日本の数学 (岩波新書 赤版 61)

著者 :
  • 岩波書店
3.80
  • (1)
  • (2)
  • (2)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 49
感想 : 6
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (170ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004000167

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 読み易い。
    ざっくり1900年初期頃までの数学の歴史が書かれている。
    参考文献を細かくは載せていないが、歴史上の事実や実際の文献に即している部分が多い。写真による古い文献などは見ていて進歩の度合いが分かり易い。

    日本の数学は諸外国の影響を強く受けており、自分たちで発展させたというよりも世界中の発展をうまく取り入れた歴史のように思われた。
    その道中で独自進化した和算の隆盛と衰退はまるで大河ドラマのような面白さがあり、当時の和算家たちの人生を想像すると、また別の楽しみ方ができる。

  • その昔、日本には独自の数学、和算(わさん)が行われていた。極東にある日本は西洋からは地理的に遠く、主に中国の影響を受けた。当初、日本の数学も中国の影響下にあったが、関孝和という数学者の登場により、独自の道を歩み始めた。閉鎖的な環境で独自の発展をした和算であるが、明治期に入り廃れる。本書は、この和算の歴史を扱ったものである。ずいぶん昔に出版された本であるが、いまだに一般向けの解説書として通用している。

    (数学科 ペンネーム「鮒一鉢二鉢」先生おすすめ)

  • 専門家ではない、一般のひとに向けておこなわれた五日間の講義をもとにした本で、和算の歴史とその限界について、わかりやすいことばで語られています。

    著者は、和算にたずさわった人びとの直観的な洞察力に高い評価をあたえながらも、西洋の数学とは異なり、自然科学との密接な結びつきのなかで発展する道をもたず、そのためにやがて廃れざるをえなかったと結論づけています。また著者は、和算がギルド的なかたちでしか継承されることがなく、一般の人びとに対して十分に開かれていなかったことで、秘術化されてしまい、西洋数学に後れをとることになったと指摘しています。

    和算という学問的な営みを、日本の文化のなかに置きなおし、その特質と限界を明らかにするという著者の観点が興味深く感じました。

  • 江戸時代、日本では中国より伝来した数学が独自の発展を遂げました。
    この数学を和算と呼ぶのですが、映画化もされた冲方丁の「天地明察」などによってこれをご存じの方も多いのではないでしょうか。

    本書はこの和算を取り上げたもので、その発展の歴史を中心に日本の数学史の解説を行なっています。
    元々、毎日25分、計5日間のラジオ番組の原稿を基にしていますので、本書内に数カ所出てくる数式をスラっと読み飛ばしても十分に本筋を理解できるように書かれている等、数学に馴染みのない読者にも分かりやすい内容となっています。

    では、前置きはこの位にして以下に簡単に内容をご紹介。

    江戸時代、最初は京阪、次いで江戸でも和算が盛んになった。
    当初は日常生活において利用される算術の解説本が大ヒットするなどであったが、これがやがて円周の長さや円の面積、一次方程式の解法を解明する等、徐々に発展してきた。
    やがて、和算家たちはギルド化し、その研究成果を非公開独占化。
    その一方で、和算家間の激しい競争により、(科学としての本質的な発展ではなく)技巧の追求が和算の主流となった。
    この動きは世間から「和算は役に立たない」との批評を受けることにもつながったが、これに対して和算家たちは「無用の用」と言う言葉を好んで使うようになった。
    とは言え、技巧の追求を突き詰めた結果、これらの研究成果を体系的にまとめようとする動きも現れ始めた。
    が、ここに黒船到来。

    国防分野への応用が出来なかった和算は世間から退場し、代わりに当時「洋算」と呼ばれた西洋の数学(今、日本人が数学と聞いて連想するものです)が急速に台頭。
    洋算の導入において大きな混乱も見られてが、日露戦争後には洋算が完全に根付き、これの研究が盛んとなってきた。



    "上記で、本書はラジオ番組の原稿を基に執筆されたとご紹介しましたが、この書評をお読みの方の中には「なぜラジオ?」と疑問を抱かれた方がおられるかも知れません。
    実は本書が執筆されたのは、昭和15年。
    放送と言えばラジオのみの時代です。

    声だけで何かを伝える事が出来ると言う事は、文字だけでも何かを伝えることが出来ると言う事でもありますし、また本書には数多くの解説図が掲載されていますので、語り口調で書かれた文章とともに理解を容易にしてくれるのではないかと思います。"


    本書を読んで思ったことは異質な存在の重要性です。

    ヨーロッパにおいて、数学は物理学や天文学などのニーズに応えながら発展を遂げてきました。
    一方で和算の場合、日本で自然科学が発展しなかったという事もあり、「和算の為の和算」と言う日本独特の発展の歴史をたどって来ました。
    その結果、和算は技巧の追求へと突き進み、また中国経由で伝来してきた洋算がその発展前の時代のものだったと言う事もあって、和算家たちの間に「和算の方が優れている」との誤解が定着しました。

    そして・・・・
    幕末から明治維新にかけて洋算に接した日本人は、和算とは一般化が進んだ洋算の極一部に該当するに過ぎず、個別の問題の解法を追求したものであったと言う現実に直面しました。

    しかし、これは和算家たちの能力が不足していたのではなく、(洋算とは違って)異質な存在からの刺激がなかったからです。

    "尚、先日読んだ「数学で生命の謎を解く:イアン・スチュアート著」によれば、物理学とともに発展をしてきた数学が、21世紀においてはより複雑な生物学とともに発展していくと解説されていました。
    和算を突き放したヨーロッパ数学の発展を振り返れば、この生物学との連携は数学の発展に大きく寄与するでしょう。
    "


    従って数学における¨異質¨の重要性は明らかです。

    また、数学とは人間の知的活動の成果です。
    つまり、数学において¨異質¨が重要であるという事は、人間の精神活動全てにおいて¨異質¨が重要であるという事でもあります。

    この様に、本書は数学、その中でも和算と言う極一部を取り上げた本ではありますが、社会を、そして人間の心を発展させる方法を示唆している本でもないでしょうか?

    数学の歴史を通して人間の本質をつく。

    間違い無しの良著です。

  • [ 内容 ]
    古代から現代にいたるまでのわが日本の数学はどんなものであったか。
    また、なぜそうなったのか。
    本書は、この課題に対する答案である。
    和算は、わが国の学問の中でも最もよく日本人の独創性を発揮したものの一つである。
    世界科学史上に輝く和算や明治期の数学を、本人の性格や社会文化との関連のもとに解明する。

    [ 目次 ]


    [ POP ]


    [ おすすめ度 ]

    ☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
    ☆☆☆☆☆☆☆ 文章
    ☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
    ☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
    共感度(空振り三振・一部・参った!)
    読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)

    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • 和算の事を知りたいと思って読んだのですが、歴史や概要が平易な文章で説明されており、初心者にはちょうど良かったと思う。が、少々物足りない、という気もする。

全6件中 1 - 6件を表示

小倉金之助の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×