大塩平八郎 他三篇 (岩波文庫 緑6-12)

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  • Amazon.co.jp ・本 (334ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003600412

作品紹介・あらすじ

一途に仇を討つ若い女性が映える「護持院原の敵討」、動乱の渦中にいる人物たちの葛藤を織り込んだ「大塩平八郎」、武士の切腹を主題とする「堺事件」、儒学者の妻の生涯を辿る「安井夫人」。歴史史料に拠りつつ同時代の思潮に反応して、簡潔明晰な文体で描かれた鷗外の歴史小説4篇。(注解・解説=藤田覚)。

感想・レビュー・書評

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  •  鴎外没後百年記念の一環として刊行された岩波文庫だが、まだ読んだことがない作品ばかり収録されていたので、読むことにした。

     鴎外の、いわゆる歴史小説の範疇に属する四作品。形容詞句が極力省かれ、簡潔明瞭で引き締まった文章が心地良く感じられる。
     以下、各作品を読んでの感想。

     『護持院原の敵討』
     金品強奪目的の加害により命を落とした父/兄の無念に報いるための敵討を巡る話。犯人の居処を探すため日本全国を探索する大変な苦労、正当な敵討として認められるための煩瑣なまでの手続きが良く分かる。犯人の面相を知っていることから敵の見識人として参加した仲間(ちゅうげん)の忠義振りが素晴らしい。

     『大塩平八郎』
     幕政が揺るぎ出したことを表す一事件として歴史で学んだことのある”大塩平八郎の乱“に関し、当日の乱の推移、逃走、潜伏、幕府の判決を描く。
     鴎外の作品とは関係ないことだが、潜伏先とした出入りの商家宅に甚大な迷惑を及ぼしたことについて、大塩の考えが解せない。乱自体はこと破れてしまい、同志たちもバラバラになり既に自害した者もいたのに、匿ったカドで、商家の主人は獄門、その妻は遠島。大塩は町奉行所与力という職務上、犯人を匿った者がどんな仕置きを受けるか当然知っていた筈で、何のために潜伏したのかが全く分からない。

     『堺事件』
     土佐藩の人間が多数切腹していくところで、フランスからの要請により途中で中止になった、一連の顛末を描いたもの。大岡昇平が、鴎外による事実の改竄を厳しく批判したことは知っていたのだが、その辺り、勉強してみたい。

     『安井夫人』
     幕末の著名な儒学者、安井息軒の妻佐代の一生を簡潔に叙述したもの。息軒は疱瘡がもとでひどいあばた面になり片目が潰れていて、学問はあっても、あれでは良縁は難しいだろうと周りから思われていた。佐代は評判の美人であったが、もともとは姉への縁談として持ち込まれた話を姉が拒絶したため、自分が息軒の嫁に行きたいと申し出たのが、結婚に至るきっかけとなった。
     その後の佐代の人生、夫に仕え、子供を生み育てた事実を、淡々と鴎外は描く。ただ、最後に次のような述懐がある。「お佐代さんは必ずや未来に何物かを望んでいただろう。そして瞑目するまで、美しい目の視線は遠い、遠い所に注がれていて、あるいは自分の死を不幸だと感ずる余裕をも有せなかったのではあるまいか。その望の対象をば、あるいは何物ともしかと弁識していなかったのではあるまいか。」
     鴎外にしては珍しい、お佐代さんに対する敬愛の気持ちの吐露のような気がする。

  • ■一橋大学所在情報(HERMES-catalogへのリンク)
    【書籍】
    https://opac.lib.hit-u.ac.jp/opac/opac_link/bibid/1001205467

  • 本書に掲載の短篇は、史料を渉猟し事実関係を検討した上で、創造を織り交ぜ作品として纏める、といった本格的な歴史小説の、日本での先駆(初めてかは知らないが)のように思える。また「大塩平八郎」などは、事件の経緯、人名地名、情景描写などが精緻で、ドキュメントを通り越してレポートの様相。読み飛ばしても何の問題も無い箇所が多い一方、徳川時代の組織の仕組みや手続き等々、実務や暮らしの細部までが手に取るように分かるなど、貴重な記録にもなっている。所々不必要なまでに考証にこだわる側面は、鴎外自身が科学者だったがゆえだろう。

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著者プロフィール

文久2(1862)—大正11(1922)。石見国津和野(現:島根県津和野町)出身。明治14(1881)年東京大学医学部を卒業後軍医となり、17年~21年ドイツに留学。40年、陸軍軍医総監・陸軍医務局長になり、軍医として最高職についた。
大正5(1916)年予備役となり、6年帝室博物館長兼図書頭。公務のかたわら、小説家、評論家、翻訳家として活躍。代表作に『舞姫』(1890)、『うたかたの記』(1890)、翻訳『即興詩人』(1892~1901)、『ヰタ・セクスアリス』(1909)、『雁』 (1911)、『阿部一族』(1913)、『山椒大夫』(1915)、『高瀬舟』(1916)、史伝『渋江抽斎』(1916)などがある。本名は森 林太郎(もり りんたろう)。

「2023年 『森鷗外⑦ ヰタ・セクスアリス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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