現代日本の思想: その五つの渦 (岩波新書 青版 257)

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  • Amazon.co.jp ・本 (233ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004120414

感想・レビュー・書評

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  • 久野収・鶴見俊輔の両氏による1956年に共著。白樺派、日本共産党、生活綴り方運動、超国家主義(北一輝とか)、戦後の世相の5つに対して、鋭い分析が加えられる。本書刊行時、久野さんは46歳、鶴見さんに至っては34歳ということにまず驚く。

    超国家主義は久野、それ以外は執筆が執筆している。あとがきによるとあくまでも全体が共同討論の結果とあるが、やはり鶴見さんの執筆部分には独特のウェットさが感じられる。たとえば、戦前の日本共産党の運動方針を手厳しく批判しつつも、「私たちは、思想を大切なものと思うかぎり、日本共産党の誠実さに学びたい」と付け加えたりするのは、久野さんにはない筆致である。また、生活綴り方運動(いわゆる作文教育)をアマチュアを含めて全国民的スケールで広く展開された運動として、また米国のプラグマティズム哲学と対等に比較できる思想として高く評価する点も、鶴見さんらしいまなざしを感じた。

  • 戦前から敗戦にかけての日本の思想の五大潮流について解説。思想の特徴と限界が明確に論じられている。

  • 戦後民主主義を領導した思想家として知られる鶴見俊輔と久野収が、現実と密接にかかわる日本の思想史の五つの潮流について論じている本です。

    本書でとりあげられている思想は、白樺派の観念論、日本共産党の唯物論、「生活綴り方運動」にみられるプラグマティズム、北一輝らの超国家主義の思想、「戦後派」の意識に根づいている実存主義の五つです。とくに鶴見は、アメリカのプラグマティズムの洗礼を受けた思想家として知られていますが、生活綴り方運動に日本の現実に根差したプラグマティズムの具体的なかたちを認めることができると論じています。また、共産主義についての考察は、鶴見の主要な仕事のひとつとみなすことのできる「転向」をめぐる研究に通じる議論が簡潔ながらも説明されています。

    さらに、徳富蘇峰のような思想家が戦後になってかつての民主主義的な考えの記憶を呼び覚ますことができたのに対して、「戦後派」は軍国主義的な教育が崩れ去ったあとに自分たちの依拠するべき思想の空白を体験したと著者たちは述べています。そして、こうした事情が「戦後派」の意識を深く規定しており、「実存主義」と呼ぶことのできるような特徴が彼らの思想的な態度を覆うことになったということが論じられています。

    「戦後」という時代が、同時代の思想家たちによってどのように認識されていたのかという観点から、興味深く読みました。

  • 渡邊太先生 おすすめ
    9【教養】121.6-S

    ★ブックリストのコメント
    明治維新以降、めまぐるしく変化する社会のなかで現実と対峙した思想として、観念論、唯物論、プラグマティズム、超国家主義、実存主義をとりあげ、それぞれの特徴をあきらかにする。現代に置き換えて読み直したい。

  • 現代というのは本書が書かれた1956年のことである。戦後派の思想として、最後に実存主義でしめるが、それに至る過程として、白樺派に始まる日本の観念論、日本共産党に始まる日本の唯物論、生活綴り方運動に始まる日本のプラグマティズム、戦争に向かっていく日本の超国家主義、について、公平な立場で論考。古い本ではあるものの、今に生きる論考も多い。思想は世の中を変えることができるが、それは自己同一と持続が大切であるが、他の流派と交わり、学び合うことが前提である。

  • 昭和31年初版にもかかわらず言葉遣いに引っかかることない読みやすさ。
    歴代の思想家・実践家たちの いい仕事っぷりに感服。
    特に、「日本のプラグマティズム」と「日本の超国家主義」は読んだあとの満足感が高い。

  • [ 内容 ]
    恐慌、侵略戦争、そして敗戦。
    この苦悩にあえぐ現代日本の現実を、何らかの形でゆり動かしたものは何か。
    その代表として、白樺派、日本共産党、生活綴り方運動、北一輝らの昭和維新の運動、戦後世代の五つをあげ、そこに体現された諸思想――観念論、唯物論、プラグマティズム、超国家主義、実存主義――の性格と役割を明らかにする。

    [ 目次 ]


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    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • 「過渡期掲示板」という掲示板で管理者の「高望み」さんにより紹介されていました。「僕個人が、1980年代前半から思想的に彷徨いながら、ようやく去年辺りからつかめてきた近現代の日本の思想構造について、すでにこの本はあますところなく定式化していたこと自体は、たんに個人的な回り道の問題にすぎません。しかし、この本の出版年次はなんと1956年なのです。日本の「新左翼」はともかくとしても、吉本隆明氏の1960年代前半の試みすらが、ある面ではまったく、すでに1956年にだされている水準の釈迦の掌の上で踊ったものにすぎなかったのかと思うと、なかなか夏風邪が抜けない状態です。」とのこと。この本を読んで、今「綴方教室」「綴方読本」なんぞを読んでおります。

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