危機の二十年――理想と現実 (岩波文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003402214

作品紹介・あらすじ

変革の思想としてのユートピアニズム。ユートピアニズムの偽善を暴くリアリズム。戦間期二十年の国際政治に展開した理想主義と現実主義の相克と確執に分析のメスを入れ、時代と学問の力動的関係を活写し、真の政治的姿態をあらわにしてみせる、二十世紀国際政治学の記念碑。戦争と平和と国際問題を考えるための必読書。

感想・レビュー・書評

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  • 翻訳がなにより素晴らしかった。読みやすい。

    1919年~39年の第一次大戦と第二次大戦との間の戦間期。この時期に国際政治上に展開した、理想主義(ユートピアニズム)と現実主義(リアリズム)の対立。ダイナミックな対立を歴史の事例・理論だけでなく実務家たちの言葉やエピソードを交え考察した内容。
    いまでも国際政治・国際問題を考える上での必読書であり古典であるといえる。


    カー先生がいうには、成熟した思考は目的(ユートピア)と観察・分析(リアリズム)を合わせ持つ。
    健全な政治的思考はユートピアとリアリティ双方の要素に基礎づけられるし、ユートピアとしての理想とリアリティとしての制度とを識別することがなにより大事。相容れない力と力の絶えざる相互作用こそ、政治の本質で道義と権力という相矛盾する要素が含まれている。

    ・・、ってなことを戦間期における各国の指導者たちの言動、過去の事例を参照し提示していく。至極真っ当なことが書いてある。

    こういったことを現在の世界中の外交政策者やリーダーがどこまで噛締め、認識しているのか。平和と戦争そして国際政治を考えるだけでなく、実務家たちにも有益な示唆をカー先生の見解は与えてくれる。

  • 言わずとしれた国際政治学の古典的名著。
    副題が「1919-1939」なので歴史学的アプローチの様相が強いのかと思いきや、結構理論的な内容がメインだった。しかし、1939年当時の情勢に基づいたものではあるけど、内容は現代の国際政治について考える上でも全然古びておらず、流石古典と言われるだけのことはあると感じた。
    「リアリズム」&「力」と「ユートピアニズム」&「道義」という二項対立を軸にして、その中庸を探るという論の進め方は、同じ著者の『歴史とは何か』(歴史における「事実」と「解釈」の二項対立に焦点を当てる)を彷彿とさせるものがあった。

  • WW1後の戦間期に書かれた古典。その時代大勢を占めていたユートピアニズムを批判し、リアリズムの重要性と国際政治の二代潮流の両者を明確な理論へと押し上げた。と思う。
    古典だから現代にそのまま応用する、というわけには行かないけど、一読に値するはず。
    貴族や知識人によって行われていた伝統的な外交。大衆迎合的な現代社会の外交・政治に比べてなんと気高いものか、と、気品溢れる文章からそう感じた。

  • 本書は、第一次大戦後から第二次大戦前の20年間の戦間期を分析することで、国際関係の過去をたどり未来を見通すという試みである。
    初版は1939年であるが、この翻訳は、1945年に若干の修正を経て出版された第二版のものである。
    第一章〜第十四章という構成だが、大枠で
    ・国際政治の分析(Ⅰ〜Ⅵ)
    ・力と道義(Ⅶ〜Ⅸ)
    ・法と条約(Ⅹ〜ⅩⅢ)
    に第十四章の結論を加えた構成だ。

    端的に言うと本書におけるカーの主張は、イギリスという大国の出身でありながら、
    「大国と小国」「満足国と不満足国」「支配国と被支配国」という対比の中で、20世紀以降においては、譲り合いや自己犠牲という道義に基づいて国際政治が執り行われる必要がある、と言うことである。
    何故ならば、19世紀までは経済や領土の純粋な拡大余地がその対立を吸収したが、もはや飽和状態の国際関係において、誰かの発展は誰かの犠牲を伴うことが明確になったためである。

    カーの立場は、現代日本において語られる近代史観や国際政治、安全保障に関する常識とは異なるか、ほぼ真逆の視点である。
    繰り返し対比される「現実主義(リアリスト)と理想主義(ユートピアン)」「不満足国と満足国」という対比のうち、日本では片方しか語られない事が多い。

    現代の国際安全保障学においては、「現実主義」に対比されるのは「自由主義」である。
    自由主義陣営においてこの対比は、「自由主義と独裁主義」と言う言い回しが定番だ。
    しかしながら、独裁主義は学問的な定義ではなく、ただの悪口である。
    この点で、自由主義以外は悪、という前提に基づいた世界観に一石を投じる本書は、現代においてその価値を発揮していると感じた。

    自分としては、主に大陸ヨーロッパ、特にロシアの思想や文学に親しんできたため、「たまにはイギリスの本も読んでみよう」という動機で本書を手に取った。
    しかしあとがきにある通り、カーがイギリス人でありながらロシア革命やマルクスに影響を受けた人物であるというのは、全く予想外のことであった。
    ラインホールド・ニーバーやバクーニンなど、馴染みの名前が登場し、安心のクオリティではあるものの、期待に反して新しい発見は少なかった。

    しかし、イギリスにおいて思想的に孤独であったカーの、逆風に抗いつつ書いて伝えたいという熱量は大いに感じられ、長年読まれ続ける名著であることは十分感じられた。
    カーの他の著書も読んでみたいと思う。

    日本語訳に関しては、カーの引用の誤りをいくつも指摘するなど、単純な訳にとどまらず原典に積極的に触れており、そのクオリティに感嘆させられた。
    訳者以外にも複数で検討された内容と言うことで、大著の質とカーの情熱に応えて余りある訳であると感じた。

  • E.H.カーの「歴史とは何か」を読んで感銘を受け本書も手に取りました。全くの門外漢ですので、カー氏はてっきり歴史学者かと思っていたのですが、本書を読んで、カーが最初は外務省に勤務し、その後ジャーナリズムの分野に入りながら学者に転身し、歴史、国際政治分野の研究をしていたことを知りました。本書は1919年の第一次世界大戦終戦から第二次世界大戦開始の1939年までの二十年間における国際政治をその分析の対象にしています。国際政治学という分野自体、当時は黎明期にあったということで、「あるべき論」つまりカーの言葉を借りればユートピアニズムが横行していたわけです。これは国際政治学に限らず、経済学などそのほかの学問分野も同様で、その黎明期は「あるべき論」が先行し、理想と現実に乖離がある場合に、「現実が間違っている」という支離滅裂な思考に陥るわけです。

    さらにカーは同書の中で、当時の国際政治のあるべき論は、強者(第一次世界大戦の勝利国)の利益を守るという偽善にベールをかけるためのものだったという指摘をしており、リアリズムによってその偽善を暴くべきだとしています。本書の面白いところは議論がここで終わるのではなく(つまりユートピアニズムの偽善をリアリズムで暴け、という主張で終わるのではなく)、いや100%リアリズムに陥ることも100%ユートピアニズムに陥るのと同様危険なのだ、と論を進め、「政治は権力と道義が出会う場所である」という風に論じていくわけです。個人的にはこのバランス感というか両方を見る姿勢には非常に共感を持ちました。本書は国際政治学だけでなく、あらゆる分野で「彼/彼女の主張はどちら寄りか?」を考える上での重要な指針を与えてくれると思います。とても勉強になりました。

  • 国際政治学の原点ともいえる本書。著者は英国外交官であり、学者でもあるE.H.カー。ここでいう二十年は戦間期を指す。1939年原著初版発刊。

    1939年当時、ナチス・ドイツの再軍備、日本の中国・東南アジア進出に見られるように、ファシズム勢力が台頭していたという背景がある。カーは本書で、いかに平和的に国際秩序を改革していくかを問うており、それによって戦争を回避することを期待する。これをカーは「平和的変革」と呼称している。結果的に大規模戦争は回避できなかったものの、第二次世界大戦以降も朝鮮戦争を始め、総力戦に近しいほどの激戦が起きており、21世紀になってもウクライナ戦争のような20世紀的な戦争が勃発してしまった。つまり、カーの命題は未だに達成されていないのだろう。

    理想主義=ユートピアニズムの虚構を暴くと同時に、現実主義=リアリズムの限界も指摘する。ユートピアンは自国の利益の追求は世界の利益になるという利益調和説を唱える。また、ユートピアンがいう国際的連帯は、世界を統制したいという支配的国家によってなされる。リアリストはこれを喝破する必要がある。ただ、リアリズムも何も生まないという致命的な欠点がある。したがって、カーの結論としてはユートピアニズムとリアリズムの妥協が大事だということである。

    経済思想や政治哲学の分野からの引用も多く、学問横断的・学際的な記述が多い印象。国際分野における重要な政治的改革のためには戦争の脅威が必要だという主張には驚かされた。また、パクス・ゲルマニカやパクス・ジャポニカに一定の理解を示しているところも興味深い。カーはイギリス人でありながら、パクス・ブリタニカ、パクス・アメリカーナ、パクス・アングロサクソニカの現実を直視していたようだ。

    比較的難しい本ではあるが、国際政治を学ぶのならば1度は目に通しておくだと思った。間違いなく古典的名著。

  • 319-C
    文庫(小説、エッセイ以外)

  • 案外わかりやすい。


  • 「不幸なことに、一つの点が見過ごされていた。百年以上もの間、利益調和説は道義の合理的基盤となった。個人は、共同体の利益が彼自身の利益でもあるという口実で、この共同体の利益に尽くすよう強制されたのである。いまやその根拠が変わったとはいえ、それでもなお長い間、共同体の利益と個人の利益は一致していた。しかし、結果として起こるこの利益調和は個人間の生存競争を前提とするものであり、しかもこの生存競争においては、敗者の利益のみならず敗者の存在そのものまでも現実の世界から完全に消されていったのである。」
    第4章利益の調和 p.109-110

  • 岡義武の『国際政治史』と合わせて読むといい。"国際政治"といわれるものは第一次世界大戦後に始まるということがよくわかる。理想を追うことも現状を見ることも双方重要で、またどちらかだけではいけない。両方を視野に入れながらバランスを取った見方をすることの重要性。あいまいだったり日和っているように見えたりするかもしれないが、極端なことを言う人は信用してはいけない。こういう”古典”は、今のようなご時世ではなおさら有用だと思う。

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