- Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
- / ISBN・EAN: 9784004150961
感想・レビュー・書評
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羊の歌 加藤周一
1945年を今の自分と同い年で迎えた加藤周一の回想録。東大医学部卒の医学博士ながら、文学を中心に評論の世界でも有名な加藤周一が生まれてから終戦までを回想した自伝である。一高→東京帝大の日本における超エリートかつ実家も渋谷の開業医という加藤の並々ならぬ人生の前半の記述である。今回私が本書を手に取ったのは、10代後半から20代にかけて戦争を経験し、自分と同じ学年である26歳で終戦を迎えた若者が、当時の日本の雰囲気をどう感じていたのかということを少しでも追体験できればと思ったからである。本書にもあるが、徹底して精神論を嫌う加藤は戦争に対して極めて否定的かつ悲観的であるという姿勢が貫かれている。当時の加藤のような知識人階級の人間にしてみれば、威勢がよく権力欲にまみれた軍部が日本をいつの間にか乗っ取ってしまい、知らない間に勝ち目のない戦争に向かっていったという感覚であったと書かれている。戦後史において、敗戦の責任の所在やなぜ軍部の膨張を止めることができなかったかなど、丸山眞男を筆頭に歴史考証がなされている。その中では、当時の軍部でさえもずるずるべったりと戦争に引きずりこまれていくような感覚であったとされているが、無論加藤をはじめとする一般の人にとっては、軍部の暴走に巻き込まれ、勝ち目のない戦争に召集されたという感覚が強かったのであろう。だからこそ、日本では敗戦記念日ではなく、終戦記念日と呼んでいるのかということも合点がいく。これは、日本人の中で、大多数が希望せずに巻き込まれた戦争というものが終わったという感覚が正しいからなのであろう。無論、終戦と呼ぶことで敗戦に対して無反省でよいわけではないが、回想録の中では、そのような印象を受けた。裏を返せば、誰もが巻き込まれて少しずつ加担していった先に、戦争というカタストロフがあるのであれば、非常に恐ろしいことであるとも言える。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
はじめはのどかな回想のように思ったが、徐々に戦争へと突き進む日本の姿が旧制中学校の学生だった著者の目を通して描かれる。今の日本の姿と似ていないか。既視感があるエッセイに背筋に冷たいものがはしる。同じ轍を踏まぬようとの著者の語りかけが聞こえるようだ。
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かくあるべし随筆のひとつの姿。
知識人、いまはほとんどみなくなったことに気づく。
カッコいい! -
2020年12月15日購入。
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昭和の偉大な知識人ということで、読んでみた。幼少期から徹底して客観視ができていた筆者の目を通して、戦争に向けて進んでいく日本をシニカルに捉えている。いわゆる、真面目なインテリだったのだと思う。今でいうところのオタク、やガリ勉、の部類なのだろう。文章も歯切れよくわかりやすい一方で、エッセイらしく多分に筆者の考察が入る。極めて科学的、文学的な要素の融合した文章だと感じた。続編も読んでみたい。
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作者の幼少期〜医学部卒業後すぐくらいまでを描いている。どこまでが事実でそうでないものがどれくらいあるのかは(まだ調べていないので)わからないが・・
開戦の日、他に誰もいない文楽の劇場に一人赴く筆者や、開戦後も仏文研究室で教授、友人たちと文学について論じ合う箇所は、一見すると無責任な高等遊民たちのようにも思えるが、筆者やその仲間たちは、何かと比較した結果あえて他のものを無視しあるいは軽視し、芸術至上主義的に振舞っていたのではない。戦時中であれ平時であれ、彼らは好きなものに忠実に、ただ淡々と没頭しているように感じた。こうした態度こそが、作者の文学ないし芸術への純粋な愛を示しているのではないか。
しかし、文学に没頭できるというのは、そうでなくとも優秀な東京大学の教授、学生と対等に議論し、文学を楽しめるということは、並みの人間にはできない。なんでもないように書いているが、相当の実力を伴わないと仲間に入れてもらうことはできない。それは、私自身が体験したことだから。私自身の劣等感と今でも強く結びついていることだから、わかる。ただ、当時の大学生はそもそも今と違い、作家横光利一に議論をふっかけたり、今日でも著名な教授たちに自分たちの意見を伝えることも難なくできたのかもしれない。少なくとも自分には、そんなことはできなかった。
幼少期の記述も、いかにも良家の子息という感じの所感で、田舎育ちの私には、決して作者がいうように「平均的な」人間を描いているとは言えないのではないかと感じた。一方で、自分自身が「世間知らず」であることに作者は最初から自覚的であり、あくまで冷静に、できるだけ中立的な視点で筆を進めようとしていることはわかったし、戦死した旧友を思う気持ちや、自分に全く関係のないはずのベトナム戦争の話を知りたがる(知っていたい)という態度も、冷徹そうに思える作者の、人としての真摯さ、人間らしさの伝わる箇所ではないかと思った。
福永武彦、渡辺一夫先生、小林秀雄など、人物との交流が同時代人として具体的なエピソードで語られているのがたいへん興味深かった。 -
羊の歌
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終戦までの半生をつづった加藤周一さんの回顧録。
"旅行者は土地の人々と別の風景を見るのではなく、
同じ風景に別の意味を見出すのであり、またその故
にしばしば土地の人々を苛立たせるのである。"
加藤さんはこう書いているが、まさにここでいう旅行者
のような視点を常に持っていたのが、ほかでもない
加藤さん本人だったんだろう。
だからこそ、大本営発表に沿ったことしか書かない
当時の新聞からでも、その微妙な書き方の変化を
嗅ぎ取って、終戦を予測することもできた。
今の世界的な不況(と言われている状況)や、舵を
失った日本の政治は、こういう視点で見るとどう
見えるのか。
ぜひ聞いてみたかった、と思わせる説得力が著者の
言葉から感じられる。
昨年の岩波新書創刊70周年記念フェアでこの本を
購入し、その少し後に加藤さんの訃報を聞いた。 -
2017/08/16
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着眼点が面白い。普段意識してない事を意識的に捉え、掘り下げ、整理していく…言葉に落とし込むと確かにそういう事だなと、改めて思う、そんな内容が詰まった本。
鋭い観察眼と深い思考に習うものがとても多い。
時々わからない話や名称が出てくるが、気にせずどんどん読める。