水俣病 (岩波新書 青版 B-113)

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  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (244ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004111139

感想・レビュー・書評

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  • 社会に大きな影響を与えた公害病である水俣病についてその原因追究の過程、企業の利潤追求や行政の姿勢、患者のおかれた立場などについて患者の側にたって水俣病を告発していた医師が記したもの。
    (選定年度:2016~)

  • 「安全性の考え方」に学ぶ

    表題は武谷三男氏の著書名。
    武谷氏の著作を根拠に、本書の中で企業の環境マネジメントにおける善管注意義務を語る。

    そのポイントだけを言うと、
    ・危険なものはできるだけ外へ出さないのが、
    排水処理の根本原理。
    ・排水の処理方法が研究、調査されるべき。
    ・排水後も環境に異常がないか常に監視すべき。

    さらに筆者は、
    企業は安全性不明の排水から生じる危険を予見しこれを未然に防ぐ必要な処理を講ずるべきと主張し、
    予見の対象をメチル水銀に限定するチッソの態度は「言い逃れ」に過ぎないと断ずる。

    企業はなぜ環境マネジメントをやらないといけないのか、その答えがわからなくなった時本書へ帰ってくる、
    そんな位置づけの本。

  • このルポは。1972年までに著者が熊本水俣病・第二の水俣病とも言われた新潟水俣病について、解説し被害者の生活から経済なども書かれています。ただ、1972年までなので現在解っている事でも書かれていない場合もあります。

  • 今日、日本の各地で漁業被害や動植物の被害が問題になると、それをある程度やむを得ない必要悪のように言う風潮がある。また人間と魚とどちらが大事かなという議論が出てきたりする。しかし問題は、そのような議論ではなく、そのような環境異変(魚の被害など)の次にやられるものは人間であるということなのだ。そのことを水俣ははっきりと示している。(p.15)

    今まで、症状の程度によって補償に差をつけるという考え方を、私たちは非常に無批判に受けいれていたのであるが、その症状の重さ軽さを決める基準というものは、きわめてあいまいであることを知らねばならないと思う。
    さまざまな矛盾を持ったランクづけによる機械的な症度分け、それによる補償の差という考え方が、無批判にいろんなものの補償に拡大されていては困るのである。

    ここにも私は人類の罪悪を見た。人間が人間に挑戦してきた犯罪をみた。原爆に関しては、まだ問題は山積みされて残っているが、その中に、水俣がかかえている問題についてのいくつかの示唆に富む事実を見出すことができた。水俣病は人類が経験した環境汚染としては史上最初にして最大級のものであるが、放射能汚染もまた、汚染のメカニズム、規模においては異なるが、人類が初めて経験した巨大な環境汚染といっていい。したがって今後、被爆者や汚染された住民がどのような経過をたどるのか、不明であることは両者とも同じである。この不幸な経験を活かすためにも、今後一〇-二〇年以上も追究しなければならない(p.236)。

  • 一見とっつきにくそうな見た目、タイトル、そして本を開いてびっしりを細かい活字やグラフが並んでいるのを見て一瞬ためらったが、読み始めると止まらない感じでぐいぐい読ませる良書だった。

    水俣病の診断と研究に心血を注いだ筆者が、昭和46年当時の水俣病の状況について、様々な観点から論じた本。
    水俣病の発見と原因の特定にはじまり、それでも原因物質を垂れ流し続けた企業論理との対決、そして水俣病の実態とは何か、その中で医師の役割とは、といった感じで話が進む。

    今から40年前に書かれた本でありながら、全く古さを感じさせない。
    公害問題が起こったときの安全性や保障についての考え方、公害病の診断、認定の基準についての考え方など、勉強になった。
    ただ、安全性についての、武谷氏の「安全性の考え方」から引用されている、「放射能が完全に無害だと証明されない限り核実験はすべきではない」というような主張はいまいち腑に落ちなかった。
    それではどんな経済活動もできなくなってしまうが、それは同書からの引用「許容量とは科学的な概念でなく社会的な概念である」(つまりトレードオフ?)という部分が絡んでくると思うが、上記の部分とうまく繋がっていないような気がした。
    同書もいずれ目を通したいところだ。

    本書の最後の方で、原因物質に特有な症状が消えても、表面上は成人病や神経薄弱といった症状に姿を変えて、水俣病は世代を超えて残り続け、今後は疫学的な、継続的な研究が必要であろうという話があって、背筋が寒くなった。
    また、こういった新しい種類の毒というのは、本来毒をブロックする胎盤を通り抜けてしまい、出産という形で母体が毒を排出するという、種の保存とは逆の作用をもたらしているという話もあり、筆者と同じで、戦慄を覚えた。
    筆者は、そうして人類のレベルは低下していくのでは、というような感想を漏らしているが、全く笑い飛ばせない。
    公害問題というのは一時期騒がれて終わった気になってしまうが、基本的にとりかえしがつかないということが分かった。

    しかし、水俣病の患者の惨状というのは、学校で習ったつもりではあったが、やはりすさまじい。
    一方では多くの被害者の人格が完全に変わるほどの毒を垂れ流しながら(しかも影響が顕著なのが分かっても当該企業は続けていた。)、一方ではその診断や研究に奔走する。
    筆者もその点について奇妙な感慨のようなものを抱いたようだが、本当に人間というは奇妙な生き物だ。

  • 衝撃的。水俣病はまだおわっていないことを痛感させられる。

  • 水俣病の臨床をその初期から現在まで続けている医師、原田正純先生によって1972年に書かれた本。「公害」について、「公害に対する国や企業の姿勢」についての本質を痛感すること請け合いです。今回の福島第一原発事故も間違いなく「公害」であり、すべての人、特に医療者は必読と思いました。久々に赤線を引きまくった本でした。

  • [ 内容 ]
    公害病の中でも大規模で最も悲惨なものの一つ、水俣病。
    苦痛に絶叫しながら亡くなった人々や胎児性患者のことは世界的にも知られているが、有機水銀によるこの環境破壊の恐るべき全貌は、いまだに探りつくされてはいない。
    長年患者を診察してその実態の解明にとりくんできた一医学者の体験と反省は、貴重な教訓に満ちている。

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    [ 参考となる書評 ]

  • 4004111137 243p 1989・9・5 22刷

  • 水俣病とはなにか。その背景を理解する必読本。

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著者プロフィール

1934年鹿児島県生まれ。熊本大学助教授を経て1999年より熊本学園大学教授。胎児生水俣病、三池一酸化炭素中毒、カネミ油症など社会医学的研究を行う。また世界各地の水銀汚染や砒素中毒を調査。著書に『水俣病』、『水俣が映す世界』、『水俣学研究序説』ほか多数。日本精神神経学会賞、大佛次郎賞、アジア太平洋環境賞など受賞。

「2009年 『宝子たち 胎児性水俣病に学んだ50年』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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