心変わり (岩波文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (482ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003750612

作品紹介・あらすじ

早朝、汽車に乗り込んだ「きみ」はローマに住む愛人とパリで同棲する決意をしていた。「きみ」の内面はローマを背景とした愛の歓びに彩られていたが、旅の疲労とともに…。一九五〇年代の文壇に二人称の語りで颯爽と登場したフランス小説。ルノードー賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • ようやく読了。いまのところヌーウ゛ォー・ロマンのひとつとして位置づけられており、名高い小説だ。

    主観をそのままに表すリアリスムのために、主人公は常に「きみ」(vous)で語られる。

    そのことも確かに風変わりだが、僕はこの小説が、全て列車のなかで主人公の想起するところによって語られていることに着目したい。列車の、三等の客室という狭い場所、移動する場所、揺れ動く場所だからこそ成立する仕組みによって成り立っているのが、この小説なのだから。

    心変わりにおける時系列の乱れ(という言葉でとりあえず説明させてもらうならば)が起因するのは、その語り手の認識、意識により物語が語られるということである。語り手としての主人公は列車の客室のなかで、過去の記憶、目の前の客のこと、ローマあるいはパリでの出来事の予測、そして全てを包括する夢・・・というように、思考を巡らせる。これは「きみ」という語り口もさることながら、列車という地理的な移動形式、またコンパートメントという、常に定まった人間が向かい側、あるいは隣にいる、そのために他のことを考えながらでもついつい思考が目の前の、お馴染みの観察相手に向かってしまうという状況、そのことに大きく原因がある。

    また、アエネーイスに端を発する夢のなかでは、主人公は幾度も、覚めたり夢に入ったりを繰り返す。これは意識の覚醒と沈滞ということだが、それはそのままに、列車の揺れのせいだと言える。揺れ動く電車のなかで寝入ったときの、あの半分まで現実におり、半分まで夢に足を踏み入れたままの状態だ。

    そして個人的に新しく勉強になったのは、アウグスティヌスがまとめたところの、ローマ汎神が行為それぞれに付されるということである。作中では男女が性行為に至り、身篭るまでがなんと、神の名において説明されるのである。これは驚きであった。

  • ちょっと思い込みの激しい四十路オヤジになって恋人に逢うつもりで長い列車の旅にゆられる。主人公が好きではないのに、列車と雨とパリとローマの記憶が透明感があって美しい。意外と読みやすくて、疲れない。

  • 二人称小説ということで手に取ってみた。それだけでなく文章構成なんかも普通と違う。なかなか状況把握などに手こずったのが正直なところ。俺の頭が悪いからか……物語の把握ができたところで時間を空けてまた読んでみようと思う。

  • ◇ヌーヴォーロマンの代表者ビュトールによる二人称小説

  • 日本語を原文の息の長さに合わせて訳しているが、句点の打ち方が日本語の構造と論理からいって不適切。

  • ふーん。フランス小説・・。

  • 倉橋由美子「暗い旅」の本歌

  • 一人称より内面的になるのに気付いた

  • Nouveau roman と呼ばれる小説が時代と巧みな連関をもって現れた頃を私は知らない。

    ヌーヴォー・ロマンの代表的な作家のひとりとされるミシェル・ビュトールの小説を今回初めて読んだ。

    本作品は、二人称で書かれている。「vous」を「きみ」と訳し仕上がっている。なぜ、「あなた」ではなく「きみ」なのかはわからない。とにかく二人称であることは間違いがなく、繰り返し繰り返し、「きみは」「きみは」と主語人称代名詞を多用する。
    そうされることによって、虚構と現実の境目の不確かさが芽生え、小説のなかで通過する駅を読者は「vous」とともに越えていくのである。

    「vous」には名前がある。レオンという名で45歳のイタリアのタイプライターの会社のパリ支店長をしている。
    パリのパンティオンの近くの自宅に妻、アンリエットと4人の子どもたちと一緒に住み、時々出張でローマに行く。

    二年前にパリ発ローマ行きの列車の中でセシルという女性と知り合った。
    ローマに住む彼女とレオンは恋に落ちる。
    窮屈な家庭にいる間、彼女のことを思い、今自分が置かれている状況および結婚生活は間違っていたと気づく。
    考え方の違う妻、気づけば年を重ねていた妻、夫に女の影を感じ取って冷たい侮蔑の表情を浮かべ彼に接する妻にレオンは飽き飽きしている。
    恋人のセシルは、パリで働き、レオンと一緒にいることを望んでいた。それは彼もそうで、やっと彼女の職をみつけた。近いうちにパリで新生活をはじめることになるだろうと告げ、美しい恋人セシルを突然喜ばせるために、レオンはローマ行きの列車に乗り込む。

    レオンは潤沢というほど自由に使えるお金を持っていない。彼の稼ぐお金は妻のアンリエットに握られている。
    出張の時には一等車を利用するレオンだが、お忍びのプライベートな旅は懐具合との兼ね合いで三等車に乗った。
    パリを夕食の時刻に出発するこの列車は翌日の午後にローマに到着する。21時間35分の列車の旅。

    小説は、レオンすなわち「vous」がパリで列車に乗り込んだところからはじまる。
    車内の描写、そして動き出した列車から見える流れゆく外の光景。
    若い恋人の元へ向う彼がいつもと違うのは、その日こそ、彼女との新しい人生の歯車が本当に動き始める日なのである。
    そして語られていくさまざまなこと。
    レオンが過ごしてきた時間が、列車の進む時間、通り過ぎていく駅とともに、詳細に記述され、あれほど喜びに打ち震えていたセシルとの新生活への憧憬が、どんどん変容していき、最後には、この恋にはローマという街が介在しており、ローマにいるセシルこそが絶対性を持っていたことにレオンは気づく。

    三等席の倦怠、ローマへの遠い道のり、セシルをパリに呼べるようになったことが現実としてレオンが捉えたときに見えてきた現実は、レオンが自分の恋を客観視できる距離感であり、時間でもあるのだ。

    この本を読み終えたとき、この恋人たちは近いうちに別れるだろう。それしかない。だって進みようがないのだから。と思った。

    しかし、翌日には、もしかしたら、二人は別れないかもしれないと思った。なぜなら、理解しあえる人を見つけるのは容易なことではないから関係性を考え直せばいいし、少なくともパリにおける現実はレオンしか気づいていないのだから。

    数日たつと、彼らは別れることはないだろう。それもレオンはセシルを離さないだろうと考える。それは、レオンは彼女の前では男性として存在できる。この至福を彼は手放すわけがないと思う。

    このような心理変化をもたらすのも、本書の時間と距離のマジックだろうか。

  • 二人称の特性に彩られてローマ=パリの往復を重層的に描き上げた一章の構造は素晴らしいの一言。三章からの混乱の伏線もここにある。

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著者プロフィール

Michel Butor (1926‐2016) フランスの小説家、詩人、批評家。フランス北部モン゠ザン゠バルールで生まれる。ヌーヴォー・ロマン(Nouveau Roman)の作家の旗手のひとりと目される。1956年、小説第二作『時間割』(L’emploi du temps)でフェネオン賞(le Prix Fénéon)を受賞、翌年1957年第三作目の『心変わり』(La Modification)でルノドー賞(le Prix Théophraste Renaudot)を受賞し注目を集めた(主人公に二人称代名詞「あなたは」を採用した小説作品として有名)。1960年に四作目の『段階』(Degrés)を発表後は小説作品から離れ、1962年『モビール──アメリカ合衆国再現の習作』(Mobile: Étude pour une représentation des États-Unis)を皮切りに空間詩とよばれる作品を次々と発表し始める。画家とのコラボレーション作品が数多く、書物を利用した表現の可能性を追究し続けた。

「2023年 『レペルトワールⅢ [1968]』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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