豊かさの精神病理 (岩波新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004301257

感想・レビュー・書評

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  • 精神に病を抱えているのではなく人生相談のために著者のもとを訪れる人びとを、本書では〈よろず相談の患者〉と呼びます。そうした人びとの相談内容と、それに対する著者の応答を紹介しながら、人間関係をモノとの関係として語ろうとする現代人の精神のありように迫っています。

    精神科医としては当たり前のことなのかもしれませんが、豊かなモノに囲まれて暮らし、ひととひととの関係をモノとの関係に託して語る〈患者〉たちの精神の貧しさを頭ごなしに批判するのではなく、彼らの語りにどこまでも寄り添いながらともに解決をめざしていこうとする著者の姿勢に好感をいだきました。もちろん、プライバシーの観点や紙幅の制限もあるので、じっさいの診療をそのまま再現したものではないのでしょうが、〈患者〉たちが著者の問いかけに答えていくなかで、自分から問題の核心に近づいていくところに興味を惹かれます。

  • ある精神科医のもとに、様々な<モノ語り>の患者たちが訪れる。彼らは病名がつくような症状は何一つなく、至って健康だ。彼らの特徴は、モノ、時計や服、食べモノ、付き合ってきた恋人を、まるで頭の中にカタログがあるように順番に述べられることだ。彼らはモノを通して「ポリシー」「本物」「個性」を主張してくる。

    本書は、大半が<患者>と精神科医である著者との対話で成り立っている。1990年の本なので、ブランドに執着するバブルな人々がたくさん登場する。ちょっと理解し難かった。「現代の精神病理」というより「バブル期の精神病理」という歴史的資料だと思った。
    しかし、本書後半の著者の評論は、現代にも十分通づるものであり、はっとさせられた。ブランド物でアイデンティティを保つ人も随分減ったが、SNSでの「充実した人生」アピールなど、現代社会でも似たような現象は起きている。「充実度」で他人を判断し、自分にも物差しをあてがう。バブル期の話だからといって他人事ではない。
    あと、この本を書いている精神科のお医者様は、本当に機転が利いて、その都度最適な方法で患者の悩みを解決していくので、読んでてすごく感心した。ぼくもこの人に会って診察してもらいたい(笑)

    以下、引用

    「<モノ語り>の人びとは、人づき合いにおけるナマナマシイ感情、「ドロドロ」したものを洗い流し、言ってみれば人づき合いを丸ごと消毒しています。」

    「<モノ語り>の人びとが、自分の''個性''や''能力''について語る時、その''個性''や''能力''という概念は特殊な意味を帯びています。」

    『いい物をじっくり選んで買う。そこに個性が出ると思うんですよ。他人が同じ物を持っていても気にしませんよ(25歳会社員男性)』

    『いい物、本物、確かな物を持っていると、自分がしゃきんとするんです。ほら、馬子にも衣裳って言うでしょ。あれ、内面的にも言えてると思うんです(27歳一流ホテル係長女性)』

  • 経済的には豊かで恵まれ、高価な〈モノ〉に囲まれる人々も精神科を訪れる。バブルの頃のエピソードなのであろうが、時代性を差し引いてもちょっとコミカルにそしてグロテスクな感覚を覚える。あの頃から30年近く経ち、世の中の価値観は大分変わったかもしれない。でも、あの時代を謳歌した人間には、多かれ少なかれ、こうした精神病理の傷跡があるのかもしれない。

  • バブルの頃って、皆びっくりするほどお金があったんだなぁ。ここに出てくる「患者」は、多くが両親の世代。両親にこの本のことを話したくなった。

    「豊かさの精神病理 2015ver.」とかあったら絶対に面白いと思うけど…いまは果たして「豊か」なのかな。

  • ここに出てくる人たちの悩みが関係の貧困さ、踏み込めなさからきてるというのは禿同。ちゃんと踏み込めあえる関係の人とは踏み込んで生きていきたいと思う

  • 20年以上前に書かれた本だけど、現在でも通じるものがあるんじゃないかと思います。でも、バブル時代の本なので、バブリーな話がいっぱいありました。

  • 本文より・・・自分をその心身両面にわたってモノ化する《モノ語り》の人びとは、自分自身をプラグマティック(実利的)にコントロールする可能性を持っているので、“自信”に満ち、ネアカです。

     人びとが、“自信”を失うのは、その可能性を生かせない時です。人々は「自分への投資」つまり、“自己実現”や“健康維持”に欠かせないモノの購入を惜しみません、あとは実行する“意志”の問題だけです。“意思”はまだモノ化されていません。それ故、自分の“意志”に“自信”をもつことのできる人は少ないのです。・・・
    ――
     この本の主役は「《モノ語り》の人びと」です。「《モノ語り》の人びと」の中には、根深い劣等感を持つひがみ根性がとても強い人たちがいます。彼らは人の好意を素直に受け入れることができません。人に親切にされると、自分が劣っていると言われているような気さえするのです。
    この本を読んで感じたことは、私自身にも「《モノ語り》の人びと」的な部分があるということです。自分自身に自信が持てなくて、その結果として、根深い劣等感がある。それを補うために、ある特定のモノに執着し、モノを持ち、モノが持つ背景・物語りを語れるようになることで、自信を保とうとしていることです。
    流石に資金的な問題もあって、ものへの執着は治まってきましたが、その代わりに頭をもたげてきたのが知識に対する欲求です。私の本好きは、「《モノ語り》の人びと」の物語りが第二章に突入したことに対する警鐘かもしれません。
    いずれにしても、冷静に自分を見つめ、「《モノ語り》の人びと」からの脱却を目標にしたいと思います。

  • 自分という存在に、確たる個性を与えるため、人との関係性を築くため、モノを介在させる「モノ語り」な人々がいる。ある側面では合理的であるが、それは満たされることのない渇きを生む。豊かな時代での幸せとは。

  • モノ語りの方々の話から、現代社会の人々の傾向を話す話。
    著者の淡々とした?文章がエラく気に入っていたので、スラスラと読めました!
    極端な事例の筈なのに、何故か共通点がある…
    一度皆さんに読んでみて欲しい本です!

  • バブル期に書かれた著書だが、今のこの時代にも言えることだと思った。
    豊かなのは良いことだが、モノが溢れすぎて大切なことを見失わないようにしたい。

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