- Amazon.co.jp ・本 (233ページ)
- / ISBN・EAN: 9784004121350
感想・レビュー・書評
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昭和33年3月、石井桃子さんは東京・荻窪の自宅のひと部屋を開放して「かつら文庫」をスタートした。タイトルで言うところの、「子どもの図書館」のオープンだ。
これがやがて、日本の児童文学を切り拓いていく場所となる。
本書をバイブルとして捉えている方の多さを想像すると、私のレビューなどおこがましいにもほどがあるというもので、そのことを先ずお詫びしたい。
載せてみようと思い立ったのは、個人的に本書に助けられたことが多々あるからだ。
もう15年以上前の話だが、読み聞かせボランティアの講習を受けていた時のこと。
毎回登場するのが石井桃子さんの訳された本の数々。「選書」の大切さも必ず説かれる。
その「選書眼」を磨くためには、「子どもを良く知ること」と度々言われた。
子どもを良く知ることとは、具体的にどういうことなのか。
当時の私にはこれが皆目分からない。
分からないままに先人の遺した本を次々に読むうちに、巡り合った本書で眼を覚まされた。
実に、50年以上も前からそれに尽力したひとがいて、こうして本にしてくれていたのだ。
「かつら文庫」を開いた動機について、こう書かれている。
『子どもがどんな本をじっさいに喜ぶか、どんなことが、どんなふうに書いてあれば、子どもに面白いかということがわかっていないため、いい本がつくれないということなのです』
『子どもと本をひとつところにおいて、そこにおこるじっさいの結果を見てみたい』
教育的指導などは一切せず、ただ楽しい空間をと大人たちはひたすら工夫したらしい。
『子どもたちについて学びながら、私たちは、子どもを本の方へ誘っていこうとしたのですが、それでも「本はいいものですよ。ためになりますよ。」といったことは、今まで一どもありません』
それでどうなったかというと、この文庫で育った子どもたち10人の7年間に及ぶ記録がある。
色々なタイプの子どもたちが書き入れていく貸し出しカードを「心のカルテ」のようだからと、その様子と貸し出した本の記録を克明に載せた章は、それは興味深い。
子ども自身の変化と成長が読む本の変化へと繋がっていくのが、目に見えるようだ。
著者はここで、どんな本が喜ばれどんな本が選ばれないかをしっかり観察したのだ。
更にもう一つ石井桃子さんの日本語が、なぜあんなにも読みやすく心にすうっと入ってくるのか、それもこの本で知ることになる。
平明で、率直で、衒いのない、流れるように美しい文章。
子どもとはどういうものか、どういう言葉なら受け入れ易いのか、何が必要で何が要らないのか。それが研究の果てにたどり着いたものだと分かり、もう足を向けて眠れない心境になったものだ。
特に「ちびくろ・さんぼ」のお話が登場する章はもう圧巻で、ページの上半分に本文が載せられ、どこがどのように素晴らしいのかが詳細に解説されている。
今では信じがたいが、この本は大人たちの間では一向に評判にならなかったらしい。
でも子どもたちだけは、この本の面白さを知っていたということだ。
そしてまた、これまで子どもたちに繰り返し読んだ本から「楽しい経験をした本」を何冊も列挙してくれている。その中には「トルストイの民話」もある!(はい、これは私も真似てみました)
最終章は「子どもの図書館」で、児童図書館は欠くべからざるものという著者の信念が伝わってくる。これがやがて「東京子ども図書館」創設への流れとなっていく。。。
読むたびに心に灯がともる。
哀しいかな、あまりにも凡人すぎてすぐに灯が消えそうになる。
そして軌道修正のために何度もこの本に立ち返る。
本そのものはもはやズタズタでボロボロだが、私にとっては永遠に魅力の「新書」なのだ。
かつて子どもだったことのある皆様に、ぜひ。 -
論文の書き方と一緒に買った覚えがある。
石田桃子の子ども図書館、かつら文庫の7年間の記録。これは、子どもが本当に喜ぶ本を知るための実践だった。
その経験から導き出した良い絵本の条件と、その条件を満たす本の紹介。そして諸外国の子ども図書館と、日本の子ども図書館の問題点を指摘している。 -
1965年初版ですが、全然古くないことに驚く。日本の子どもと本を取り巻く現状って、こんなに変わってないんだなって、軽く絶望した。私がやれることをやりたい。
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国際子ども図書館の「子どもと本をつなぐ人へ」という基本図書リストで知った
読みたいと思いつつも手を出しておらず、新古書店で発見して購入したので、読んだ
児童文学者である著者が自宅の一室に開いた子どものための小さな図書室(かつら文庫)の7年間の記録
絶版になってしまっている理由がわかるけれど、良書だと思う
確かに、本をつくる人・本をわたす人それぞれが、子どもと本のことを知る必要がある
量より質ということを、私も最近実感している
子どもが本を手に取るきっかけは些細なことであることも多いからこそ、まずは読み継がれて評価の定まったものを置いておきたい
この本が書かれた頃と比べると、公共図書館・学校図書館の環境はずいぶん改善されている
雇用関係の問題はまだ残っているけれど、海外の児童図書館と日本のそれを比較した後半部を読むと、元気が出るようだ
私は、まずは、子どもの本を知るところから始めよう -
書かれた当時は昭和40年。現代にも通じるところは多々あるように思う。
昭和50年生まれの私は、50年代に児童文学を読んでいた訳だから、むしろ現代よりもこの本に登場する本達の方に親しみを感じるところはある。
それでも、今読み聞かせで名作と言われる本たちに、この本よりもずっと後に書かれているものがたくさんある、と思うと、先人の礎があってこそなのかもしれないと、深く脱帽するばかり。
今読み聞かせに関わっている以上、先人の尽力を未来に繋げていきたいものだなぁ。 -
ワタクシが生まれる前に出た本。子供時代に読んだ本というのはウチにあった児童文学全集みたいな大きな本かなあ。それで「スグリのジャム」というものに非常に興味をひかれたのでありますよ。アメリカ・カナダの図書館を視察したときに出てきた「二グロ」という言葉、強烈だなあ。「ちびくろ・さんぼ」も久々に全部読んだ気がする。
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これを読むと、自分も文庫を開きたい!と胸が熱くなる。
石井桃子集に入っているけど、単行本として再販しないかなぁ。
2011.12.19再読。How exciting! How challenging! を心にとめておきたい。
本気で叱ってくれるひと、有難いですよね。
ひとは、いくら気を付けていても間...
本気で叱ってくれるひと、有難いですよね。
ひとは、いくら気を付けていても間違うものです。
傷つけられる時もあれば傷つけてしまう時もある。
大人だからいちいち口には出しませんが、確実に軌道修正に迷う時です。
そんな時心が帰るニュートラルな場所を持っているひとは幸せです。
そうだ、『シャエの王女』の古いレビューを見つけて下さってありがとうございました。
あの後5552さんがさっそくレビューを載せて下さいました。
再版してもらうためには、たくさんの人に読んでもらい、声を上げていくしかありません。
夜型さんの行かれる図書館で入手できますように。
ついでと言ってはナンですが、同じ「赤羽末吉&槙佐知子」のコンビで出している『春のわかれ』という本もあります。
もし機会がありましたら、ご覧になってください。どちらも私の心の書です。
ああ、『モンテ・クリスト伯』ですか。いいですねぇ。
タイトルを聞くだけで胸に熱いものが流れます。
私も久々に開いてみたくなりました。
時々夜型さんのコメントの中に、何かを強く追い求めるものを感じる時があります。
きっと、これがそうなのかもしれません。
いつもありがとうございます。
またお話できて、嬉しかったです。
こちらのレビューから知り私も読みました。
この本を読んだ私もかつら文庫で過ごしたような幸せな気分を味わい...
こちらのレビューから知り私も読みました。
この本を読んだ私もかつら文庫で過ごしたような幸せな気分を味わいました。
子どもと本の橋渡しになるためには、押し付けではなく(私が自分子供たちに押し付け気味かも…)、読み方講座でもなく、子供の年齢に合ったものを自然に渡してあげられて、本のある場所を安心する場所だと感じさせるように…。
まさにお人柄が浮かぶような幸せな気持ちになりました。
かつら文庫・東京子ども図書館は、大人への説明が再開したら行ってみます!
お越しいただいてとても嬉しいです!
そうですか、このレビューから読まれたなんて嬉しい限りです。
単に「...
お越しいただいてとても嬉しいです!
そうですか、このレビューから読まれたなんて嬉しい限りです。
単に「優しい(易しい)」「読みやすい」「分かりやすい」だけの石井桃子さんの本ではないんですよね。
なぜそう感じるのか研究し尽されたものだというのが、この本で理解できます。
ああ、大人の側から押し付けるような選書をするお母さま、いらっしゃいますね((+_+))
1に選書、2に選書です。
月イチの学習会では、そこに一番時間を使います。
淳水堂さんはかつら文庫に行ける圏内ですので、ぜひぜひ足を運んでみてくださいませ。
コメント、ありがとうございました!