- Amazon.co.jp ・本 (193ページ)
- / ISBN・EAN: 9784004130451
作品紹介・あらすじ
古来、孟子は孔子の思想をつぐ賢人として知られている。本書は、在来の孟子解釈にこだわらず、戦国時代に生きた彼の姿を描きながら、「王道の道は民を保んずることにあり」という論旨をはじめとして、その思想のすべてを新たな観点からわかりやすく紹介する。人道主義者としての孟子の全貌を達意な筆で綴った労作である。
感想・レビュー・書評
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孔子の弟子であり、性善説を唱えた孟子を詳細に紹介した本。1966年に出版されたので、自分とほぼ同い年の書。
孟子は、どちらかというと「天」の概念が重要というのがハーバードの人気教授マイケル・ピュエットの主張だが、中国の戦国時代という社会が政治的に安定していない世界にあって春秋時代の孔子が唱えた説を改めて性善説として打ち出している点や性格がどうも自分に似ているらしいという点は、興味深い。
大きな流れとしては、孔子の仁を受けた仁義説、それにもとづく王道論、それからその基礎付けとしての性善説、やがて精神主義の強まりと天命の自覚、というのが発展のあらすじ
四端説
同情心こそ仁の端
羞恥心こそ義の端
謙譲心こそ礼の端
分別心こそ智の端
これに対して告子が反駁しているのになかなか孟子は説得的な論理を展開しきれていない。
著者も「人間性が善だということそのまま額面どおりにうけとれない」「明らかに、それは客観的現実認識から得られた断案ではなかった」
しかし、これを孟子による現実に対する宣言ととらえれば話は別である。
中国は神話に乏しい、というのは面白い
孟子は、堯舜といった聖人をあがめながらも、身近いものに引き寄せている
一言でいえば「養心」や「存心」といった考え方に集約される。すなわち、
自分の内心の高貴な存在をしっかりと自覚して、それを亡ぼすことのないように大切に養い育てること。
反対の言葉が「放心」である。
この「養心」という概念は「浩然の気」「大丈夫の説」「大勇の説」「不動心」といったことに連なっていく。
そして「天」や「命」の話になると、
「君子は法を行いて命をまつのみ」
という考えである。これは、結局隠遁せざる得なかった孟子の挫折から来る。
「孟子」は
* 「梁恵王章句上・下」:「公孫丑章句上・下」から抜き出されたか
* 「公孫丑章句上・下」
* 「滕文公章句上・下」
* 「離婁章句上・下」
* 「萬章章句上・下」
* 「告子章句上・下」
* 「盡心章句上・下」
の七篇よりなる。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
”『論語』『大学・中庸』の訳者 金谷さんが惚れた人間・孟子を紹介した一冊。『孟子』内の問答を多数引用しつつ、性善説、四端説(仁義礼智)、王道・覇道、革命是認などの考えが、どのようにして生まれ、深められたかに迫る解説。
個人的には、性善説のもとになっている次の考え方が好き。
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人間の社会は、そうした万人の人道主義的な活動によってこそ円満な発展をとげていくものである。そして、真に安らかなしあわせな世界は、そこにこそ開けるものである。孟子はそれがだれにも備わっている善なる本性の展開として十分に可能であることを固く信じたのであった。そこには、また人間性に対する熱い信頼の心が見られる。それは楽天的な心情にもとづいているといってよいであろう。(p.7:序説)
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人間性に対する熱い信頼の心!
<読書メモ>
・『孟子』の内容に深くたちいってみると、その味わい深い豊かな世界が開けてくるのである。それは、封建的とか唯心的とかいうような一言で、簡単にかたづけられてよいようなものでは、決してない。
(略)かれもまた希望を持ち、またその挫折に悩む、同じ人間であった。孔子の教えを受けついで高い理想をかかげ、その高さのゆえに現実世界に容れられないで、敗退をよぎなくされた運命的な歩み、その崇高なすがたが『孟子』の中にはまざまざと表れている。(p.3-4:序説)
★さて、王道の根幹である「忍びざるの心」こそすなわち仁心である。孟子は、それがだれの心にも生まれつきに備わっているということを強調した。いわゆる性善説である。(p.7:序説)
★人間の社会は、そうした万人の人道主義的な活動によってこそ円満な発展をとげていくものである。そして、真に安らかなしあわせな世界は、そこにこそ開けるものである。孟子はそれがだれにも備わっている善なる本性の展開として十分に可能であることを固く信じたのであった。そこには、また人間性に対する熱い信頼の心が見られる。それは楽天的な心情にもとづいているといってよいであろう。(p.7:序説)
#人間性に対する熱い信頼!
・孔子は聖人とされ、孟子は賢人とされた。たかだか持ちあげられても、孟子は亜聖つまり聖人に次ぐ人物であった。(p.10)
#「亜」はそういう意味か!扉ページの孟子像にも「亜聖孟子字子輿…」との記述あり。
・孟子、すなわち孟先生は、性を孟、名を軻(か)という。中国では、この名のほかに、成年に達してからのよび名としての字(あざな)があり、孟子はそれを子輿(しよ)あるいは子車といったというが、その伝えは確かではない。生まれた土地は皺(すう)という小国で、今の山東省の皺県の附近にあたる。それは孔子の故郷の魯の国に隣接していた。そして、孔子が死んだのは今から二千四、五百年前、西暦紀元前479年のことであるが、孟子が生まれたのはそれからほぼ百年をへてからであった。(p.12)
#そういう時間を経た上で、孔子の教えを継いでいるんだ!
・曾子と子游・子夏派とのあいだに深刻な対立があったらしいことはわかる。子游・子夏派では、形式的な儀礼や実際の政務を重んじたのに対して、曾子派では、忠心とか忠恕とよばれるまごころの徳を重視する内政的な精神主義の立場をたったのである。後年の荀子の立場は子游派に連なる。そして、孟子は魯にやってきて、この曾子派の学統をうけることになった。(p.26)
#孔子の教えにも、そういう流派があるのね。
★孟子は、こうして孔子の仁の思想をうけながら、新たにそれを仁義の二字によっていいあらわすことにした。(p.28)
#仁愛の強調と、兼愛との差異化。
★孟子は、現実の世界のありさまをしさいに観察しながら、諸侯たちを動かすにたる政治理論をみつけ出そうとした。そして、得られたものが王道論である。政治家たちの「忍びざる心」すなわち民衆への同情心によってつらぬかれる政治理論であった。(p.29)
・孟子にとっては、当時の混乱した世界に統一的な秩序をもたらすには、道徳主義に徹することだけが唯一の道だと考えられた。(p.33)
・重要なことは、孟子が功利の立場をしりぞけて自らの道徳主義の立場を敢然と高唱したことである。それこそ、かれの主張をつらぬく基本的な立場であった。(p.36)
#「王何ぞ必ずしも利をいわん。ただ仁義あるのみ」 恵王に対しても強い!
★「仁は人の心なり」で、仁はわれわれに自然なもちまえとしての愛情から発する。しかし、「義は人の路なり」で、義はその仁の実践にとって必ずよらねばならない通路であった。「義とは宜なり」ともいわれる。人と人との交わりのうえで、現実の差別のすがたに応じて、それに適合した態度を決定する徳、それが義であった。(p.39)
・自暴自棄ということばがある。やぶれかぶれのやけくそでわが身の破滅をまねくことをいうのであるが、このことばの出典は『孟子』にあって、そのもとの意味はやや違っている。孟子は当時の不道徳者をこのことばで定義づけて慨嘆したのである。(p.57)
・孟子の考える王者と覇者とはどのように違うのであろうか。孟子はいう、「力を背景として仁政のまねをするものが覇者である。覇者になるには、従って大きな国土を基盤とする必要がある。得によって仁政を行うものが王者である。王者になるには大きな国土による必要はない。(p.64)
・遊説者の一人として、孟子もまた支配者の利益を考える。しかし、それが民衆の利益を通してこそ得られるとする。思考は、じゅうぶん重視されなければならない。(p.75-76)
・ここで孟子の強調したかったことは、要するに「民と偕(とも)に楽しむ」ということであった。
(略)「天下の人々とともに楽しみ、天下の人々とともに憂えるようにすれば、きっと王者になれる」と答えている。(p.87)
★音楽にしても狩猟にしても、王の一人だけのかってな逸楽であってはならない。王のそうした遊びを民衆がともに喜び楽しむような遊び方、すなわち「民と楽しみを同(とも)にする」ことこそ、真の王者への道だ、と孟子は説いた。(p.88)
★政治家に対して、民衆の生活への温い配慮を要請した孟子は、さらに一歩をすすめて革命是認の思想を展開した。民衆を大切にしないで民衆から見離された君主、それはもはや君主の名には値しない。単なる一介の野人と異なることがない。当然、そのでたらめな行為に対しては、誅罰が加えられねばならない。(p.92)
★孟子はその性善説を論証するために有名な四端説というものを説いた。
(略)このじっとしておれない同情心がない者は人間ではない。羞恥心のない者も人間ではない。謙譲心のない者も人間ではない。善悪の分別のない者も人間ではない。そして、この同情心こそ仁の端(はじめ)であり、羞恥心こそ義の端であり、謙譲心こそ礼の端であり、分別心こそ智の端である。人々がこの四端を持つのは、四本の手足を備えるのと同じである。この自分に備わった四端をすべて拡充するようにつとめなければならない。(p.115)
#四端=同情心(仁の端)、羞恥心(義の端)、謙譲心(礼の端)、分別心(智の端)
・聖人や賢者もわれわれと同じ人間である。それを無縁なもの、あるいは縁遠いものと考えてはならない。ひたすらな努力によって、われわれもそこに到達できる、というのが孟子の信念であった。(p.129)
#あがめながら、身近にひきよせる!
★「何のむつかしいことがありましょうか。ただ実践あるのみです。とてもできないなどと心配する必要はありません。実践しようとしないだけです。(略)尭・舜の道も孝と悌との実践にほかならない。(p.130)
★感覚的な欲望に身をまかせて、いたずらに外なる世界にふりまわされる主体性のない人生、そこには道徳の成立する余地がない。聖人への道は、自分の内心の高貴な存在をしっかりと自覚して、それを亡ぼすことのないように大切に養い育てることであった。それを、孟子は「存心」とか「養心」といった。(p.138)
#いたずらに…主体性のない人生、はたしかに嫌だ。
・誠は天の道なり。誠を思うは人の道なり。至誠にして動かされざる者は未だこれ有らず。誠ならずして今だ能く動かす者は有らず。(p.145)
・天がある人物に大きな任務を降ろそうとするときは、必ずまずきびしい試練を課するものである。すなわちその人物の心を苦しめ、肉体をさいなみ、行動を徒労にさせて仕事を混乱させる。その人物が発奮興起してがまん強くなり、これまでできなかたこともできるようにするためのことである。(p.157)
・『孟子』は七篇から成っている。その篇名を書きつらねると、
梁恵王(りょうけいおう)篇 第一
公孫丑(こうそんちゅう)篇 第ニ
滕文公(とうぶんこう)篇 第三
離婁(りろう)篇 第四
万章篇 第五
告子篇 第六
尽心篇 第七
それぞれに上下に分かれているから十四篇とする数え方もできるが、上下の区別は分量だけのことで格別の意味はない。篇名は篇のはじめのことばを取っただけで、『論語』のばあいとひとしく、篇の内容を示す題目ではない。(p.172-173:余論『孟子』七篇について)
・要するに、梁恵王篇が特別な意図を持って編纂されたもので、それは孟子の遊説時代のことを年代順に伝えているということ、従って『孟子』の他の篇のことばを、梁恵王篇で示された国の順序にならべてゆくと、孟子の思想の推移が明らかになるということ、そして、最後に孟子の退隠後のことは、尽心篇を忠心にして考えてゆけばよかろうということである。(p.183:余論『孟子』七篇について)
・『孟子』はわたしの好きな書物である。その理由は立派な文章という形式的なこともあるが、主としては、そこからうかがえる孟子という人間像にかかわっている。わたしが本書で企てたことは、その人間像をできるだけ客観的に明らかにすることであった。(p.185:あとがき)
<きっかけ>
人間塾 2013年5月の課題図書。” -
金谷治さんによる孟子の人物像を明らかにした書籍。事前に『論語』『孟子』を読了しておくと楽しめる。さらに孟子の性善説と対し、性悪説を説く『荀子』を読了しておくとなお良し。金谷治さんは、孟子好きとのこと。
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『天の将に大任を是の人に降さんとするや、必ず先づ其の心志を苦しめ、其の筋骨を労し、その体膚を餓やし、其の身を空乏し、行ひ其の為すところに払乱せしむ。
心を動かし、性を忍び、その能はざる所を曾益せしむる所以なり。』
『貴きを欲するは人の同じき心なり。人々、己に貴き者あり。思わざるのみ。人の貴ぶ所の者は、良貴に非ざるなり。趙孟の貴くする所は、趙孟能く之を賤くす』 -
原文の訳本だと思ったら解説本だった^^;
最初はエ~~。。。やめよかなと思いながら読んでいると
二章の終わりごろから段々面白くなってきて、
一気に読み終わってしまったよ。
概論は分かったので、次は訳本だ。 -
思想より人物像に目が行く本。著者はあとがきで孟子が好きだと明言している。それだけあって孟子へのあたたかい愛情と学者としての論理的な追及が共存していておもしろかった。
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「舜も人なり、われもまた人なり。」
努力すれば人は聖人になれる、と説いた孟子に関する本。
いわゆる性善説は、人間に無限の可能性を認めるものだろう。人は生まれながら高い道徳心を持っている。しかし、多くの人がそれを顕在化しようと努力しない。なにもしなくても人間は善である、というわけではない。努力が大切なのだ。
孔子にあこがれ、自身も聖人を目指した孟子。彼の考え方はストイックだ。怠慢な人間には理解できない。だからこそ、人間は生まれながらに善である、という間違った性善説が広まっているのだろう。
彼の考え方を拡大解釈すれば、人間は努力すれば何でもできる。逆に考えると、目的を達せられないのは努力が足りないからだ、となる。 -
孟子を時系列順に並べ解説している。
講談社学術文庫の孔子に比べると、
文章は少々固く学術的である。
だが、決して読み辛い本では無い。
岩波の孟子の前に読んでおくべき。
なお、あとがきによると金谷先生は孟子が好きらしい。
それだけに孟子の現代訳が読めないのは残念である。 -
『BQ』(林野宏著)ビジネスパーソンに必須の23冊
20思想とは何か -
天のまさに大任をこの人に降さんとするや、必ずその心志を苦しめその筋骨を労せしむ。
読んで良かったが、孟子の抜粋というか、孟子の人となりを著者が伝えようとした書物。
孟子の全文が載っているわけではないので注意。
但し内容は面白かった。岩波かどっかの、全文が載ってる本を読んで読みたいと思いました。