- Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
- / ISBN・EAN: 9784003415115
作品紹介・あらすじ
資本主義経済に特有な恐慌現象の必然性を、その根拠と発現の機構にわたり原理的に論証する、日本の代表的マルクス経済学者宇野弘蔵(1897‐1977)の記念碑的著作。恐慌は、なぜ、どのようにして発生するのか?"宇野理論"の精髄を伝え、現代の資本主義と社会主義の再考にも多大な示唆と影響をあたえる恐慌研究の白眉。
感想・レビュー・書評
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資本主義社会において、恐慌現象は周期的に発生する。この奇妙な現象を、マルクス経済学者の宇野弘蔵が精緻に分析し、そこから得た理論をまとめたのが本書である。
資本主義社会とは近代以降に誕生した社会であり、商品を中心とした経済が特徴であるが、それまでの社会と決定的に異なる点がある。それは人間の労働をほかの商品と同様に扱う、いわゆる労働力の商品化である。宇野は先進国で発生した恐慌現象を確認して、人間の労働力の商品化が、社会を不安定化する根本的な原因だと結論づける。人間を無理に商品化させることが、資本主義社会の崩壊を招くと見なすのである。
とはいえ、宇野は恐慌によって資本主義社会が終焉して、必然的に社会主義社会へと移行するとは考えない。むしろ、不況時に従来の資本を改良することで、好況へと転換し、それ以前よりも資本主義社会が強まると見なす。すなわち、宇野の場合、内部からの変革で資本主義社会を覆すことができないと考えるのである。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
この本は序章が非常に長大であるが、序章だけでも宇野弘蔵の「原理論」と「発展段階論」が理解できる。本人も「不釣合に長くなった」と云っている。しかしここだけでも非常に価値のある文章ではあろうと思う。
この本はひたすら難解であるが、根気よく読み進めていくと―半ば意味もわからず字面を追うことにもなりかねないのだが―ところどころに単純明快な一文が現れ出ることもある。
もう一度通読したほうがいいかもしれない。
とにかく資本主義社会における「好況→恐慌→不況→回復」の道筋は単純な繰り返しではなく、資本主義の生産力を発展させながらの繰り返しということになる。それは固定資本への投資が増えるということになり、利潤率の傾向的低下につながるになるはずなのだが―それは労働力商品という矛盾がそれの根底にありそれがなければ利潤率の低下は起こりえないと宇野は云っている―つまり資本過剰が起こる。
宇野は別のところで、資本が巨大化すると景気の循環が緩慢になるとも説いているし、不況期には各会社がきそって損失逃れをしようとする、とも説いている。個人的には寡占市場になれば不況が常態化するのではないかとも思うのだが、そこは読み取れなかった。もう一度通読する必要があるように思う。一回通読したのでは読み取れることが少なかった。
全くの私見であるのだが、この本は同じことを何度も何度も繰り返して述べているように思う。恐らく大事なことは何度か繰り返す必要があるのかと思うのだが、文脈が散ってしまい、大事なところが逆に読み取りにくくなっているのではなかろうか。
つまり推敲の余地があるのではないのかと思ったのだが、これは宇野の文章全般に言えることなのだろうか。 -
登録番号:1027148、請求記号:337.99/U77
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恐慌論 (岩波文庫)
(和書)2011年01月15日 23:11
宇野 弘蔵 岩波書店 2010年2月17日
労働力の商品化にひそむ、様々な問題があるらしい。
マルクス『ヘーゲル法哲学批判序説』にある「宗教の批判とは人間が人間にとって最高の存在であるという教えでもって終わる・・・・一切の諸関係を覆せと言う無条件的命令でもって終わるのである。」
そこにある、人間と一切の諸関係、労働力商品、貨幣、商品交換、資本。
そこが何か核心にせまるものなんだ。
無条件的命令ということの必然性があるのだと思った。 -
新書文庫
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宇野弘藏は、若い頃は一言半句も理解できなかったように思う。30年の後に読めば、難渋な語り口から伝わってくる宇野弘藏の逡巡、確信を含め、胸打つものがある。
しかし、理解できることが必ずしも良いというわけでもない。理解できてしまっては、そこからは実は何も生まれない。疑問に思うところからすべては始まるのだから。年を取るというのはそういうことでもある。