子力学の側面から問い、分子生物学への道を切り開いた言われるこの本。

    生物を分子・原子の集まりとして見ている私として、量子力学的見方で生命を見ることはとても興味深ったです。
    「われわれの身体は原子に比べて、なぜ、そんなに大きくなければならないのでしょうか?」(第1章4節)

    原子とは平常状態において常に振動していて分散・拡散する性質(エントロピー増大の法則)があるにも関わらず、なぜ生命は生命としてその体および遺伝子を保持できるのか。

    当時ワトソン=クリックによって遺伝子の二重らせん構造が解き明かされていない段階において、遺伝物質が非周期性結晶であり、その物質の大きさについて量子力学的側面から論じているいる章などは興奮を禁じえないです。

    一方で生命がエントロピー増大の法則に従わず秩序から秩序への変化を維持している点の説明がよくわからなかったです。

    あと、シュレディンガーの性生活がなかなか強烈であることに驚きました。

  • ワトソンやクリックも大発見前に読んでいた分子生物学の火付け役?のような本ということで、さすがにおもしろい。超一流の思考が見られる。

    量子論の基礎の方程式を発見し、分子生物学の火付け役にもなってるって、20世紀の2大発見両方に関っていると考えるとすごい人だなぁ。

    こういうのを天才というのだろうか。

    DNAと遺伝情報に関するところは言わずもがな、エントロピーのところも、「散逸構造」の概念の先取りだし。いまだに、「生命とは何か?」と聞かれたら「散逸構造だ」と答えるか、何かしらDNAに関することを答えるかのどちらかの人間が多いんじゃないだろうか。

    ・・・こういうのを天才というのだろうか!

    あとがき的なところに、人間の意識に関して書かれている短い部分がある。ここでシュレーディンガーは、人間の意識が存在するということを、遺伝の問題やエントロピー減少の問題とは別次元の、もっとも難しく必然的に形而上学的・哲学的にならざるを得ない問題としてわざと本編とは別に記している。ここはけっこうトンデモなところがあって、依拠しているのはウパニシャット哲学で、人間の意識がそれぞれの人に個別にあって、人が死んだり生まれたりするとその個数が変わるなんておかしな考えであると一蹴している。いわく、意識というのは唯一、あるのみであると。そしてその根拠が、女性を抱いた時にひとつになる感じがあるじゃないか、というような話だから。。。

    こういうのを天才というのだろうか(笑)。

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