パスカル (岩波新書 青版 145)

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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004120216

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  • 「人間は一本の葺に過ぎぬ。自然のうちで最も弱い葺に過ぎぬ。しかしそれは考える葦である。これを圧しつぶすのに宇宙全体が武装する必要はない。・・・しかし宇宙が彼を圧しつぶす時も、人間は彼を殺すものよりも高貴であろう。なぜなら人間は自分が死ぬこと、宇宙が力において自分に勝ることを知っているからである。宇宙はそれを知らない。」パンセと聞けば誰しもこの殺し文句を思い浮かべる。確かに魅力的な言葉であるが、果たしてどれだけの者がパスカルの真意を正しく理解しているだろうか。

    パスカルと同様デカルトも無限の拡がりを持つ宇宙に比して、遥かにちっぽけでありながら、ある意味で宇宙をつつむ「思惟」を「われ」の本質と考え、自らの哲学の基礎に置いた。しかしそこから「いかに生くべきか」という問いに対して、二人は正反対の途を歩む。デカルトは宇宙の後ろにゆっくりと控え、それを思惟する賢者として生きた。パスカルはこの宇宙を「牢獄」と感じ、この世を憎み、自己を憎み、神のみを愛することによって宇宙を突き抜けようとした。だからパスカルにとって「考える葦」とは、疑い得ない確実な実体であるどころか、あくまで神への階梯としてのみ意義を持つに過ぎない。

    野田又夫は岩波新書のもう一つの超ロングセラー『 デカルト 』の著者でもあるが、この対照的な二人の巨人の思想を平易に解き明かした手腕は名人芸と言う他ない。本書は数多あるパスカル入門の中でも屈指の名著と言ってよいが、パスカルの科学者としての業績とともに、そこから導かれる世界像と彼の思想の連関について比較的詳しく論じているのが特徴だ。「空間において、点は線に加えるところなく、線は面に、面は体に加えるところがない」この互いに隔絶した多次元的秩序として世界を捉える視点は、「慈悲」(=神の愛) の秩序と「精神」(=人間の理性)の秩序との間に、越えがたい断絶を見る視点とパラレルである。

  • 当時の宗教の影響力を考える必要はあるが、彼の1654年11月23日の宗教体験が彼のその後や思想を決定づけ、現在の私たちを説得させうる多くの言葉の元となった事は、正しい宗教への接触がどう一人間を形作るか、今後の私たちの生き方を想う上で非常に興味深い。

  • 2014年12月復刊。

    紹介文……“現代人の不安と焦躁の底にひそむものは何か.世界を客観的に把握し,冷静に見つめながら,同時に人間存在そのものを問いつめる現代人の内心の叫びに応えるのはパスカルの言葉である.科学者としての鋭い眼で社会と政治を厳しく批判しながら,それを支えるものとしての信仰を告白することにより,彼はわれわれの生の強力な助言者となる.”

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著者プロフィール

野田又夫

明治四十三年(一九一〇)、大阪府に生まれる。昭和八年、京都帝国大学哲学科卒業。昭和十年、大阪高等学校教授、昭和二十二年、京都大学に転じ、同大学教授。専攻は西洋近世哲学。著書に『デカルト』(西哲叢書)、『哲学入門』『近代精神素描』『啓蒙主義とヒューマニズム』『デカルトとその時代』『ルネサンスの思想家たち』などがあり、訳書にラヴェッソン『習慣論』、デカルト『精神指導の規則』、ブートルー『自然法則の偶然性』、ラッセル『私の哲学の発展』などがある。平成十六年(二〇〇四)没。

「2019年 『方法序説・情念論』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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