物理学はいかに創られたか(上) (岩波新書)

  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (177ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004000143

感想・レビュー・書評

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  • 力学的自然観が勃興してから衰退するまでの理論的観点を描いています。物理学における観念世界,すなわち理論的な考え方がどのように進展していったかを強調する書き方になっていて,数式なしに説明しています。どんな実験も理論が必要であることを述べているという点で,本書のタイトル「いかにして」の答えは「理論の発展である」ということでしょう。

    *****
     コナン・ドイルの名作以来,どの探偵小説にも大概は,探偵が少なくとも問題のある方面に関しては,必要なだけの事実をことごとく集めてしまう時期があります。これらの事実は多くの場合に,全く異様な,支離滅裂な,何の関係もないもののように見えます。しかし名探偵は,その時はもうそれ以上の調査は不必要で,ただ思索のみがその集められた事実を関係づけるものだということを知っているのです。だから彼はヴァイオリンを弾き,あるいは安楽椅子にもたれて悠然と煙草をふかし,しかもたちまちにしてこれを解決するのです。そして手許に得た手がかりの説明がつくばかりでなく,何か他の事も起ったにちがいないとわかるのです。その事柄はどこへ行けばわかるかが,今は彼にははっきり知れておりますから,何なら自分の理論を更に確かめに出掛けてもよいのです。(p.6)

     誤った手がかりが話の筋をもつれさせて解決を延ばしてしまうことは探偵小説の読者のよく知るところです。直観の命ずる推理法が誤っていて運動の間違った観念に導き,この観念が何世紀の間も行なわれたのです。このような直観が長く信じられていたおもな理由は恐らくアリストテレスの思想が全欧州に有力であったからでしょう。二千年間彼の著書と考えられて来た『力学』書の中に次のように書かれています。
      運動体はこれを押す力がその働きを失った時に静止する。
     ガリレイが科学的論理を発見してこれを用いたということは思想史上の最も重要な大業の一つであって,これが真の意味における物理学の第一歩となっています。ガリレイの発見は直接の観察に基づく直観的結論は誤った手がかりに導くことがあるから,必ずしも信用が置けるものではないことを私たちに教えたのです。
     しかし直観はどこが悪いのでしょうか。四頭立の馬車が二頭立の馬車より速く走るというのが悪いのでしょうか。
     運動の基本的事実をもっと綿密に調べてみましょう。まず激烈な生存競争から得られ,文明の初期から人類に熟知されて来ている日常経験から出発しましょう。
     誰かが平坦な道を手押車を押して行って,突然押すのを止めてしまうとします。車はある短い距離だけ運動を続けてから止まるでしょう。私たちはこう尋ねます。「この距離を増すのにはどうしたらよいでしょうか。」これにはいろいろな方法があります。例えば車に油をさしてもよいでしょうし,道を非常に滑らかにしてもよいでしょう。車の回転が容易な程,また道が滑らかなら滑らかな程,車は長く運動を続けるでしょう。だが一体油をさすとか滑らかにするということがどういう役目をしたのでしょうか。それはただ外部の影響を少なくしたというだけのことです。摩擦と呼ばれる作用が車においても,車と道との間においても減らされたのです。これは現に,目に見える明瞭な事実の理論的説明ですが,この説明は実はまだひとりよがりなものに過ぎません。ここでもう一歩正しく進めば正しい手がかりが得られるでしょう。道が完全に滑らかで車には全然摩擦がないと考えてごらんなさい。そうすれば何物も車を止めるものはなく,従ってそれは永久に走り続けるでしょう。この結論はただ理想化された実験を考えて始めて得られるのですが,外部的な影響を全然排除することは出来ませんから,そういう理想化された実験を現実に行なうことは決して出来るものではありません。しかし,真に運動の力学の基礎をなしている手がかりはこの理想化された実験が教えてくれるのです。(pp.8-9)

    科学的の想像が,古い概念の余りに狭苦しいのに気づいて,これを新しい概念で置き換えるのです。どんな方面のことでも一度創始された線に沿って発展を続けて行くということの方が革命的である場合よりも多いのですが,何かしらある次の転換期に達すると,そこでまた新しい視野が拓けてゆくのです。しかしながら,一体どんな理由で,どのような困難が起きて,重要な概念を変更させるようになるかを理解するためには,単に初めの手がかりのみでなく,それから導かれる種々の結論をも知らなければなりません。(pp.30-31)

     数量的の結論を引き出すためには,数量の言葉を使わなくてはなりません。科学の根本的な思考の大多数は本来簡単で,大抵は誰にもわかる言葉で言い表せるものです。ところがこれらの思考を推し進めて行こうとすると,非常に洗練された研究手段を使わなくてはならなくなります。実験と比較され得るような結論を引出そうとすると,どうしても論理の手段として数学を必要になってきます。(pp.31-32)

     物理学の概念は人間の心の自由な創作です。そしてそれは外界によって一義的に決定せられるように見えても,実はそうではないのです。真実を理解しようとするのは,あたかも閉じられた時計の内部の装置を知ろうとするのに似ています。時計の面や動く針が見え,その音も聞こえて来ますが,それを開く術はないのです。だからもし才能のある人ならば,自分の観察する限りの事柄に矛盾しない構造を心に描くことは出来ましょう。しかし自分の想像が,観察を説明することの出来る唯一のものだとは言えません。自分の想像を,真の構造と比べることは出来ないし,そんな比較が出来るかどうか,またはその比較がどういう意味をもつかをさえ考えるわけにゆかないのです。けれども,その知識が進むにつれて,自分の想像が段々に簡単なものになり,次第に広い範囲の感覚的印象を説明し得るようになると信ずるに違いありません。また知識には理想的な極限があり,これは人間の頭脳によって近づくことのできるのを信じてよいでしょう。この極限を客観的真理と呼んでもよいのです。(pp.35-36)

    科学の一部門に発展した思想の線は,外見上全く性質の異なった事柄の記述に適用し得ることがしばしばあります。かかる場合に,もとの概念が,その発生の源となった現象をも,並びにそれを新たに適用する現象をも,共に理解することの出来るように修正されることも稀ではありません。(p.42)

    科学の上で大きな進歩の見られるのは,殆んどいつも理論に対していろいろな困難が起り,危機に出遭った際にこれを脱却しようとする努力を通じてなされるのであります。私たちは,古い観念や,古い理論を検討してゆかなくてはなりません。過去にはそれでよかったものの,同時にその検討によって新しいものの必要を理解し,かつ前のものの成立する限度を明らかに知ることが大切です。(p.86)

    問題を公式的に示すのは,それを解くことよりも大体において一層本質的な事柄です。解くことはいわば単に数学的であるか,または実験的の技巧に属するからです。新しい疑問や,新しい可能性を提起し,新しい角度から古い問題を眺めるのは,創造的な想像力を要し,かつ科学の上で真の進歩を特徴づけるものです。(p.106)

     たとえて言えば,新しい理論をつくるのは,古い納屋を取りこわして,その跡に摩天楼を建てるといのとは違います。それよりもむしろ,山に登ってゆくと,だんだんに新しい広々とした展望が開けて来て,最初の出発点からはまるで思いもよらなかった周囲のたくさんの長めを見つけ出すというのと,よく似ています。それでもしかし出発点は依然として存在し,かつそれを見ることができるにちがいないので,ただ私たちが冒険的な路をたどっていろいろな障害物を踏み越えて来たことによって,この出発点はやがてだんだんに小さく見え,私たちの広い眺めの些細な部分をなすのに過ぎなくなるのです。(pp.175-177)

  • 昔の本だからか、翻訳が良くないのかわかりにくい文章で、なかなか進まなかったが、いくつかの物理的現象の発見の経緯を知ることができたのは良かった。

    物理学の内容以上に心に残ったのは、
    アインシュタインが、物理学を一般の人にわかりやすく伝えようとする姿勢、
    対極の意見であっても客観的に評価し、正しいと思われる現象が多い方を採択する姿勢、
    であった。

  • アインシュタインがこのような物理学の歴史とその延長線上にある相対性理論と量子力学について一般の人向けに書いた本があるとは知らなかった。ニュートン力学から始まり、場の理論、相対性理論、量子力学と順序立てて書いてあるので、いきなり相対性理論を勉強するよりはるかに分かりやすい。ただし、訳の問題なのか、言い回しがくどく何を言っているかわからないところが少々気になった。素晴らしい本と思ったがこの直後に、「E=mc2のからくり」(ブルーバックス)を読んだところ、同じような内容でそちらの方が断然分かりやすかったので、こちらは☆3つにした。

  • アインシュタインとインフェルトが現代物理学の全貌を、専門的予備知識をもたない読者のために平易に解説した一冊。

  • アインシュタインが、極力数学を使わず平易に物理学について紹介した本。一般人向けに書かれた本なので、とても分かりやすい。運動やエネルギーの話から電気、光の話に進んでいくが、とてもワクワクしながら読むことができた。
    科学を探偵になぞらえて説明をしたりしているのも面白い。
    新しく理論をつくるのは、古い納屋を取り壊して摩天楼を建てるのではなく、山に登ってゆくとだんだんに新しい広々とした展望がひらけてきてたくさんの眺めをみつけだすことに似ている、という言葉がとても印象的だった。

  • 購入: 1972年3月3日
    廃棄: 2022年4月22日

  • 物理学はいかに創られたか―初期の観念から相対性理論及び量子論への思想の発展 (上巻)
    (和書)2009年10月03日 21:34
    1963 岩波書店 アインシュタイン, インフェルト, 石原 純


    物理学の真理の形成が綴られている。真理はその全てを覆されると言う状況を孕みつつ形成されているというところが興味深い。読んでいてわくわくします。

    高校の時の物理学の授業を思い出す。そこで行った実験が物理学の形成を辿っていたんだなってことを知った。ただそれ自体その一切の諸関係が覆されてしまうかもしれないということ。そのことを知っていたらもっと楽しく授業を受けることができたと思う。

    高校一年の時のクラス担任が物理担当で柔道をやっていたという、よしおか先生だった。あの頃を懐かしく思い出す。

    基本的なことだが大変重要な具体的で簡潔な実験が出てくるがなかなかその実験を理解できなかった。そこが分かればもっと面白いと思う。

    下巻も楽しみです。

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    https://elib.maruzen.co.jp/elib/html/BookDetail/Id/3000072844

    ※学外から利用する場合は、「学認アカウントを・・・」をクリックし、所属機関に本学を選択してキャンパスIDでログインしてください。

  • 105円購入2011-01-27

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