文学入門 (岩波新書 青版)

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  • 岩波書店
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レビュー : 20
  • Amazon.co.jp ・本 (185ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004140016

感想・レビュー・書評

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  • 最終章「アンナ・カレーニナの読書会」以外を読み終えた。古い本だけど、中身は今でも通用するし、踏み込んでしっかり意見も言っている。開かれてはいるけど言うべきは言うと言った感じ。文学にわくわくしたものを感じさせてくれるので不運にもいい本に巡り会えない時なんかに読み返すといいかもしれない。そもそも文学とはという感じがあっていいように思う。

  • 「文学」に交じって「桑原文学」の入門も多少あるが、それを差し引いても(それがあるからこそ)名著。

  • 要約

    第1章
    文学は、はたして人生に必要なものであろうか?
    単純に、文学が面白いからこそ必要だと著者は考える。ここで言う面白さとは、amusing ではなく interesting 。両者の違いは能動性にある。つまり、作者の誠実ないとなみによって生まれた文学作品を能動的に堪能することが、文学の醍醐味と言える。

    第2章
    すぐれた文学とはどういうものか。
    我々を感動させるもの。その感動を経験したあとでは自分が何か変革されたと感じられるものである。
    このような文学の条件は、明快さ=再経験しうるもの、誠実さ=作者自身が切実なインタレストをもっていること、新しさ=新しい経験 だと著者は考える。

    第3章
    すぐれた文学に対し、大衆文学(通俗文学)が世に溢れている。すぐれた文学と通俗文学には大きな差異があり、価値について前者は生産的、後者は再生産的、精神について前者は変革的、後者は温存的、全般的性格について前者は現実的、後者は観念的などがあげられる。こうした通俗文学が人気を集めるのには、社会的な土壌が影響している。

    第4章
    文学は何を、どう読めばいいか、という問いに対して答えを出すためには、日本国民の文学教養における共通なものを持つ必要がある。それ自体楽しいのは言わずもがなだが、低俗な文学を遠ざける副作用を持つ。

  • 文学の持つ意味。本物の文学とは。
    近代小説というジャンルのみを取り扱っていますが、現代人が必要とする文学の本質を突いているような気がします。60年以上前に書かれたものとは思えないほど、鋭さを持っています。
    文学入門というタイトルから想起するほど難しく複雑ではないので是非一読してみることをお勧めします。

  • 1990年 読了

  • 2016.11.11
    文学とは何か、それは小説家が、自分の切実な人生に対するインタレスト(興味、関心)を以って行う一つの経験である。それは主観的な、独りよがりの経験ではない、自分の頭の中に社会を作り、人間関係を作り、その世界の中で試される客観的経験である。自分の人生に対する切実なインタレストを、社会の中で、まさに現実に生きるが如く突き詰め、書き出された小説は、一見小説家個人の主観的関心の表現であるが、それが社会的現実の中で深く試されれば試されるほどに、普遍性を帯びる。我々はまた、現実の世界を生きるものである。我々には様々な関心があり、そして他者にもそれがあり、関心と関心はぶつかり、問題が生じ、また解決し、そうやって我々はこの現実を生きている。しかしそこで生きることができるのは、社会という客観に試された私のインタレストのみである。小説は、私では持ち得ない、もしくは経験し得ないインタレストを、現実で生きるかのように社会によって試されたものとして提出してくれるものであり、我々もまたそこでそれを追体験することでひとつの経験を行うことができる、そうして人生に対する豊かな経験が蓄積される。人間に対する理解、人生に対する理解が深まる。経験が多い人間ほど人生を味わうことができるのは、なんとなくわかる、しかし全ての人間が波乱万丈な経験をすることができるわけでもないし、経験とはその当人がそこに目を開かれていなければ何もないかのように通り過ぎてしまうものである、道端に咲く花に気がつかないように。小説は我々にそんな経験を提供してくれる。これが、文学であり、そしてその存在意義である。
    純文学と通俗文学の違いは何か。前者は人生に対する切実なインタレストから生まれ、大衆に迎合していないものであり、既存の価値観にも迎合していないものである。それは生産的、革新的、現実的である。対して通俗小説は、いわば娯楽として、日々生きることのしんどさ忙しさの慰めとして読まれるもので、社会に迎合したものである、資本主義に回収されたものである。それは非生産的、保守的、観念的である。前者は深みのある興味深さを提供してくれるのに対し、後者は面白いだけである。
    私たちは非常に合理的な価値観、進化論的なパラダイムの中を生きている。人生を因果関係的に捉え、また生きるとは自己実現であり、社会に出て働くことのための実学が必要とされる。自己啓発書の乱流の時代である。しかし人間は、それだけの存在ではないだろう。私は確かに社会的な存在であり、生きるためには稼がなければならない、が、それが私の人生の全てではない。私はいろんなことを合理的に考え、理由や原因を見出し、分析し解決するが、人間の心はそのような直線だけで描ける代物ではない。なんか個人的には、学問には、役に立つ実学vs役に立たない文学や哲学、という二項対立があるような気がするが、他方が他方を否定するのは不毛である。我々は現実を生きる以上、現実的に問題を解決する必要があり、それができるほど自分の価値は認められる、しかしそれだけが生きることではない、稼ぐだけが生きることではない。また一方で、人生に対する深い関心や、発見、辛さと喜びを噛みしめるのもまた人間であり、そういう側面も必要だが、だからと言って実学よりもこっちが大事というわけでもないのである。文学や哲学がなんの役に立つのという現実主義者は現実的な問題を解決するか否かでしか物事の価値を決められない人間であり、また実学よりも大切な人間性、生きるということについての問いが大切だという人間はただの理想主義者である。どちらも必要である。
    インタレスト、という概念が私は好感を持てたというか。これは欲望に置き換えることができるように思う。なるほど文学とは、様々な欲望を抱えた人間を描くものであり、また著者の欲望を社会に試すことでどのような形に行き着くかを描いたものである。人間の非常に多様で複雑な欲望に敏感になること、それについての深い知見を得ることは、仕事をする上でも大いに役に立つ。なぜなら問題解決とは言い換えれば欲望の不満足の解決であり、価値創造とは未だ満たされていない欲望へのアプローチだからである。社会に貢献できる人間は人間通であり人生の達人なのではないだろうか。なんてゴタゴタ言ったけど、単純に文学は面白い、それでいいよね。付録の名作50選もありがたい。

  • フランス文学研究者の著者が、文学作品のおもしろさについて平易に語った本です。

    著者は、「インタレスト」(興味・関心・利害観)を引き起こすところに文学のおもしろさがあると主張しています。文学作品の著者が個人的に抱いた「インタレスト」が、作品として客観化され、読者の「インタレスト」を引き起こすことになります。そしてこの「インタレスト」の広がりと深みが、文学作品に価値と意義を付与することになります。

    「文学入門」と銘打たれた本書では、18世紀に起こった近代小説を重視する立場が取られています。その理由として、近代小説は市民階級の文学であり、特別な教養や約束を前提としていないこと、また、自由意志を持つ個人をベースにして日常生活が描かれていることがあげられています。

    巻末には、トルストイの『アンナ・カレーニナ』をめぐる架空の読書会と、「世界近代小説五十選」というリストがあります。

  • 書き出しが素晴らしい。

  • 高校生の頃に古書店で入手しました。私の文学青年(少年?)時代のバイブルです。本の奥付は1991年の第68刷……私の高校生時代の約15年前に刷られた本ですね。内容としては、今からだと約64年前ですか。ただ、全部通して読んだわけではなかったです。約10年経って、この本を久々に手にとって再読・通読してみました。

    うん、古い。言っていることもちょっと押し付けがましい。そして執拗なまでの外国文学(特にご専門のフランス文学)推し!世界近代小説五十選も、選んだセンスが「あぁ、先生方のセンスだなぁ」と思ってしまいました。でも、当時物書きに憧れていた(だけでどう創作したものか分からなかった)高校生の私に文学観を叩き込んだだけはあります。言っている中身の本質は真っ当です。

    古いと言ったのは、第1章始めの方の「戦時中の"文学はゼイタク品だ"観」だけでなく、大衆文学に関する社会科学的研究の不在への嘆き(p.63)、俳句・短歌を近代文学としての重要なジャンルから外したこと(p.109)などもあります。まぁ、宇野常寛だとか俵万智だとかを知らずに死んだ先人なので宜なるかなという気もしますが。あと、書かれたご本人も日本での文学の地位を高めるためにあえて選んだ立場だと思いますが、やはりつまらなかったり古かったりしてどうにも私が読まなかった本も彼には名作です(価値観の相違による、押し付けがましさの印象)。また、名作だとしても、どうにもチョイスが偏ってますね。イスラム文学もラテンアメリカ文学も無いのは当時まだ十分紹介されていないだろうから当然ですが、ドイツの項目にカフカが居らず、イギリスの項目にルイス・キャロルが居ません。また、本文中の日本文学に関する記述で、芥川と、無頼派(太宰治)など純文学での新興勢力については触れられていません。

    良くも悪くも「文学はゼイタク品だ!」と言われた時代、第二次大戦終結から5年後に書かれた書物であることに留意すべきでしょう。それでも、桑原先生が示す「インタレスト文学論」とでも呼ぶべき考え方は、今日でも十分通用しうると思います。

  • 純文学と通俗文学の違いがわかるようになったような……少なくともその目指すところの違いはわかったような気がしないでもない。

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