戒厳令下チリ潜入記―ある映画監督の冒険 (岩波新書 黄版 359)

制作 : 後藤 政子 
  • 岩波書店
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レビュー : 18
  • Amazon.co.jp ・本 (225ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004203599

作品紹介・あらすじ

ヨーロッパ亡命中のチリ反政府派の映画監督ミゲル・リティンは、1985年、変装して戒厳令下の祖国に潜入、『チリに関する全記録』の撮影に成功した。スラム街や大統領府内の模様、武装ゲリラ幹部との地下会見、母や旧友との劇的な再会…。死の危険を遂にくぐりぬけるまでの奇跡の6週間が、ノーベル賞作家によって見事に記録された。

感想・レビュー・書評

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  • 中古で希少な本を買えばお値段がはりますし、何より持って帰るのは重いという理由から大久保図書館で借りることにした十冊の大型長編単行本。もう時間切れ、諦めましょう、と匙をなげたのは、日本滞在が残り二日となった夜でした。そろそろ読んだ分だけでも書評をまとめようと思いながらも、唯一の文庫本、この一冊くらいならなんとかなる!と意地で読了。これにて無事、借りたものは八冊たいらげました。二週間で八冊... まだまだですね。

    1985年、チリの映画監督ミゲル・リティンは、入国を禁じられている亡命者でありながら六週間にわたる潜入取材を決行し、軍政十二年目の祖国の現状を見事フィルムに収め生還しました。本書は彼の仕事ぶりをコロンビアのノーベル賞作家、ガルシア=マルケスがまとめたノンフィクションです。

    この勇敢な映画監督はウルグアイ訛のスペイン語を訓練した上で変装し、架空の妻役の女性と入念な打ち合わせを行い、精巧な偽造パスポートで入国するのですが、変装前の写真が(お気に入りの一枚だということを考慮しても)これがもう匂いたつような男前でして、ワンピースの鷹の目のミホークを彷彿とさせる鋭い眼光と、芸術品のごとく完璧な造形をほこる鼻すじに、ついつい彼の運命やいかに!と本書に惹き込まれていったことは否めません。

    背景を少し説明しますと、チリでは1970年の大統領選挙より、社会主義政党が政権を握っていました。社会主義政権=独裁という先入観がありましたが、そうとは限りません。アジェンデ大統領は鉱山を国有化したり、農地改革によって大土地所有の制度を解体したりと奔走しましたが、経済は混乱を極め、政権への信頼が揺らぐようになります。そして1973年9月11日、米国の後援を受けたピノチェト将軍の軍事評議会がクーデターを起こし、軍事独裁体制を敷きました。反体制派は弾圧され、国民の一割に当たる約100万人が祖国を捨て亡命しました。我らが麗しき映画監督はこのうちの一人ということです。

    南米らしいおおらかさでしょうか、潜入に成功したまではよいものの、十年来の帰国にすっかり気をよくした主人公は、合い言葉の確認を怠り、度胸だめにし警官に話しかけ、生まれ育った地区にて思い出の劇場や贔屓のレストランでくつろぎ、母を驚かせようと実家に立ち寄り、しまいには亡命仲間にチリ土産を買い込んだりとずいぶん緊張感のない姿ではしゃいでいます。おかげで手に汗にぎる逃走劇のアテははずれてしまいましたが、軍事独裁体勢の下で心細げに暮らす当時のチリ国民の生活をしっかりと捉えた、優れたルポルタージュにまとめられています。

  • 9,11クーデターでチリを追われた著者が、1985年に変装の上で偽造したウルグアイ籍のパスポートで入国し、取材をして回るルポタージュである。

    ピノチェット大統領の下でチリは「奇跡」と呼ばれるほど経済発展をしたとされれるが、失業率はアジェンデ政権下より悪化しているし、より債務が増えた。
    街には孤児が増え、街並みはきれいになったが、一歩出るとスラム街が立ち並ぶ。そして国家警備員が常に監視される。拷問や虐殺が多数行われた。

    そして労働者階級の間では、アジェンデは過去の人となってしまっているとはいえ、今でもヒーローとなっている(少し神格化され過ぎではないかと思ったが)。「彼に握手されたことは忘れない。」「彼以外の人間に投票したことはない。」「この政府は糞だが、俺の政府だ。」「彼がこの椅子に座ったんだ。」「彼とチェスをして勝ったよ!」など、思い出話に事欠かない。それだけ希望の星であったのだ。

    アウグスト・ピノチェット大統領は、2005年に死んだがその時はそれを喜ぶデモが行われ、アジェンデのポスターが掲げられた。今でもチリでは、革新勢力でのヒーローであり、私の深く尊敬する人物でもある。

  • もの凄くおもしろかった!
    さすがノーベル賞作家ガルシア・マルケス。インタビューに基づいたルポルタージュのはずなんだが、まるで一級の冒険スパイ小説。
    チリに住んでる上流階級のおばあちゃんが過激で素敵だった。
    読後思わずチリの政治史をググった。人それぞれのように国それぞれ。いいなぁ~

    Mahalo

  • ピノチェト時代の戒厳令下、チリに潜入した映画監督の「冒険談」を文豪 ガルシア・マルケスが記録したもの。ピノチェトが行ったネオリベ的な経済政策による表面上の繁栄と大多数の貧困、秘密警察による弾圧とそれに反逆するレジスタンスの活動が描かれています。地名などがなじみがないので今ひとつ状況はわかりにくかったですが、宮殿を撮影していたクルーの目の前をピノチェトが通り過ぎる場面など、結構緊迫感もあります。それにしても生きるか死ぬかの状況なんですが、結構いろんな人から普通に匿ってもらったり、ある意味抑圧する方も反逆する方もラテンですね・・

  • 2007年 読了

  • ガルシア・マルケスが今年亡くなったので、ずっと積んだままにしてあったこの本を読んでみました。
    ピノチェト軍事政権下、国外追放されている映画監督が、レジスタンスの力を借りてチリに潜入するという、スリリングなルポルタージュです。マルケスが映画監督から話しを聞いて本にまとめたという形になってます。
    映画監督は10年以上故郷を離れていたので、変わった祖国にびっくりしたり、知り合いの女性に会ったり、また母親にも再会します。ですが偶然出会った義理の母には自分の正体を打ち明けられず、やり過ごそうとする所はスパイ小説みたいにスリリングです。
    マルケスが書いているので、まるでちょっとした小説のようなシーンもあったりうまくまとまっていますが、こういうノンフィクションは多少荒削りな方が迫力あると思いますので、この監督自ら書いても良かったのでは…と個人的には思いました。

  • ルポルタージュ作品ながら隠しても隠し切れないマルケスの語り口の妙と、チリ市民の抑圧された姿を映した写真が深く印象に残る。(特に15pの、口にテープを張って言論弾圧に抗議する女性たちの姿には、息をのんだ)

  •  戒厳令下のわりに、まったく緊迫感が感じられませんでした。お母さんに会いに行ったりして。また取り締まる側の国家警察の人たちが、全員やたらとイケメンな所なども、そう感じさせました。これは、普通の映画ではないのか?
     コンセプシオンと言う都市名に、聞き覚えがあるのですが、どうしても思い出せないのが、心残りでした。

  • チリの内情は全然知らないんだけど、確かにこの物語だけでも十分にスリリング。映画俳優以上に映画俳優らしい映画監督って感じ。ってか、いまブクログで見て初めて知ったけど、日本でもVHSでは出てるんですね。

  • ミゲルリティンという映画監督の潜入を取材した記録。

    現地報告(reportage)を文学作家が書いているところが読み易い。
    チリに行ったことがないので、今一歩理解が進んでいない。
    産業,文化,経済などについて勉強してからまた読みます。

    チリのその時の状況と,その後の変革の基礎を提供しようとしている。

    変装前と変装後の写真がある。
    近影と遠影と状況が違うので分かりにくいかも。

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