声でたのしむ 美しい日本の詩 (岩波文庫別冊)

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  • Amazon.co.jp ・本 (394ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003500286

作品紹介・あらすじ

詩は本来,朗唱されるものです.焦がれる恋の思いを訴え,人の死を悼み,自然の美しさをほめ,ことば遊びをたのしむ.万葉集から現代詩まで,どの詩歌も魂は声となって人の心と心をつないできました.意味がわかりやすく,日本語がもつ深い調べと美しいリズムをそなえた珠玉の作品だけを選びました.声にだしておたのしみください.

感想・レビュー・書評

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  • 持論だけれども、詩や歌はどれだけ引用され愛誦されたかでその価値が決まると思っている。だから、作者から訴えられない限りは、どんどん引用して広めるべきだというのが私のポリシーである。

    「詩は本来、朗唱されるものです。」
    ーそういう編集方針で編まれた詩歌のアンソロジー。大岡信・谷川俊太郎の偏見がかなり入っていて、気に入ったのもあるし、気に入らないのもある。しかもまる2年間半積読していた。元本は90年刊の「和歌・俳句編」「近・現代詩編」を一冊にまとめたものらしい。文庫本になったことで、いつでも携帯できることに気がついた。とりあえず、気に入った詩歌を以下にメモする。その後、気になった詩歌を見つけたら、どんどん追加していこう。コレ案外いい本である。

    荻の花尾花葛花瞿麦(なでしこ)の花女郎花(おみなえし)また藤袴(ふじばかま)朝貌(あさがお)の花
    ←577577形式の旋頭歌。秋の七草。山上憶良(7-8世紀)が歌った。

    大和は国のまほろば たたなづく青垣山籠れる大和しうるはし
    ←古事記歌謡より。ヤマトタケルが絶命する時に故郷を偲んだ歌と言われているが、実際には儀式の国ぼめのうたが援用されたのだろう。

    あらざらむこの世のほかの思い出にいまひとたびの逢ふこともがな
    「私が死んであの世にいってしまってからの思い出のために、せめてもう一度お会いしたいのです。」
    ←こう言われちゃったら、よっぽどのことがない限り、もう一度会うでしょ。和泉式部(10-11世紀)はプレイガールの元祖。

    逢ひ見ての後の心にくらぶれば昔は物を思はざりけり
    ← 一方、権中納言敦忠(10世紀)の方は、かなりロマンチスト。前の人とはかなり対照的。

    仏は常にいませども現(うつつ)ならぬぞあわれなる 人の音せぬ暁にほのかに夢に見え給ふ
    ←「梁塵秘抄」(12世紀後半)の最も有名な歌。後白河が撰んだ、この頃の歌謡曲。曲調は?声質は?世の辛さを感じていた人々を、この歌がどれほど癒したことか。

    蛸壺やはかなき夢を夏の月
    ←芭蕉、17世紀の人。辛き世のいっときの癒しの夢を、皮肉めいて笑っている。コレが近世。

    大蛍ゆらりゆらりと通りけり
    ← 一茶、18-19世紀の人。辛き世を、それでも楽しみたいのである。

    少年の日
            佐藤春夫
    1
    野ゆき山ゆき海辺ゆき
    真ひるの丘べ花を敷き
    つぶら瞳の君ゆゑに
    うれひは青し空よりも。

    2
    影おほき林をたどり
    夢ふかき瞳を恋ひ
    あたたかき真昼の丘べ
    花を敷き あわれ若き日。

    3
    君の瞳はつぶらにて
    君が心は知りがたし。
    君をはなれて唯ひとり
    月夜の海に石を投ぐ

    4
    君は夜な夜な毛糸編む
    銀の編み棒に編む糸は
    かぐろなる糸あかき糸
    そのラムプ敷き誰がものぞ

    ←谷川俊太郎は「漢文、文語、口語を使いこなすことのできた春夫のような詩人に比べると、口語しか使えぬ現代詩人の多くは、日本語という宝の持ち腐れ」と言う。谷川と共感すること寡ない私乍ら、コレには肯く。

    眼にて云ふ
             宮沢賢治
    だめでせう
    とまりませんな
    がぶがぶ湧いてゐるですからな
    ゆふべからねむらず血も出つづけなもんですから
    そこらは青くしんしんとして
    どうも間もなく死にさうです
    けれどもなんといゝ風でさう
    もう清明が近いので
    あんなに青ぞらからもりあがって湧くやうに
    きれいな風が来るですな
    もみぢの嫩芽(わかめ)と毛のやうな花に
    秋草のやうな波をたて
    焼痕(やけあと)のあるい草のむしろも青いです
    あなたは医学会のお帰りか何かは知りませんが
    黒いブロックコートを召して
    こんなに本気にいろいろ手あてもしていたゞけば
    これで死んでもまづは文句はありません
    血が出てゐるにかゝはらず
    こんなにのんきで苦しくないのは
    魂魄なかばからだをはなれたのですかな
    たゞどうも血のために
    それを云へないがひどいです
    あなたの方からみたらずゐぶんさんたんたるけしきでせうが
    わたくしから見えるのは
    やっぱりきれいな青ぞらと
    すきとほった風ばかりです。

    ←ほう、そうか
    これを撰んだか
    ほう、そうか
    これを撰んだか
    もちろん、絶筆じゃない。

    2023年9月25日記入

    • kuma0504さん
      抹雪(あわゆき)のほどろほどろに降り敷けば 平城(なら)の京(みやこ)し思ほゆるかも
      (大伴旅人)
      ←太宰府長官から見れば、ひとゆきで一変し...
      抹雪(あわゆき)のほどろほどろに降り敷けば 平城(なら)の京(みやこ)し思ほゆるかも
      (大伴旅人)
      ←太宰府長官から見れば、ひとゆきで一変した雪化粧の建物はみんな都の景色に見えるのだろう。今年、ソウル国立中央博物館の景色を見て、私も日本を想った。ほどろほどろがとても新鮮。

      旅人の宿りせむ野に霜降らば
      わが子羽ぐくめ天の鶴群(たづむら)
      (遣唐使随員の母)
      ←天平5年(733年)、難波の港を出発する際の歌。鶴は「子供思い」という中国伝来の観念を知った上で読んでいる名前不詳の「母」の教養の高さよ。思いだけは、古今東西の普遍的なもの。

      春日野はけふはな焼きそ若草の
      つまもこもれりわれもこもれり
      (古今集よみ人しらず)
      ←「じゃあいつ焼いたらいいんだよう」と春の野焼きの仕事で、農民たちが毎年交わす話のタネにしていたはず。それさえも予測して、春の明るさを謳ったのだとしたら、恐るべき技巧といえよう。

      うたたねに恋しき人を見てしより
      夢てふものはたのみそめてき
      (小野小町)
      ←古代人は「夢の通路というものがあり、恋しあっていれば夢で相手に逢える」と信じていたそうです。「そめてき」は初めて思ったのではなく、ずっと頼りにしていた、という意味。「花の色は」よりもこちらが好き。

      秋来ぬと目にはさやかに見えねども 風のおとにぞおどろかれぬる
      (藤原敏行 未詳ー901?)
      「風のおと」って、どんな感じなんだろ。すっと吹いて微かに止まる?立秋の7月1日に詠んでいる。

      逢ひ見ての後の心にくらぶれば 昔は物を思はざりけり
      (権中納言敦忠 906〜943)
      逢ふは契りを結んだ、ということ。こっちの方が、片思いの頃よりよっぽど苦しい。後の世の何千万人が「そうだ、そうだ」と思ったことか。←と、書いてレビュー「本編」に既に取り上げていたことに気がつく。やはり、この歌好きなんだよね。

      年たけてまた越ゆべしと思いきや 命なりけり小夜の中山
      (西行 1118〜1190)
      人は皆、越ゆべき峠を越えてきた。「命なりけり」に万感の想いを込めて。という抽象的な意味かと思いきや、69歳の西行が、平家が滅んだ翌年に、出家した翌年に歩いたこの道を振り返るとても具体的な歌だった。

      山ふかみ春とも知らぬ松の戸に たえだえかかる雪の玉水
      (式子内親王 未詳ー1201)
      玉水とは雪解けの雫のこと。キラキラと緑の戸に光落ちてゆく。新古今の絵画的表現の典型。立春の風景としては、とっても相応しい。ホントに山深く行ったのではなく、せいぜい裏山の庵を見ての景色だったのではないか。

      以上2024年2月6日までに気がついた詩歌を記入
      2024/02/06
  • 木に花咲き君わが妻とならむ日の四月なかなか遠くもあるかな 
      前田夕暮

      新型コロナウイルスの影響で、結婚式や披露宴をやむなく延期する人々もいると聞く。掲出歌は明治末期の作だが、春の挙式を待ちこがれる現代のカップルに贈りたい歌だ。

     また、この歌は声に出して読み味わいたい歌でもある。上の句の「き」の音の連なりが心地よく、初句は6音で字余りではあるが、リズムを損なっていない。「四月」の結婚を待ち望む思いは、春を待ち望む思いとも重なり、新生活への期待がより増しているのだ。

     新刊の「声でたのしむ美しい日本の詩」は、短歌、俳句、歌謡、詩のアンソロジーで、古典から現代までがカバーされている。掲出歌については、大岡信が「この初々しさに溢れた歌」は、「夕暮二十六歳当時の作」と解説し、読みどころを短く的確に示している。

     本書で辻征夫の「婚約」という詩と出合えた。掲出歌の姉妹編のようで、ほほえましい。

      鼻と鼻が
      こんなに近くにあって
      (こうなるともうしあわせなんてものじゃないんだなあ)
      きみの吐く息をわたしが吸い
      わたしの吐く息をきみが
      吸っていたら
      わたしたち
      とおからず
      死んでしまうのじゃないだろうか
      さわやかな五月の
      窓辺で
      酸素欠乏症で

     谷川俊太郎は、複雑な今日において「これはほとんど呑気とさえ言えそうです。しかし(略)読む者を救ってくれる」豊かな詩と解説している。詩歌の癒やしの力も信じたい。
    (2020年4月5日掲載)

  • 本屋さんで衝動買いした。買う予定のなかった本で、これほど楽しく読める本に出会うことが出来て嬉しい。ネットではやはりこういう出会いはなかなかないのではないだろうか。もちろんAmazon等ではおすすめの本が表示されるので、それはそれで良い出会いがある。でも、そもそも鏡花が欲しくて本屋に行ったのに、たまたま近くにあったこの詩集を買ってしまった、これはたぶんAmazonでは予想できない出会いではないだろうか。また、電子書籍でも立ち読みに類することができるのではという意見もあるかもしれない。しかし、手に取ってみた肌触り、匂い、重さ等によって、お気に入りの本というのが決まるのであって、やはりモノとしての本が好きな人なら、本屋は永久に身近にあってくれないと困る。
    話がそれてしまったが、本書には、短歌・俳句・近現代詩のそれぞれの分野から、音読することを念頭に選ばれた作品が集められている。声に出して読むのに良いもの、ということなのでもちろん黙読していてもリズムや単語の響きが心地よく感じるものばかりであった。また、音では同じでもひらがな、カタカナ、漢字表記を意図的に使い分けている作品もあり、詩人や歌人は音の響きだけではなく当然視覚的な効果を意図して作品を書いていることを感じさせられた。
    さらに、本書の魅力はそうした「声」「音」をテーマにして詩や俳句を味わえるということだけではなく、選者の大岡信さん、谷川俊太郎さんが一つ一つの作品に詳しい注釈と解説を加えている点である。詩集や歌集はいくつも他に持っているけれど、収録されているすべての作品にここまで丁寧に解説が書かれていて、しかも文庫で手軽に持ち運びもできるのは初めてで、何て贅沢な本だろうと思った。
    万葉集の時代から現代に至るまで選りすぐりの名作を一通り学ぶことができた。お気に入りの作品もたくさん見つけることができた。

  • 刺さる詩は何度読み返しても刺さる。

    パラパラと流し読みするだけでも楽しめる本でした。
    気分転換として読むのにもおすすめです。ページごとに一首・一句載っていて、その下に解説が書かれているレイアウトがまた読みやすさにつながっている気がしました。

    「声でたのしむ」と銘打ってるだけあって、語呂や語感が心地よい詩がたくさん登場します。善し悪しがわからない私でしたが、気に入った短歌などは複数あり、それというのは何度か読み返しても自然と目にとまってしまうのがまた面白いです。

    所在:中央館2F : 文庫・新書コーナー
    OPAC情報:https://opac.lib.niigata-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BB2952376X?hit=2&caller=xc-search

  • いつだったか、音読と黙読の経緯の話を読んでいた。

    黙読という読書方法が浸透している中で、声に出して詩歌を楽しむ。音のリズムを楽しむ。

    でもそうなんだよな。歌詞だって声に出しているのが当たり前なんだから、詩歌だって今の時代に声に出して楽しんでいいはず。

  • 2020.09―読了

  • 大岡信×谷川俊太郎でカバー&カットが安野光雅ときたら、手に入れるの一択。
    (ここに松居直が加われば、あの「にほんご」編集チーム)

  • 『文学は実学である』を読んで手にとりたいと思って読んだ詞華集。
    一日六頁づつ読んだ。
    手もとに置いておきたい本だ。

  • 小さい頃から読書が好きで、中高も文芸部に入り、言葉とは長年向き合ってきた。だからこそ、物事の表現の仕方や美しい言葉に興味がある。この本の題名を見た際に、まず一つに『声でたのしむ』というところから最近、声に出して読む機会が少なくなってきたと感じたこと、二つに『美しい日本の詩』というところからどんな詩が美しいとされる作品なのか興味を持ったため、この本を選んだ。

    • myknakaさん
      大岡信のセレクトですね。
      大岡信のセレクトですね。
      2020/05/31
  • スペイン人詩人ロルカの詩集の読後感から、迷わず母国語の詩を求めました。
    これまで使ってきたことば(音)と、なじみのある風景・におい・空気・ものの質感そして感情。詩を味わうためにはそういうものをどれだけ共有できるかが大事だということがよくわかりました。

    各作品の解説は端的でありながら、鑑賞のヒントを的確に与えてくれる上に、俳句・短歌・詩を通じて、日本語の楽しさを考えさせてくれるものでありました。

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著者プロフィール

昭和6年、静岡県三島市生まれ。詩人。東京芸術大学名誉教授。日本芸術院会員。昭和28年、東京大学国文学科卒業。『読売新聞』外報部記者を経て昭和45年、明治大学教授、63年東京芸大教授。平成2年、芸術選奨文部大臣賞受賞。平成7年恩賜賞・日本芸術院賞、8年、1996年度朝日賞受賞。平成 9年文化功労者。平成15年、文化勲章受章。著書に『大岡信詩集』(平16 岩波書店)、『折々のうた』(昭55〜平4 岩波書店)など多数。

「2012年 『久保田淳座談集 空ゆく雲 王朝から中世へ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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