平家物語 (岩波新書 青版 294)

著者 :
  • 岩波書店
3.85
  • (12)
  • (21)
  • (20)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 165
感想 : 21
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (227ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004140283

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 木下順二の「子午線の祀り」を読んだ際に出て来たきっかけとなる一冊。
    名前聞いたことあるなー(『中世的世界の形成』は未だ手をつけられていない)と思ったら、目の前にあって、線まで引いているのに登録していなかった。
    記憶にもない。ため、再読。

    「子午線の祀り」で印象を新たにした知盛については、予言者として重盛とも重ね合わせながら述べられている。
    そして、『平家物語』では不思議と表に出て来(すぎ)ない後白河法皇と源頼朝についても、なぜ出て来(すぎ)ないのか、という点を『平家物語』の本質から上手くまとめられていて、面白い。


    「彼(頼朝)の政権は簒奪者の政権であるという弱さをもっていただけに、その政策は周密な計算と駈引きをともなったものであって、この政治家としての行動に頼朝の人間としての本質が存在した。それは舞台の背後にいることによって、その才能を発揮するような人物である。」

    「平家物語自身の性質が、平氏の滅亡を中心とする事件の客観的進行を物語るものであったので、いかに中心的な役割を果す人物であっても、それを物語の主人公として独立にその生涯を追求するということは、作者の関心でなかった」


    また、『平家物語』の長大さについて本来は三巻本であったのではという。
    なぜ『保元・平治物語』は三巻であるのに対し、『平家物語』がこれほどまでに膨らんだのか。


    「(『保元・平治物語』は)それをつきやぶって、後から後から物語を増補してゆき、ついには原型もわからなくするだけの要求と力が源平の内乱以後になって新しく湧いてくるような性質のものではなかった。」
    「ところが、源平の内乱は半世紀近くなっても、当時の日本人にとっては、まだ完了してしまった過去の事件となり得ないほどの印象と痛手と想出をのこしていたらしい。」


    もう一点、個人的に面白い指摘がある。
    『平家物語』が「語り」を抜きにしては成立しない、それほど重要な要素であるにも関わらず、「語り」では意味を取り切れない難解な漢語が使用されている点について。


    「読んでわからないものがどうして聴いてわかるはずがあろうか。ところがこの種の文章の作者は、聴衆が聴いて一つ一つの言葉の意味を理解し得ないことを、はじめからよく知っており、計算さえしているのである。」
    「ここでの言葉は、それがもつ正確な意味内容を伝えるのではなく、言葉が組合わされて一つの魔術的な作用をする使命をもたされているのであるから、ある意味ではわからない言葉の方が効果的でさえある。」


    単に源平の戦乱を面白く描いたのではなく、同じ時間軸で起こった災害を含め、ひとつの時代を変えるほどのうねりを持ちえた一族の「討滅」は、そこに居合わせた人々にとって語られるべきものであったという。

    うわ。引用も含めて長くなってしまった。

  • 昔の本なので、さすがに現在の研究の水準から見て満足できる内容ではないかもと思いながら読み始めましたが、反して現在でもかなり通用しそうな良い内容でした

  • 高校2年生/図書館にて
    918.カ19
    15068

著者プロフィール

1912年札幌に生まれる。37年東京大学文学部国史学科卒業。冨山房・朝日新聞社を経て、戦後法政大学で教鞭をとる。民主主義科学者協会、日本文化人会議、歴史学研究会で活躍。法政大学名誉教授。1986年死去。著書:『中世的世界の形成』、『古代末期政治史序説』、『歴史と民族の発見』(正続)、『歴史の遺産』、『平家物語』、『日本の古代国家』、『日本古代国家論』(全2冊)、『日本史概説』Ⅰ(共著)など。

「1977年 『戦後歴史学の思想』 で使われていた紹介文から引用しています。」

石母田正の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×