- 本 ・本 (226ページ)
- / ISBN・EAN: 9784004202769
感想・レビュー・書評
-
哲学的に重要な用語から、当時主流であったと思しき用語などを広く取り入れている。そういう意味では非常に、有用な用語集なのであるけれども、基本的には雄二郎が定義する言葉であるので、それをわかった上で読まねばならない。例えば、雄二郎は身体性を重視する。それは、視覚優位の世界の中で触覚などの体性感覚がないがしろにされてきたからであるし、体性感覚を基にすれば、「共通感覚」にたどりつけると考えているからである。そして、共通感覚に到達すれば、自ずと、「心身二元論」を克服できると考えているわけである。しかし、それは弁証法的な克服とは異なる。弁証法というのは、相反する事柄をより高次の概念へと引き上げる手法であるが、実際は、非常にあいまいなものである。そこにおいては結局のところ、ぼかされるだけであるので、弁証法的超越とは異なり、著者は「体性感覚」によって統合すればよいと考えるのである。だから、精神の身体性といったことも考えられるのである。著者が唱える臨床の知なる概念も、診断的なものとは異なり、実際に体性感覚つまり身体性を通して、相手の精神をも理解していくことであり、そこにおいて河合隼雄の箱庭療法とも接近するし、精神の身体性において木村瓶による分裂病の把握とも接近するのである。
前者は、箱庭という限られた枠の中に、自分の体性感覚を通して内的世界が表現されるのであり、後者においては、分裂病者とはつまり、自分を収納する場所を失ったものである、とされるのである。後者をもう少しわかりやすく言えば、たいていの人間は、「私は~」「私はー」といった具合に、この「私」がまず第一にあると考えているが、実際は「~」や「-」の部分に含まれるものの集積である場所がありそこに「私」が収納されるという考えである。これはトポス論とも関係が深い。トポス論によっても、理念といったものはどこかに収納されておりそこから引き出されるのだと考えられたが、これはいってしまえばプラトンのイデアではあるまいか?ということで、雄二郎は最終的には、この体性感覚へと持っていきたがるのである。また、ここには能動性と受動性の両方が含まれる。つまり両者をかねそろえたパフォーマンスであり、両者をそろえるためには体性感覚が必要となるわけであり、それを通して共通感覚に到達する。そして、共通感覚こそが、心身二元論を超越した姿なのであるが、なんだか、すごくあいまいなのである。意外とね。だから、ここで雄二郎は終わってしまっている気がするし、この先は一体?と疑問符がわくのである。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
哲学、心理学、社会学などのキーワードの中で著者が重要だと思うものを分かりやすくまとめた本。1984年に書かれた本だが現代でも主題として取り上げられるような項目ばかりなので、十分な読み応えでこれを起点にして興味のある項目を深掘りしやすいのも良い。
-
大塚信一2024 岩波書店の時代から
にあった本 -
著者の博識さが伝わるエッセイ。文化人類学の用語にかたよっているのは、当時の流行りを反映してるのだろうか。あと、マルクスや構造主義も強めに出ている。
有名な本だが、受験勉強には役立たない。
つまり古くてクセがあるから駄目だという点ではなく、そもそもこの本は、下記目次にある用語の基本的意味をこれから勉強する人に向けて書いているわけではない(=既に相当知識のある人がさらに深掘りするために読むことを想定している)。想定読者はある学問の入口に向かう人であるという点で、受験勉強用ではない。
本書が「現代文の評論問題の素材」にされた場合は、高校生が目にするシチュエーションとしては自然かもしれないが、その場合は今度は内容の古さが問題になる。
【目次】
術語――知の仕掛けとしての
01 アイデンティティ 存在証明/自同律/相補的アイデンティティ 001
02 遊び 真面目/演劇/祝祭 006
03 アナロギア アイデンティティ拡散/性自認/免疫 011
04 暗黙知 パタン認識/棲み込み/共通感覚 016
05 異常 正常/理性・狂気/根源的自然 021
06 エロス タナトス/セックス/ジェンダー 026
07 エントロピー 永久機関/ネゲントロピー/開放定常系 031
08 仮面 霊力/神話的形象/素顔 036
09 記号 フェティシズム/シンボル/隠喩・換喩 041
10 狂気 譲渡/疎外/監禁 046
11 共同主観 相互主観性/間身体性/共同幻想 051
12 劇場国家 ヌガラ/模範的な中心/中空構造 056
13 交換 交通/象徴交換/過剰 061
14 構造論 イメージ的全体性/弁証法/言述の論理 066
15 コスモロジー ブラック・ホール/存存の大いなる連鎖/現実との生命的接触 071
16 子供 深層的人間/小さい大人/異文化 076
17 コモン・センス 常識/共通感覚/共感覚 081
18 差異 同一性/反復/差別 086
19 女性原理 阿闇世コンプレックス/母権制/グレート・マザー 091
20 身体 歴史的身体/社会的身体/精神としての身体 096
21 神話 箱庭療法/原初の時との接触/ブリコラージュ 101
22 スケープ・ゴート 王殺し/中心と周縁/ヴァルネラピリティ 106
23 制度 第二の自然/見えない制度/リゾーム 111
24 聖なるもの 宇宙樹/聖・俗・穢/自然 116
25 ダブル・バインド 小さな哲学者/象徴的相互行為/禅の公案 121
26 通過儀礼 死と再生/永遠の少年/リミナリティ 121
27 道化 はじまりの不在/ヘルメス/反対の一致 126
28 都市 メディオ・コスモス/深層都市/脱形而上学 136
29 トポス 土地の精霊/決まり文句/場所の論理 141
30 パトス パトロギー/イデオロギー/情動・情念・感情 146
31 パフォーマンス コンピテンス/パトス的行動/演劇的知 151
32 パラダイム 理論負荷性/共約不可能性/学問母型 156
33 プラクシス クオリティ/パフォーマンス/動的な感覚 161
34 分裂病 うつ病/アンテ・フェストゥムとポスト・フェストゥム/反エディプス 166
35 弁証法 問答法/論証法/絶対弁証法 171
36 暴力 供犠/法体系/呪われた部分 176
37 病い 健康幻想/特定病因説/痛みの抹殺 181
38 臨床の知 科学の知/パトスの知/生きられる経験 186
39 レトリック パイディアー/政治的動物/レトリックの知 191
40 ロゴス中心主義 反哲学/脱構築(ディコンストラクション)/天皇制 196
参考文献 201
あとがき 217
人名索引・辞項索引 -
どういう本なのかと端的に説明すると、「遊び」「記号」「身体」「神話」「都市」など、40の言葉について、その言葉の意味を解説している本である。
だが、その解説文が実に豊かだった。
自分のブクログカテゴリとして敢えて、辞書・図鑑の中に入れたが、どちらかと言えば、小説を読んでいるような気分になった。
また、解説に際して、著者の知識の多さや思慮の深さにも感服する。
手元に置いておきたい一冊。 -
「ランダ考」が面白かったから流れで借りてみた。
個人的見解による辞書風エッセイ…とでも言うのかな…。
とっても面白い企画。
すげー!!って項目と、退屈に感じる項目があるのは、きっと自分の理解と興味の範疇かどうかが問題なんだんだな。 -
目次:
術語―知の仕掛けとしての
1 アイデンティティ―存在証明/自同律/相補的アイデンティティ
2 遊 び―真面目/演劇/祝祭
3 アナロギア―アイデンティティ拡散/性自認/免疫
4 暗 黙 知―パタン認識/棲み込み/共通感覚
5 異 常―正常/理性・狂気/根源的自然
6 エ ロ ス―タナトス/セックス/ジェンダー
7 エントロピー―永久機関/ネゲントロピー/開放定常性
8 仮 面―霊力/神話的形象/素顔
9 記 号―フェティシズム/シンボル/隠喩・換喩
10 狂 気―譲渡/疎外/監禁
11 共同主観―相互主観性/間身体性/共同幻想
12 劇場国家―ヌガラ/模範的な中心/中空構造
13 交 換―交通/象徴交換/過剰
14 構 造 論―イメージ的全体像/弁証法/言述の論理
15 コスモロジー―ブラック・ホール/存在の大いなる連鎖/現実との生命的接触
16 子 供―深層的人間/小さい大人/異文化
17 コモン・センス―常識/共通感覚/共感覚
28 差 異―同一性/反復/差別
19 女性原理―阿闍世コンプレックス/母権制/グレート・マザー
20 身 体―歴史的身体/社会的身体/精神としての身体
21 神 話―箱庭療法/原初の時との接触/ブリコラージュ
22 スケープ・ゴート―王殺し/中心と周縁/ヴァルネラビリティ
23 制 度―第二の自然/見えない制度/リゾーム
24 聖なるもの―宇宙樹/聖・俗・穢/自然
25 ダブル・バインド―小さな哲学者/象徴的相互行為/禅の公案
26 通過儀礼―死と再生/永遠の少年/リミナリティ
27 道 化―はじまりの不在/ヘルメス/反対の一致
28 都 市―メディオ・コスモス/深層都市/脱形而上学
29 ト ポ ス―土地の精霊/決まり文句/場所の論理
30 パ ト ス―パトロギー/イデオロギー/情動・情念・感情
31 パフォーマンス―コンピテンス/パトス的行為/演劇的知
32 パラダイム―理論負荷性/共約不可能性/学問母型
33 プラクシス―クオリティ/パフォーマンス/動的な感覚
34 分 裂 症(スキゾフレニア)―うつ病/アンテ・フェストゥムとポスト・フェストゥム/反エディプス
35 弁 証 法―問答法/論証法/絶対弁証法
36 暴 力―供犠/法体系/呪われた部分
37 病 い―健康幻想/特定病因説/痛みの抹殺
38 臨床の知―科学の知/パトスの知/生きられる経験
39 レトリック―パイデイアー/政治的動物/レトリックの知
40 ロゴス中心主義―反哲学/脱構築(ディコンストラクション)/天皇制
文 献/あとがき/人名索引・事項索引 -
友達に貸してから3年経っているのに、帰って来ず、再購入した一冊。
理系の領域に身を置くとなかなか体験することのない「他分野の関連付けて思考する」という思考方法を垣間見ることが出来る。
文系の方々を心より尊敬してしまうかっこいい論調。
私の中では最高にオシャレな一冊です。 -
述語は観念を示すと思う。主語が主体であって、私やあなたなどのある程度の固有の範囲を示すが、述語は範囲と同時に行為、状態など、同じ言語を使っているもの同士でも齟齬が生じることが多い。
何気なく使っている言葉の意味は相手と共有できているのだろうか
。「コモンセンス」「狂気」「記号」「レトリック」・・本書は何気なく使っている言葉のなかに深い意味があることを知らないで使うより知って使うほうがいい、そしてその言葉を深く考えて使うほうがもっといい、ということを教えてくれる。でも知ってるを表に出すと嫌われる、ってことは書いてない。(^0^;)
日本語の意味がわからないことが最近多い。興味のない分野の情報は全く記憶に残らないためか、新語、流行語はもとより、以前使われて今では意味が変わった言葉(ヤバイ)などを頻繁に使われると外国語以上に理解に苦しむ。時たま、それどんな意味?と聞くと話してはなんとなく使っているだけで深く意味など考え使っていないことなどが多い。これはヤバイぞ・・・ -
ポストモダンな雰囲気が横溢している84年刊の本。従来哲学の仕事であった問いを発して「定義する」固定から、「表現する」開放へという姿勢、チョイスされた40のことばの学際性、リゾーム性がさっそくポストモダンである。
ギリシャ哲学からデカルト以降の近代哲学、もちろん先端だったフランス現代思想、それに東洋、西田、三木、親中村だった栗本慎一郎、上野千鶴子まで引用され縦横無尽。とりわけ心理学、精神医学の領域への関心が広く取り入れられていることも象徴的である。
ではこの時代思潮とはなんであったか?
ルソーや白樺派の素朴自然主義を超えて、堅固に構築された科学的近代知の世界を解体し過激に自然回帰すること。その知のラディカリズムは、より具体的に演劇的知、臨床の知、パトスの知といった中村が追求し続けた鍵概念として提示される。そしてそれを現出させるパフォーマンス。
それからほぼ30年。いま直面しているのはその相対化の果ての拡散、秩序を失った多様化ではないか。脱構築がなしえたものをまた脱構築するという循環が内在していた陥穽。絶対や中心を否定した反動は、例えば固定した目的(ヴィジョン)を定めない政権を支持し、また批判する。小泉や橋下への簡単ななびき。天皇制や原子力への対処的議論。
カイヨワを引いて、「聖なるもの」とは汚損したり汚染されたりせずにはふれることのできない人間あるいは事物であるとし、未開民族の間でも祝福されたものは呪われたものでもあり人々が遠ざけておくものというアンビバレントを示す。
これを踏まえて科学的技術や政治経済システムが根源的にはらんでいる「暴力」に脅かされる時代と言われれば、まさに今の日本および世界そのものである。技術やシステムの媒介=間接化が著しく進み、有用性=合目的性が貫徹され、物の超越(バタイユ)の徹底支配が世界をそんな風にした。生の過剰(呪われた部分)が物質化され抽象化されて手が届かなくなってしまった地点から人間を脅かし侵犯するのである。それは供犠と呼ばれる、プリミティブな儀式、祝祭性の喪失に端を発するものと考えると、その復権が回復への契機になりはしないかという議論につながるがはたして可能かどうかはわからない。
中心の喪失は文化の領域にも著しい。いまカルチャーとは=サブカルである。サブカルの対抗文化をさがすという倒錯。翻訳書や洋楽の衰退は海外のパワーも衰えていることをにおわせる。
問題意識を持ってさえいればあらゆるところにヒントは見いだせる。そして優れた論考は多角的な読み込みを可能にしてくれる。優れた知性が現実社会に生かされないことが何より恐ろしいジレンマだ。本書をガイドブックとして(巻末に付された参考文献リストもあわせて)思索を広げてゆければよいと思う。
「直線ハ最短距離カ?」
著者プロフィール
中村雄二郎の作品





