- Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
- / ISBN・EAN: 9784003770214
作品紹介・あらすじ
1959年にノーベル文学賞を受賞した、20世紀イタリアを代表する詩人サルヴァトーレ・クァジーモド(1901‐68)は、ファシズムの暴虐に抗して、人間を蹂躙する現実への激しい怒りを表現し、戦後は冷戦や核の恐怖を見据えた強靱な社会詩を書き続けた。社会の悲惨、歴史の苦悩に対峙する詩篇の圧倒的な強さと深さと重みが胸をうつ。
感想・レビュー・書評
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好きな詩風。『傍観』を感じるかな。もうそうなってしまったのだと、現実や変移に対しての無防備さが備わっていると思う。だから紡がれる言葉が、作ったものというよりは、『流れて来たもの』という印象を抱かせる。
参考にしたいところはあれど、自分のこれから作っていくのは、やはりこちらの方向にはなく、原民喜や古今などの系譜にあるのかなと改めて確認した。
〇
①日は傾き
ぼくは荒廃している、主よ、
あなたの真昼のなかで、
あらゆる光に閉ざされたまま。
あなたがいないので怯えている、
失われてしまった愛の道
そしてぼくに恩寵はなく
ぼくの意志は枯れてしまい、
小声で祈り唄うことすらできない
ぼくはあなたを愛し罵倒してきた
いま日は傾き
ぼくは空から影をひきずりおろす、
ああ悲しくも貪欲な
ぼくの心よ!
②爽やかな海辺
あたりを揺るがしてたったいま
蠢いていた波を
新しい波が打ち砕き
光と砂礫とを引き出してゆく爽やかな海辺よ
ぼくの命はあなたに似ている
揺り動かされ目覚めてはあなたに聞き入る、
そして途切れれば自失するぼくの空、
夜目にも清らかに浮かびあがる木立ち
③鏡
またもや幹を
破って出る芽
心を和ませる
草よりも新しい緑
水辺に身を折り曲げて
死んだかにみえた幹
すべては奇蹟とぼくの目に映る。
そして今日は小川のなかに
空よりも青いかけらを映し出す
あの雨水はぼくだ
そして樹皮を裂いて出る
あの緑も昨夜はなかった。
④夜の小鳥たちの隠れ家
高みに一本のよじれた松がある、
弓なりに幹を差し出し、
一心に奈落の音を聞いている。
夜の小鳥たちの隠れ家
ものみな死滅した時刻に響きわたる
すばやい翼の羽ばたき。
ぼくの心にもその巣がある
暗闇に吊るされて、一つの声がある
そして夜更けには、耳を澄ませている。
⑤沈んだ木笛
願い求めた寂寞の
この最後の時までも、惨い苦痛よ、
あなたは贈物を届けてくる。
冷たい木笛がまたも奏でる
ぼくのではない、尽きない緑の
葉の喜びを、そして記憶は薄れてゆく。
ぼくのなかに日は暮れてゆく、
草のような手のひらに
水が垂れこめてくる。
虚ろな空に翼は飛び交い、
消えてゆく。心はいま移りゆく
そしてぼくは荒れ果てた土塊だ
そして日々は崩れ落ちた石屑だ
〇耐え忍ぶ一日を
耐え忍ぶ一日を
あなたに委ねます、主よ、
癒されることのない病、
退屈に膝は砕けてしまった。
ぼくは棄てる、ぼくは棄てる。
春の叫びよ、
ぼくの目はをふさぐ土には
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