フランス革命についての省察 上 (岩波文庫 白 25-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003402511

作品紹介・あらすじ

バークは政治家が必ず身につけるべき政治的英知の不朽の手引きである。彼に学ばぬ政治家は海図を持たずに航行する水夫も同然である-ハラルド・ラスキ。文人として出発して、のち政界に転身、アメリカ独立戦争からフランス革命という激動の時代に、行動する思想家として華麗な弁舌と健筆をふるったバークの主著。

感想・レビュー・書評

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  • 学校の歴史では清教徒革命-名誉革命-フランス革命を年号の語呂合わせのセットで覚えただけだった。フランス革命については中央公論社「世界の歴史」で少し詳しく読んだが、中高生の頭では「出来事」は覚えられてもその「意味」は理解できていなかったようだ。

    本書はバークが、フランス在住の友人?からフランス革命について見解を求められた手紙の返信である。おそらくは「『封建制を打倒して人権を確立した先進的で格好いいワタシたち』像に酔って革命への賛同を期待していそうな手紙の相手」に対して、慎重かつ冷静に(ときおり熱くなってる感が見え隠れするが)自身の見解と公式な「立場」を諭している。

    係り受けが難しい(英語→日本語翻訳の限界なのかも?)文を何とか読み終えたが、バークは革命を戦争と同様、「他の方策が尽きた場合のやむを得ない最終手段」と考え、それ故に王政そのものを存続させた名誉革命を「最少失点で乗り切った」点で評価しているようだった。そのため、ルイ16世とマリー・アントワネットの失政(というか無気力)やフランスの財政問題、人権に対する絶対君主制の欠陥を十分に承知した上で、フランス革命政府=国民議会が漸進的な立憲君主制への移行を試みようとせず、性急に無謀なグレートリセットに走ったことを批判している。

    勝手に行間から想像(妄想)を膨らませてみると、本文に「旧ユダヤ人街」(イギリスの)や「金融勢力」というフレーズが目に付いたので、もしかしたらバークには「教会資産の強奪」「旧貨幣の停止と新紙幣発行による経済混乱」「言論界の独占によるスケープゴートの捏造」から「革命の裏で暴利を貪った者共」の存在が見えていたのかもしれない。

    それにしてもサヨク・リベラルの「自分だけが正しい」「絶対正義の人権・自由・平等・博愛(現代では平和と環境とポリコレを追加)を唱えれば何をしても正当化される」「古いものはすべて悪、革新だけが善」「金持ちはそれ自体が悪、俺によこせ」「他人の欠点はどんな些細なものでもあげつらうが、自分たちへの批判は絶対に許さない」思考が18世紀から全く「進歩してない」ところには苦笑せざるを得ない。

  • 自然に形成されたものへの信頼、人工的に形成されたものへの警戒。制度の基礎は歴史の知恵(慣習・文化)や伝統。社会は人工的に作られるものではなく、成長するもの。人間は自然に従い家族を形成した。しかし家族と家族を繋げる自然な契機は存在しないので、法を制定し国家を形成した。国家とは死んだ人、生きている人、まだ生まれない人を共に結ぶ協同体。▼マグナカルタ・権利請願・権利章典、世代を超えて多くの人々の努力と工夫によって培われてきた制度や慣習こそ英の国体(constitution)であり、安易な改変に慎重であるべき。慣習の中にある観念(すでに判断されたものprejudice)を拠り所とし、慣習にもとづいて権利として定着しているもの(すでに書き込まれたものprescription)を安易に改変していけない。社会変化は徐々に行われるべきで、過激な変革で社会秩序を崩壊させてはいけない。変化はその国の歴史から離れたものであってはならない。祖先を顧みない人々は、子孫のことも考えない。▼人間の理性への懐疑。今生きている人間は現在のことしか知らず、理性は時間によって制限されているため、過去と未来の世代によって補われる必要がある。人間は愚かであり、間違いを犯しやすい。古い体制の欠点を指摘するのに大した能力はいらない。しかし、古い体制を保存しながら同時に改革するのは多面的な能力と知性の秘策が必要である。▼理念よりも具体的なもの。権利は代々相続されたもので、イギリス人の権利であり、人間の権利ではない。フランス革命の目指す自由や平等といった抽象的・普遍的な理念は挫折する。社会的紐帯の中でのみ自由が可能になる。フランス革命は人間を野生の自然状態に戻す。社会をバラバラにする。▼議会では教養ある経験豊かな人間が主導すべき。民衆は保護の対象であり、政治的平等には賛成しない。フランス革命により、いい加減な人間たちが権力を握る。野蛮で凶暴な権力の濫用がはじまり(ジャコバン独裁を予見)、軍において人気を得た者による専制になるだろう(ナポ1帝政を予見)。▼代議士は国民全体の利益を追求すべきであり、代議士のつとめは選挙区の利害を代表することではない。代議士は選挙区の有権者の意向に拘束されず、議会において自由に議論できる。エドマンド・バークBurke『省察』1790
    ※アイルランド出身。ウィッグ党(後の自由党、LibDem)の議員。アメリカ独立を擁護(ジョージ3批判)、アイルランドのカトリックの権利を擁護、東インド会社の不正を糾弾。自由主義者。

    英国王の存在が、英国民の政治体制全体への忠誠につながっている。忠誠は利害計算ではなく感情・情緒に訴えるものなので、強固で安定したものになる。伝統・慣習が政治体制の安定に寄与している。▼執行(大統領)と立法(議会)が互いに独立している米よりも、執行(内閣)と立法(議会)の連携が強い英の方が政治は安定する。▼無知な民衆(多数者)に選挙権を拡大すべきでない。労働者階級(多数者)が政治において団結すれば、自由党・保守党がともに労働者(多数者)の支持を求めて競争し、労働者(多数者)の欲求に応じた政策を行う。教養に対する無知の支配は最大の悪である。ウォルター・バジョットBagehot『イングランドの国体』1867
    ※ジャーナリスト。自由党。

    保守主義。現存する具体的なものを重視。理念・思弁的なものへの嫌悪。保守主義は進歩主義の出現(フランス革命)に触発され、近代に生まれた新しい思想。▼保守主義は伝統に固執するものではなく、過去からの連続性に留意しつつ状況に合わせて変化させるもの。▼独ではロマン主義と保守主義が結びついた。知性よりも感情。理性よりも想像力。俗悪より崇高、平凡陳腐よりも神秘、既知よりも未知、有限よりも無限。カール・マンハイムMannheim『保守主義的思考』1927
    ※ユダヤ系ハンガリー人。LSE。

    自由・デモクラシー・正義は長い歴史の中で得られた経験をもとに抽象化されたもの。経験に先立って存在したのではない。抽象的な原理から出発するのではなく、実践の中から習得していく。原理を学べばそれで十分なのではない。政治教育が大切になる。伝統を学び、歴史を学び、模倣から始めよう。マイケル・オークショットOakeshott『政治における合理主義』1962 
    ※LSE。

  • 本書によれば、フランス革命は、抽象的な「自由」や「権利」の下に伝統を破壊している。このようにバークは、革命後の政治的混乱を指摘している。保守主義は、体系的ではない論考の形をとる傾向があるのかもしれない。

  • 『ぼくらの頭脳の鍛え方』
    書斎の本棚から百冊(佐藤優選)21
    宗教・哲学についての知識で、人間の本質を探究する
    保守主義者の聖典とされている本。…イギリス宗教改革をきちんと理解しておかないとバークの保守主義は理解できない。

  • ¥105

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著者プロフィール

政治思想家

「2020年 『[新訳]フランス革命の省察』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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