青年 (岩波文庫)

著者 :
  • 岩波書店
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レビュー : 2
  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003600269

作品紹介・あらすじ

現代社会を描きたいという希望をもって東京へ出た文学青年小泉純一が、初志に反して伝説を題材とした小説を書こうと決意するまでの体験と知的成長を描く。作中に夏目漱石、木下杢太郎、正宗白鳥、森鴎外自身などをモデルとした作家が登場する。漱石の『三四郎』と並称される、鴎外初の現代長篇小説。明治43‐44年作。

感想・レビュー・書評

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  • 地方のY県から上京したばかりの青年、小泉純一くん。旧制中学を出てほどない、二十歳前の年頃か。資産家の子息で裕福なのだが、大学には通わず、小説家を目指し、東京での新生活を始める。青年のそんな日々を描く。
     下宿先が上野・本郷界隈ということもあり、漱石の小説世界を連想想起する。
    同世代の学生やインテリ青年との対話・議論、先輩作家の御説拝聴といった場面が、随所で展開する。哲学論、文学論なのだが、そうしたくだりは退屈で、あまり面白くない。
     一方で、謎めいた超絶美貌の若き未亡人、坂井夫人との邂逅、煩悶。これがすこぶる面白い。魅き込まれた。 芝居の客席で隣り合わせたのを機に、夫人から「宅に書物がたくさんございますから、見にいらっしゃいまし。」と誘われる。そして訪問した夜、小泉は早速筆下ろしされてしまう。
    その後小泉くんは、借りてきた洋書を前に悶々とする。夫人に対して毅然たる態度をとり距離を置くべきだ、と立派なことを考える一方で、また夫人に逢いたいと思い焦がれる。
    さらには、未亡人から、いついつに箱根のなになに宿にいるからいらっしゃい、と誘われる。「行っちゃいけない!自分」、と小泉くんは自分を戒める。だがしかし、結局、自分の中でなんだかんだの理屈をこねくり回して、箱根に向かう列車に乗ってしまうのであった。そりゃそうだろう、そうなるわな、と思う。
    ちなみに、小泉青年自身、きれいな顔立ちをしているようで、もてる。他にも若い芸妓のコから色目を使われる場面もある。
    かように、文学論議や、哲学論議のくだりはつまらないが、妖艶な坂井夫人から誘惑、翻弄されるお話として、十分楽しめる。終盤、夜半に箱根の宿を訪ねてゆくくだりは、非現実的、幻想的な趣もあり、味わい深い。

    さて、当初の小泉青年は、東京の実生活実社会に遊弋するうちに、ほどなく小説の題材、素材を見出せるにちがいない、と想像する。その後、未亡人の誘惑やら、芸妓との出会いを経験。つまり、彩り豊かな実体験を積み重ねてゆく。けれども、なぜか、小泉は、それらを小説の材とする着想には至らない。終盤、苦渋の思いと共に箱根を後にした小泉は、なぜか、伝説の世界を材料に作品を書くことに思い至るのであった。なぜに? そのへんの、小説家としての第一歩の、心の軌跡の描き方は、大いに唐突、強引なのであった。

  • 若いということは、なにがしか「寂しさ」と同系であるなあ。

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