失われた時を求めて(1)――スワン家のほうへI (岩波文庫)

著者 :
制作 : 吉川 一義 
  • 岩波書店
4.08
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本棚登録 : 595
レビュー : 27
  • Amazon.co.jp ・本 (528ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003751091

作品紹介・あらすじ

ひとかけらのマドレーヌを口にしたとたん全身につたわる歓びの戦慄-記憶の水中花が開き浮かびあがる、サンザシの香り、鐘の音、コンブレーでの幼い日々。重層する世界の奥へいざなう、精確清新な訳文。プルーストが目にした当時の図版を多数収録。

感想・レビュー・書評

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  • 読むのはもう何度目になるのかよく覚えていない「失われた時を求めて」の第1巻です。光文社文庫の方の感想にも書きましたが、「失われた時を求めて」がとかく難解な印象を持たれがちなのはこの第1巻の一見取り留めのない描写が原因なのではないかと思います。一度読んだだけでは捉えがたいのですが、通して読むと脈絡のないエピソードに見えるものが、大きなひとつの物語になっているのが分かります。

    この第1巻は、後に重要なテーマとしてクローズアップされる主題がすべて出てきています。それでいて子ども時代のノスタルジックな思い出が語られていて、語り手とは生まれた時代も国も違うのに、まるで自分の少年時代を語られているかのような錯覚を覚えてしまうのはプルーストの魔法としか言いようがないですね。

    私が特に好きなのが、幼い語り手が母親からおやすみのキスをしてもらえるかどうか不安でいても立ってもいられなくなって、拙い策を弄するシーンです。
    後の巻で語り手が経験する恋愛は、その全てがこのシーンでの母と息子のやりとりの拡大した再現とも言えるものです。ただ、語り手の想いが報われるのは結局一番最初の母親だけで、その意味ではここが唯一の幸福な「恋愛」描写になります。その後の語り手を考えると切なくなりますね。
    (これは受け売りですが)この母と息子の関係が疑似恋愛なのは、母親が読み聞かせるジョルジュ・サンドの「フランソワ・ル・シャンピ」が、義理の母親と息子の恋愛物語であることに端的に表れています。母が小説の恋愛描写を飛ばして読み進めるのは、それが性的な描写だからではなく、自分と息子との関係を重ね合わせているからです。

    それにしても、「失われた時を求めて」は何度読んでも新しい発見がありますね。

  • 再びプルーストの『失われた時を求めて』の扉を開きました。

    私が最初に読み通した翻訳は集英社の鈴木道彦訳で、この翻訳はそれまでの井上究一郎訳に比べわかりやすく、『失われた時を求めて』を的確で印象的に伝えてくれる翻訳として、今後これ以上のものはないと思っていました。

    ところが昨年、光文社古典新訳文庫から高遠弘美訳、岩波文庫から吉川一義訳が相次いで出版されました。高遠訳はちらっと立ち読み程度での判断ですが、わかりやすいけどやはり鈴木訳の印象的な文章には及ばないと思い読むまでには至らなかったのですが、吉川訳は岩波文庫ということもあり、この本を書店で手に取ったとき受けたとても繊細で"素敵な本"のようなイメージから、読まなくても手元においておくことにました。

    その後、保苅瑞穂先生の『プルースト読書の喜び』を読んだことがきっかけで、再び『失われた時をもとめて』の扉をポルシェ911がそうであるように最新のものが最良という思いもあって、最新の吉川訳で開けることになりました。

    読み始めて、すぐに体が震えてくるような感動を覚えました。文章がすごく滑らかで言葉が体にすっと滲み込んでくるようで、『失われた時を求めて』がとても近くに手に届くものとして感じられたからです。鈴木訳のような印象深い翻訳ではないのですが、流れるような文章がそう感じさせてくれました。だから鈴木訳ではプルーストのイメージを構築するのに時間を要することがあった『失われた時を求めて』を一巻だけですが数日のうちに読み終えることができました。また、註が本文のなかに設けられており、絵や画が豊富なのも『失われた時を求めて』の世界を認識し易くなっています。

    さらにこの吉川訳は原文に忠実になるためにプルーストが思い描いた言葉の印象や、読者が文章を辿りイメージする順序を正確に再現してくれているということで、原文を手にすることができない読者にとっては、『失われた時を求めて』の世界により近付ける翻訳です。

    これから長い時間を要し『失われた時を求めて』をプルーストが託した文章、言葉をゆっくりと胸に刻み込み味わいながら再び読み進めていこうと思っていますが、その思いに応えてくれる大切な一冊となりました。

  • 公刊されている翻訳がいくつかあり、入手しやすいのは集英社文庫の鈴木道彦訳、光文社古典新訳文庫の高遠弘美訳、そして本書の吉川一義訳。立ち読みで読み比べて選んだこの岩波文庫版は大正解であった。原文は知らないが、プルーストの思考の過程=叙述の流れを忠実かつ意味明瞭に日本語化していると明言できる。翻訳の傑作である。

    そして小説自体もまた、当然のように名作。19世紀以前と20世紀以後の分水嶺にある小説としてとても感慨深い。自然描写など、リアリズムでありながらなお最高度の思弁性を備えた文章は20世紀の幕開けに相応しい。

    卑近な出来事から文学、美術、音楽まで広範囲に繰り広げられるプルーストの「思い」は、常に自分自身と繋がっているから、すべてが、どこまでも美しい。それらの源泉となっているのは、モノ・コトに宿る(むしろ宿らせる)記憶。人が記憶に生きるときのリアルこそ、本書を読む愉しみではないか。

  • もしも20代の頃この本をてにしたら、何だかさっぱりわからなくて途中で投げちゃったと思う。年をとることも悪い事ばかりじゃない。
    これと言ったストーリーがある訳じゃなく、主人公が思いをつらつら語ってるだけでなので正直疲れる。それでも主人公の感性が鋭いせいか案外面白い。

    この巻は主人公がⅠでは幼少期、Ⅱでは思春期と思われる。どちらも母方の祖父母の家で長期休暇を過ごした思い出を綴っているが‥‥
    まあああ暇な事❗️
    飲んだり食べたりすることと散歩に行くくらいしかする事がなく、散歩のルートが2つあって、それが「スワン家のほう」と「ゲルトムントのほう」。この2つの言葉は何かを象徴しているのだろうけど、現段階ではよくわからない。
    今後が楽しみ。

  • 一人の少年の心理描写を長々しく綴って物語を完成させた作者・プルーストには脱帽する。
    過去の回想が文章の中心になっている為か、逐一出来事の表現が婉曲でもどかしかった。
    確かに感受性が人並外れて豊かな印象は強いが、それ故孤独感を重んじて時々社交を断っている様子が気になった。
    単に嗜好に耽るのが好きな少年ではなく、鋭い人間観察力を持った現実逃避を好む傾向が強い少年ではないだろうか。
    勉強する場面があまり見られなかった点が不自然に感じられた。
    まだ序盤だが、成長する過程で更に思想思考に耽溺しそうである。

  • <閲覧スタッフより>

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    所在記号:文庫||953.7||フル
    資料番号:10201033
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  • 詳細な地図や図版が載っていたため岩波文庫版を購入。波乱万丈な物語ではなくただ淡々と回想の記述が続くので一巻だけでも読むのに苦戦したけど、読んで良かった。「世にいう人の性格なるものがいかに一面的な見方であるか、ひとりの人間がいかに重層的存在であるかを再認識せずにはいられない」(訳者あとがきより)

  • なかなかおもしろい
    がんばって読みきりたいです

  • まずは1巻。第1編のそのまた第1部。プロローグのプロローグといったところ。マドレーヌのくだりはここ。
    ちょうど今、岩波文庫と光文社古典新訳文庫とで、新たな全訳が進んでいる。どちらも2010年から翻訳が始まり、最終的に全14巻を予定しているところも同じ。同時に2つの翻訳プロジェクトが進行するというのはかなり珍しいことなんじゃないだろうか。新たな読みやすい訳で読むことができるだけでなく、それを選ぶことができるというのはとても良いことだと思う。
    本屋で冒頭何ページか読んでみた結果、個人的に読みやすく感じたのは岩波版。なんとなく文章のリズムが良い気がしたのだが、実際どちらの評価が高いのかはよくわからない。岩波文庫の方が、フォントや行幅に馴染みがあるというのもあるかもしれない。このへんは、好みの問題だと思うので、訳が複数ある場合には実際に手にとって確かめてみる以外にない。訳の正確性については、ネットで見たところどちらも問題なさそうだし。
    数年前にいちど挑戦して挫折したので、今回は二度目の挑戦。今度こそ読みきることができるのか。読み切れたとして果たして何年かかるのか。ゆっくり地道に読んでいきましょう。

  • 記憶の扉は自分の意志とは無関係に開いたり閉じたりする。それを自分ではコントロールできない。

    何かに触れたり、耳にしたり、匂いをかいだり味わったりするとき、突然、火花のように頭の中に印象的な光景が輝くときがある。ついさっきまで、思い出そうとしても思い出せなかったものを、なぜ、思い出すことができるだろう。小説を読みつつ、改めて考えてみると、名作といわれる由縁が見えてくるような気がした。

    たった一切れのマドレーヌと紅茶が主人公を数十年の過去へといざなったように、

    記憶とはただ物質に触れる偶然によってのみ、思い出すことができるものなのだ。

    回想という形式をとりながら、ここまで深く人間の記憶と物質・空間の関係に踏み込んだ文章を書くプルーストの彗眼には恐れ入る。

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