イスラームの日常世界 (岩波新書 新赤版154 新赤版 154)
- 岩波書店 (1991年1月21日発売)
本棚登録 : 545人
感想 : 62件
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
Amazon.co.jp ・本 (224ページ) / ISBN・EAN: 9784004301547
感想・レビュー・書評
-
2013年に亡くなられた片倉ともこ先生の1991年の書籍。私が読んだのは2019年の第41刷発行のもの。
確かにタイトル通りここに描かれるのはイスラームの日常である。
…以降大幅に追記予定…詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ムスリム社会でストックではなくフローという概念に重きが置かれるという指摘は、利子を禁ずるイスラーム金融の理解のために非常に重要な指摘であるし、季節風を利用した海の経済交流を想起した時、説得的である。
また、男女や異宗教に関して差別ではなく区別しているという言い回しも、イスラームを理解するうえでとても説得的な説明の仕方である。
現代の目線からすると、若干イスラーム擁護論を強く出し過ぎていると感じるかもしれないが、それは本書は、インターネットが普及しておらず、今よりもはるかにイスラームについての情報が入りずらかった時代に書かれていることを考えると、致し方ないことかもしれない。 -
イスラームについての考えが360度変わった。
勝手に怖いイメージがあったり極端なイメージがあったけれど
そうやって印象だけで決めつけたくないと改めて思った。 -
日本人にとって、イスラームというと礼拝、断食やブルカといった千年一日の変わらない習慣と男女差別いったイメージに加え、昨今はテロも交えた文脈で語られがち。しかし、そんな頑なな宗教が世界人口の1/4近く、15億人から信仰されるものなのか?という疑問から読んでみた。いろんなことが分かった。
厳しいといわれがちな戒律は「生弱説」を下敷きにしていて、厳格に行うべき事柄は契約で、それ以外は「イン・シャー・アッラー(神の意あらば)」という言葉で「やれたらやりますね、行けたら行きますね、未来のことですからまあ当てにしないでください」程度にゆるく捉えるという使い分けをしているものだったり、
女性たちはベールを被ることで外見の良し悪しを男性たちに言われることがなくなるためむしろ己の実力で勝負できると考えており、女性社長や政治家は珍しくなく、事実ムハンマドの最初の妻は15歳年上の女性実業家であったり、
一夫多妻はムハンマドの時代に戦争で男不足に陥った社会を立て直すための特例処置に過ぎず、しかも家は女性の持ち物で男性はいわゆる通い婚をしていたり、
親であろうが社長であろうが王であろうが神以外は全てが平等という思想から、神以外のものに頭を下げることを拒んだり、
一日5回の礼拝も1か月の断食も全ての人が平等に行うので裕福な人が貧しい人の気持ちを身を以て知る機会になっていたり、
それ故に裕福な人は施しをするのが当然と思っており、貧しい人は施しを受けることが当然と思っていたり。
この本で語られているのは比較的富裕層と言える人たちの身の回りであるため、貧困層に焦点を当てれば暗い話だって当然出てくるだろう。しかし、これらのような寛容で知性のある人々がいることもまた事実。初版が湾岸戦争の直前の1991年で、日本人女性によって書かれているということも特筆すべき。イスラームに対する新たな視点を持とうとしているなら、良い導入書の一つと言える。 -
イスラムを知らなかった日本人が、イスラムに浸って内側から感じる世界を書いた本。姿を見るだけでは分からない価値観で表現されていて、視点を変える重要性が実感できる。ただ、うっすら日本への嫌悪感も感じるので、半歩引いて読んだ方が良さそう。
ヒトは弱いものの悪い面より良い面が強調されて書かれている。お国柄かもしれないがと注釈はありつつも、母系社会的な所があるのは意外だった。教典は守るものだが、状況に合わせる柔軟性もあるということだろうか。また、異教を抱えて成立していた話はもっと読みたかった。個人差として片付けられてしまっているが、価値観が根本的に違う者との折り合いの付け方が気になるので。 -
イスラムで暮らしているひとの日常生活を知ることができる。
日本とは違う考えかたや風習がとても新鮮で驚きだった。
イスラムについて、僕は今までほとんどなにも知らなかったんだというのが素直な感想。
断食やお祈りやメッカへの巡礼なども詳しく知ることができるので、イスラム教をのぞいてみたいならおすすめ。
「人間は弱い生き物だから気をつけよう」というのが、イスラムでの考えかたのようだ。
たとえば、お酒を飲んだら気が大きくなってトラブルを起こすから、お酒は禁止にしましょうとなる。
人間の心は移ろいやすいものだから、結婚が永遠に続くとも考えない。
結婚する前に、離婚するときはどれだけのお金を払うのか決めて契約書まで作ってしまう。離婚で払う額は、結納金よりもはるかに高いそうだ。
「病める時も健やかなる時も」という言葉を信んじるよりは、現実的で大人なのかもしれない。
イスラムの世界は案外と暮らしやすいみたい。仕事よりもお祈りを優先したり、働いていてもお昼は家族とご飯を食べるのが当たり前だったりしていいなあと感じる。
宗教に縛られてみんな我慢しているのかと思っていたけれど、「禁止されていること」よりも、「しないほうがよいこと」のほうが多いみたい。
「豚肉を食べてはいけない」というルールも絶対ではなくて、他に食べるものがないときは破ってもよいらしい。
本が出版されてから30年もたっているけど、このゆるやかで穏やかな空気がいまでも続いていてほしいなと素直に思う。 -
p.2015/1/25
-
私の周りにもムスリムの方がいる。朝会社で同じエレベータにのり、私とは違う階で降りていくから、同じビルに入居する別の会社である事は解るが、そこは最近伸びているIT企業である。その女性は頭をすっぽりとヒジャブで覆っており、一瞬でムスリムなんだと理解できる。世の中のニュースも最近は不穏な中東情勢からか、パレスチナの人々がテレビ映像に頻繁に登場してくる。彼らはイスラームであり、敵対するイスラエルは勿論ユダヤ教だ。日本人は何かと宗教に疎く、質問すれば神道でも仏教でもなく無宗教と答える方が多い。だから生活リズムや社会が教えによって動いているイスラームの世界観を斬新なものと感じる。当たり前だがムスリムの人々にとっては、それは宗教というよりも生き方、生活そのものとなっており、寧ろそれが当たり前の価値観である。海外旅行した際にタクシー運転手が目的地でもないところに途中で停車して、お祈りで20分ほど待たされたこともある。急か急かする日本人の私から見れば、客がいるのに、と理解に苦しむことも若い頃にはあった。だがそれも価値観の異なる国に居る事を忘れた、ただの日本人の感覚だったと今は思う。イスラーム人口は増えている。多産を善とする文化や教えもあるだろうが、それだけではなく、あらゆる人種民族を受け入れ、人が持つ生きる権利や平等を自然と実践するムスリムの生き方への憧れもあるのではないかと思う。
本書はそうしたイスラームの生活様式や考え方について書かれている。砂漠をゆったり流れる時間や、砂が風によって流され美しい紋様を描き、今にも白い建物からお香の香りが漂ってくるかの様な描写がされている。気がつくと私も部屋でウードを焚いて寝転びながら読んでいる。
全くの日本人の私には描かれる世界観への憧れはあるが、最近身近に増えてきたムスリムの人々の価値観を知っておきたい、という知的好奇心もある。彼らの世界を受け入れ互いに力を合わせてプロジェクトを進める。そんな日が近々来るに違いない。
テレビ映像で流れる悲惨な戦禍だけでない。本来は平和を愛し、隣人が互いに助け合って生活する社会が世界中に戻ってくる日を待ち望みながら、真っ青な空から突き刺さる様な陽射しが照りつける街並みを想像して本書を閉じた。 -
-
NDC(8版) 302.28
-
思想が偏っててしんどい。
-
イスラム圏の人々の日常生活や価値観を分かりやすく書いた本。民博で行われるセミナー「文化人類学者・片倉もとこの見たサウジアラビア」に参加する前の予習として読んだ。
イスラム世界における女性の生き方や、労働感、断食の様子などが、著者の体験を元に詳しく書かれている。医学部では約半が女性であり、看護師も男性が女性と同じくらい必要とされているのだそうだ。さらに女性専用の銀行まであり、店員も客も全員女性だそうな。本書の出版が1991年となっているが、今はどうなのだろうか。(というか元々本当か?)
欧米的な近代社会とは違った社会のあり方を示し、イスラムに対する偏見へのカウンター情報を発信するのが重要なテーマだと感じたが、少し肯定的に書きすぎているのではないかという印象はある。
登場する人々は善良で高学歴で煩悩の薄そうな人ばかりで顔が見えてこないし、どことなく一昔前に共産圏の国を好意的にレポートした知識人たち文章のようでもある。 -
ムスリム社会の人間観(人と神は区別。人は弱いもの)と 近代西欧社会、日本社会の人間観との比較は 興味深い。近代西欧社会の人間観(人は強いもの)、日本社会の人間観(人と神は区別しない。性善説にたつ)
この本を読む前と 後では ムスリム社会の人に対する印象が 全く異なる。ムスリム社会の人にとって、西欧社会より 日本社会の方が 生活しやすい気がする。時間をかけて、日本人の ムスリム社会の人に対する誤解、先入観を 取り払う策は必要だが。
男女隔離、男女平等(女性優遇)の社会とは知らなかった。「男女隔離社会だからこそ、女性の実力が発揮され、社会進出が促される」とは なるほどである。女性専用の銀行、女性専用の公園があるらしい -
男女観が想像と違っていた。
-
ムスリムのダンナを持つ日本人主婦が、イスラームの日常生活で体験したことを面白おかしく書いているのだろうくらいの気持ちで手に取った。
おっとドッコイ、下手なイスラム教解説書より余程中身が濃くて驚かされる。
それもそのはず、著者は文化人類学の大御所で、社会地理学と民俗学の権威であった。
彼女が留学で、あるいはフィールドワークで体験したことを書いているのだが、取り上げたトピックのそれぞれがイスラム教の本質と深いつながりを持っていて感心させられる。
ぼくが常々イスラム教に対して持っていた疑問点の多くが、この本によって解決された。
もう四半世紀も前に書かれた本であるけれど、現在のイスラム社会を理解するのになんら遜色はない。
薄い新書だと思って侮ってはいけない。
イスラムに興味を持つ人必読の書である。 -
今となっては報道されないイスラム世界について書かれている。イスラムについてこわいとか物騒としか認識がない方に是非お勧めします。
-
エッセイみたいな感じでイスラムの日常を描いている本。
自分が西欧中心の世界観に浸かっていることを気付かされた。あぁ、こちらから見ると、こんな風なんだと思った。
イスラム入門にはとても良い一冊。
新書だけど、平易な日本語と柔らかいタッチで、さらっと読める。
読後は、ゆったりとしたドキュメンタリーを見た気分になった。
また読みたいな。
著者プロフィール
片倉もとこの作品
