危機の二十年――理想と現実 (岩波文庫)

著者 :
制作 : 原 彬久 
  • 岩波書店
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レビュー : 27
  • Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003402214

作品紹介・あらすじ

変革の思想としてのユートピアニズム。ユートピアニズムの偽善を暴くリアリズム。戦間期二十年の国際政治に展開した理想主義と現実主義の相克と確執に分析のメスを入れ、時代と学問の力動的関係を活写し、真の政治的姿態をあらわにしてみせる、二十世紀国際政治学の記念碑。戦争と平和と国際問題を考えるための必読書。

感想・レビュー・書評

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  • 翻訳がなにより素晴らしかった。読みやすい。

    1919年~39年の第一次大戦と第二次大戦との間の戦間期。この時期に国際政治上に展開した、理想主義(ユートピアニズム)と現実主義(リアリズム)の対立。ダイナミックな対立を歴史の事例・理論だけでなく実務家たちの言葉やエピソードを交え考察した内容。
    いまでも国際政治・国際問題を考える上での必読書であり古典であるといえる。


    カー先生がいうには、成熟した思考は目的(ユートピア)と観察・分析(リアリズム)を合わせ持つ。
    健全な政治的思考はユートピアとリアリティ双方の要素に基礎づけられるし、ユートピアとしての理想とリアリティとしての制度とを識別することがなにより大事。相容れない力と力の絶えざる相互作用こそ、政治の本質で道義と権力という相矛盾する要素が含まれている。

    ・・、ってなことを戦間期における各国の指導者たちの言動、過去の事例を参照し提示していく。至極真っ当なことが書いてある。

    こういったことを現在の世界中の外交政策者やリーダーがどこまで噛締め、認識しているのか。平和と戦争そして国際政治を考えるだけでなく、実務家たちにも有益な示唆をカー先生の見解は与えてくれる。

  • WW1後の戦間期に書かれた古典。その時代大勢を占めていたユートピアニズムを批判し、リアリズムの重要性と国際政治の二代潮流の両者を明確な理論へと押し上げた。と思う。
    古典だから現代にそのまま応用する、というわけには行かないけど、一読に値するはず。
    貴族や知識人によって行われていた伝統的な外交。大衆迎合的な現代社会の外交・政治に比べてなんと気高いものか、と、気品溢れる文章からそう感じた。

  • 名著、とのことだが全然歯が立たなかった。が、理解できなくても難しい本に挑んでいるときは意外にも至福であったりする。

  • 【121冊目】これを読まずして◯◯なんか語るな、っていう本はたくさんありますが、主権を持つ者としてあまり本を読まずに選挙に行くことは仕方のないことですね。民主主義社会っていうのはそれでいいんだと思います。

    さて、政治、特に国際政治を語るにはこれを読まないと資格がないよっていう名著中の名著、クラシック音楽の「第九」、歌謡曲の「川の流れのように」に当たるのがこの本です。イギリス外交官だったE.H.Carrがケンブリッジ大学教授時に書いた国際政治の本。戦間期の二十年を、理想主義が支配した前半と、その敗北によって一気に現実主義の前に陥落した後半によって構成された期間だったと看破します。「危機の二十年」というタイトルですが、第一次世界大戦や第二次世界大戦に至るまでの過程についての描写はCarrの主張を支えるための例示程度にしか出てこず、どちらかと言うと、理想と現実が(国際)政治において果たす役割について、深い洞察を持って描かれています。hindsightをもってすればCarr自身がとんでもない理想主義に陥ってることはクライマックスで一目瞭然なのですが(Marxismに影響を受けていたことは有名な話)、それを補って余りある理想主義と現実主義の相克に対する考察。

    結論を言ってしまうとすごくありきたりな話で、現実を直視する冷静さと誠実さ、だけどそれだけではなく、我々を勇気付け前に進めようとしてくれる理想や夢、その両方が必要だよねってことみたいです。

    こちらで読む本のほとんどがそうですが、西欧世界からの視点に終始しているのが残念なところ。

  • 国際紛争の解決を、戦争以外の手段でいかにして実現できるか。このことに真剣に向き合った本。

    第一次世界大戦から第二次世界大戦までの戦間期経済・政治情勢や外交努力の分析を通じて、平和の実現のための様々な制度・取組みの実効性を検討している。

    世界平和の実現のための探究でありながら、著者は武力による威嚇が不要であるという立場には立っていない。最終的に国家間の利害対立を解消できるのは武力だけであるというリアリズムの視点を1つのベースとしている。

    また、国際法や国際司法といった制度的アプローチは限界があるということも、当時の最新の国際情勢を的確に踏まえながら確認している。

    一方で、リアリズムの単眼での発想では、国際情勢の展開を見通すことや、平和への道筋を描き出すことは出来ないということも述べられている。

    国際社会では、現状に不満を持つ国家と現状維持が望ましい国家が複雑に関係しあっている。現状維持が望ましい国家がその実力(武力、経済制裁等)で一方を抑え込むとき、抑え込まれた側の不満が高まり、最終的には武力の衝突による現状変更が試みられる。

    このような事態を避けるためには、少しずつではあってもその両者がより不満の少ない新しい均衡に向かって平和的に移行していかなければならないということが、筆者の描いているシナリオではないかと思う。

    これは自由主義経済学のベースになっている、均衡理論で自動的に移行していくようなプロセスではない。この新しい均衡に移行するためには、意思の力が必要である。

    そうであるからこそ、筆者は国際道義や政治の力といった点にも分析の視野を広げている。そして、現実の社会の中でそれらが一定の力を持っているということを見抜いている。

    このような、現実を見据えるリアリズムと将来のビジョンを描くユートピアニズムの両方に根差した構成こそ、本書の特筆するべき特徴ではないかと思う。

    今日の社会は、国家だけでなく多国籍企業、国際NGOからテロ集団まで、世界の情勢に大きな影響を及ぼす主体が多様化している。また、ヘゲモニーを握る国家がなく、G0の時代とも言われている。

    そのような中で筆者が描くような均衡点の移行は可能なのかは非常に難しい議論であるが、各主体の動向を分析する上で、非常に有益な視点を与えてくれる本であるというのは間違いないであろう。

  • 東大京大教授が薦めるリスト100選抜

    No.37

  • ○この本を一言で表すと?
     戦間の時代をユートピアニズムとリアリズムの2軸から考察した国際政治学の本


    ○考えたこと
    ・E.H.カーの本は「歴史とは何か」しか読んだことがありませんでしたが、「歴史とは何か」はいろいろな本で参考文献になっていたり、評価が高かったりする割にはあまり中身がある本とは思えませんでした。「危機の二十年」は第一次世界大戦と第二次世界大戦の間の特異な時期をいろいろな面から考察されていてよかったです。

    ・今の時代の政治においても該当するような、原理原則のようなものが書かれていて今の時代と危機の二十年を比較しながら国際政治学について考えることができたように思います。

    ・楽観的なユートピアンと現実的なリアリストの対比とその間を揺れ動く戦間の二十年だったことが書かれていました。それぞれの立場から、自由意志と決定論、理論と現実、知識人と官僚、左派と右派、倫理と政治などの対立しそうなものを書き出し、またどちらの側だけでも駄目だというこの本全体でも主張されていることが概観できました。(第一部 国際政治学)

    ・ジェレミー・ベンサムの「最大多数の最大幸福」や世論への信頼がユートピアの側に立っているという考え方は面白いなと思いました。個人の最大利益と共同体の最大利益が当然一致するという利益調和論のシンプルなモデルがあるだけで確かに目指したい個人利益があるべき全体の利益に繋がる話になるというのは、確かに明るい未来が描けそうな理論だと思いました。この利益調和論から自由競争を容認するというのも理論的には問題なさそうですが、現実として利益衝突が起こり、国家内でも国家間でも大きな格差が生じたというのは、ある意味当然で、ある意味では当時の利益調和論支持者にとっては衝撃だったのかなと思いました。(第二部 国際的危機)

    ・当時大きな力を持っていたイギリスとアメリカというアングロサクソン国家が力を持っていたからこそ「イギリス(アメリカ)にとってよいことは世界にとってよいこと」と言え、そしてそれが力によって生まれる余裕からある意味で正しいというのは面白い視点だと思いました。(第二部 国際的危機)

    ・ユートピアンの夢想ぶりとリアリストの適切な批判について触れながらこの部の最後でリアリスト的考えだけでも調和のない権力闘争だけになってしまい破綻する、として両方の考え方のバランスが大事というのは確かにそうだなと思えました。(第二部 国際的危機)

    ・政治を権力と道義という二面から考察している議論はこの本の中でもかなりバランスが取れていて読み応えがありました。国際分野における政治権力を「軍事力」「経済力」「意見を支配する力」の三点に分けて考察していてこれもバランスが取れているなと思いました。軍事力と経済力だけでない、それ以外の視点を加えていてなかなか網羅的だと思いました。(第三部 政治、権力、そして道義)

    ・軍事は政治の一部であり、軍事力が国際分野において重要だというのは戦間期だけでなく現代でもそうだと思いました。経済が国際分野において重要というのは当たり前のように思いますが、国家間の関係、特に何かに違反したときの制裁について軍事制裁と経済制裁を分けて考察し、それぞれに対して異なる倫理観を持つことに対する著者の違和感については、私は感じたことがなかったので新鮮でした。軍事力と経済力を分けて考えるのではなく、それぞれ一要素として同時に考える視点は重要だと思いました。(第三部 政治、権力、そして道義)

    ・プロパガンダや情報戦の大事さは孫子にも書かれているくらい昔からの検討事項ですが、現代でも全く色褪せることがない分野だと思いました。日本の場合は政府が意図しない方向への国民意識の集中がマスコミによって扇動されている気がします。日露戦争やそれ以降の戦争時の煽りと、今の日中韓関係など、客観的な事実が歪むほどに偏った情報が溢れる状況が、意図的に生み出されるのであれば「意見を支配する力」は十分に権力と言える力だと思いました。(第三部 政治、権力、そして道義)

    ・権力だけでは成り立たないという自明なことから道義の重要性が浮き出てくるなと思いました。その道義も客観的な徳目ではなく、「意見を支配する力」である程度左右されそうな分野とも思えました。建前として、人が賛成したくなるような同義と、実際に適用しようとすると満足する者が不満足の者へ譲ることが必要となり、それが相当に困難なことだというのはこれまた人間らしく、よく分かる気がします。(第三部 政治、権力、そして道義)

    ・国際法が慣習法であり、立法・司法・行政の法の基本的機能をどれも持たないというのは確かにそうだと思いました。国家以上に上位の存在を置くことができない以上、国際法を守らせられるのは弱い国家のみとなるのはこの戦間期と現代でもそうは変わっていないことだと思いました。(第四部 法と変革)

    ・条約については、当時よりもまだ守る方向に向かっているように思います。経済関係の条約や「危機の二十年」が書かれた当時はなかった環境関係の条約については感覚に差異がありそうです。但し、条約を守らせる力や条約を締結させる力において、強国が弱国に対して支配力を発揮するという根本的な内容についてはそう変わらない気もします。(第四部 法と変革)

    ・国際紛争についての解決も、分かりやすい強国が存在した冷戦時代やアメリカ一強時代ではある程度の安定が見られたようにも思いますが、アメリカが世界全体にリソースを割けなくなってから、また紛争の解決が困難になっている印象があります。実際には昔から今まで紛争が解決されないまま残っている地域もあり、根本的には変わっていないのかもしれませんが。(第四部 法と変革)

    ・平和的変革の「平和的」が武力差により争いなく起こるという意味で「平和的」というのはリアリスト的でかなり現実を直視した見方だと思いました。(第四部 法と変革)

    ・全体の結論として、書かれた当時の危機の二十年以降も国際的な秩序が生まれることについては難しいとリアリストとして述べながら、最後に進歩的な秩序が生まれる状況が来るかもしれないとユートピアンとしての意見で締められていました。(結論)

    ・第一版ではヒトラーやスターリンについて尊重するような記述があったところを第二版では削ったこと、後の自伝でそれを告白しているというのは、著者の人間らしさや潔さが出ているなと思いました。ユートピアニズムとアイディアリズム、リアリズムとシニシズムという著者が使用した言葉と本来適合している言葉について解説されていて興味深かったです。訳者が原本を批判的な視点でも解説していることは結構珍しいなと思いました。(訳者解説)


    ○参考にならなかった所、またはつっこみどころ
    ・長い言い回しや冗長になっているところをカットし、主張したいところをまとめて書けば5分の1くらいのボリュームに収まるのではないかと思いました。読むのが大変なうえに、後半を読んだときには前半の内容をほとんど覚えていないという状態になりました。

    ・結論の第十四章で、国家が権力を有するのではなく集団が有すると書かれていましたが、集団が何を意味するか、またなぜ国家が権力を有さなくなるのかがよくわかりませんでした。

  • 井上版岩波文庫から16年。訳者も訳文も改められた。より口語的な文章になっている。E・H・カーのヒトとなりについての解説が詳しい。外交官としてキャリアを出発させ、後にロシア文学に傾倒しドストエフスキーに関する著作を発表し、ロシア革命、カール・マルクスを著すことになって、大学教員として迎えられた。しかし結局、彼の理論も思想も、ヨーロッパ中心主義からの歴史観であって、そらには自ずと限界があり、第三世界の緒制度を理論に取り込んでいるわけではなという訳者の指摘は尤もだと思う。

  • 冷徹なリアリズムの視点から、国際政治の本質を描いた良書。第一次世界大戦後、戦禍を目の当たりにした人類は、国際連盟などの仕組みをもって二度と戦争が起こらぬようにしたはずが、わずか二十年で規模が何倍も大きい第二次世界大戦が勃発したのは、何故なのか?この問いを中心に、国際政治を分析している

  • 【選書者コメント】平和主義が何たるものかがわかる。

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