英国古典推理小説集 (岩波文庫)

  • 岩波書店 (2023年4月18日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (540ページ) / ISBN・EAN: 9784003720028

作品紹介・あらすじ

「殺人があったのは二十二年前の今日――」。ディケンズ『バーナビー・ラッジ』とポーによるその書評、英国最初の長篇推理小説と言える「ノッティング・ヒルの謎」を含む、古典的傑作八篇を収録(本邦初訳を含む)。読み進むにつれて、推理小説という形式の洗練されていく過程がおのずと浮かび上がる、画期的な選集。

みんなの感想まとめ

推理小説の黎明期から黄金時代にかけての作品を収録したこの選集は、ジャンルの発展を実感させる魅力的な内容です。特に、ディケンズの『バーナビー・ラッジ』やポーの書評が含まれており、初期の推理小説の特徴や人...

感想・レビュー・書評

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  • 「古典というと干からびたという印象があるかもしれないが、推理小説の場合は人間味が濃く現れています。」(まえがきから意訳)
    私は現代文学が苦手で「古典」のほうが好きなんですよね。読みつがれた良いものしか残っていないってものあるのでしょうけれど。まだ小説技工が確立されていない頃に書かれた小説は、単純に「面白い」ということや書くことへの情熱や、整いすぎない分純粋に楽しめるんですよ。

    【チャールズ・ディケンズ『バーナビー・ラッジ』へのポーによる書評】
    22年前の3月19日。お屋敷のヘアデイル氏が殺され、金がなくなっていた。庭の池から執事の死体も挙がり、容疑者は行方不明の庭師となった。ヘアデイル氏が死んだ時間には真夜中なのに鐘が鳴ったという奇妙な証言もある。そして今日でその事件から22年。あの事件は必ず「3月19日」にコトが動くだろう…。
    …というのがチャールズ・ディケンズの『バーナビー・ラッジ』の第一章。エドガー・アラン・ポーは、この第一章に感心して書評とこのあとの展開の予測も公開した。この物語が終わったあとエドガー・アラン・ポーは改めて書評を書いた。ちょっと「俺の予測の展開のほうが良いよね?」って感じもある・笑
    この書評をこの短編集に入れたのは、ディケンズの書いた推理小説の紹介と、ポーの性格がよく出ている書評を載せたかったんだろうけど、読者としては一章しか読めないのにネタバレ書評読んじゃったーな気分もちょっとある・笑

    【『有罪か、無罪か』ウォーターズ】
    資産家バグショー氏の屋敷に強盗が入り、留守を預かるサラ・キングという召使が殺された。容疑者は、屋敷に銀行券があると知らされた甥のロバートだ。アリバイも怪しい。
    だがロンドン警察の担当警部は、ロバートの証言を怪しすぎるためにむしろ信用に値すると考え、真犯人を探す。
    …推理というか警察捜査物語。正しい犯人を見つけないと、真犯人を逃がすことになるし、間違った相手を死刑にしてしまう。この責任感と使命が力強いです。そして被害者サラに言い寄っていたバーンズという何でも屋?軽業師?が案外頼りになって、庶民の強かさがあった。

    【『七番の謎』ヘンリー・ウッド夫人】
    知人女性の新居を訪れた友人一行。女性のコテージは六番で、隣の七番の家族の話をする。主夫婦は長期留守中で、留守宅を守るのはマティルダとジェインという二人のメイド。
    そしてマティルダが買い物に出ているときに、ジェインが家で殺されていた。
    ==避暑地で始まったけど解決はロンドン。しかも推理というよりは性格分析をしたら犯人が自滅したような。
    スペイン人女性は気性が荒い!ってイギリス小説のお約束なんでしょうか。男にもちょっとは悪いところもある気がして、女性たちが気の毒な感じもある。

    【『誰がゼビディーを殺したか」ウィルキー・コリンズ】
    ロンドンの下宿屋で殺人事件の知らせがあった。担当警部が駆けつけると、新婚旅行中のジョン・ゼビティーの胸にナイフが刺さっている。ゼビティー夫人は夢遊病の性質があるらしい。夫人が眠ったまま夫を殺したのか?
    捜査を続け、ゼビティー夫人の犯行とは断定できない要素が見つかる。事件は「犯人不明」となった。だが担当警部は一人で捜査を続けた。そして彼にとっては驚愕の真実を知ることに…

    【『引き抜かれた短剣」キャサリン・ルイーザ・パーキス】
    ロンドンのエビニーザー・ダイヤー氏の探偵事務所には、女探偵のラヴティ・ブルックがいる。ダイヤー氏とミス・ブルックは、仲が良いがよく口論をするという関係。
    今回の依頼は、友人の娘を預かったホーク氏の家に脅迫状が届いたというもの。最初の脅迫状は、一本の短剣の絵が書かれた手紙、ついで二本の短剣が書かれた手紙が届いたのだ。そして友人の娘であるミス・モンロウの首飾りも消えた。
    ホーク氏の家を調査に行ったミス・ブルックはすぐに真相に気がつくのだった。
    ==挿絵付き。やり手女探偵ですがイギリスのご婦人なので、服装や帽子などの装束がイギリス淑女っぽいのが良いです。
    事件の真相は割とわかりやすいのと、あとがきにも出ていますがちょっと作者のミスリード過ぎる感じもあります。
    このころは推理小説というものがあまりなかったので、読者に示さなければいけないことが明白じゃなかったんですね。

    【『イズリアル・ガウの名誉』チェスタトン】
    人間嫌いのグレンガイル伯爵が死んだという噂だ。「噂」というのは、老召使イズリアル・ガウにより埋葬されてしまったから。死んだのは本当に男爵なのか?そもそも本当に死んだのか?
    スコットランドヤードのクレイヴン警部、元盗賊で現在は警部のフランボー、そして彼らが呼んだブラウン神父が捜査することに。グレンガイル伯爵の遺したものも奇妙なものばかりだし、イズリアル・ガウも全くの人間嫌い。果たして真相は?っていうかそもそも事件性あるのか?

    【『オッターモゥル氏の手』トマス・バーク】
    かつてロンドンで起きた連続絞殺事件の真相を中国老人クォン・リーが推理する。いわゆる「安楽椅子探偵」の一人ですね。
    この小説は、それを興味深く聞いた語り手が小説風に書き起こしたとなっている。そのため被害者に対して「見納めとなる世界を見ておくんだ」のように輝かしい語り口のドラマチックなものになってます。
    連続殺人事件の緊迫感が素晴らしいし、犯人像も納得。…それだけに最後の被害者がなあ…それやっちゃ危険だろう…

    【『ノッティング・ヒルの謎』チャールズ・フリークス
    この短編集の後半200ページ程度を占める中編です。日記、手紙、報告書、新聞記事などで構築された書簡小説の推理小説。最初の英国推理小説だ、といわれているらしい。それがこんな凝った書簡小説だなんてイギリスやるなあ。
    しかし真相に関しては、現代科学では否定される(現在では似非科学扱いされる)ものなので立証は無理そう…(^_^;)


    サー・エドワード・ボウルトンは、妻ガートルードに言い寄ったという噂の男と決闘して死んだ。未亡人となったガートルード夫人は倒れ、双子の女児のガートルードとキャサリンを産んで亡くなる。
    双子は母親に似て病弱で神経質、不思議な繋がりを持ち、片方が体調を崩すと必ずもう一人も具合が悪くなるという。だが幼い頃キャサリンは突然消えた。(どうやらジプシーに誘拐された、ってことらしい)
    …読者としては「いつも一緒にいる赤ちゃんだったら一人の病気がもう一人に移るのは当然だよ」と思ったんだがこの「二人は同じ体調になる」というのはこの後の悲劇の真相となりました。いやー、同居家族ならみんな倒れるの当たり前だと思ったんだけどなあ…

    ガートルードは相当な財産を受け継ぎ、さらに立派な家柄で穏やかな性質のウィリアム・アンダトン氏と結婚する。夫婦は慈しみ合っていたが、ガートルードは相変わらず病弱、すぐ寝込むし倒れるし、ウィリアムも優しいけど人に強く出られない。
    そんなアンダトン夫妻が信頼したのが当時新しい科学医療?だった「メスメリウム」とかいう治療法。
    現在の知識からすると「あからさまに怪しい!近づくな!」としか思えんメスメリウム療法とやらは、催眠療法の一種らしいのだが、アンダトン夫妻が招いた相手も悪かった。これまた読者からしたらあからさまに怪しい自称ラ☓☓☓男爵。
    そうそうこの小説、名前を隠すために「バ☓☓」とか「保険会社の☓☓社」とか出てくるんだが、この男爵はこの語の事件の重要人物なので「ラ☓☓男爵」だと書きづらいので、レビューではラ男爵に省略します。
    そしてこのラ男爵、自己流でハンドパワー?とかを取り入れ、女性であるガートルード夫人に触れないために依代となるロザリーという助手を使っている。
    この時代の科学が語られるが、他にも「食事が取れない人を治療するために、依代となる人が主の変わりに健康食を食べる」という治療法だとか、なんか身体の水を調えるみたいなのだとかが出てくる。
    もちろん当時は科学として尊重されていたのだろうが、このラ男爵、いっかにも詐欺師!山師!いくら世間知らずで押しが弱く身体も弱いアンダトン夫妻でもこんなやつとはさっさと縁を切ってくれーーー。

    ガートルード夫人とロザリーは奇妙な絆が生まれかけるが、ロザリーはラ男爵をたいそう怖れているし、ラ男爵はロザリーを監視している様子。そしてラ男爵は「外国に行く」とロザリーとともに去った。
    その後ガートルード夫人はその後何度か酷い発作を起こす。この発作の場面、酷い下痢、酷い嘔吐、激しい腹痛…かなりキツイ、ガートルード夫人の苦しみが気の毒で気の毒で…(☓。☓)

    だがガートルード夫人は奇妙なことに気がつく。このひどい発作は2週間毎に来るのだ。だが大人しい彼女は「また2週間が近づく。神様お助けください。そして愛するウィリー(ウィリアム)には悟られないようにしないと」と、とにかくお祈りしかしない内向き性格なので、読者としては「なぜ秘密にする!!」と、この夫妻のおとなしさはちょっともどかしい。

    ついにガートルード夫人は亡くなる。
    そしてウィリアムに妻殺しの噂が立ち…。

    なお、アンダトン夫妻とラ男爵・ロザリーに関する調査をしたのは、調査員のヘンダソン。(よく分かってないのですが、保険会社から依頼された探偵みたいなもの??警察関係者じゃないよね??)
    彼は、アンダトン夫妻の保険の掛け方に疑問を持ち、この時期にラ男爵とロザリーがどこで何をしていたのかを探ります。

    まあこの二人は極秘結婚していたわけで。
    このラ男爵、読者からはあからさまに怪しいのだか、人を不安にさせて精神的に支配するらしい。ガートルード夫人も「あの緑の目が怖いが逆らえない」と言っているし(じゃあ解雇しなよ…)、ロザリーも絶対に逆らえない。しかしラ男爵は、他の人たちからは大変評判が良い。「本当に立派な旦那様で、病気の奥様(ロザリー)を心配して愛して献身的に看病していました。奥様はそんなご立派な旦那様を嫌ってというか怖がっているようで、態度はよそよそしくて失礼な感じでした」なんて言われてしまう。対外的には申し分なく内には暴君、こんな男に目をつけられたら誰も味方はいなくなるし逃げようがない_| ̄|○
    最も逃げ場所のないロザリーはともかく、地位も資産もあるアンダトン夫妻には「もうちょっとシャッキリせんかーい」と思わんでもないが…(^_^;)

    そしてロザリーも亡くなる。

    調査員ヘンダソンは、ラ男爵がロザリーに掛けた保険金のこと、アンダトン夫妻の死とロザリーの死にラ男爵が関わっているのではないかと疑い、その調査書を提出するのだった。

    ==
    残念ながら「殺人」のトリックは、現在医学では立証は無理だろうってことと、その凝った構成にもところどころ矛盾もあるようですが(^_^;)
    死んだ人たち(殺された人たち?)は本当にお気の毒な事件。そして「身内には暴君、対外的には申し分ない人物で、身内は逃げようとしても味方は居ない」って現代でもあるよねーー(-_-;)
    そしてこの時代の女性はやたらに倒れたり弱々しくて「しゃんとせんかーい」も思ったり、それにつけ込む犯行が「弱い者いじめ」のように感じたり^^;
    しかし書簡や日記により出来事がつながってゆく手法は読んでいて楽しく、これを「イギリス最初の推理小説」と掲げるイギリス文学、すごいなあと思う。

  • 目次
    『バーナビー・ラッジ』第一章より(チャールズ・ディケンズ)
     (付)エドガー・アラン・ポーによる書評
    有罪か無罪か(ウォーターズ)
    七番の謎(ヘンリー・ウッド夫人)
    誰がゼビディーを殺したか(ウィルキー・コリンズ)
    引き抜かれた短剣(キャサリン・ルイーザ・パーキス)
    イズリアル・ガウの名誉(G・K・チェスタトン)
    オターモゥル氏の手(トマス・バーク)
    ノッティング・ヒルの謎(チャールズ・フィーリクス)

    英国古典推理小説集 - 岩波書店
    https://www.iwanami.co.jp/book/b622523.html

  • 英国における、推理小説というジャンルが確立されていく様子がわかる選集。

    一作目がディケンズの『バーナビー・ラッジ』
    ディケンズといえば、『クリスマス・キャロル』『大いなる遺産』等、有名な作品がたくさんあるけど、推理小説は初だった。そして書評をポーが書いているという。なんたる贅沢!

    その他の作品も味わいがあり、最後は長編で読み応えがあった。ザ・古典で好きな感じだった。

    推理なので内容書かないように気をつけると書くことなくなる…

  • ブクログメンバーの書棚にあったもの。現代ミステリーの血なまぐさいものではないんだろうなあ、と思い読んでみたくなった。推理小説草創期の作品。書かれた年代順に配置。

    いちばんおもしろかったのは「イズリアル・ガウの名誉」。最後に明かされる理由に思わずうなった。謎を解くのはブラウン神父で、これまで実はブラウン神父ものを読んでみなくては、と思い読み始めたもののだめで放棄してしまっていた。が、ちょっと見直した。

    何世紀にもわたってまともな領主のいなかった、グレンガイル城。この最後のグレンガイル伯爵が失踪した。残されたのは愚か者とみなされている召使のイズリアル・ガウだけだった。屋敷には、金の台の無いダイヤモンドの指輪、金の燭台のない蝋燭、金の煙草入れの無い嗅ぎ煙草、金の頭飾りのない杖、金のケースに入っていない時計のぜんまい仕掛け、そして・・ その理由をブラウン神父が解き明かす。・・なんとも。初出時の題名「奇妙な正義」がまとを得ている。

    「オターモゥル氏の手」もおもしろかった。これは連続殺人鬼を追う、警察と新聞記者を描いたもので、記者はふとあることに気づき、犯人に行き着くのだが・・ これはドラマにしてもおもしろいんじゃないかと思った。

    <収録作品と作品冒頭にある解説>
    『バーナビー・ラッジ』第一章より チャールズ・ディケンズ著 1841 18世紀後半の反カトリック暴動を扱う歴史小説。時は1775年3月、舞台はロンドンから北東20キロのメイポール亭。

    〇有罪か無罪か:ウォーターズ著(初訳)「チェインバース・エディンバラ・ジャーナル」(1849.8.25号に掲載)

    〇七番の謎:ヘンリー・ウッド夫人(1814-87)著(初訳)「アーゴシー」1877.1月に掲載 

    〇誰がゼビディーを殺したか:ウィルキー・コリンズ(1824-89)著 「スピリット・オブ・ザ・タイムズ」(NY 1880.12.25
    号に掲載)単行本収録時には「警察官と料理人」に改題

    〇引き抜かれた短剣:キャサリン・ルイーザ・パーキス(1839-1910)著(初訳) 「ラドゲイト・マンスリー」1893.6月号に掲載。主人公は30過ぎの”全く目立たない”女性ミス・ブルックで、ロンドンのリンチ小路にあるエビニーザー・ダイヤー氏の探偵事務所で働いている。二人は仲がいいのだがよく口論するという設定。ミス・ブルックが生き生きとしている。

    〇イズリアル・ガウの名誉:G・K・チェスタトン(1874-1936)著 「サタディ・イブニングポスト」(フィラデルフィア1911.3.15日号に掲載。のちに「ブラウン神父の童心」に収録」 初出時のタイトルは「奇妙な正義」

    〇オターモゥル氏の手:トマス・バーク(1886-1945)著 1931  1929年発表 自らが生まれ育ったロンドンの貧民街の風俗を描いた。本作は19世紀末に場末のイースト・エンドで起こった「切り裂きジャック」による連続殺人事件を下敷きにしたと考えられる。が、自動車やバスの記述があるので時代設定は20世紀初頭らしい。

    〇ノッティング・ヒルの謎:チャールズ・フィーリクス(1833-1903)著 「ワンス・ア・ウィーク」に1862.11月-63年1月に8回にわたって連載。(初訳)
     双子の姉妹の謎と事件?を描く。全体が日付入りの手紙や裁判記録などによってあり、地の文がない。なにかとても読みずらく、読み進められなかった。巻末に訳者による双子の姉妹の年表がついていて、姉妹の人生はこれである程度わかる。


    2023.4.14第1刷 2023.5.25第2刷 購入

  • 19世紀の古典推理小説集です。まだ洗練されていない感じはありますがその分人間観察に長けていてとても面白かったです。推理小説では完全犯罪は必ず破綻しますが、それは犯人が嘘をつくからです。でも嘘って本当ではないことだから数字に例えると0です。嘘を本当に見せようとしていくら言葉を尽くしても×0は0です。嘘は絶対に本当にはなりません。底に穴の開いたコップに飲み物を注ぐようなものです。

    本当のことはたくさんの言葉はいりません。「有罪か無罪か」という短編で無実なのに疑われる男性が出てきますが、自分が無実なのがあんまり明らかすぎて上手く弁明出来ないんです。でも本当のことは0ではなくて1です。1は小さい数字だけど掛算したら必ずプラスになります。だから本当のことって嘘よりもずっと強いんです。正義は勝つは本当なのです。「オターモゥル氏の手」というお話には考えさせられました。言葉そのものが生命をもっていて、言葉が私たちを動かしているということ。人間よりも言葉がずっと強いということ。これは犯人のセリフなのですが「罪と罰」のラスコーリニコフを思い出しました。

  • 英国推理小説の黎明期から黄金時代までの作品を収録。
    推理小説として洗練されてゆく過程も分かる。
    『バーナード・ラッジ』第一章より チャールズ・ディケンズ
      (付)エドガー・アラン・ポーによる書評
      推理小説的なの部分を、連載序盤にポーが書評で謎解き。
      次いで、完成後の作品についての手厳しい書評。
    「有罪か無罪か」ウォーターズ
          追跡している男は犯人か、それとも無実なのか?
    「七番の謎」ヘンリー・ウッド夫人
       密室の家で起こった殺人。真実へ導く糸は悲しい結末へ。
    「誰がゼビディーを殺したか」ウィルキー・コリンズ
       殺人事件の決め手はナイフだ。だが彼は逡巡の末に・・・。
    「引き抜かれた短剣」キャサリン・ルイーザ・パーキス
       女性探偵が挑むのは短剣の絵の謎とネックレスの行方。
    「イズリアル・ガウの名誉」G.K.チェスタトン
     グレンガイル伯爵の正体と生死の謎。ブラウン神父かく語りき。
    「オターモゥル氏の手」トマス・バーク
      老ウォンが語る連続殺人の仮説。白い手の男の正体とは。
    「ノッティング・ヒルの謎」チャールズ・フィーリクス
      (付)ボウルトン家関係系図/主要人物略年表
     書簡、日記、新聞や雑誌の抜粋、書類、見取り図、そして、
     証言を多く含む探偵の覚書から解明される犯罪の真実。
    訳者あとがき

    英国推理小説の古典作品を収録。半数が本邦未訳。
    「推理」の要素がまだ希薄だったり、
    謎よりも「人間的要素」に対する依存度が高かったり、
    偶然の重なりや勘、都合の良い有能な助っ人登場だったりの、
    黎明期の「推理」への考え方が定まっていない作品が、
    少しずつ洗練され、推理小説へと至る道程が分かります。
    同時に、トリックと偽装、変装、法廷審理、密室での犯罪、
    入れ替わりと成りすまし等の、推理小説ではお馴染みの要素が
    既に登場していたことへの驚きもあるし、
    当時の新しい組織の中の警察官の姿や裁判の様子もあったり、
    ホームズ以後の、探偵が主人公の作品もあり、全体的に
    なかなかの興味深い作品が選ばれていて、楽しめました。

  • とても良い。「推理小説」とは何かを考えさせるもの。訳者は推理小説が「犯罪を探偵が推理を働かせて解決する物語」としているが、ポーの評論では読者は謎解きされるとかえって「失望する」と見抜いている。これは推理小説の定義を探偵対犯人、探偵対謎とする前に、小説が作者対読者であると考えるかどうかにかかっている。

  • ポーの「モルグ街の殺人事件」から黄金期に至るまでの時期を古典期として、ミステリの形式や約束事が成立していく過程を実作で検証しようという選集。巻末の「ノッティング・ヒルの謎」をのぞけば時系列で並べられていて、五番目の「引き抜かれた短剣」からがホームズ譚以降の作品となるらしい。言われてみればだが、確かにその辺りでミステリとしての洗練度が急に上がる。とはいえ、それ以前の作がつまらないかというと案外そうでもない。英国本格には風俗小説的な読み方をしている人がいるはずで、少なくともそうした人には楽しめるだろう。

  • 古びたのは否めないが、興味深く読めた。
    ただ、オッターモールやイズリアルとか、最初読んだときはもっと感銘を受けたのにな。小六か中一か。あれから感性鈍ったんだな。

  • 英国最初期の推理小説群から、
    その形式が洗練されていく過程を浮かび上がらせようという
    アンソロジー。
    だが、あまりドキドキワクワクしなかった。
    唯一、トマス・バーク「オターモゥル氏の手」は
    〈奇妙な味〉風で私好みであり、楽しめる作品だった。

    ■チャールズ・ディケンズ『バーナビー・ラッジ』
    (Barnaby Rudge,1841)第一章[跋]
     長編歴史小説の序盤。
     1775年3月、ロンドン郊外の酒場兼宿屋メイポール亭に
     見慣れぬ客が現れ、
     近くの屋敷の前で見かけた若い女性について訊ね、
     メイポール亭の主人ジョン・ウィレットが、
     それはジェフリー・ヘアデイル氏の姪だと答えると、
     常連客の一人ソロモン・デイジーが
     地元では有名な22年前の事件について語った。
     屋敷で殺人が起き、
     容疑者もまた遺体で発見されたのだ――と。
     当夜、異変を察した人物が感じた恐怖が
     ありありと伝わってくる名調子。

    □(付)エドガー・アラン・ポーによる書評:
     ①1841年5月1日付『サタデイ・イヴニング・ポスト』
      にて、ポオは『バーナビー・ラッジ』において、
      読者の想像力に特に強く訴えかける部分を紹介しつつ、
      事件の核心に触れている。
     ②1842年2月『グレアムズ・マガジン』で
      ポオは『バーナビー・ラッジ』では
      暴動事件の恐怖に主軸が置かれたことで
      殺人事件にまつわる読者の推理の興を削いでしまった
      ――と、作者の“軽挙”を批判。

    ■ウォーターズ「有罪か無罪か」(Guilty or Not Guilty,1849)
     作者不詳、但しウォーターズはウィリアム・ラッセルという
     ジャーナリストの筆名であるとの有力な説あり。
     本作は作品集『ある警察官の回想』(1856年)収録。
     スコットランド・ヤードの警察官である語り手〈私〉が
     捜査した事件について。

    ■ヘンリー・ウッド夫人「七番の謎」
    (The Mystery at Number Seven,Johnny Ludlow Sixth Series,1899)
     連作短編集《ジョニー・ラドロー》シリーズの一つ。
     ジョニーの回想記の体(てい)で、
     両親亡き後ジョニーと同居する継母と、
     その再婚相手の郷士(スクワイヤ:squire)及び
     彼の連れ子トッドらが出くわした事件が紹介される。

    ■ウィルキー・コリンズ「誰がゼビディーを殺したか」
    (Who Killed Zebedee?,1880)
     死期を悟った男性が過去の過ちを告白し、
     それを神父が書き取ったという体裁の小説。
     語り手〈私〉は25歳のとき、ロンドン警察の一員として、
     ある殺人事件の捜査に当たった。
     クロスチャペル夫人の下宿屋に投宿していた
     ジョン・ゼビディー氏が妻に殺害されたらしいというのだが……。

    ■キャサリン・ルイーザ・パーキス「引き抜かれた短剣」
     (Drawn Daggers,1893)
     ダイヤー氏の事務所に勤務する女性探偵
     ラヴデイ・ブルックが活躍するシリーズの一つ。
     不可解な手紙とネックレス紛失という、
     アントニー・ホーク邸に降りかかった変事の謎を解くラヴデイ。

    ■G.K.チェスタトン「イズリアル・ガウの名誉」
    (The Honour of Israel Gow,1911)
     ブラウン神父はスコットランドのグレンガイル城へ赴き、
     素人探偵の友人フランボー及びクレイヴン警部と合流した。
     二人はグレンガイル伯爵の生死を調査中だった。
     狂気に満ちた家系の末裔である伯爵は失踪していたが、
     国外へ出た形跡はなく、まだ城の中にいると思われ……。

    ■トマス・バーク「オターモゥル氏の手」
    (The Hands of Mr. Ottermole,1929)
     中国系の老人クォン・リーを語り手とするシリーズの一つで、
     切り裂きジャック事件に想を得たと思しい、
     イースト・エンドでの連続殺人を扱った短編。
     七名が絞殺された事件を追う若い新聞記者が
     真相に辿り着いたのだが……。

    ■チャールズ・フィーリクス「ノッティング・ヒルの謎」
    (The Notting Hill Mystery,1862)
     クレメンツ法学院・秘密調査事務所のラルフ・ヘンダソンが
     某生命保険会社取締役に送った1858年1月17日付の書簡。
     ラ××男爵なる人物が妻を被保険者として契約した
     巨額の生命保険に関する調査。
     ラ××男爵が『ゾウイスト』誌掲載の記事を読んで、
     ある計画を着想し、実行したと思われることについて。

    ※後でもう少し細かいことをブログに書きます。
     https://fukagawa-natsumi.hatenablog.com/

  • トリックではなく、推理小説の書き方の変遷を見るためのアンソロジーなのだが、やや変則的で、編者の好みを感じる(チェスタトンとウィルキー・コリンズはこの作品で良かったのか?など)。「オッターモール…」は本作で教えてもらって良かった一作。岩波文庫だと思えば妥当な一冊だと思う。ただ訳はやや読みづらい。

  • 推理小説というジャンルの歴史を辿る。

    まだ推理小説を誰も知らない頃に書かれた作品たちがだんだんと推理小説っぽくなっていく。謎があって、探偵がいて、推理する。ポーの書評にあるように、フェアだとか、伏線がちゃんとしているかとか、そういうのもまだ整っていない。ポーは結局謎を解き明かすより、謎を謎のままにしておく方をよしとしたと解説にはあるが、その他のおびただしい人たちが「犯罪(あるいは何らかの事件)が発生し、それを探偵役の人物(素人もしくは玄人)が論理的な推理を働かせて解決するプロセスを主眼とした物語」(p.3)である推理小説を作り上げてくれてよかったと思う。だって面白いもん。もちろん解かれない謎も面白いけど。

    コリンズ「誰がゼビディーを殺したか」語り手=探偵役であり、しかも犯人は愛した人だったと気付く。正義感というよりは、愛する相手と結婚するために出世を求めて事件解明に勤しんで、得た結末がこれということに味がある。彼女の罪を問えなかったことを死を目前にして懺悔するスタイルなのもセンチメンタルでよい。推理小説が単なるパズルじゃない意味がある作品。

    バーク「オターモゥル氏の手」割と早いうちに警官が犯人だと気付くけど、文体に面白さがあって印象的な作品。手がかりの出し方もフェアでだいぶ洗練されてきた感じがある。

    フィーリクス「ノッティング・ヒルの謎」習作というのか、たくさんの手紙から手がかりを結びつけて謎を解いていくパターンだけど、解説でも指摘されているように日付等のミスがある。もし推理小説が確立してからならば読者にフェアであるために徹底的にチェックされた部分だろうと思うけど、この細かさで大量の手紙や証言を書いて真実を浮かばせる長編をジャンル初期に書いたところに、逆にエネルギーを感じる。今でいう超能力に推理の重大な部分がかかっているので、そこは現代ではNGだろうけど、当時はOKだった考えなのでそれはそれ。自分は勝手に眠くなる気体でも流して都合の良いようにしていたのかと思った。

  • ■1850年頃のイギリスの短編ミステリー集。どの作品も、空気が今と違ってとっても crystal clear。いろんな周波数の電波でパンパンになった現在のと比べて全く違う。これでは警察はおろか犯罪者もオンタイムで通信しようがない。結果、どうしようもなくもどかしいような、それでいてどこか懐かしいような緊張感に満たされている。

    「イズリアル・ガウの名誉」
    ▷▷▷死んだ貴族の城に残されていたのは、バラバラ状態の宝石、散乱した嗅ぎタバコ、散らかった蝋燭、金属製のガラクタの山、そして喪家を今なおひとり守る年老いた召使い。引きつづき地所の畑の中から城主のものと思われる頭蓋骨が掘り出された。ブラウン神父は禍々しい黒魔術が行われた痕跡をいったんはそこに見出すのだが……。
    ▶▶▶いかにも、そしてさすがのチェスタトン。読者は混沌の渦の中へとほうり込まれるが、ブラウン神父の放つたったひとことで世界は秩序を取りもどす。

    「オターモゥル氏の手」
    ▷▷▷ロンドンの貧困街、小路が入り組んだイーストエンドの一角で今日も悲鳴があがる。人々は四方から現場に駆けつけるのだがそこで彼らを待っているのは今回も罪のない犠牲者の骸だけ。しかしなぜ犯人はいつもつかまらずに逃げおおせることができるのか? いやそれとも逃げようとしていないからつかまらないのか……。
    ▶▶▶犯罪者の側から描かれる無差別連続殺人事件。その心中の描写たるやあまりに詳細、かつ真に迫っていて殺人鬼に思わず共感さえ覚えてしまう。

    「ノッティング・ヒルの謎」
    ▷▷▷怪しげな疑似科学を弄して資産家から金品をせしめるラ××男爵。この男がたんなるいかさま師だとしたら、なぜ彼の周りの三人は次々と死んでいったのか。逆に三人の死がこの男の手によるものだとしたら、ラ××男爵はニセモノではなくて本物の……。
    ▶▶▶メスメリスム(mesmerizingの語源)、催眠術、アンチモン中毒、生き別れになった双子、莫大な遺産のゆくえ……。多様な要素を時間軸上に丹念に配列して、多角的な視点から謎の核心に迫ろうとする犯罪小説の力作。ミステリーとしては凄い(゜д゜)。でも読み物としては……疲れる(´・_・`)。

  • 19世紀を中心とした、黎明期の推理小説短編集。

    短編ばかりなので軽く読めるかと思ったが、「ノッティング・ヒルの謎」はかなり長くて、しかも各証言を緻密に読み込んでいくタイプの話なので結構読むのに骨が折れた。

    ・想定と異なる展開に直面し、これからどうするかと問われたブラウン神父の発言。
    「寝ます!寝ることです。我々は道の果てまで来ました。あなたは睡眠がいかなるものか知っていますか?眠る者はみな神を信じる、ということを知っていますか?眠りとは秘跡なのです。なぜなら眠りは神を信じる者の行いであり、糧であるからです。我々は秘跡を必要としています―たとえそれが自然に生じるものであっても。(p253)」

    ・「情ある人には不思議に思えるかもしれないが、殺人者は凶行に及んだ後食事をとらねばならないし、実際食事をとるのである。(p268)」

  • 2024/04/21読了

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/788802

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著者プロフィール

1941年 大阪に生まれる。1964年 関西学院大学経済学部卒業。1970年 関西大学大学院文学研究科哲学専攻博士課程修了。現在 追手門学院大学文学部教授。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

「1986年 『西谷啓治 その思索への道標』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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