愛と美と文学―わが回想 (岩波新書)

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  • 岩波書店
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レビュー : 5
  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004300885

作品紹介・あらすじ

敗戦直後から40余年、旺盛な創作活動を重ねる一方、東西の古典から前衛小説に至る文学の森を逍遥してきた著者が、今日まで70年の魂の軌跡をふり返る。早世した母や父の影響、孤独・貧困・病いとの闘い、女性たちとの交わり、そして思想上の遍歴と到達点まで、戦後を代表する一知識人による初めての赤裸々な自己解剖の試み。

感想・レビュー・書評

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  • 作家,中村真一郎氏の自伝.
    私は彼の小説を読んだことがないのだが,ある世代の一人の作家の精神史として興味深く読んだ.
    自分の文学の方法を見つけるために,古今東西の(私が名前も知らないような)本をたくさん読んで,本当によく勉強している.

  • 荒川薦 「そのとき感じたことや体験の意味をすぐさま次の行で整理総括し話を結ぶ」

  • 1989年の発行である。そのとき私はちょうど次々と発刊される加藤周一著作集(平凡社)を追っていた。当然のことながら、中村真一郎は数少ない加藤周一の友人であるということは知っていたので、本屋で手にとった覚えがある。ところが、加藤の共通の友人である福永武彦のところは大きく筆を割いているのにも拘らず、加藤周一のところはどれも一二行で終わっていたのである。私は資料性の無さというよりも、加藤のために憤慨して本を買うことはなかった。

    あれより22年たち、中村真一郎はむろんこの後数年し逝き、加藤周一も二年と少し前になくなった今、もう一度この本を紐解いた。いや、初めて紐解いた。やはり加藤周一が認める文筆家だけあって、加藤が新書二冊かけて綴った伝記「羊の歌」が1960年で終わっていたのに対して、同年代の中村はたった一冊で89年までを書ききった。簡潔にして的確、稀代の文章家ではある。

    中村は生涯二回深刻な神経症を患うほどに繊細な神経を持っているが、一方でそんな自分を生涯にわたって分析してきたらしい。後に加藤は中村の「四季」四部作の完成を評して、「荘周胡蝶の夢」の故事を例にひいて「中村がこの小説を書いたのか、この小説が中村の人生を作ったのか」と言ったらしい。中村も「これはまさに肯綮に当った知己の言で、この全体小説は私の一生と一体をなすものである。私はこの作品を書き上げるために、人生を生きたのである」と書いている。現在偶々(たまたま)私小説巷間(ちまた)に流行るが、中村の場合は全体小説と謂う。「年表を広げながら外界の社会情勢と物語の中の事件とを関連付けた展開を行うことは止め、事件そのものをちょうど現実の経験が記憶の中に生きている状態を模倣するように描く」外界の社会情勢を眼中に入れない私小説とはおのずから大きく違う小説家である。それが成功したか、失敗したかは知らない。しかし、青年時代から30年以上かけてこの小説のためにメモを溜めていたというのだから、壮大な大河小説だったことだろう。また、そのことを言い当てた「古い仲間の加藤周一」を紹介することで、私は中村における加藤周一像の一端を知ることができて、満足だったのである。

    この自伝でも中村は「中学時代に世を去った父」のことを「封建的貴族的感情と近代市民精神との極端な対立を、矛盾としてでなく調和として生きた、近代日本独特の人物だった」と分析し、自らの人格形成に決定的影響を与えたことを認めているのである。

    中村真一郎という文学者の入門書として、あるいは、しばらくその文学に耽溺したあとの重要な自伝として、この冊子は重要な位置を占めると思う。私はあくまで、暫くは加藤周一に耽溺しておきたいので他にもいろいろと面白いところ(現代の貧困問題を言い当てているところとか、色好みの裏話等)はあるのだが、ここまでとする。

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    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • 整理のつかない「自伝」

    【内容】
    中村版「羊の歌」かと思う。
    もっと文学的かと想像していたけどけっこう自伝的でした。
    ただ、年代順に記述されてはおらず、著者の必然によって、ふらふら年代が飛ぶので、自伝としてはわかりにくいかもしれません。

    とはいえ、この著者のことなんで、自分の美意識の根源を探る自己分析に終始します。要するに小説とさほど変わらない雰囲気です。

    あくまでも自己分析であり、空想旅行みたいなもんなんで、真偽は本人にもわからないとは思いますが、本人にとってはこれが真実なのでしょう。

    まあ、親しくない者にとっては鼻持ちならんヤツでしょう。文学的、精神的貴族って人でしょう。
    恋愛も肉欲も美の追求の一環。
    これは別に非難ではなく、よくぞここまでという心からの感心です。

    【感想】
    本は出てすぐ買ってたけど、ずっと読んでなかった。でもついこないだ買ったばかりのイメージもあったのだけど奥付見ると1989年、こないだではないですね。

    個人的にはこの作者にはかなり同質なものを感じており、だからこそ愛読者なのだけど、あえてガサツでいこう!とも意識してるので、出力はずいぶん異なるとは思ってます。
    実際ある程度近い場所にいたのですが(知己と言えるほどではなかったが「さん」付けで呼べる程度の資格はあったかと)、あれ以上近寄ってしまってたら、いろいろたいへんやったろうなあとは思わされました。

    卒論はこの作者で一番好きな「孤独」論のつもりで始めましたが、書き終わったら「四季」論(正確には「四季」の方法論)になってました。でも、ナカムラのナの字も文中にない。引用もリルケから数行が一回のみと、なかなか斬新でした。
    なんか、いろいろ思い出しました。

    (2013年09月09日読了)

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著者プロフィール

(1918~1997年)東京生まれ。東京帝国大学仏文科卒業。42年、福永武彦らと「マチネ・ポエティック」を結成。49年、『死の影の下に』で戦後派作家として認められる。代表作に『雲のゆき来』などがある。

「2015年 『堀辰雄/福永武彦/中村真一郎』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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