プレヴェール詩集 (岩波文庫 赤)

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  • 岩波書店 (2017年8月21日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (304ページ) / ISBN・EAN: 9784003751718

感想・レビュー・書評

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  • この詩集は、プレヴェールの主要著作のうちの四つから、60篇余りを訳者が選り抜いて訳したものです。

    プレヴェールはシャンソンの名曲『枯葉』の作詞家で他にもシャンソンの名曲をいくつも出がけており、他方、『天井桟敷の人々』や『霧の波止場』などの古い映画で脚本を担当した人です。まったく知らなかったのですけど、フランスの国民的詩人だそう。1900年生まれ、1977年没(ついでながら言うと、僕が生まれた日の二日前に亡くなっていました)。読んでみて、わかるなあ、というタイプの詩はとてもおもしろかったです。

    エンタメ的な柔らかくて甘い口当たりを期待してはいけません。とっつきやすい言葉が並んでいても、一文や単語同士の距離感による効果によって、読者が感じるものは、もっと尖ったものになっていると思います。

    また、詩作というものはだいたいそういうものが多いですけれども、消費耐久性の高い感じがあります。何度読んでも味わいが褪せにくい。そして、その意味の飛躍に憧れながら読んでいると、何かが解放されていくような読み心地になりました。

    死や殺し、暴力などがけっこうよく出てくるのだけれども、それらがないとこれらの詩は、茫洋としてしまうのかもしれない。表現における暴力は、それはそれでなにかを解き放つようです。なにを解き放っているのか? よく考えると、それは「生」なのかもしれない、と思えてくる。

    「朝寝坊」という詩なんかはわかりやすくておもしろい種類の作品でした。「庭」という詩は、永遠の一瞬という言葉がでたあとに、パリのモンスリ公園でのくちづけがでてきます。「永遠の一瞬」と「くちづけ」これはイコールでつながりますよね。ウディ・アレン監督によるパリを舞台としたタイムトラベル映画である『ミッドナイト・イン・パリ』でも、主人公とヒロインがくちづけをしたとき、「永遠を感じた」というセリフがあったような覚えがあります。プレヴェールのこの「庭」が元ネタだったらおもしろいです。



    あと、「はやくこないかな」という詩。このなかでの一節が個人的に笑えたので、引用しておきます。

    __________

    はやくこないかな しずかな一人ぐらし
    はやくこないかな たのしいお葬式
    __________

    →まったくそうだな! と思ってしまいました、不謹慎ながら 笑



    訳者解説部にある、若きプレヴェールを評した、生涯の仲間となるデュアメルの言葉も引用しておきましょう。
    __________

    「その驚くべき個性、ありとあらゆる因襲や権威にたいして反抗的な、絶えず沸騰している精神、そのすばらしい喋り方」(p273)
    __________

    →活気ある精神、エネルギーに満ちて、なにかを創造するに違いない人、といった感じがします。



    最後に、訳者・小笠原豊樹さんがプレヴェールの詩についてやさしく解説してくれているところを引用します。第二次世界大戦後に出版された詩集『ことば』などは、フランスで大ベストセラーとなったそうです。それをふまえて。
    __________

    プレヴェールの詩を読んで味わうには、なんらかの予備知識や、専門的知識や、読む側の身構えなどがほとんど全く不必要であるからです。プレヴェールの詩はちょうど親しいともだちのように微笑を浮かべてあなたを待っています。それはいわば読む前からあなたのものなのです。(p281)
    __________

  • ジャック・プレヴェールは、「枯葉」というシャンソンの作詞でも良く知られています。もの哀しいメロディーの曲で、過ぎた愛を歌い上げていますが、この詩集に収められた他の詩は、予想に反して明るい色調のものが多いです。

    例えば「なくした時間」。天気のいい日に働いていると、みんなが持つであろう気分が軽快に表現されていて、思わず微笑みました。

    また「祭」。生命の神秘と儚さが、短い詩に濃縮されています。

    詩は、詠う人の心のあり方が如実に現れるものだと思います。
    簡潔な言葉で人生のシーンをとらえてみせたプレヴェールの心は、市井で生きる人々の気持ちと同じ目線に立っていたんではないかと感じました。

    個人的に、「枯葉」の「ね、僕は忘れていないだろう(Tu vois, je n’ai pas oublié)」という件は、フランス人の心根の優しさを感じさせる部分です。

  • 永江朗「セゾン文化は何を夢見た」つながり。シャンソンの枯葉の歌詞、じっくり読んだのは初かも。でもくらしは恋人たちを裂く…は、「花束みたいな恋をした」を思い出した。他に、わたしはわたしよもともとこんなよ、夜のパリで三本のマッチを擦った、きみの乳房の先端はぼくのてのひらに新しい運命線をひいた、ロバと王様とわたしあしたはみんな死ぬ、のあたりが特によかった。

  • なにより、訳がよい。
    オンライン講義に目をショボショボさせている折に、「失った時」Le Temps Perduを読むと、ああプレヴェール、君はよく分かっている…と肩を組んでやりたいような気持になる。また、恋路の道づれとして語らうのも愉しい。
    寺山修司が提唱した「ポケットに名言を」放り込むのも、ランボーとか山之口貘のはむづかしくとも、プレヴェールの言葉や茨木のり子なら気軽にできる。

  • プレヴェールを味わうには、わたしの中身がまだ追いついてないな、と感じた。
    知識不要だよって言いながらずっとにこにこして手をこまねいてるけど、わたしがその世界に入り込めない感じ。

    p.23「劣等生」
    p.178「祭」
    p.210「とかげ」
    p.96「夜のパリ」
    三本のマッチ 一本ずつ擦る 夜のなかで
    はじめはきみの顔を隈なく見るため
    つぎはきみの目をみるため
    最後のはきみのくちびるを見るため
    残りのくらやみは今のすべてを想い出すため
    きみを抱きしめながら。

  • スタンドバイミー、グリーンマイルを世に送った小説家スティーヴン・キングは自身の著作でこう語った。「文章とは言葉を使ったテレパシーである(要約)」と。
    この言葉を真に受けるなら、このテレパスをプレヴェールほど上手く使いこなす人を私は見たことがない。
    極限まで削ぎ取られた短い言葉に、ときに身も凍るような冬風の冷たさが、ときに直の太陽を浴びるよりも燦々とした輝きが、そしてときに冷たさにたまらず熾したマッチひとつ分の仄かな温かさが、読み上げた端から頭の中に情景として広がっていくさまは見事としか言いようがない。
    プレヴェールの言葉選びとそれをどう組み合わせれば自分が見た・想像した物と同じ物が相手の内にできるかという計算もさることながら、訳者もまたそのプレヴェールの意を汲み、さまざまな言の葉の中から洋服を組み合わせるかのようにぴったりな言葉同士を多種多様な日本語の内から選び出して、国や言葉を越えた感動をこうして私たちの前に提供していただけたことにひたすら平伏する他なく、陰ながらも決して無視できない職人技だ。

  • 一番好き

    夜のパリ

    三本のマッチ 一本ずつ擦る 夜のなかで
    はじめのはきみの顔を隈なく見るため
    つぎのはきみの目をみるため
    最後のはきみのくちびるを見るため
    残りのくらやみは今のすべを思い出すため
    きみを抱きしめながら

  • 岩波文庫赤

    プレヴェール 詩集 小笠原豊樹 訳

    対象や景色を細かく描写しているため、叙情詩というより 短編小説を読んでいる感じ。叙景詩というのだろうか?

    詩から物語を想像しやすい。戦後の民衆の苦悩、資本主義への批判をイメージして 詩を詠んだ。「赤い血」という表現には驚いたが、ほとばしる生命 と解釈した

    リフレイン や リズムに 法則性があり、言葉としても面白い。訳が上手い?


    ことば
    「くじら釣り」息子の自分、父親殺し、くじら=息子の自我?
    「われらの父よ」この世のすべてのすばらしさは 地上にあります
    「景色が変わる」二つある、一つは月、もう一つは太陽、貧乏人 労働者に この二つは見えない
    「血まみれの唄」生きものはすべて地球といっしょにまわって血を流す
    「唄」きょうは 一生だよ

  • 『ことば』より
    『見世物』より
    『雨とお天気』より
    『ものがたり』より
    (シャンソン)枯葉

    著者:ジャック・プレヴェール(Prévert, Jacques, 1900-1977、フランス、詩人)
    訳者:小笠原豊樹(1932-2014、北海道京極町、詩人)
    解説:谷川俊太郎(1931-、杉並区、詩人)

  • 詩に馴染みの薄い私でも抵抗なく。

  • 20世紀に活躍したフランスの詩人、ジャック・プレヴェールの詩集。
    シャンソン『枯葉』の作詞者であり、映画『天井桟敷の人々』の脚本家としても有名だけど、詩としては
    「三本のマッチ 一本ずつ擦る 夜のなかで」と始まる短い恋愛詩(『夜のパリ』)や、
    「天にましますわれらの父よ/天にとどまりたまえ/われらは地上にのこります/地上はときどきうつくしい」という語で始まる詩(『われらの父よ』)などをよく目にする。
    肩肘張らずに読める、軽妙洒脱で、機智とユーモアに溢れた詩集。巻末に付された谷川俊太郎の解説文も、洒落ていて面白い。

  • 小笠原豊樹の訳の美しさに感激。
    「きょうはなんにち/きょうは毎日だよ/かわいいひと/きょうは一生だよ/いとしいひと/ぼくらは愛し合って生きる/ぼくらは生きて愛し合う/ぼくらは知らない 生きるってなんだろう/ぼくらは知らない 日にちってなんだろう/ぼくらは知らない 愛ってなんだろう。」(唄)

  • 谷川俊太郎が影響を受けたもののひとつに挙げていた。言われてみれば、似た空気がある。だから好き

  • 素敵なおじさん。フランスの詩集。

  • 小笠原豊樹さんの訳が素晴らしい。詩人のたましいの共鳴。読んでいてうれしくなる。

  • フランス語のペーパーバックを先に読んだのだけれど、日本語で読むとまた味わい深い。そういう意味では日本語ってすごいとも思う。谷川俊太郎さんの解説もいい。

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著者プロフィール

小笠原 豊樹(おがさわら・とよき)
1932年生まれ。2014年没。訳書にマヤコフスキー、ソルジェニーツィン、プレヴェール、ロス・マクドナルド、ブラッドベリ、トロワイヤなど多数。2014年に著書『マヤコフスキー事件』で第65回読売文学賞(評論・伝記賞)受賞。また岩田宏名義で、詩をはじめ随筆、小説、評論を多数発表。1966年に「岩田宏詩集」で藤村記念歴程賞受賞。

「2019年 『文庫 亡命者トロツキー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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