翻訳語成立事情 (岩波新書 黄版 189)

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レビュー : 33
  • Amazon.co.jp ・本 (212ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004201892

感想・レビュー・書評

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  • 社会・個人・美といった新しい概念が、それぞれ翻訳されるまでの経緯が具体的で読ませる。特にLoveが「恋愛」と翻訳された理由はLoveが精神的で高尚なもので、日本語の「恋」が通俗的・不潔なものというのにはびっくり仰天させられた。また万葉集の「恋」はすべて肉体関係のあとのことというのにも驚いた。またBeautiful「美」の概念も翻訳語のあとに成立したというのも刺激的だった。例として芭蕉の紀行文などの文章にも「美」という言葉がないということなど、これらについては、もう少し調べてみる必要を感じた。

  • 翻訳語が生まれてくる背景について論じたもの。
    全10章に分かれており、社会・個人・近代・美・恋愛・存在・自然・権利・
    自由・彼、彼女という翻訳語について成立背景を述べる。
    翻訳に際しては、西洋の理屈が高尚だという考えがあったようだ。
    全編通じて著者のいう「カセット効果」が述べられている。
    以下、備忘録として引用。
    1.Societyについて
    「社会」という訳語が造られ定着した。しかし、このことは「社会」―Societyに対するような現実が日本にも存在するようになった、ということではない。
    著者がいう翻訳語の特徴→先進文明を背景に持つ上等舶来のことばであり、同じような意味の日常語と対比して、より上等、より高級という、漠然とした語感に支えられている。
    2.個人
    福沢諭吉の「人」という訳語の場合、読者は勿論完全に理解できる。それだけに、原語のindividualと「人」との間の、意味のずれた部分は読者に伝わらない。
    「四角張った文字」の意味が原語のindividualに等しくない。
    この新しい文字の向こう側にindividualの意味がある。と約束がおかれるが、これは翻訳者が勝手においた約束事のため、基本的に読者にはわからん。ただ、読者側も何か重要な意味があると受け取ってしまう。このことを「カセット効果」という。
    cf.7.自然:実はよく意味が分からないが、重要な意味がそこには込められているに違いない。
    そういう言葉から、天降り的に、演繹的に深遠な意味が導き出され、論理を導く。
    3.近代
    1つのことばが、要するにいいか、わるいかと色づけされ、価値付けされて人々に受け止められる。
    これは日本における翻訳語の重要な特徴の一つ。
    modernの翻訳語としての「近代」の意味は辞書などからは時代区分の意味である。1950年代に正式用語として認知。
    が、成立後半世紀もの間、その他の意味によって私たちの間に使われていた。この矛盾したような現象も重要な特徴である。
    ことばの意味が多義的であるのは、そもそもその言葉の意味というものがほとんどないからである。意味が乏しいから流行し、乱用され、だからこそ多義的になる。
    6.存在
    翻訳に適した漢字中心の表現は他方、学問・思想などの分野で、翻訳に適さないやまとことば伝来の日常語表現を置き去りにし、切り捨ててきた。
    こういうところから、哲学などの学問を組み立ててこなかった。
    8.権利
    民権家たちは政府の「権」に対して、自分たちもまた本質的にそれと等しい「権」を求めた。例えば、民権家たちの求めたのは、まず参政権など政治にあずかる「権」であった。基本的人「権」のような「権」はあまり問題にされなかった。

  • 1982年初版の岩波新書(黄版)。本の外装は古くなっても、内容的にはまったく古びちゃいない、必読の書。重要ポイントは柳父氏が随所で指摘している「カセット(宝石箱)効果」(柳父氏命名)。外来語を「日本語」(漢語もしくは造語)に置き換えると、翻訳者の意図を離れて、訳語が一人歩きを始める。訳された「日本語」がよくわからない言葉だからこそ、ありがたい言葉として、また流行り言葉として、よくわからないまま多用(乱用)されたり、多義化したりしてしまう。翻訳者の翻訳・造語が適切かどうかももちろん重要だが、言葉が生き物である以上、その後の変遷も押さえておかなければ字義だけでは理解できないということがよくわかる。柳父氏の文体も平明簡潔。

  • 2016.11.25駒井稔氏講演

  • よ、読むのにめっちゃ時間かかったー!
    他の方のレビューには敵わないので、もっと丁寧に書かれているレビューを参考にされたし(笑)

    この間、ちくまプリマーで誰が言ってたか、英語のLOVEと、日本語の愛はその語に含まれた背景が違うと。
    英語では神に対するような感情を含めた言葉。
    日本ではせいぜい兄妹に向けるような言葉。
    んー。この解釈も、『翻訳語成立事情』を読むとズレがあるように感じる。

    そして、恋すると愛すると恋愛もやっぱりそれぞれに違いがあるように思う。

    しかし、書かれている内容は本当に面白い。
    社会、個人、近代、美、存在、自然、権利、自由、彼・彼女。

    特に思想が絡んだ言葉は、モノのようにA=Bとはいかない。
    明治の人はよく講演なんかでカタカナ語好きやなーと思っていたものだけど、こういう事情があったんだなぁと納得。
    そして、2000年代の私たちはそのズレを知ってか知らずか、当たり前に使っている言葉ばかり。

    だからこそ、起源を辿ってみることは良いよね。

    2017/10/04再読
    池上嘉彦の評論を読んだ際に思い出して再読。

    「ことばがこうして、いいとか、悪いとか価値づけされて受けとめられている、ということは、ことばが、人間の道具として使いこなされているのではなく、逆に、何らかの意味で、ことばことばが、人間の道具として使いこなされているのではなく、逆に、何らかの意味で、ことばが人間を支配している、ということを示している」

    まさにこのことと同じ結論に至るのだけど。

    池上氏はこう述べる。
    「外国語の単語を日本語の単語に一対一で置き換えれば事が済むと思い込んでしまっている人たちと同じように、言葉を使っているつもりで、実は少しも使いこなせていないのである。」

    結局、翻訳語を生み出す過程は試行錯誤があり、日本にはない文化・概念をいかにしっくり来るよう「仕向けるか」であったのだと思う。
    「自然」や「美」といった言葉は、元より日本に根付いてきた概念・感覚であったから、誤解も生じ、今なおその使い分けが上手くいかないところもあるのだろう。

    筆者は「カセット効果」を繰り返し主張するが、何か大切なように思えて、きちんと説明できない語。
    だからこそ、流行し、流行することで定着するのだという言になるほど、である。
    最近はカタカナ語で煙をまかれているような気がする。

  • ハイデガー入門を読んだ後のせいか、
    本書で取り上げられていた、
    「存在」という言葉の成立ちについて色々考えてしまう。
    そもそも「存在と時間」という題も正確なのだろうかと。

    翻訳語の特殊性や、
    成立ちを知ることは意外と面白く、知らないだけで
    こんな言葉がほかにたくさんあるのだろうなぁ。

  • 20140420 普段普通に使っている言葉が明治以降の言葉だという事に新鮮な驚きがあった。今のメール文化からも同じような事が起きるのだろうか。何十年後の事を想像するのも楽しい。

  • 喋るときに一々言葉を吟味しながら喋る人なんて、或いは場合なんてそうないということ。それぞれの理解で言葉を覚えてその理解に基づいて喋るから、結局同じ母国語共有していても意味が通じないなんてことが発生してしまう。理解度や文の構成能力だって人それぞれ違うもんね。

  • 凄く面白かった。これまで、こういった「言葉」について書かれた本をあまり読んでなかったというのもあるけど、「言葉」というものを扱う視点というものが様々あり、手前勝手に濫用してよいものではないのだなと色々勉強になった。本作で扱われる言葉は10例程だけど、そこに様々な切り口からその訳語の成立の経緯を紐解いていく様に知的好奇心を刺激される。

    昔の日本には「恋愛」という言葉は無かった。それは「恋愛」という概念が無かったというよりも「Love」という言葉の示す範囲の、高尚な「色恋」を指すものが無かったという。そこで、「恋愛」という、その時点では全く意味を持たない熟語が生まれ、その中身が「Love」という概念で埋められたという。

  • 勝手な意味を作る言葉の厄介な性質/柳父章『翻訳語成立事情』 - ピアノ・ファイア http://d.hatena.ne.jp/izumino/20130823/p1

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著者プロフィール

1928年東京市生。東京大学教養学部教養学科卒。元桃山学院大学教授。著書に『翻訳語の論理』『文体の論理』『翻訳とはなにか』『翻訳文化を考える』『日本語をどう書くか』『秘の思想』『近代日本語の思想』『未知との出会い』『日本の翻訳論─アンソロジーと解題』(共編著)(以上、法政大学出版局)、『翻訳の思想』(ちくま学芸文庫)、『比較日本語論』『翻訳学問批判』(日本翻訳家養成センター)、『翻訳語成立事情』(岩波新書)、『現代日本語の発見』(てらこや出版)、『「ゴッド」は神か上帝か』(岩波現代文庫)、『一語の辞典─文化』『一語の辞典─愛』(三省堂)、『翻訳語を読む』(丸山学芸図書)ほかがある。

「2017年 『近代日本語の思想〈新装版〉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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