自由と規律: イギリスの学校生活 (岩波新書 青版 17)

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  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (171ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004121411

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  • 著者池田潔氏(1903年−1990年)は、戦前、イギリスのパブリック・スクールであるリース校に留学した。その後ケンブリッジ大学、ドイツのハイデルベルグ大学で学ぶ。リース校在籍は、1920年から1923年ごろであろうか?校長先生とのエピソード、ノブレス・オブリージのエピソード、LとRを矯正してくれた先生のエピソード、プリーフェクト制度、スポーツマンシップのエピソードなど、非常に興味深い。「自由は規律をともない、そして自由を保障するものが勇気であることを知るのである。」というのは、本書の名言である。

    <目次>
    パブリック・スクールの本質と起源
    その制度
    その生活
     (一)寮
     (二)校長
     (三)ハウスマスターと教員
     (四)学課
     (五)運動競技
    スポーツマンシップということ

    <メモ>
    学校の特約店ではない理髪店へ行ったとき、校長先生に遭遇したこと(60)
    「まだ貴方には紹介されたことがないのに、突然、話しかけて失礼だが・・・。私が校長を勤めている学校に、やはり貴方と同じ日本人の学生がいてね。もし逢うような序(ついで)があったら言伝てしてくれ給え。この店にはリースの学生は来ないことになっている、と。
    この店で髪を刈ることが悪いことなのではない。ただリースの学生のゆく床屋は別に決まっていて、リースの学生は皆そこに行くことになっている。あの日本人の学生は入学したてで、まだそれを知らないらしい。何?知っていた?君は知っていたかもしれないが、あの学生は知らなかったに決まっている。知っていたら規則を破るようなことはしないだろうから。
    悄然として立ち去ろうとする後から、小声で、ここは大人の来る店だから心付が要る。これを渡しておき給え。何?自分で払う?一週間分のお小遣いではないか。そして突然大きな声で、子供はそんな無駄費いをするものじゃない。

    ノブレス・オブリージ(74-75)
    ピーター・ブレナンの自叙伝の一節であるが、たまたまハロー校で博物学の教師を勤めていた彼が、夏休みを利用して教え子である某伯爵の一人息子と自転車旅行に出ている。宣戦布告のニュースをきくと、二人はそのまま、旅先から自転車を走らせロンドンに駆けつけ、従軍志願者の長い行列に並ぶ。彼は無事に通るが、少年は16歳を20歳と詐ったのを見破られ拒ねられる。ぐるっと廻って、また、行列の尻尾につく。三度目に遂々業を煮やした曹長がわざとそっぽを向いている中に、勇躍、関所を通り抜けてしまう。それから四年半の後、一人は片脚になって帰り、一人は遂に還らない。

    プリーフェクト制度(103)
    パブリック・スクールの生活が規則正しく運営されてゆくことを助けるものは、プリーフェクトの制度である。プリーフェクトとは、最高学級に属して人格成績衆望いずれも他の模範となり、そしていずれかの種目の運動競技の正選手をしているものの中から、校長によって選ばれ、校内の自治を委ねられた数名の学生である。決して学生によって選挙されたり、任命に際して校長が教師に意見を聞くこともない。校長の権力はそのように強いが、同時に校長はここの学生をそれほどよく知り抜いているということにもなる。

    自由と規律
    学校の運営には参与出来ず、既定の校則には絶対服従を要求され、宗教と運動は強制的に課せられ、外出はほとんど許されない。自分自身の時間もなく、映画観劇の娯しみもなく、服装は不断の点検を受け、髭剃を怠ることすら販促であり、質量共に甚だしき粗食に甘んじ、些細な罪過も容赦ない刑罰をもって律せられるー彼らは自由をもたないのであろうか。彼等イギリス人の謳う自由とは如何なるものであろうか。
    すべてこれらのことは自由の前提である規律に外ならない。自由と放縦の区別は誰でも説くところであるが、結局この二者を区別するものは、これを裏付けする規律があるかないかによることは明らかである。社会に出て大らかな自由を享有する以前に、彼等は、まず規律を身につける訓練を与えられるのである。
    パブリック・スクールにあっても、基本的な自由は与えられている。正しい主張は常に尊重され、それがために不当の迫害をこうむることがない。如何なる理由ありても腕力を揮うことが許されず、同時に腕力弱いがための、遠慮、卑屈、泣き寝入りということがない。あらゆる紛争は輿論によって解決され、その輿論の基礎となるものは個々のもつ客観的な正邪の観念に外ならない。私情をすてて正しい判断を下すには勇気が要るし、不利な判断を下されて何等面子に拘ることなくこれに服すにも勇気を必要とする。彼等は、自由は規律をともない、そして自由を保障するものが勇気であることを知るのである。

    スポーツマンシップ(168)
    彼我の立場を比べて、何かの事情によって得た、不当に有利な立場を利用して勝負することを拒否する精神、すなわち対等の条件でのみ勝負に臨む心がけをいうのであろう。

    2013.08.20 「パブリックスクール」に関する文献を探していて見つける。
    2013.09.16 読書開始
    2013.09.20 読了
    2014.10.24 「橘宏樹さんの『現役官僚の滞英日記』」の記事で紹介

  • イギリスのパブリックスクールについての考察。ただ著者自身が通っていたのは戦前であるため、現在は色々と変化しているものと思う。

    ただの教育論というだけではなく、イギリス人についての深い見識があり、非常に興味深い。私自身も高校で寮生活をしていたこともあり、大変懐かしく感じた。

    「自由」の前提として「規律」がある。その「規律」を少年時代に身に付ける。現在でも必要とされる金言と思う。

  • 昭和24年に書かれた本なのに、現在と本質的な問題が変わっていないことに驚き。
    論理的な議論よりも面子とかの方が勝ってしまうのは、日本人の変わらない特性なのか?
    自由の前提には規律があるという考え方は、うちの社員にも理解させたい。

  • パブリックスクールでは、夜食が出ず、耐乏生活を過ごす。

    しかし、この経験を積んだ父兄の多くが、身に沁みてその苦痛を知る反面、かつ多大な効果を信じるがゆえに敢えて再びその子弟にこの道を踏ましうるであろう。

    長い将来についての利害をおもんばかって、一時の憐憫を捨てる、強く逞しい愛情をいうのである。
    愛児のために、かりそめの安易を捨てうる心構えを持つものは、国家再建のためには、たとい如何に過酷なものがあるにせよ、いっときの物質的欠乏には耐えうるはずだからである。

  • そうだね

  • ティップス先生さようならの本・DVDと共に読む。
    中等教育で迷った際の拠り所。

  • 誰しも、中学から高校での学校生活に郷愁を覚えぬものはない。その人の考え方の基本が形成されるデリケートな時期に、そのうちでも最も長い時間を過ごす学校での経験は、意識するとしないにかかわらず、大人になってからの、そして生涯を振り返る時期になってからでも、その人の中を貫いているものであろう。本書の著者である池田先生も、その例外ではあるまい。
    イギリス人の富裕層あるいは指導者となるような人は、多くは本書に描かれたパブリックスクールで、人格陶冶と身体の鍛練に明け暮れたらしい。物理学のトムソン卿も、ハリファックスもチャーチルも。
    池田先生自身が留学生として見聞したパブリックスクールのエピソードは、感傷的に過ぎることなく、同窓生たちの、そして校長をはじめとする教職員スタッフの、人としての誠実さの深みをうかがわせるものばかり。自由は規律を伴い、そして自由を保障するものが勇気であることを知る。</span></b></b>こういう教育があるということが率直にうらやましい。今の日本の子供からみれば、ハリーポッターの魔法学校でその雰囲気を想像するしかあるまい。

  • 書かれたのは戦前。印象に残っている箇所3つ。?ロンドンの街頭には子供がおらず、その理由は、多くの子供は田舎の学校で寄宿生活を送っているからだという。そうえいば、オックスフォードもケンブリッジも郊外に位置しているというのは聞いたことがある。理由は多々あるが。それも含めて学校は基本的に郊外に位置しているのだろうと思う。?イギリスでは1,2年の遅速を神経質に争う風がないとのこと。たまたま試験に合格しても実力に充分の自信が持てないものが上級の学校に入っても意味がないとか。試験に通っても原校に止まってその課目の勉強に身を入れようということはする者が多いとのこと。驚く。教育制度そのものというか、教育の考え方というか、根本から異なっているとしか言いようがない。どちらがいいかと言われればわからないが、日本の教育の矛盾点を感じるとこういう制度も選択肢の一つだと思う。?規律とは、その行為自体の善悪が問題なのではない。ある特定の条件にある特定の人間が、ある行為をして善いか悪いかはすでに決まっていて、好む好まないを問わずその人間をしてこの決定に服せしめる力が規律である。すべての規律には、これを作る人間と守る人間があり、規律を守る人間がその是非を論ずることは許さないのである。押し付け論と捉えられなくもないが、この考え方には是である。社会というのは秩序の上に成り立っている。だから、規律が規律たりえないと秩序は形成されないと感じるからである。日本は守らなければいけない暗黙のルールみたいなのが多すぎると思ったりしていたが、イギリスのこれを読むと日本ばかりではないのだなと感じる。また、暗黙のルールというのはマナーであったりするわけで、むしろ日本よりも他の国の方がうるさかったりするのだなと感じる。

  • 阿川弘之が『大人の見識』で大絶賛!」とPOPで併読を勧めていたのでセット買いの
     なんか寄りまくってるのかなあと心配したけどかなりフェアに書かれていたわ。パブリックスクールが人の個性によっては残酷・悪影響であることも書いてあるし、不平等なことも認めた上で英国の教育事情と自らの体験を比較的客観視して綴ってたわ。
     阿川先生は何度も再読したそうな。『<a href="http://blog.livedoor.jp/akkochama3/archives/2008-04.html#20080424">大人の見識</a>』中でもわざわざ池田少年のために6頁も割いてた、というより写し書いてた(!)けどそれだけの価値はあり。

    産業革命を境に台頭してきた新興成金に対し<b>「商工階級を物質主義的人生観を脱し得ず、文化教養を積極的に軽視する風さえ強い」</b>という表しには、横浜と川崎のロータリークラブのDifferenceを浮かべちゃったりなんかして現在の生活にも通じるものがあったわ。

    また日本人の特徴的なアティテュード<b>「自由を侵されても侵されたことに気づかないか気づいてもそのまま泣寝入りしてしまう卑屈性が身にこびりついた人間という外ない」</b>は、津田梅子も同じようなこと言ってたなあ〜なあんてね。

    英国が同じトラックで安定している要因としては<b>「才に恵まれない者が自らの資質を認識しその最適と信ずる部に甘んじ不満なく指導の命に服す」</b>ですって。これってOnly1の蜃気楼に眩んだ今の日本に必要な部分じゃないかしらん。
    カミラのかつての婚家先は、世襲的に皇太子に嫁を差し出しちゃったけど代々伝わるお上の忠誠心もこの記述と連なっているような気がするのよね。ここまで行くと封建社会になっちゃうけど。

    <b>「与えられた地位にあって己の最善を尽くすことに安んじ必ずしも地位の高きを望まない」</b>・・・ヨーロッパは、主として会社に入ったら転勤、部署移動というのがほぼないそう。仕事の内容が変わらないから新しいことを覚える時間を節約でき、長いヴァカンスしても経済がそこそこ成立ってるみたいね。

     著者が英国のパブリックスクールに学んだのは1920年頃。まったくもって貴重な資料だわ。
     この本でアタクシに一番、効果をもたらしたのはダイエットかしらん。パブリックスクールの食事を知ってしまうと、いかにアタクシが過度に摂取してるか分かるわぁ。今なお英国では貴族Onlyの紳士クラブでさえライスプディングが好まれているそうだけど、彼らが学んだパブリックスクールの思いが強いからなのですって。スカートがきつくなったら池田少年の食生活を思い出そう。

  • "自由"とはなんだろう?<br>
    人間が自由を見つけて幾年も経ち、その自由の本質が大きく変化してきた。この本は、自由の定義を教えてくれるはず。
    <BR>自由とありますが、教育関連の本です。1963年の出版ですが、なにも古いことはありません。まさに教育が揺れている今、再生会議と呼ばれる機構に集められている何も知らない愚人どもが読むべき本です。
    <br>結局、教育関連書籍の中では、この本の質が最も高かったと思う。ただ知名度が低いのが残念。岩波は新書セールを開いて、この本を全面的に売り出すべき。

著者プロフィール

大阪商業大学総合経営学部教授

「2023年 『激動する世界経済と中小企業の新動態』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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