アシェンデン: 英国情報部員のファイル (岩波文庫 赤 254-13)
- 岩波書店 (2008年10月16日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (481ページ)
- / ISBN・EAN: 9784003725047
作品紹介・あらすじ
モームの実体験に基づくスパイ小説の古典。第一次大戦初期、作者の分身アシェンデンはスイスで各国情報員と競い、その後シベリア鉄道経由でロシア革命を目撃する。はげしい工作合戦の中での駆引き・裏切り・愛と滅びの人間劇。連作読切形式。一九二八年刊。
感想・レビュー・書評
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作者モームの分身である、作家で英国諜報部で働くアシェンデンの諜報活動記。
モームが第一次世界大戦の時に諜報部で活動していたので実体験を元にしたフィクションとなっています。
この時イギリスが戦っていたのは、最大敵国であるドイツと、中央同盟国を構成するオスマン(トルコ)帝国、オーストリア=ハンガリー帝国。
アシェンデンの仕事は中立国スイスを拠点として、イギリスにいる”R”と呼ばれる大佐からの指示を得て、実際に諜報活動や暗殺を行う現地の活動家との中間連絡役になること。さらにはシベリア鉄道でロシアに入り、ロシア革命勃発を目撃します。
これは実際にモームの諜報活動を元にはしているようですが、モームは冒頭で「この話はあくまでも小説ですよ」との断りを述べ、さらに「フィクションとノンフィクションの違い。小説の書き方色々」などを語っています。
ここで描かれる諜報活動は、実際の諜報活動は、007やミッションインポッシブルのようは派手さは全くありませんが、戦争における情報の遣り取りや、敵側諜報員との駆け引きが書かれています。
他のスパイものと違うと感じるのは、本書では登場人物たちの人物描写がかなり多く印象に残るということです。
イギリス人でありながら、ドイツ人女性と結婚し、対戦国ドイツに情報を流している男を炙り出す仕事では、その男が敵国に情報を流すようになったのはなぜかなど、男の性質を考えます。
イギリスを憎むインド人扇動家を彼が愛している娼婦まがいの女を使っておびき寄せる仕事では、敵ながらそのインド人に敬意を持つと同時に、なぜこんなに違う男女が心から愛し合うようなことになったのだろう?と疑問を感じたりします。
イギリスから長年は慣れてクラス老イギリス女性の、イギリス人への反発と最期の郷愁に立ち会い彼女の人生を考えます。
陽気なメキシコ人工作員に振り回されたときは、なぜこんな男が女性にもてるのかと考え、しかしその陽気さの奥底の危なっかしさを観とります。
紳士の中の紳士のようなイギリス大使との会合では、型にはまった紳士のような大使の心に潜む悔恨すべき過去の恋愛話を聞き、人間の複雑さ、この短い人生ではやるべきことをやるよりやりたいことを(たとえすぐに破綻したとても)やったほうが良いという考えを聞きます。
シベリア鉄道で11日間も同室で過ごすことになった陽気なアメリカ人を通して、戦時下でも変わらない、変えることのできない人間の営みや性質に触れて、安心感を覚えると同時に哀しさを感じます。
アシェンデンの過去の恋愛も書かれていて、その女性と再会した時の男女の感覚の違いは、読んでいて少し面白かったです。
さらに、イギリス人は毎朝卵料理を食べるが決して同じ料理方法では食べない!とか、アメリカ人は愛する相手に音読をするのが日常光景だ(結構長い普通の小説)、など、ふーんそうなのかーと感じることもいろいろ。
それぞれの話は、読者に結末が知らされなかったり、ミスを犯したり、残酷に終わったりするけれど、やはりモームは戦時下であっても、作家として人間を見ていたのだなと思う小説でした。 -
・イギリスのスパイだったモームのどストレートなスパイ小説。短めのエピソードで構成されており、読みやすい。007みたいななアクションシーン等はほぼ皆無。作中でも言及されているが、スパイの「活動の大半は地道で退屈なもの」。しかも、本書の内容はモームの実際の諜報活動に近いということが注釈から分かって一層興味深い。中には、こんなエキセントリックな奴はおらんだろというような人物も登場してくるが、実際にいるんだよねえ、冗談みたいに変な人って。
・アシェンデンの淡々とした諜報活動や、その冷徹な上司(結構人でなし)とのやり取りからイギリスという国が少し垣間見えるような気もするが、これは自分の勝手な妄想かも知れない。ちなみに、このアシェンデンは、手嶋龍一さんが「ウルトラ・ダラー」などで描く、同じくイギリスのスパイであるスティーブンに重なるような印象も少しある。
・それにしてもケイパー夫妻のお話、第10章「裏切り者」は切ない。メチャ切なくて泣けます。 -
モームは、第一次世界大戦中にMI6のスパイとして活動していて、この作品はその経験に基づき書かれているために、スパイ小説の草分けとして知られている。舞台は中立国であるスイスや10月革命前夜のロシアのペトログラードで、特に前半はドイツとの諜報合戦が描かれていたりしていてそのようにも読めるが、全編を通して一貫しているのはモームの人間への強い関心であろう。愛情や憎しみ、虚栄心や執着心、高貴さと退廃、さまざまな葛藤や相矛盾する感情がユーモアを交えながら切々と描かれている。
個人的には背景として具体的な時代状況が設定されていて、当時のスイス、イギリス、ロシアが垣間見えるところも面白い。 -
スパイ小説は結構好きでわくわくしながら読み始めたら、やっぱり面白かった。
どちらかというと古典の部類に入るのかもしれないけど、一編ごとのスリルは全く古びていない。
売国奴のラストがちょっと悲しかったかな。一癖ある登場人物たちがとても魅力的だった。ほんとうにこんな人たちがいたんだろうか。いたんだろうな。 -
本の装丁からも、タイトルからも活劇もののスパイ小説を想像していたが、そうではなかった。他の本コスモポリタンとかのように、人間を観察した小説である。 スリル満点であるとか、ドキドキハラハラというようなスパイ小説を読んでいるという感覚は一つも持たなかった。スパイというのはただの土台で、いうなればいつもどおりのモームである。
まとめていくつも読んでいるが、モームって人の不思議さについてしか書かない人なのかと思えてきた。もしくは書けない人なのか。もちろんそれがダメだというわけではなく、個性だという意味です。
モームがすきでも、ちょっとこれはなと二の足踏んでいるなら、さっさと読んでみたらよいと思います。ある意味同じ僕らが好きなモームです。 -
英国人作家アシェンデンが諜報活動を通して出会った人や出来事。「情報部員のファイル」というだけあってアクションや権謀術数満載…などということは全然ない。さまざまな出来事を通して、人が自ずと抱えている矛盾や、人間の持つ意外性(同じか…)が描かれている。
初めて読んだときはおもしろさがぜんぜんわからなかった。なんでモームがこんなスパイ小説もどきを?と思っていたのだ。その後本書が実話ベースであることを知り(序文を読んでいなかったのか?)、何度か読み返すうちに、いかにもモームらしい作品であることに気がついた。スパイ小説という形式に気を取られて、鑑賞のポイントを外していたのだな。そんなこんなでうかうかしているうちに、ちくま文庫版が絶版になってしまった。今回岩波から出てやっと手に入れられたこと自体はたいへんうれしいが、装丁とか活字、字間の雰囲気などはちくまのほうが好きなのだ。ちょっと残念。 -
津村の読み直し世界文学の1冊である。モームがこのような推理小説のような諜報部員の話を書くとは思っていなかった。最後に地図がのっているが、最初に持ってきてほしかった。スイスから始まり、最後はロシアの革命のところで終わる。面白いのひとことにつきる。
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スパイ経験のある著書が描いた、第一次世界大戦頃のスパイ小説。の割には後半は人物の人生ストーリーが多い。
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スパイ活動のなかにも皮肉な眼が。
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MI-6のスパイとして活動していた作家が描くスパイ小説。主人公はジェームスボンドのように、派手な活躍があるわけでなく、地味で目立たない活動だが、知的な会話や精緻な筋書が物語に読者を引きずりこむ。映画「裏切りのサーカス」が楽しめた人には、楽しめると思います。
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感想未記入
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かわいた文体でつづられる連作スパイ小説。
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全然退屈じゃないんですけどモームさん
おはようございます。
いいね!有難う御座います。
きょうは、雨が降っています。
やま
おはようございます。
いいね!有難う御座います。
きょうは、雨が降っています。
やま